見出し画像

山形戦レビュー~負けないチームから勝てるチームに~

またしてもドロー決着で終わった山形戦。近年の山形との対戦成績、石丸監督との好相性は無事継続できた()という見方はできるが、先制点を取りながらも攻撃のクオリティの違いを見せつけられ、果てしなく負けに近い試合にしてしまったのは同じく昇格を目標にするチームとしては歯がゆいところ。「負けなくてよかった」で終わりたくはない。

ここ3戦を振り返ると1得点1失点の3分け。(試合後にもツイートしたが)典型的な「負けないけど勝てないチーム」になるべくしてなってしまっている感があり、この試合でもせっかくの初得点も束の間、勝ち筋がなかなか見いだせないような展開へと逆戻りしてしまった。

なぜ序盤は優勢にたてたのにひっくり返され始めたのか、パスが繋がらないのは連携のせいなのか、采配はなぜハマらないのか……などまだまだ課題は多いが、解決策も今年は多くある。ネガティブにだけ捉えるのではなく、あくまでこれを伸びしろと踏まえて1つ1つ考察していきたい。

画像8

~勝手にMOM~

MOM:河合秀人
3試合目にしてチームの今期初ゴールを決めた男は無条件でMOMにしたいくらい……。それ以外でも最前線と中盤以下との繋ぎ役としても機能し、指揮官からの信頼もがっちり掴んでいる模様。

次点:前貴之、下川陽太
前→河合が初ゴールなら初アシストは前。結果を度外視するなら彼がMOMでもいいくらい中盤ではバランサー・潤滑油として、そこからはサイドでは加藤・松本に対応する抑え役としても機能する。

下川→前節は持ち運びが目立ったが今節はヴィニシウスや南を相手に本職顔負けの守備を見せる。後ろから運べて組み立てもできるので後ろに置いても面白いが前でも見たいような気持ちも……。

〜戦評〜

■スタメンの狙いとベンチへの違和感

並びの違いはあったが、前節の橋内負傷後のメンバーがそのままこの試合でも先発に。山形戦に向けてはボックス内の崩しに加えて、前線に差し込む練習をしていたようで"縦の意識"は引き続き強く持って試合に挑んだよう。試合中も奪った後に阪野や河合にすぐに預けようとするシーンは多くあった。

ただし山形もそこはスカウティング済みで、即時奪還を狙うよりもその後の前線(阪野・河合)にボールが入った時に挟んで奪う方に強い狙いがあったように感じる。

再び山雅に話題を戻すと、ベンチメンバーは村山・常田・篠原・平川・鈴木国・横山・戸島。ユーティリティ性のある選手がそれほどおらず、CB2枚、WBもベンチにはいないというここ2試合の流れから考えると少し意外なベンチ構成になっている。少し選手交代が重くなりそうという予感はしていたが、やはり交代による柔軟性・勢いは出せていなかった。

■攻守で数的優位性がもてたクォーターハーフ

試合が始まると攻勢に出たのは山雅側。2トップから果敢に追い込み、即時回収即時攻撃という京都戦のイメージを持ったような展開。それだけではなく、序盤は河合がうまくDHの後ろに位置取り、佐藤がそこにボールを差し込むなど中盤の優位性で優位に立つ

序盤

またプレスも2トップの激しい限定から敵陣で奪いきるシーンが多く、プレスの逃げどころになる南に当てる前にWBやIHで囲んで奪うという好循環が生まれていた。

■流れを持っていった藤嶋からの組み立て

しかし、その時間もそう多くは続かない。10分あたりから山形はGK藤嶋も使いながらのビルドアップを開始。

山雅2トップもGKまでプレスをかけて高い位置で奪うシーンを1、2度作るが、2トップのプレスを完全にはがされた13分のビルドアップあたりから相手に感覚を掴まれ、完全に流れを持っていかれ始める

画像4

2トップが間に合わないと、WBは相手IH・SHの2枚を見なくてはいけないため、IHが振られ、二度追い三度追いをするはめになる。藤嶋が起用されたことから考えてもこの狙いは試合前から持っていたのは明らかで、このあたりから全力ハイプレスのリターンよりも体力を消費するリスクの方が大きくなっていたのでプレスを抑えてブロックを組む判断があっても良かった気がする。

■"意外性"が生んだ今季初ゴール
・生まれた位置的優位性

そんな中、前半の終了間際、待望の今季初ゴールが生まれる。多くのボールを繋いで決めたことも山雅にとっては珍しく、チームとしても自信になりそうな得点だったが、外山→前、前→河合の関係性がとにかく素晴らしかった

外山へ渡ったボール自体はクリアからの流れだったが、WB外山がサイドレーンでボールを持つことによって位置的優位性ができ、SBが出るのか?SHが出るのか?どちらともいえない微妙な立ち位置が2人を惑わせる

1点目

⇧これによって結果的にSBとSHの両方が外山に釘付けに。自分のマークに付いていた中原が自分から目を切ったこと、CBとSBの間のチャンネルが大きく空いてることに気づいた前がそのエリアに侵入。

1点目2

⇧ボールサイド側の熊本がゴールのカバーに入り、阪野が野田を引っ張ったことで、入れ替わって入ってきた河合がほぼフリーでゴールに流し込むことに成功する

無理矢理にでもシュートを打ったり阪野の頭を狙うという選択もあるエリアだが、冷静にマイナスの河合に合わせる前らしいアシストだった。

・隠された「必然」と「偶然」

ここからは考察の域にも入ってくるが。。。
このゴールに至るまでの冷静な繋ぎは「WBを使って幅を取った後方からの組み立て」「左サイドの前・外山のハーフスペースを使っての崩し」という指示から生まれた計算通りのゴールかと思いきや意外とそうでもないようで

(前半途中に前選手と表原選手の位置を入れ替えた狙いは)それぞれの良さがあり、あまりうまく発揮できていないのではないかという話を20分過ぎからベンチでしていました。『前半なんとかガマンできるかな』と思っていましたが、前半の終了間際に、点数を入れる前に指示をして点を入れてから替えました。それぞれの良さを活かせるようにポジションチェンジをしたということです。

と試合後のコメントにあるようにどちらかというとこの時間は我慢の意識が強かったよう。

良さがでてないと言われているが、前は37分にも外山との関係性で得点シーンと似たようなチャンスを作っており、ハーフスペースを使った崩しでは良さを出せていたように感じたので、どちらかというと山形が人数をかけてくる左サイド(こちらでいう右サイド)で守備に追われていた表原のほうが気になっていたのかもしれない。
点を取りに行くというよりは前半はひとまず0-0で耐えぬこうという意識が強かったことが「縦に急ぐのではなく、時間を使って大外周りのボール回し」に繋がっていたのではないかと個人的には考える。

そして、もう1つの偶然は「ポケットへの侵入の無防備さ」。今年のキャンプからのテーマとしてこの崩しの形はやってきているようなのでその部分では間違いなく「必然」だが、ここまでそうしたシーンはあまり見られず。この試合でもポケットへの侵入に強くこだわっていたのは明らかに山形側だった。

外山が持った時のボールサイドの山形の選手の振る舞いはあまりポケットへの侵入のことは考えておらず、2人寄ることでドリブル突破かアーリークロスのほうを警戒していたように見える。そして、その他の周りの選手もポケットを埋めきる意識も前の動きに気づいていた國分のみである。もしもポケットへの侵入が頻繁に行われるチームと認識されてれば……もしかするとSBとCBのチャンネルはここまで開いてくれなかっただろう。

つまり「松本がこんな崩しをしてくるとは」という意外性を突いた形だった

サッカーは"必然を積み重ねた末に最後は偶然で勝負が決まる"ということはよくあるのでこのゴールの中に「偶然」が含まれていたところで何も悪いことはないが、その後、このシステムのギャップを使ったハーフスペースの侵入はあまり見られず。これを必然=パターン化していくためにもWBの幅を使った攻撃やIHのチャンネルランはこのプレーの後ももっと見られても良かった。

「偶然」を「必然」にしきれなかったのは残念な点に感じたので、この成功を次の「必然」に繋げていきたい。

逆に京都はと言うとサイドからの侵入はかなりの完成度があったが、深く抉るまでに山雅の中の人数が揃い、味方に合わせる前に敵に阻まれるというシーンが多かった。余計なお世話なのは承知だが、山雅の5バックをゴール前から引きずり出すマイナスのボールやミドルがあったら展開は変わっていた気がする。

■山形の狙いと必然の失速

・ハイプレス=良いプレスではない

そして後半の入りで受けてしまったのが、もしかするとここが1つのターニングポイントだったかもしれない。恐らく柴田監督も受けに回らないと言うことは散々言っていたはずだが、山形側はそれを利用して積極的に追い回す山雅の前線4枚を剥がして前進する意識をより強くしていく(もっというとIHにSBを追わせるという指示があったかも)。

後半始まっていきなりの46分。2トップが追い切れなくなったので安東が1列前にプレスに出たが、距離が長いため相手のSBは余裕をもって空いてるスペースに流れた山田康にパスを送る。ボールが出てから外山が山田康に対応に行くも山形は余裕をもってボールを回せるので結局後手に回ることに

プレス

その次の48分、52分にも同じシーンを作られ、2トップ+IHのハイプレスを逆に利用される展開が続く。

後半も強気でグーを出し続けたつもりが、相手がパーに手を変えているのを無視して、しばらく手を変えずにそのままでいた結果、劣勢になってしまった(受ける展開になってしまった)というのが後半の全てのように感じる。

・刺さる石丸監督の試合前コメント

そして、前節にもあげた60分~70分台あたりにはやはり疲労の色が濃くなっていく。

"前線の人数を最低限合わせ、WBにはある程度自由を与えていた山形"に対して、"山雅の守備はシステムのギャップを前線の運動量でカバーしている"ところはあるので前線のプレスは弱くなっていき、プレスを剥がされて後ろに重くなっていくと攻撃を作るのもまた前線の選手になるというなかなかの過労死システムなのでこの展開だと運動量が落ちるのは仕方ない気はする。

前節の京都戦は相手の保持の意識はそれほど高くなく、早めに前線にボールを送ってくれたため、山雅の前線が二度追い三度追いすることは避けられたが、山口・山形のようにこちらに合わせて配置を変えて、運動量を使わせてくるチームに対しては機能不全を起こしやすくなってくるというのがこのままでは続くだろう。

自分たちのやりたいことを押し通すのはいいが、もしそれに乗ってこない相手にはどうするのか……。試合前に何度か石丸監督が強調していた「我々は京都ではないので……」というのはまさしく山雅が抱えている問題点を見透かしているかもしれない。

■繋げない?繋がない?疑問だった交代策

・縦1本になるのも妥当?

ただ疲労が溜まる戦術がダメというわけではなく、交代策次第ではまだゲームプランとしては成り立ちそうなものだが、交代策に疑問は残ったのは素直な感想。

失点後の後半16分。安東に変えて鈴木国を投入。河合を1列下げてIHで起用する。この交代については

河合秀人が入ると非常に試合勘のいい子なのでどこでボールを受けたらいいかをよくわかってくれているんですが、中盤との距離感でうまくいかなかったところもあるのかなと思って、途中から秀人を(中盤)3枚の1枚にしました。

とのこと。
ただ、結局河合役として投入された鈴木国も下がって受けに行っても孤立することが多く、それほど流れは変わらず。河合のほうはかえって守備のタスクが増えていたので、結局中盤との距離を埋めるには「IHにフレッシュな選手を入れて河合とのルートを作る」か、「ボールを引き出して時間を作れるタイプを河合役として新たに入れる」のがベターだったのではないか。ベンチに入っていた平川、ベンチ外の小手川や米原、山田真らの台頭が待たれる。

そこから後半31分。まだフルでは出場できない河合を下げることで大きくメンバーを転換。両WBがなかなか押し上げることができず、阪野鈴木もボールを引き出してゲームメイクしたりラストパスを送るタイプではないので、鈴木国がフィジカルを生かしてボールを運ぶか横山の裏勝負というのが1番の攻め手となるのが自然なシステムに思えた。

画像6

ただ横山の1点勝負で突破できる相手のCBは甘くなく、後ろから精度のあるボールも送られなかったのでただ奪って相手のGKまでボールが流れるという時間が続くのもまた妥当な流れ……

監督のコメント通り精度の問題もあるとは思うが、"前線を3枚にすることによる後ろの負担"と"投入したメンバーの特徴"からすると外から見ている分には繋げなくなる(繋がなくなる)のを加速させるようなメンバー変更だったように感じる。

・もしパスをつなげたいのであれば…

もちろん、横山・阪野・鈴木国とFWタイプを並べてワンチャンスにかけるのも采配としては1つの正解ではある。

が、もしも攻撃が繋がらない、パスが繋がらないことに不満があるのであれば、①山形のようにシステムのギャップ、具体的にはWBを経由地にして位置的優位性を作り、受け手の時間を作るシャドーもしくはDHに落ちてきてボールを引き出し、中盤を助けるタイプを入れるCFがキープして時間を作るなどしなければならないだろう。

システムのギャップ

また、この試合のメンバーの中なら④CBに常田のようなロングボールを得意とするメンバーを新たに入れるという選択肢もあるだろう。下川→初出場の篠原の交代は守りきるには理にかなっているが、後ろから組み立てるにはなかなかハードルが高い。

そう考えるとベンチメンバーや選手の起用法は前回に引き続き再考の余地はある。

■開幕3戦で無敗。ポジティブに次に

さて、試合を紐解いていくとマイナスな要素も多くなってしまったが、京都・山形に負けない試合ができたことや3試合で失点1の守備など課題も山積みな中では最低限の結果は積み上げてきてる。

新戦力の河合からゴールが生まれ、ルーキー野々村やコンバートされた下川もウタカ・ヴィニシウスら得点王候補たちを相手にしてほぼ抑えたと言ってもいいだろう。TMには出ているがまだ時間が与えられていない戸島や小手川、田中パ、篠原らも出ればすぐ活躍できるだけの実績は持っている。

課題や改善点も多いのに加えて、選択肢が多くある分だけ今年はあーでもないこうでもない言われることも多くなると思うが、ある意味それだけ恵まれた選手層がある、伸びしろがあると捉えてトライアンドエラーを繰り返していってほしい。

次の千葉は昨年ダブルを喰らい、昇格の夢も断たれた相手。勝ち点的にも4試合で"3"になるか"6"になるかは印象は大きく変わってくるので、大きな数字の前にまずは目の前の相手から確実に勝ち点3を勝ち取りたい。

次節も行かれる方は楽しんで、山形戦の反省を生かした新たな山雅に期待しましょう!

(レビューとは関係ないですがアルウィンの雰囲気が戻りつつあってちょっとした感動……自分も早くここに加わりたい……)

END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?