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水戸戦レビュー~嵐のような展開と脆すぎたプラン~

「ここを1つのターニングポイントに」

選手・監督・サポーターともにどこかそういう雰囲気を持って臨んだのが伝わってきたアウェイ水戸戦。

ケーズデンキスタジアムでは前節も強風によって何でもないクロスが風に煽られ、そのまま入ってしまったようなこともあったが、この試合でも週のだいぶ早い段階から「劣悪なコンディション」が想定された。思いもよらないようなミスや事故による失点、負傷も準備して、いつも以上にあらゆる事態に備えていたほうに試合の運も傾く……。

それがこの試合にも影響したかと言われればさすがに暴論かもしれないが、それに対して柔軟で、適切な試合展開に持ち込めない方が劣勢に立たされるのは当然のことだろう。

準備段階、前半、後半、そして終盤、試合後とどこに問題があって、どう改善すべきなのか。負の連鎖をこの試合で止めるために今起きていることを整理したい。

<今節のチームMVP>

MVP:篠原弘次郎
前半最大のピンチだった山根の突破も完ぺきなブロック、保持時はここ数年で成長したというフィードからチャンスを生み出すなど良さが積み込まれた試合になった。経験とリーダーシップという点で橋内の代わりになる選手がいるのは去年との違いか。

次点:野々村鷹人、鈴木国友、河合秀人
長くなるので理由は割愛。攻撃でも積極性を見せた野々村、シャドーの位置で躍動した2人が次点。

〜戦評〜

■前節にない武器を蓄えてきた山雅

・3421により出てきたメリット

前節からは平川、戸島が変更になった今節。システムは佐藤和をアンカーに持ってくることで開幕までの3節に近い形を取るかと思われたが、この日は阪野を頂点に置いた3421に。

システムを変えることでメリットだけではなく、デメリットも出てくるが、相手がこのシステムに対してほぼノーマークだったこともあって前半はそれほどデメリットは見られなかった。

<主なメリット>
・2シャドーが浮くように
・攻守でサイドの分担が明確に(特にSBが空かない)
・アンカー脇を狙われる危険が減

<主なデメリット>
・押し込まれた時に阪野が前線1枚に
→阪野の頑張りとタビナスサイドに寄ることで収める
・シャドーの運動量が必要に
→前半に点を取れていればここは問題なし。後ほど考察。
・中盤2枚に求められる気配り・危機管理能力が増
→前の負傷によって佐藤和の負担が増えた?

・敵の良さを消すことで自らの良さも出る

さて、試合が始まると水戸側は山根に一発で裏を取られたロングカウンターのようなシーンこそあったものの、全て単発。構造的に崩されるようなシーンはほとんど作られることはなかったので、3421で違う顔を見せることができたのはこの試合では収穫と言ってもいいだろう。

水戸は恐らくこれまでの相手同様に幅いっぱいに取るサイドバックを起点にしたところからWGの裏や松本IHがプレスに行くことによって空いたスペースを他の選手が突くような攻撃を想定していたはずだが……⇩

本来

実際はこのようにはいかず、本来想定していなかったSBからのプレスや空くはずのIHが空かない守備ブロックに明らかに戸惑っている様子は見せていた⇩

スタメン

前線が下りてきてゲームを作るタイプではなかったことや最終ラインにも展開力のあるタイプの選手がいなかったことなどから水戸は効果的にボールを前進させることができず、IHがうまく経由地になる必要があったが、ここも佐藤和・前の両DHが激しくチェック、ファールをしてでも食い止めるという姿勢を見せ、自由を与えず。逆にここの佐藤・前が突破されると前線3枚+IHで4VS4の状況を作られることになるので532の時よりもここで潰せるかは試合を大きくすることになっていたはず。

ただ前半のWBからのプレスや河合のアンカーケアではリスクの部分よりも高い位置でボールを奪って攻撃を始められるというリターンが勝っており、試合を通してみると優勢に立つことができた。

これまでは自分たちの良さを出すことに重きを置きすぎて失敗したこともあったが、必ずし"相手の良さを殺す"≠"自分たちの良さが出る"というわけではないということが再確認できた戦いではあったと思う。

・整理されたロングボールへの連動

そして、この前半ではロングボールに対する周りのリアクションも明らかに違いがあった。これまではFWの一方にロングボールを蹴ってももう一人のFWが並列になっていたり、せいぜいもう1人が関わる程度だったが、ターゲットを阪野に絞ることで役割は明確化。常に河合と鈴木が関われるような位置にいたのはこれまでとの違いとしてあった。

特に鈴木はセカンドターゲットとしても強さ・高さ・速さがあるため、阪野・鈴木VS三國・温井のサイドではかなりこちら側に分があるような並びに。そして、常に裏を狙う河合も相手からすると厄介だったと感じる。

攻撃

さらに、これによってもう一人恩恵を受けていたのはサイドレーンの表原で阪野・鈴木の対処をしなければいけない左SBの隙を見て駆け上がり大外からチャンスシーンを演出。

最もその形が見られたのは前半21分。中央の篠原→WB表原への1本のロングボールは決して鋭いボールではなかったが、中への意識が強くなっていた温井を飛び越えて表原のもとに。ここからドリブルで仕掛けて河合のシュートに繋がった。これは牲川が好セーブに阻まれてしまったが、これまでなかなかできていなかったWBにドリブル勝負させる形を作れたいいシーンだった。試合を振り返った時に1番決めきりたいシーンには感じる。

■鍵となっていた斜めの動き

そして、ここからは良くも悪くも試合のキーになっていた「斜めの動き」について。相手の想定していなかったシステムだったというのは間違いなく大きな要素としてあるため、3421だから良い、352だからダメというわけではなく、あくまで今日のシステムの噛み合わせとメンバーによってこの「斜めの動き」を効果的に使いやすかった=選手の良さが出やすかったことが前半の押し込んだ展開に繋がった。

・表原・国友が中心となった26分の2つの崩し

前半26分5秒あたりからのシーン。
佐藤から野々村に展開したところで表原は中にin。前節はこれによって中が渋滞し、"HVが出しどころが無くなる"or"長身FWの1人がサイドに流れるもCBがついてきて対応されてしまう"というもったいないシーンになっていた

しかし、この試合ではこの表原の動きに釣られたSBの裏にシャドーの鈴木が斜めにうまく走り込み、クロスをあげるところまで成功⇩

デコイ

斜めに走ることで一時的にタビナス・温井のところでそれぞれ2VS1の山雅数的優位の瞬間ができるため、相手は困らせることができる。その後に鈴木がクロスを上げるのが正解なのか、あげる場合はニアサイドに誰がどこに走りこむのか?そこは突き詰める必要があるが、これまであまりなかった"相手を動かす"攻撃になっていた。

そして、その直後の26分30秒あたりのシーン。
先ほどのシーンの直後に前と佐藤のパス交換からできたギャップに表原が侵入、素早くターンして大外をオーバーラップしてきた野々村に。SBがスライドして出て行ったところでできたチャンネルに鈴木が走り込み、クロス。今度はDFの決死のクリアがポストを直撃したが、事故が起きそうな予感は山雅が与えてしまったPKよりもあった()⇩

崩し2

山形戦の前のアシストのようにはいかなかったが、WB(HV)と2列目の選手の関係性によってわずか1分の間で右から2つも決定的なチャンスを作り出すことに成功。このシーンでは相手の陣形をずらす前佐藤のパス交換、間受けする表原、野々村の追い越し、鈴木の斜めの動きと流れがそれぞれ秀逸だった。

・攻撃が作れなかったのは連携のせいなのか?

さて、これまでの試合で「このような流れる攻撃ができていなかったのは連携のせいなのか」。この前半から断言するには早いが、僕は「否」だと思う。少なくとも相手の立ち位置やスタイルを見ながら正しい選手の配置を行えれば、次のパスコースは自然と見えてくるし、今日の前半のように2人目・3人目の動きを使ってシュートチャンスを作れる選手たちは揃っていると思う。

今日であれば水戸の4バックはシャドーの国友・河合の動きを捕まえるのに終始苦労しており、サイドの局面の中でも間受けできる表原と斜めの抜け出しが得意な鈴木で相手SBを翻弄することができていた。

その段階まで到達することで、初めて連携やラストパス・シュートの精度になってくる。今日の前半のような相手に応じた、そして選手の個性が生きるような組み合わせを選ぶことで、自然とシュートチャンスは増え、得点も増えていくだろう。

まだ縦の意識が強すぎるせいか焦りのせいか、崩し切れていなかったり、タイミングがあっていないシーンが見られたため、この試合では残念ながら不発に終わったが、まずは今日の前半のようにミスマッチを生かすなどできることをやってチャンスの数を増やすところから始めていきたい。

■後半の入りも悪くはなかったが……

こうして前半はかなり押し込む時間が続くも無得点。
現地で見ている分には「決定力が……」と思う部分が大きかったが、改めて振り返ると決定的だったのは河合の1本ほど。アタッキングサードまでの運びはかなり良かったが、その後のアイディアやクロスはもう1工夫あっても良かったかもしれない。ただ千葉戦ではシュート数自体多くなかったのでシンプルにゴール前に入れて「何か起これば……」というのもまた理解でき、シュート(枠内)10(5)というのは"それなりに起こりうる展開"ではある。「ここで決めなければ……」と同時に「これを続けていけば……」とも思わせてくれる前半だった。

そして、後半は前→平川に。DHのところの縦関係や潰しは前半の1つのキーになっていたこともあって、トラジションの部分や佐藤との相性の問題は少し思うところはあったが、これはここから伸ばしてほしい部分として……入りも山雅側が敵陣に押し込む時間が続く。

失点シーンはカウンターの跳ね返り、クリアの跳ね返りと2つ山雅にとっては不運なシーンが続き、篠原のPKを取られてしまったが(クロスのシーンは常田・外山2人揃っていたので縦突破を許してしまったのは残念であったとはいえ)本当に何でもないクロスだった。構造的な原因というよりは偶発的な部分が大きく、今すぐ何かを変えるという失点ではなかったと思う。

しかし、去年も散々言ってきたが、点が入ってしまうと全く違うものになってしまうのもまたサッカー。前半からどこか戸惑いのあった相手に落ち着きが戻り、逆にこちらはリスクをかけてでも取りにいかなければいけないシーンが出てくる。

■停滞を招いた442はなぜ

そして、3421のデメリットとしても書いた「シャドーの運動量の低下」が徐々に問題に。これは3421↔541で守る時には宿命のようなもので、反町監督時代も最初の交代でここに手を付けることが多かった。河合・鈴木の両方を下げるのは少し意外だったが、1つギアを上げるには妥当性はある交代だったと思う。

しかし、ここで選手を変えるだけではなく配置も変更。このシステム変更が結果的には……というより、停滞すべくして停滞してしまうような印象は受けた

・前半効いていた動きが配置と組み合わせで消える

前半では捕まえづらいシャドーやWBを有効に使いながらクロス、またはシュートまで持っていくことができていた山雅だが、442に変更したことでシステム上のギャップが消え、水戸側のマークをする相手が明確化。

さらに前線に張る阪野・戸島サイドからの仕掛けが持ち味の外山・パウロ引いた位置で貰って展開するのが得意な佐藤・平川とプレーエリアが似たような選手が並び、ブロックの外ではボールは回るも前半のような相手ブロックのギャップに侵入する選手がいなくなる⇩

混乱

横山を含めたサイドプレイヤーでは表原はブロック内で間受けするプレーを得意としているため、パウロが外に張った時に中に侵入するという形を作れれば良かったが、ガンガン勝負を仕掛けにいくパウロに表原が関わる時間は少なかった。

仮に442にする場合、表原はせめてどちらかのSHに置いて中に侵入させ、SBに勝負させたい外山・パウロを置ければシステム上のギャップは生み出しやすく、ドリブラーたちも生かせていたように感じる⇩

理想

サイドに縦関係を作ることと、もしかするとあえて1対1を作ることで個の質で殴るという狙いはあったかもしれないが、逆にそれが見られたのは水戸の2点目、3点目のシーンとなってしまった。

・リスクをかけにいったのか?既定路線だったのか?

さらに交代策に加えて、そもそものベンチ構成に疑問が残るのは毎試合のように言ってきたが、この試合でもベンチ選びの段階で柔軟性を失ってしまっているように感じている。

大前提として、そのまま"3421よりも442のほうが効果的"だと判断してシステム変更を行った可能性ももちろんあるが……

システム的にはそこまでハマっていたので、もう1つ、"3421を変える前提でベンチを組んだ"可能性も考えられる。というのも、3421では鈴木・河合は1番早く疲労するのは試合前に目に見えていたわけだが、控えにシャドーとして計算していた選手がいたのかという疑問には「イエス」とは言い難い

控えの戸島やパウロ、横山はシャドーでもプレーはできるはずが、ここまでの試合では最前線、もしくはサイドレーンでのタスクを与えており、鈴木・河合が疲れてきた場合の代わりのシャドーとして計算されていなかったように見える。「評価の高い選手からベンチに入れる」というのはやり方の1つだが、それによって不自然な交代をするしかなくなってしまったのではないか。

理解できないという声もサポからはよく見られたが、謎采配の原因は元を辿れば柔軟性を持つのが難しいベンチの組み方にもあったかもしれない。

■そろそろデッドラインに……

こうして終わってみると0-3という完敗に。。。
スタイルを構築している段階と言えば聞こえはいいが、今年掲げて準備してきたようなサッカーとは真逆のスタイルとなっているのでビジョンに沿えているかどうかはいまいち怪しい。どちらかというと結果が付いてこないのでスタイルを構築するところまでできていないという方が近いかもしれない。

ただし今日の前半のように適切な距離感や相手のプレスを受けない配置を取れれば短時間に再現性の高い攻撃を繰り出せるし、シュートまではいけることはポジティブな要素として次につなげていくべきである。

縦に早いスタイルが必ずしも悪いとは思わないが、90分を通してどのようにゲームを構築していくのか?縦に早くして阪野に早めにボールを集めその先はどうするのか?などは徹底されておらず、そもそもストーミングのようなスタイルにも振り切れていない。また、柔軟に戦うのであれば指揮官の采配やベンチ構成も的確さが求められる。「何でもできる」が「どれも中途半端」にならないように1週間でできることからやっていきたい。

そして、次節は再びホーム戦。
どうしても個人の質でこじあけようとする傾向にあるのが逆に相手の守備を守りやすくしてしまっているが、次節は"組織"で"個"を封殺し、少ないチャンスをものにしてJ3をぶっちぎってきた秋田。

そろそろデッドラインに乗ってしまう勝ち点になっているので選手に焦りが出てくるのも無理もないが、それを防ぐのもまたマネジメント。アルウィンの救世主となる選手の台頭に加え、焦らないために早めに奇襲をかけて守りきるor90分のロースコア展開に持ち込むなど焦らなくても済むようなプランに期待したい。

END




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