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相模原戦レビュー~終戦とリスタートにむけて~

運命の1戦。というには少々崖っぷちがすぎたかもしれない。

例えこの試合で勝ったとしてもゲームオーバーの可能性もある中で、得られた勝ち点は1のみ。同点弾自体には気持ちや意地を感じたが「遅すぎた」という他ないだろう。膠着する試合展開の中で先にゴールを奪える"期待値"は山雅の方が高かった。にも関わらず、先にゴールを奪ったのは勝ち点でも優位に立っている相模原。

いい時間帯に点を奪い切れず、より少ないチャンスを生かされて沈む。大枠の『敗因』は非常にシンプルである。

●愛媛戦(17-4)、△金沢戦(8-7)、●栃木戦(9-5)、●群馬戦(9-3)、●相模原戦(12-9)……後半戦の6ポイントゲームだけに着目しても「シュート数では上回るゲーム」を見せながらこれだけの勝ち点を落としている。ちなみに○秋田戦(12-11)、●大宮戦(5-13)、○北九州戦(14-8)、△山口戦(7-12)。

6ポイントゲームと位置付けられた9試合のうちシュート数で上回られたのは大宮戦、山口戦の2試合のみ。他7試合では形どうこうはあれどシュートの機会は多く作れていたが、2勝2分け5敗という成績になっている。

他会場の関係で、この結果だけで降格が決定することはなかったが、J2残留の可能性は限りなく0になったのは選手たちも自覚していただろう。劇的な逆転残留には遠く届かなかった。

ただそれだけで終わらせるわけにはいかない。残留の可能性は潰えてしまい、最低限のミッションも達成できなかった落胆は大きいが、山雅というクラブの冒険は続いていく。この試合は試合として冷静に振り返っていこうと思う。

<総評>

■ひそめてきた隠し玉

町田戦(2-3)以降、新潟には1-1、甲府には2-3、山口には1-1。

ここ一番での勝負弱さが目立ち、勝ち点を落とすところは残念な点としてありながらも戦える形はようやく掴めてきたここ数節。それに伴ってメンバーもそれほど変えてこないというのが大方の予想だったが、ここにきてルカオが登場。出場は中断明けの秋田戦以来、今シーズン2度目の先発となった

対して相模原もここしばらく離脱していた藤本がいきなりの先発に復帰。さらにCBの中央はFC東京からのレンタルとなるエアバトラー・木村を起用する。ここの変更は榎本と伊藤のツインタワーへの対策の意図もあっただろう。

・リスクを抑えた試合運びと暴れ役のルカオ

試合が始まってみるとお互い固い入りに。その中でまず攻勢に出たのは山雅側。奪ったらまずは最前線のルカオを目掛けてボールを入れ、左CB川崎にぶつけて周りがそれを拾うというシーンを多く作る。正直、ルカオの空中戦勝率は榎本に比べると劣る印象があったが、セカンドの予測という点では榎本よりも相手は読みづらい。

前半5分のFKからルカオのマークを放しすぎてあわやのバイシクルを決められかけたシーンや、ルカオに競り勝とうとして目測を誤るシーンなど相模原視点では"面を食らう"ような形で隙を見せてしまう場面がいくつかあった。

こうして前半20分まで平松や松橋の個人突破など単騎突破でしか抜け道を見つけ出せていなかった相模原は一度前から追うのを辞め、ルカオの回りを固めるようなブロックを組む選択をする。

山雅、相模原ともに全体としてはリスクをかけないゲームプランを組んできたわけだが、山雅側の方が波に乗れていた。ルカオの奮闘もあって生まれた"試合の流れの中での混乱"に乗じて、勝負勘を働かせ、どこかで思い切りの良さを見せられていれば、終了間際の意地の得点はこの時間帯にきたかもしれない。

・飲水後の変化

飲水タイムまでは山雅がボールを握れていたが
その後もセットプレーなどのチャンスはあったがそれも決定機には至らず、相模原が徐々に保持を強めていく。

この試合では前線3枚は極力こちらの右サイドを切り、左に誘導している時間が続いたが、前半30分くらいからセルジを中心に前からプレスをかけに行く。これまでの傾向だと恐らくこれはイレギュラーな形でだいぶカオスではあったが、セルジが2度追いして前から行くことによって何個かチャンスは作れていたのでここまでは収支的には悪くなかったと思う。

形や守備の約束事は重要ではあるが、今のチーム状況を加味すると「カオスになっても行ける時は行く」のは必要だったのかもしれない。

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ただ試合は流れ、状況は変わる。問題は37分のゴールキックのシーン。
山雅が形を崩してプレスに来ているのを感じ取った相模原はゴールキックので深さを取り、セルジを引っ張り出す。相手が明らかに誘いに来ていたので、自重する/周りがさせるべきだった。

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⇧成岡がセルジの空けたスペースに入り込み、2度追いさせたところで

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⇧斜めのコースを開けさせ、下りてきた藤本に縦パスを通してくる。

これまではセルジの2度追いの分は安東がバランスを取っていたが、相模原は深さを取った上で2度追いを誘ったことによって新たに対角のギャップを生み出し、そこをシャドーの藤本がうまく使うことでプレスを回避した。
後ろが余っているのはやや気がかりではあるが、前線が前に出すぎてルール外のことが起きたのがこのシーンでは問題だったように思う。

先ほど「収支」と表現したが、この時間帯にはもう相模原の混乱は収まっていたのでマイナスが色濃く出てしまったシーンだった。

ここは今年の山雅の悩ましい構造が良く出ていたシーンで、

①ノってる時間に攻撃陣はバランスを崩してでも前がかりにいきたい
②ただ後ろはその変化に対応できてない(初期設定を守っている)
③結果前線はルール違反。後ろはいるべき場所に人がいなくなったため引いて対応しなければならない=間延びする

という現象が生まれていた。

全員で立ち位置を守り続けると大宮戦のような"誰も前に出て行かない現象"が生まれてしまい、出ていくとそこの差でばらつきが生まれる。

言ってしまえば「ルール自体はあるが、そのルールを破るだけのキャパや判断材料の差がチーム内にありすぎる」のだと思う。セルジは形を崩してでもこの混乱を突きたかったが、後ろはそのテンションではなかった。

大量入れ替え・ピッチ上のボスの不在も要因としてあるのだが、ピッチ内にいる選手がほとんど足並みを揃えてトレーニングを積めてこなかったのはこうした欠陥を生んだ要因だと感じる。

■デスマッチでの1点の重み

・戦術ルカオ!戦術セルジ!なシーン

後半からは伊藤に変えて榎本を投入。
途中からルカオの運動量が落ちたのと周りを人数をかけて固めてきたのもあり、収められるシーンがほとんどなかったので頭から榎本を投入。ターゲットを変えることで変化を狙う。

ここの投入はかなり理にかなっていた。前半はルカオが競ってもうまく落とせない・拾えてない中で、競る榎本の回りをルカオにうろつかせるor機動力で勝る榎本にルカオが競ったボールを拾わせることで、ルカオの負担は減り、再び山雅の時間帯が増えていく。66分・67分のセルジ・ルカオの立て続けのシュートは少しずれていれば入っていても不思議ではないシーンだった。

配置で殴る・数的優位を作って殴るというのがトレンドの昨今。それに対して、この時間帯はまさに戦術ルカオ・戦術セルジ状態だった。これは監督の戦術的引き出し云々というよりも今年の山雅のスカッド、これまでの歴史を考えた時に一番手っ取り早い手が「個の足し算で殴る」ということだったというのが正しいような気がする。

・3枚投入でギアを上げる

そして、70分には阪野、河合、田中パウロを投入。
前節山口戦では阪野・伊藤(鈴木)の2トップ、疲れているセルジのトップ下の組合せで完全にノッキング、攻め手を失っていたが、狙ってか偶然か、榎本や河合を手元に残しておいて後半の問題をクリアにしたのは良い修正だと感じた。

ただそれと同時に高木監督の梅鉢・児玉の投入も当たっていた。
川上・藤本とボールを回すのに長けた2人を下げ、推進力とトラジションを強化した相模原に勢いが蘇る。逆にルカオ・安東と馬力を持っている2人を下げざるをえなかった山雅はギアがかかるまで少し時間がかかったのが痛手だったように思う。

・重くのしかかる1点

そして、今後忘れられない失点が89分に生まれる。
直前に投入された194cmの梅井が野々村を上回り、見事なボールをボックス内に落としたところを児玉が押し込んだ。去年主力として重宝してきた梅井にやられてしまったのはセットプレー担当の三浦コーチにとっては痛い恩返しだっただろう。

セットプレーでの守備時の配置自体は一定の合理性はある。
仮に梅井に対してマンマークをつけていたとしても死角から入ってくる相手に対してはかえって不利になっていた可能性が高いだろう。そして、ゾーンの立ち位置は前・野々村・常田・宮部・パウロと並んでおり、大外から入ってくる梅井には空中戦に強い野々村をぶつける意図はあったのではないかと思う。配置的には事前に一番警戒していた場所だったと思うし、周りもあれだけ綺麗にヘディングがやられるのは予定外だったのではないだろうか。

野々村にも少々不用意さはあり、空中戦で高さで上回る"格上"を相手にする時の対応ではなく、シンプルにボールに対して空中戦を挑みに行って上回られた感がある。もしも相手に高さで上回られるかもという意識があれば、身体をぶつけるほうに重きを置き、自由にヘディングさせないような選択もあったが、そういうわけではなかったのではないか

ただ、期待を込めてあえて厳しいことを言うのであれば、未来の飯田を目指す野々村には「あれだけ綺麗に空中戦で負けるというのはあってはならない」と振り返れる選手になってほしいところである。

・セットプレーでやられるを細分化してみた

さて、"セットプレーに弱い"と言われても仕方がない状況だが、あまりにざっくりしすぎているので以下の3つのパターンに分けてみる。

①守り方が理にかなってない
②守り方は理にかなっていたが約束を守れていない
③守り方は理にかなっていたし、約束も守っているが個人勝負でやられる

栃木戦のように①でやられることは少なくなっていたが、甲府戦のように選手交代後は守備にイレギュラーが起き、①が起きやすくなってたし、前節の山口戦のような②のパターンでもやられている。そして、今回は③だったように思う。

ここ3戦ではやられたのは全て選手が入れ替わった後半の残り10分の時間帯。逆に言えば流れの中やセットプレーの初期設定はそれなりに形になってきていたのだが、チーム全体でクオリティを保てていなかったのは間違いない。単純計算で行くと直近の3試合この時間帯のセットプレーだけで勝ち点5を落としていることになり、最後の最後に「降格」に響いてきた。

②③についてはセットプレーの守備が得意でない選手を入れざるを得なかったり、セットプレーの守備の要になれる選手が継続して出れていなかったりしたのも問題としては浮き彫りになった

先発で星を入れることで誤魔化せていた時期もあったが、違う問題が起きたので彼も再びベンチに。キッカーとしてセルジを引き延ばさなければいけなかったのも含めて、結局セットプレーが根深い課題のまま、この時期まで来てしまったのは根本的なスカッドの部分からセットプレーを軽視してしまったのも問題だったように感じる。

■終戦とこれから

さきほども書いた通り、この試合で勝ち点3を取ることができなかったのは即終戦に等しい。もっと言えば勝ち点3が必須のゲームであの時間帯に先制点を取られた時点でほぼゲームオーバーだった。

ここから今季のことを振り返っていくとボリュームがオーバーしてしまうのとまだホームで最終戦が残されているのでその後に色々と振り返っていこうと思う。

まだまだ不安定・不確定なことが多く、議論の幅が多い1週間となっているが、ここを良い機会と捉え、各々が松本山雅というクラブに改めて向き合ってあーだこーだ言っていければまた良い循環が生まれるのではないか。

いますぐに立ち直るのは容易ではないが時間をかけてでも不死鳥のごとく蘇るクラブでありたい。まだまだ松本山雅は終わらない。

END





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