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群馬戦~会心の一撃から学びたい"積み上げの差"~

"因縁"を感じるような1戦に

試合前から多くの因縁を抱えた群馬戦というような話はされていたが、まさにと言っていいような展開で0-1で敗戦。去年から積み上げていた群馬のサッカーに苦しめられ、岩上の恩返し弾を喰らうことになった。

この1戦だけでやってきたことが全て否定されるかと言われるとそれもまた違うとは思う。が、多くの教訓は得られそうな試合なのは確かではないだろうか。

また、残り5戦をどのように戦うかという点においても残念な要素も多かった。結果が求められる中で多くのことを並行しながらやっていかなければどこかでしわ寄せがやってくるというのは何ともサッカーというものの奥深さを感じる。この壁を今のチームのうちに少しでも乗り越えながらいい形で終われるように後押しを続けていきたい。

◆個人的チームMVP

選ぶのも迷うようなこの試合のチームMVPは阪野を推したい。後半からの出場で、攻守で大きな献身性。阪野・セルジ・ジャエルで90分をやりくりしたいなら阪野とジャエルの2トップにするのが良いような気も……。

■前線2枚の気分に後ろが合わせる定まらない守備陣形

試合はいつもの442群馬に対して、山雅は塚川が入るときにありがちな352気味の3421で始まる。この2つのシステムのスイッチングはセルジ・塚川が戻るか(戻れるか)どうかによって決まっており、こちらの右サイドは基本的には相手の左SBには塚川が戻る、もしくはCBにかけた塚川が二度追いして対応するという541的な対応。(群馬はビルドアップで岩上(内田)が下りて3バック化することもあったが大半はジャエルやセルジの裏にポジションを取ることが多かったので表記はこの形にする)⇩

右

しかし、左サイドは2トップ気味のセルジが戻れない(戻らない)ことが多く、船津に中美が対応するかどうかの決定が遅くなる。こうなるとSBはプレッシャーを受けることなく運ぶことができ、ハーフスペースを使いながら攻略されることが多かった。数値的にも群馬は右サイドを中心に攻撃を仕掛けている。⇩

左

ここでもう1つ山雅の問題だったのは、塚川の守備範囲がとにかく広く、時には逆サイドのコーナーフラッグあたりまでボールを追うというシーンが何度かあったこと。

セルジが前線にいる場合、塚川は中盤に加わって3枚にならないといけない。が、常にプレスのスイッチとしてSBやCBを自由にさせないタスクもある。塚川が間に合わないと結果、わりを食うのが後ろの前と米原で、ただでさえ中に絞り気味なSHを捕まえなければならない上に大前まで下りてくることで、群馬の中盤は「1VS1を作らせることなく中央を突破できる」数的優位な状態に

大前

■SBが鍵となる積み上げられた群馬のサイド攻撃

・再現性の高いサイドの崩し

こうして下りてくる2トップの1角、そして中に入ってくるSHにボールが納まりだすと生きてくるのが群馬の特徴である「高い位置を取るSB」からの攻撃。山雅は5枚で構えているにも関わらず、その前の中盤で数的優位を作られ、前・米原が振り回されることで後ろの5枚も動かざるを得ず、結果大外のSBに誰も付いていけないという大きな落とし穴を抱えたまま戦うことに。

この日SBを務めたのが右はCBでの出場が多い船津・左は右サイドを主戦場とする平尾だったことで、このポジションは「最大の攻めどころ」であると同時に最も攻撃をフイにしていた「泣き所」にもなっていたため、そこからの攻撃は不発に終わることが多かったが、去年吉田がアシスト王に輝いたのも納得の攻撃の形を何度も再現していた。

・狙いが詰まっていた前半36分のシーン

そして、最もビルドアップからフィニッシュまでの狙いが詰まっていたのが前半の36分。塚川が戻り切れていないところで大前が中盤に下がり、2VS3を作られたところで逆サイドに展開。この時SHの田中が中に入って中美を惹きつけたが、これによって船津の上がるスペースを空き、クロス時にはほぼフリーであげることに成功⇩

中が足りない

ボールはそのまま流れてしまったのでそれほど大事にはならなかったが、中には青木大前加藤田中と4人がゴール前になだれ込んできており、得点のパターンとしては十分すぎるほど攻撃となっていた。

再現性のある攻撃が必ずしも正義とは限らない。が、その欠如は終盤ボディーブローのように効いてきた。このあたりが個の突破力では上回っていたにも関わらず、組織を崩すに至らなかった要因の1つに感じる。

■適した修正と安定を得た代償

そして、後半は阪野、佐藤、杉本を投入。大野を下げたので4バックに変更も一瞬よぎったりもしたが、可変気味だった3421を352に固定。4つのポジションを変更して前のHV以外は"いつもの形"に戻す

後半

経験を持っていて慣れ親しんだメンバー、いつもの力を発揮しやすいようなシステムに戻すという解決策は「勝つこと」に関しては一番手っ取り早く、妥当な交代策といえる。

特に阪野が入ったことにより、前半にはなかった深さ(ピッチの縦幅)を使った攻撃が格段に増加。そこで出来たスペースをセルジや塚川、杉本が生かしていき、チームの攻撃全体に厚みができていく。

逆に言うと残り4戦にして、いつものメンバーに戻すしか今は確実な解決法がないというのも露点した。サッカーでは何かを得たら何かを失うということは常とはいえ、若手(サブメンバー)が生きにくい環境に向かうのは好ましくない。少なくとも米原・大野・ジャエルとチームを飛躍させるための新たな要素や若手を下げるのであれば「結果を残さなければ停滞感しか残らない」ということにもなってくるが、この方向性はどこかで変えていかなければならないように感じている。

■皮肉な一撃

後半3枚替えの後、さらに後半15分で高橋投入によって「前半は群馬ペース、後半は山雅ペース」というところまで持ってきた試合だったが、こちらの勢いが落ち着いてきたこともあって一番の勝負所の残り10分では群馬のチャンスも再び増えてきていた。

後半は確かに山雅もボールも人も動くようになっていた。しかし、前半と後半優勢になった際にどちらが「相手を動かせていたか」というところにフォーカスすると、群馬側の方が山雅DFの前からの積極的なプレスを交わし、裏にDFを走らせて動かしていたことも影響していそうな気がする。

そして、訪れた後半44分の岩上の恩返し弾。古巣・山雅に対して試合を通して「岩上祐三はまだまだやれる」ということを証明した一撃だった。こういう得点はパスミスをした後ろの人間のせいにされがちだが(そこのミスはあった上で)試合の流れから生じた妥当な失点と思える⇩

岩上の満了について裏で何が行われたかは分からないのではっきりとしたことは語れないが「若返り」を図っての人員整理だと仮定した場合、結果若返りができていないメンツとキッカー不足、彼がいた右サイドは同い年の浦田が1番手として出場している試合でこのような一撃を喰らってしまったのは何とも皮肉。

覆水盆に返らずであることは重々承知だが、再び大きな選択を迫られるオフシーズンがすぐそこに控えている今だからこそ、こうした現実は受け止めていかねばならない。「松本山雅というクラブ」を知る選手は多くないのだから……。

■収穫少ない試合で見えたポジティブな点

ネガティブな要素が多く残った試合になったのでどうしても総括するとマイナス要素が多くなる。しかし、この「いつものメンツ」で劣勢の試合をイーブンまで持っていけたのはここまでの功績であり、今節でも確認できた。

そして、この方針で行くと若手やサブメンバーなど経験の少ない選手を組み込んでいくのも難しいというのは改めて考えさせられた。来季はより研究が進み、今のように停滞することは必ず来るので良い時こそシステムなのか12人目以降の選手なのか、はたまた新監督なのか。昇格が無くなった今だからこそ、早めに手を打っていく必要がある。

次節は新潟との信越ダービー。勝ちは当然目指していくとしてどのような変化・挑戦をピッチで見せることができるか?1勝1敗2分けとなっているこの5連戦の最後を勝ちで締めるために全力でエールを送りたい。

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Twitterでもお知らせしましたが、Windtoshさんのアーカイブサイトにご招待いただき、記事まとめていただいています。各チームのレビュアー・分析官の記事、試合結果などの情報が収集、整理、保存してあります。

バラバラで行われている分析記事が体系化され、他のチームのチーム状況や分析・考察がこのサイトで見ることができるので興味ある方はぜひ。

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