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愛媛戦レビュー~この敗戦を次の勝ち点3に~

6ポイントゲームで手痛いウノゼロ敗戦

デジャブのような敗戦。思えば前半戦も19位の山雅と22位の愛媛での対戦でアウェイの地に乗り込むも勝ち点は1つも持ち帰ることはできず。そのまま最下位に転落するという痛い敗戦を喫している。秋田戦を受けてどこかサポーターにも勝って当たり前の空気感が流れていたのかもしれない、改めて自分たちの立ち位置を叩きつけられる試合となってしまった。

だが、全てが繰り返されたかという点ではそれはNOである。
「勝点1ではなく3を取れるようなゲームだった」という監督コメントに対しても10人いれば8人9人はそれに同意するようなゲームだった(公式のシュート数は17-4となっている)。

敗戦という結果が評価に大きく影響するのは避けられないことだが、勝ち点3が取れていれば……秋田戦のように前半のうちに得点が取れていれば……絶賛されていた前節のような評価がくだされていた可能性が高いように感じる。秋田戦も含めて結果にばかり引っ張られないようにはしたい。

ただこの試合で勝てなかったのにも明確な課題がある。悲観はする必要はないが、そこには目を逸らすことなく、次は勝ち点0を1に、1を3にできるチームに仕上げていきたい。

<勝手にMVP>

MVP:佐藤和弘
抜群に良かった選手がいなかったので僅差ではあるが、敵将も頭を悩ませたセカンド回収で大きな存在感。決め手となったのは前半18分のあと1歩のところで相手にクリアされたシュートのシーン。ボックス内で落ち着きを見せた唯一のシーンだったように思う。

次点:外山凌
左サイドから多くのチャンスを創出。その質や入れるタイミングではチーム全体で課題を残したものの、これだけシンプルにチャンスを作り出せるのは彼のストロング。

<戦評>

■ほぼ完全に噛み合うシステム

水曜日の天皇杯から中3日での試合となった山雅、前節・秋田戦からは左WBの前が欠場。代わりに外山が左WBに先発復帰する。天皇杯にも出場したメンバーからは平川・鈴木・星が引き続きスタメンで出場。控えでは河合・ルカオに代わって山口・セルジが初のベンチ入りとなった。

対して愛媛は決め手に欠ける右サイドに小暮に代わって忽那が入っている。契約の関係で出場できない高木利に加えて、浦田や吉田ら元山雅組は揃って欠場となっている。

並びは3412と352と引き続き両チーム同じフォーメーションでスタートしたので完全に噛み合う形に。ボール保持から縦に早く、前に人数をかけた攻撃を繰り出したい山雅としては「いかに意図的に噛み合う形をずらすか」がポイントとなっていた。

ただ相手もそれは織り込み済み。結果からするとそのずらしをうまく使い切れず、逆に使われて失点、虎の子の1点を守り切られる形で敗戦を喫してしまう。

■アンカー脇をつく攻撃と愛媛の変化

・前節に続いてズレを作る右サイド

先ほど書いたように5レーンは互いに封鎖し、中盤の人数も同数で睨み合う形になって試合はスタート。地上でボールを運ぶには常に相手が目の前にいるという状況となっていたが、序盤から特に右サイドの関係からボール回しに良い循環を作り、敵陣へと押し込む時間を増やしていく⇩

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352ではアンカー脇は定番の狙いどころになり、直接そこでマッチアップする小手川はもちろん鈴木や下川もそこのスペースを狙っていた。特に下川はスライドのズレをうまく利用してボールを引き出していた。

また、敵陣に押し込んでからもワイドのスペースを宮部が使い、相手の目線を変えながら前進を試みていく⇩

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・位置的優位を数で消そうとする愛媛

しかし、時間と共に右サイドでの優位性も薄れていった。
右からの前進が多かったことで相手が慣れたという面もあるとは思うが、単純に相手が宮部へのプレスは諦め、ラインを下げた上で左サイドに重心を置くようになっていったことが大きい。ざっくり言うと数でスペースを埋め始めた。

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その分、愛媛側も高い位置での奪取はできなくなり、逆サイドに振られると中盤3枚の負担が非常に大きくなる代償を払っているため、"初手"は成功と言っていい。

ただそこまでほぼチャンスを作れていなかった愛媛は、この修正により徐々にカウンターからのチャンスを作っていく。前半18分にはスピードのある近藤が宮部を振り切ってサイド裏のスペースを駆け上がり、中央を攻めあがってきた逆IHの川村のシュートに繋げたシーンがあった。

このシーンではまだ宮部が並走できていたので中央のCB2人を引き付けるには至らず、その結果常田が対応することができたが、後半の失点の伏線になるようなシーンが前半の内に見られている。言ってしまえば"この形"さえ防げてしまえば守備ではほぼ完封できた試合ではあっただろう。

リスクを抱えながら相手の密集(こちらの右側)を突破していくか、薄くなっている逆サイドから攻撃して中盤の消耗も狙うか……。秋田戦とは違い、相手の対策もあったので左からの攻撃が徐々に増えていく。

秋田戦と愛媛戦の結果を見ればそのまま右での攻撃にこだわっても良かったかもしれないが、トラジション合戦になれば以前よりも分が悪いメンバーでもある。外山も攻撃で強みを出せる選手なので右を固められたから左に切り替えるのはいずれは必要なプロセスだったように感じる。

■まだまだ未完成な左サイド

・チーム方針か選手の個性か

しかし、左サイドからの攻撃も一筋縄ではいかない。
宮部・下川の関係性と同じように常田・外山を起点にして攻撃を作っていこうとするも連携面がなかなかうまくいかない。右を囮にしてサイドを変えても相手のスライドの網の中でボールを受けてしまい、カットされるシーンもしばしば⇩

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秋田戦での前↔常田間の関係でいくならば、相手の網から外れ、一度預かる形でボールを貰い、大外を常田が回っていく時間とスペースを作れれば良かったかもしれない

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ただ、そもそも前と外山ではタイプが違う。
中で受けるよりもサイドで高い位置を取るほうが持ち味は出やすいので、次第にアウトサイドでボールを受けて自ら運ぶシーンが増え、いい意味ではリスクをかけずにシンプルに、悪い意味では単調になっていく

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対面する相手の右WB忽那も本来は攻撃のポジションの選手なので、左WBの外山がここで個人勝負を仕掛けてクロスというのを狙うのも合理性はあった。さらに、先ほども書いたように外山自身も恐らくこれが得意なスタイルなのだろう。スタッツを見てもラストパス4、クロス8は両チームでも抜きんでており、かなり優秀な数値である。

"配置で殴る右サイド"と"(外山と相手のWBとの)質的優位性で攻める左サイド"という構図で、チャンス自体はそれなりに作れていた。

・なぜ前半の攻撃は停滞したのか

ただデメリットがあったのもこの試合からは考えていかなければならない。
個性が生きた一方、チームとしての流動性が鈍くなりサイドで詰まってしまうシーンが何度か起こる。それが顕著に起こっていたのはTwitterでも触れた37分のシーン。

もちろんこのシーンでは「誰も仕掛けない」「裏に抜ける選手がいない」という意識的な問題点もあるがそれだけでは秋田戦との違いは説明できない。

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局面的に見ると鳥かごのような状態になっていたこのシーン。
ピッチ全体を見るとこのシーンでは左右HVがボールサイドは追い越すスペースがなく、逆サイドはあがることもできず、密集からサイドチェンジをしようとしても展開できないで一度は逆への展開も試みようとしているも片方のサイドで延々とボールを回し続けることになっていた。これは秋田戦にはなかったイレギュラーなシチュエーションである。

このシチュエーションだと完全に相手と自分が噛み合う構図になっており、仮に裏に抜ける意識があったとしてもマークのズレが起きず、相手はついてきてしまい、結局崩すには至らなかっただろう。

名波監督の話す「少し後ろに宮部と常田が余っているシーンがあって、縦ズレが上手くいかずに3バックのスライドが少ないということが多々あった公式より)」というコメントの1つにはこのシーンがあるはず。常田も宮部も縦にスライドできない(スペースがない)ことで、代わりに前線の選手が本来かけなくても良いところに人数がかけてしまい、逆に欲しいところに人を配置できなくなってしまった。

結果、配置や数的優位性で剥がそうとする今のチームの方針のもと、ぐるぐる選手は回るも相手も同じだけ人数をかけてくるので、個で剥がすしかないシチュエーションが続いたのだった。

今取り組んでいる後ろから人数をかけての攻撃を例外なくやらせるのか、プレイヤー自身の得意なプレーを生かすか。もちろん最終的に両方やらせるのがベストだが、現時点での最適解はまだ出し切れていない感はある。

・どうスライドすべきだったのか?

それでは今のチームが取り組んでいる後ろから追い越していく攻撃に忠実にするにはどうすれば良かったのか?どう後ろがスライドすれば停滞は起こらなかったのか?を考えてみる。

1つは右の宮部を上がるパターン。
外山が左に入る場合、前の時よりも常田との距離が長く、ボランチがその間に入ってフォローに入ることが多いので、常田は左のフォローではなくCBとして残し、宮部をSB化して上げてしまう方法。

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外山(WB)の後ろをHVがオーバーラップしていくような攻撃が左ではできなくなるが、こうすれば密集ができた時に右の宮部が攻め上がり、逆サイドに展開がしやすくなるので、1つの打開法にはなるはずだ。

もう1つはワイドのスペースに常田をあげるパターン。
シンプルにWBとWBの勝負にするのではなく、一度外山がハーフスペースに入ることで外山が狭いスペースで間受けすることがなくともCBを釣りだすことができる。

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また、後ろ(常田)を余らせないで攻撃参加させることで前線がサイドに密集することなくともサイドで優位性を作ることができる(=満遍なく選手を配置できる)。
秋田戦のような形を作るのであればこちらの形の方が今のチームのやり方には適しているように思う。

■誤算だった後半戦

・想定よりも押し込む展開と使われた穴

話は再び試合に。
こうして保持をしながらも決めるには至らず、前半戦は終了。

後半は風下になるので押し込まれるかと思いましたが、風が少し止んで、だいぶ50:50のピッチ状況になったので、ボールと人がよく動いたことと、背後がない中ではボールエリアに人数をかけて、突破や相手を密集させて広いエリアに運ぶという意識が非常に良くて、テンポも良かったです。そのあたりで崩せる感が十分にあったのではないかと思います。

全てを素直に語るタイプではない名波監督だが、実際にこれは間違ってはいない。前半戦よりもさらにボールの回りは良く、セカンドも回収できていたことは印象論だけではなく、あらゆるスタッツが物語っている。独力で運べるタイプが少なかった愛媛と個で打開できる選手を残していた山雅というベンチのカードを考えても苦しいのは明らかに向こう側だった。

65分には攻撃でリズムを作っていた小手川に代えてセルジーニョを投入。まだ今のやり方に慣れておらず、少し下がりすぎていた点が直接関与したかは定かではないが、ここでバランスを崩したのが山雅にとってはマイナスに働く。前半から唯一と言っていい「愛媛の攻撃の突破口」となっていた宮部の裏を使われて失点してしまう。

ワンチャンスにかけ、それを生かした愛媛とどこかいける空気感に甘えてしまった山雅。サッカーではありがちな話だが、チャンスがないわけではなかったので、良かった点を生かしつつ勝ち点3を得るには「決める時に決める」以上の解決法はないだろう。

・強力な個の共存

そして、失点した4分後、鈴木と下川に代えて山口と田中パを投入。形にこだわらずとにかく個の質で崩しにかかる。

セルジに加えて山口も投入したことで、試合勘がまだ完全ではない選手が2人になったこと、自分が主体になって崩しに行こうとする選手ばかりになったことなどの問題点などは素人でも感じる事なのでそこも織り込み済みで起用したことは明白。

ただ即興性が強くなっても使わなければいけないのはサポも許容できるのではないか。補強した時点でこの2人の共存は山雅の命運を分ける後半戦の大きなテーマになりそうだったわけだが、痛みを伴うことになってもある程度先を見据えて使っていかなければならない状況になっている。

・フィニッシュの形の欠如

そのことによる問題が起きたのはフィニッシュの局面。
自陣でスペースを埋める愛媛を相手に左の外山、右の田中パがドリブルで剥がし、クロスを中心にゴールを目指すも中央で強さを出せるのは伊藤のみ。

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シャドーの2人はもちろん、ボランチ、WBにもクロスに対して飛び込んでいけるような選手はいなかった。ボックス内に人数がいないことで必然的にゴールまでの距離は長くなり、迫力も出せないことでそこから引きずり出せないまま拙攻を繰り返してしまう。かといって足元で繋ごうにも相互理解は浅く、狭い局面を崩し切るには難易度があまりにも高すぎた。

結果論にはなるが、個人的には両翼での勝負は捨て、下川を逆サイドのフィニッシャーとして残しても良かったし、リスクを負ってでも星を前線にあげても良かったのでは?と思うレベルでクロスからの勝算は薄かったように感じる。

■改めて見つめなおすべき現在地

最終的には「リスクの少ない左からの攻撃の選択」「左の未完成さ」「交代選手の組合せ」など1つ1つのズレが響き、1失点をひっくり返すことができなかった。

レビューの性質上、課題におおめにフォーカスしたが、試合を通してみるとポジティブな点も多い。冒頭にも少し触れたが、個人的には秋田戦と比べて手のひらを反すような内容ではないし、チーム全体の前進がないわけでもない、かといって課題は山積み(伸びしろも大きい)、これがリアルな現在地というのがこの試合の感想だ

前節では狙い通りの先制点が上手く決まって、前向きなプレーが増え、リスクをかけ続けることができたが先制点が決まるまでは相手に押し込まれる時間は長く、それだけ相手にもシュートは打たれている(シュート数では相手に上回られた)。試合の運び方はむしろ前節よりも良かったのではないかとすら思う。

決める時に決められなかったことで、前節にも出ていた"そのうち必ずクリアしなければいけない課題"を自ら浮き彫りにしてしまったというべきか。それが”残留を争う愛媛戦で”、”敗戦という結果”で出てしまったのは残念でしかないが、こうした過程は遅かれ早かれ踏まなければいけなかった。

本当に強いチームはこうした試合でなんだかんだ形関係なく勝ち切ってしまうもので、昇格を目指すのであれば致命的な失敗ではあるがまだ幸いやり直せる段階にはある。そして、致命傷にしないためにはこの失敗を次節に繰り返さないことだ。

上向く要素はまだまだ残されているので(そもそもこの試合で下向いたかもまだ判断できないが)この敗戦を次の大宮戦に繋げてくれることを自分としては信じたい。何かが変わったという雰囲気で楽観することなく、ただこの結果で悲観することもなく、今回出た問題点を今後につなげてほしい。

今度こそ6ポイントゲームをモノにしよう!OneSou1!

END

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