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福岡戦レビュー~堅守撃破!見逃さなかった綻び~

杉本の会心の一撃でダブルを達成

2位福岡を相手に内容・結果ともに互角以上の戦いを見せ、見事に「ウノゼロ」勝利。これまでの福岡のスタイル、11戦中8戦は1点差(残りは同点)という対戦成績からも「いかにして1点を先に取れるか?」がこの試合の大きなテーマとなっていたが、この戦前の予想通り1点を巡った痺れるような展開に。

最後は気持ち」とはよく言われるが、相手のなりふり構わないパワープレーもあってまさにそれが表されるような"形よりも気持ち"というような戦いを0で乗り切った。

これによりこの連戦は2勝1分。さらに5戦負け無しで来ているがこの勝利は勝ち点3以上の価値がある。キャプテン・隼磨の復活もチーム内外に明るいニュースになった。順位表的にも上の集団に追いつき、町田千葉に琉球とともに並んでいる(勝ち点36)。この勢いを維持して貪欲に順位をあげていきたい。

~個人的チームMVP~

MVPの候補は多いが杉本をあげたい。決勝点となった得点はもちろん、いつもに増して前線に顔を出して果敢にシュートを狙った。特に後半開始から得点の56分までの動きは神がかっており、J2屈指のDH陣を困らせていた。

次点は橋内浦田。橋内はこれまで起点となっていたファンマに仕事をさせることなく、脅威であったカウンターでも持ち味のスピードで何度も相手のチャンスを潰していた。前半17分の増山の突破に追いついたのは1点ものの価値がある。
浦田も慣れない右WBのポジションで守備はもちろん、攻撃でも積極性を発揮。右利きで、元々攻撃は得意なプレイヤーなので驚きはないが首位相手にこれだけやれたのは収穫。

~戦評~

■序盤から見られた福岡の"山雅対策"

お互い1点勝負を見越したからか、なかなかボールが落ち着かないような入りとなったが、先に主導権を握ったのは福岡。あと一歩でゴールという形を何度も作られたのは主にこちらの左サイドのハーフスペースを使った攻撃

これは山形戦などでも狙われたような形だが(この時は主に右サイドだった)、増山・サロモンソンでWBを釣りだし、そこでできたギャップを攻略するという攻撃で何度かゴールまで迫った。常田もCB3人の中ではカバーが早いわけではなく、また残りの中2人はCBとしては身長が高くないのも見越してこちらサイドを狙ったのかもしれない。

攻略

こちらの先制点は相手の左サイドを突破しての得点となったが、このサイドでの突破を生かしたか生かせなかったかが差として出た試合となった

■給水後のボール支配と福岡の狙い

シュート数5-3、支配率58%-42%というスタッツで折り返した前半の給水前。数字の通り、福岡が保持しながら押し込み、山雅はロングボール中心の攻撃になるという構図だったが、給水後はそこから変化が起こる。

福岡がプレスをそれほどかけてこなくなったため、献身的な2トップをビルドアップで交わすのもそれほど苦ではなくなる。福岡は前線2枚が縦関係になることはあっても後ろの44ブロックはほとんど崩さないので配置上山雅のボール回しは捕まりにくくはなっている。特に左→右の展開は何度か綺麗に決まっていた。

ルート

しかし、福岡もあえて44ブロックを崩さないという側面もあって、もし奪えればそのままファンマを起点にして遠野+SHの4人でカウンターを完結させようという「罠」は常に張り続けていた。

トラジション

それを可能にしているのは上島・グローリらDFラインの安定感で、多少回される、アーリークロスをいれられるなどあってもその陣形を崩さず、横綱相撲のように構え続けたのはさすが好調のチームといったところだろう。

■乱れない中盤のトライアングルと幅を使った展開

しかし、序盤の猛攻や「罠」にも屈することなく、非常に締まった展開でゲームは進む。この試合で山雅はハイプレスはほとんど仕掛けず、早めに532ブロックを組むような守り方をしていたので本来繋ぐサッカーを指向していない福岡も崩すのは苦労していたが、それ以上に山雅側が「保持時」に不用意なロストを最小限に抑え、カウンター発動を防げたのは無失点という結果に繋がった。

福岡からすると守備時にWBはどうしても空いてきてしまうので、「中盤の勝負で奪えるか奪えないか」の勝負がこの試合では重要になってくるが、そこで抜群の安定感を誇ったのは山雅側の中盤の3人。攻撃の時はアンカー役として気の利いたポジション取りをしていた佐藤、あらゆる場所に顔を出してボールを引き出しトラジション時にはいち早く動き出す前、中盤の経由役からフィニッシャーまで攻撃で違いを見せた杉本とそれぞれが存在感を示し、ほとんど無駄なロストがなく、攻守でゲームを作った。

ポジションの噛み合わせこそ違えど、奪取力の高い前・松本に仕事をさせず、カウンターの脅威を未然に防いでいる。

■生まれた一瞬の隙と崩れた要塞

そして、ほぼ互角のスタッツからも分かるように似たような我慢比べの展開が後半も続く。福岡側はファンマの質的優位性から、山雅側は手薄な逆サイドへの展開から相手の綻びを狙っていったが、先にその綻びを突くことができたのは山雅側だった。

このような拮抗した展開になればなるほど「ミスのスポーツ」の本質が出てくる。起点は佐藤のロングボールから。このボールを輪湖は狙い、かなり早くスタートを切っているが周りのカバーがその早さに追いついていないのにも関わらず、178㎝で空中戦の強い浦田にエアバトルを挑んでしまった(輪湖は171cm)。そこで動じなかった浦田がそのままドフリーの状態になれたのはこれまでにない"穴"ができた形となった。

ゴール

⇧そして、もう一つ綻びが生じたのはバイタルエリア。輪湖の"穴"を埋めるために周りが動いた結果できた次なる"穴"が杉本のところだった。本来遠野がついていた杉本だが、浦田が抜け出した瞬間、全体的に福岡側がボールウオッチャーになった隙を見てその逆の動きでバイタルエリアに入り、完全にフリーになる。

さらにDH間のスライドでもミスがあった。グローリはコースを埋めているので"人"の穴を埋めるのは福満→その穴を埋めるのは松本というようにスライドが行われていったが、松本ー前弟の間がこれまででは考えられないほどぽっかりと空いてしまった。杉本にボールが入ってから前弟、そしてマークを捨てて上島がスライディングでシュートコースを消しに来たあたりは「徹底してるな」という印象を受けたが杉本がそれを上回ってシュートを突き刺した。

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これまでクロスに対して人がいないというシーンも多かったが、5人がシュートを狙える位置取りをできていたのは"これまでのリスク管理"と"勝負どころ"のバランスが取れてきた証拠だろう。ゴールシーンは何度でも楽しめる。

■J2でもなかなか見られないTHEパワープレー

そこから数分は塚川・隼磨を投入。運動量を高めて追加点を狙いに行ったが、スコアは動かず。逆に福岡の攻撃に対してFWのどちらかがボールサイドに下がる541ブロックを形成するようになった後半30分あたりから前線へのパワープレーにシフト。カウンターがダメならパワープレーというのは福岡の得意の形であるが、このスタイルで昇格圏にいるだけあってなかなかえげつなかった。

特に192㎝の長身CB・三國ケネディエブスが前線に投入されてからはファンマ(188cm)・グローリ(189cm)・上島(185cm)・山岸(183cm)・サロモンソン(182cm)・三國に対抗する、こちらの180越えは常田(188㎝)・塚川(184cm)・米原(184㎝)・鈴木(182cm)のみ(GK村山・前線に残るハンもいるが)とミスマッチがいつ起きてもおかしくないようなヒヤヒヤ展開に。

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これだけ長身選手が並び、正直なボールが入ってくるとGKの立場からしたら出ていきたくなるものだが、村山を中心によく我慢して守り切った。なんで守りきれたかはもはや戦術を超えた部分がほとんどなので綻びを見せなかった選手たちをただただ称えたいところである。

■今日の試合の謎、諸々考察

・中美のベンチ外

メンバー表を見た時に意外だったのが中美のベンチ外。公式のコメントによると「さすがにコンディション的にも難しかった」とのこと。他にもっと連戦の選手もいるのでいきなりベンチ外になったのはもしかしたらアクシデント的な意味合いもあるかもしれないが、評価が下がってのベンチ外でないことは確かなよう。

・鈴木と浦田の逆配置はどうだったのか

こちらについても左から中に切り込んでという狙いはがあったが、この試合では普段クロスをあげられるような場面であげられなかったり、右にボールを置くことで選択肢が狭くなったりとデメリットのほうが多かったように感じた。

鈴木の縦にも中にも行けない状態になっているのは「連戦で使われ続けている」部分が大きいと気がしており、「左サイドに置いてみる」というのは解決方法としてあまり適切とはいえないので、どちらかというと前節右で好プレーを見せた浦田を引き続きそのサイドで使いたかったという意味合いが強いのではないかと思う。

・福岡との相性の良さ

なぜ福岡と互角の勝負を行い、ダブルを達成できたのか。次当たれば勝敗はどうなるか分からないし、理由を結論付けるには難しいがシンプルに質的優位を生かそうとしてくるサッカーなのは理由としてあるかもしれない。今季は質的優位性を作られて前線のプレスがはがされ、バランスが崩されたところを突破されるシーンが多かったが、福岡の場合はシンプルにファンマを使ってセカンド回収という反町山雅に近いようなやり方をとっている。福岡の攻撃が山雅が本来持つストロングを引き出しやすかったというのは要因としてはありそうだ。

また、2回の対戦で山雅はどちらも3バックを採用footballlabのデータによると今季の福岡は

3バック:9試合4勝2分3敗 10得点 平均勝ち点 1.1
4バック:22試合15勝3分4敗 26得点 平均勝ち点 2.2

と平均得点はそれほど変わらないが平均勝ち点はだいたい倍の差が出るなど勝率が良くないという結果が出ている。攻撃自体は3バックも4バックも苦にはしていない一方、福岡の堅守はWBを使った攻撃に崩されやすいというのがデータとして出ている。この試合でも44ブロックでWBを捕まえるところには苦労していたが、セルジもそこに加わってサイド攻略を目論んでいたので福岡にとってはがっつり3バックの山雅は「天敵」といえるチームだったのだろう。

■次は千葉との「サバイバルマッチ」

最初に書いたようにこれで5戦負け無しと好調な中、次節はホームで同勝ち点の千葉との対戦となる。が、千葉は山雅と対照的に絶不調ともいえる状態にいる。クレーベ川又とエース級の選手の不在もあってここ10戦で1勝4分5敗、前節1-5で敗戦した試合もこぼれ球への反応が鈍いシーンから失点を重ね、イエローカードも5枚と散々なチーム状況が表れた結果に。

特に強かったころに見られた44ブロックの整った距離感からは考えられないほどこの間が間延びしているのは簡単に修復できるような問題とは思えない。加えてシステムやメンバー変更も大きくはできないような状態なので、最前線のFWが相手のCBを引っ張りながら、出来たスペースを相方のFWとIHで突いていきたい。

また、前節・意地の1点を取った佐藤寿や守護神新井ら力あるベテランが奮起する可能性があるのは注意が必要。佐藤には前回対戦でも一瞬の隙を突かれてやられているのでまずはその「形」を作られないように気を付けたい。

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勝ち点36同士という意味でも負けられないが、福岡の勝利とこの試合の結果によって最低でもどちらかが「昇格」が物理的に不可能となるという試合でもある。前回「昇格の可能性を残し続けることの意味」について触れたが、監督の言っている「山雅はやっぱり力があるしやれる」という期待感を世に示すことが残り試合の使命でもある。

解任によって作られた「半年」はあまり有効に使えたとは言えなそうだが、この使命を果たすことが来期にもつながる。昇格を目指すチームとして「生き残り続けるため」にも絶対に勝ち点3を掴み取りたい。残り10試合も全力で!Onesou1!

END

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