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京都戦レビュー~カオスへようこそ~

開幕2戦目からいきなり強豪との対戦となったアウェイ京都戦。

J1・J2共通することだが、今年は開幕戦からテンションの高い試合が多く、この試合もハイテンポで強度の高い戦いが続いた。

前節山口戦と同様に序盤のアウェイ戦と考えると最低限……高き目標を考えると2試合で勝ち点2、しかも無得点という苦しい結果となったが、試合を通してみると特に守備面での収穫は多く、個人的にはプラス要素が勝った1戦だったと感じる

一方、攻撃面ではこれで2試合連続無得点。84得点という数字を切り取ってここであれこれ言うつもりはないが、まずは1点を取りに行くための武器があまりない。その先にある安定した複数得点も大事だが、まずは再現性の高さを出せるセットプレーに力を注いででも1点が欲しいところ。改善を期待したい。

<勝手にMOM>

MOM:圍謙太朗
前節に引き続きの選出。2試合合わせて枠内シュート14本を浴びながら無失点、数字には残らない飛び出しやクロスキャッチでも存在感は大きい。キーパーの活躍は喜ばしいことではないが、こうした締まった試合で勝ち点を取るには必要なピースだろう。

次点:阪野豊史、下川陽太、野々村鷹人
阪野→バイスとの空中戦、強度を保つための全力プレスと彼にしかできないようなタスクを遂行。得点にもう少し力を使わせてあげたい……。
下川→慣れないCBの守備をこなしながら攻撃でも違いを見せる。。
野々村→初出場でウタカと対峙。パワー勝負はプロでも通用することを示す。今思うといきなりのイエローすらも好プレーだったのかもしれない(次からは辞めてほしいが)。

<戦評>

■勇気を持った出だし

・柴田監督の持ち味、鬼軍曹(?)っぷりを発揮

「ガンガン来る相手に対して受けてしまうと勝負にならない」。指揮官の言葉通り、序盤からシンプルに敵陣にボールを送る展開が続く。それは敵も同じで、山雅を走らせようとしてきた山口とは違って走り合いぶつかり合いに真っ向からぶつかってきたため、なかなかボールが収まらない展開が続く。強いて言えばまだ万全ではなさそうだったウタカが中央で収めて違いを見せていたくらいか。

・対京都を想定した3511システム

ただ山雅側もただ運任せでトラジション、カオス勝負を仕掛けていたわけではない。

この日は352とは言いつつも、主に守備で3511に近い形を取っており、規律を持ってチャレンジ&カバーを行う

序盤

ただ、奪ってからは下川がボールを持つと自分で運ぶようなそぶりを見せるなど後ろからのチャレンジもあったが、プレスをかけるのにエネルギーを使っているのもあって周りの動き出しは乏しく。下川に与えたタスクとチーム戦術が上手く噛み合っていなかったように見えた。

このあたりはこの試合の山雅が準備した戦い方を象徴するような現象であり、長年の悪癖ともいえるシーンでもある。

話は戻るが、前節の戦いを見て京都側も立ち上がりのハイプレスをやり過ごせば保持の時間が増えるというイメージを持っていたと推察するが、この日の山雅はあくまでカオスを作り出す姿勢を止めず。

結果論的にはなるが……京都側からしたらブレーキを踏まずに進んだら止めどころが無くなって山雅好みのジェットコースターのような試合展開になってしまい、それすらも許容してたら思いのほか粘られてしまったゲームとなった。

■この日にみせた全く違う顔

勇気の持ったチャレンジは出だしだけではなく、その後にも見られた。

・左右非対称の攻撃構築

タイトルでは非対称の攻撃構築といったものの、右はほぼ逆サイドのカバーに専念。クレバーな前が機を見て上がるといった左特化型のシステム。その結果、HTまでに左でのプレーが70%超えと左偏重の山雅でもかなり珍しい数値となっていた。

これは複数ポジションを高いレベルでできる選手が多い今年の特徴を生かした戦術であり、左の外山はサイドライン際に張り付いて、ハーフスペースを左SBの下川が偽SB的なムーブで使ったり、逆に右WBの前はわざと中にポジションを取ってゲームメイクのサポート・カウンターのケアをしたりと高いポリバレント性を発揮する。

使う選手や組み合わせによって全く違うサッカーができるのは今年のポイントになりそうで、変化を加えるのに重要な役割を果たす前や下川あたりの選手は屋台骨となっている佐藤や阪野らとは違う意味で重要な選手となっていくだろう。

・+1を作る河合のタスク

先程は前や下川をあげたが、この試合で特殊なタスクを与えられていた選手でいうと河合もその1人。開幕戦ベンチにも入っていない事で状態が心配されたが攻守で縦横無尽に動き回り、あらゆる局面で周りの選手の助けとなっていた。

例えば保持時には左の下川・外山サイドに顔を出し、ギャップや裏のスペースでボールを引き出すことで局面での+1を作り、

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ロングボールでは阪野の衛星役として+1を作り出してくれていた。
2トップなのでロングボールで阪野の周りに選手がいることは当たり前と言えば当たり前なのだが、去年から考えても阪野の周りに誰も選手がいないという状況は少なくなく、阪野の裏でもDFとMFの間のポケットでもボールを貰える河合の存在によって、高崎と工藤のような凸凹の関係が構築できていたように思う。

また、試合前は3VS3になるかと思われた中盤の構成が、守備時に河合がここに加わったことで松本4VS京都3の構図に

普段であればプレス時に佐藤が1列前に出て追うことも多いがこの試合では河合がいたことにより、ウタカのケアと他3人が出て行った時の受け渡しに集中。中盤3枚の助けになった。

河合

そして、この河合の+1によって、一番恩恵を受けたのはトラジションやルーズボール時。

この試合は山口戦と違い、試合を通してトラジション勝負が求められる展開になったが、このトラジションで優位にたてたのは単純にこれまで積み上げてきたスタイルだったことに加えて、中盤の優位性も影響している

中央に優位性を持ちたい柴田山雅のゲームプランと中央でのトラジション勝負が多発したこの日の試合展開が合致したことにより、中盤がいつもより1枚多かった山雅は中盤の攻防においてかなり有利になったであろう。

もちろんこのやり方も万能ではなく、5311の形にすることで阪野の負担は増え、逆のSBに展開されるとドフリーになるデメリットはあったものの、この試合においては好采配ということになったのではないか。

試合前に京都にサイド勝負を仕掛けられると分が悪いというプレビューを書いたが、実際にそういう形を作ってきたのは後半半ばあたりになってからだった。

■野々村がハマったわけ考察

・橋内の負傷がこの展開を加速させた説

なぜ京都側もこうした展開を選んだのか。

理由は明確には分からないのであくまで推測にはなるが、もしかすると橋内の負傷は影響しているかもしれない。

この試合では前から行く分、中央はCBとウタカのマンツーマンのようになっていた。橋内の好守で何とか抑えていた場面もあったが、そこからその橋内が変わったこと、そして野々村が最初のプレーでイエローカードを貰っていたこともあって初戦よりCF勝負で来ることが多くあった。つまり中央に勝ち筋を見出していたようにも思える。

こちら側の立場に立ってみてもプロ初出場のルーキーと得点王・ウタカのマッチアップとなれば当然の狙いどころである。試合中はかなりヒヤヒヤものだった。

先ほど書いたように中盤でのトラジション勝負ではこちらに分があったものの、それを続けていくにはボールが行き来する展開に耐えられる後ろの強度が必要になる

"前線からのプレスを剥がしてゴールを狙う攻め方"よりも"ボールが行き交うような単純な殴り合いを仕掛ける"ほうが「不安要素」となっていた若いDFラインが先に綻びを出しやすいのではないかという算段があっても不思議ではない

この橋内→野々村の交代が相手側のゲームプランも狂わした可能性はそれなりにあるような気がする。

・新たな砦への期待感

しかし、野々村を中央に置いたチームは無事ゴールを守り切った。特にシンプルにウタカを使おうという相手の意図が逆に野々村の持ち味を引き出しやすくしてしまったかもしれない。
スラムダンク風に言うと「不安要素」である小暮君を突こうとしたら結果的にそれが敗因となった田岡監督的な誤算である。

もちろんこれはキジェ監督の采配ミスでもなんでもなく、野々村や周りの選手の頑張りがあってのことで、この成功体験は今後の山雅にとっても大きな財産になるはずだ。

常田が怪我したことでエアバトラーが不足しているチーム事情もあるので、野々村にはエアバトルで無類の強さを発揮した飯田のように新たな砦としてチームを支えてほしい。

(ちなみに野々村の予想以上の活躍に対してキジェ監督も策を打ってきたわけだが、ここでは割愛。。。)

■山口戦の改善も見えた終盤

・綻びが見え始めた後半半ば

しかし、全てが思い通りだったかと言われるとそういう訳では無い。60〜70分台には阪野・河合の2トップに疲れが見え始め、相手の最終ラインが余裕を持ってボールを回すように。

後ろが持つことが出来ると京都側は左右に揺さぶりをかける事ができ、こちらが前からプレスをかけることで相手にスペースを与えるだけになってしまう時間ができた。

この時間あたりからウタカとCB勝負で完結させる攻撃から人数をかけるような形が増えていき、危険な匂いが強まっていく。

・IH問題の解を示した343

そんな3511への体力的な限界が見え始めたあたりで、終盤には新たなオプションも。前節課題に挙げた「532システムで消耗が激しいIH問題をどうするか」の1つの答えでもある、超カウンター型の343にシステムを変更。

これにより2トップの孤立は回避、攻撃の選択肢も格段に増える。前がかりになった相手に対して、戸島・鈴木国・横山のフレッシュな3人で完結させようというメッセージを感じることができた。

時間は少なかったが攻守の移り変わりが激しいオープンな展開もあって、3人それぞれに見せ場になるようなシーンは作る。

人数をかけて山雅陣内へ押し込んでこようとする京都の勢いを押し返す意味では一定の効果はあった。

・越えたかった本多の壁

残念だった点は消耗の激しかった相手のDF陣を相手に決定的な場面をそれほど作れなかった点。

バイス・本多のCB陣は非常に強力だったが、ホームとあって京都のリスクのかけ方もかなりのものだった。バイスは前線に上がると後ろは本多にかかる負担は大きくなるのでそこを超えてシュートまで行くシーンはもう少し増やしたかった。

結果無得点だったとしても今後に向けてある程度はシュートチャンスを作っておきたかったように思う。

■この試合で見えた魅力と悔しさ

こうして試合はドロー決着。準備してきたような展開に持ち込んだこともあって、開幕戦よりは多くの手応えとアウェイで勝ち点1を得た。

改めてこの駒の多さ・多彩さは今年の魅力であり、これまで培ってきたサッカーや柴田監督のモチベーターとしての力が組み合わせればJ2のどのチームとも渡り合える力は持っているのかもと感じる試合は出来た。

とはいえ、冷静に見ると京都も年齢的にも成熟度的なもまだまだ若いチームで(実際川崎や中野はまだまだ若さを感じるシーンが何度かあった)、この先の伸び代は大きいだろう。

前節の疲弊しきった中での勝ち点1とは違い、ある程度自分たちのプランに引きずり込めたのなら勝つべき試合であったとも考えられる。

これに満足することなく、「アウェイで強豪チーム相手に引けを取らない戦いができたという喜び」と「得意の土俵に引き込んでも勝ちに値する試合ができなかった悔しさ」の両方をもちながら、次節こそはまたまた優勝候補の一角である山形を叩きたい。

END





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