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甲府戦レビュー~貪欲に、堅実に積み上げた勝ち点3~

負けられない甲信ダービーであり、続投決定後の初戦

「甲信ダービー」という負けられないダービーマッチ。だが、それ以上に「柴田監督の続投」という山雅にとっては非常に大きな決断が下された翌日の試合という意味が重かったこの試合。

山雅界隈の世論が揺れる中での試合なので、「結果」によって期待も不安も起こりうる試合だったが、ひとまずクラブの思惑通りの結果が出たことによって、最悪中の最悪の週末になることは免れることができた。

POがない今年は特に周りのチームは来季へのテストや調整の意味合いが強くなっており、さらにこの甲府戦も手放しに喜べるような試合でなかったのは確かだが、上位のチーム相手にきっちりと勝利で終えられたことは明るいニュースである。このまま残り2戦でも勝ち点3を手にして、今季の成績も五分にすることで良い印象を持ったままオフを迎えたい。

■個人的チームMVP

今節の個人的チームMVPはセルジ一択。先制後も攻め続けていた前半だが、あのセルジでしか取れないような1点がなければと思うとゾッとする。流れの中でも甲府DFにほぼ捕まることなく、後半にも長時間1トップを務めていたことからも監督からの依存度の高さは感じられる。

次点は高橋、佐藤
前者はサイドの攻防で対面の橋爪に仕事をさせず。豊富な運動量で左サイドを独力で突破し、戻りも早いので中の守備をずらすことなく、試合を進めることができた。
そして、安定の佐藤は古巣相手にも健在。常に縦の選択肢を持ちつつ、危ないと思うと瞬時にサイドに散らすこともできる彼の存在の有無は試合を左右した。

■圧倒の背景

中3日の甲府と中6日の山雅の対戦となった今節。試合後、伊藤監督も「条件は違うがそれを回避するためにターンオーバーを使っている」と話しているが、逆の立場になった時にターンオーバーを使って同じサッカーをできるかと言われると山雅も、大抵のJ2のチームもできないので『日程面により生まれたアドバンテージ』や『甲府が来季の昇格に向けてのテストを兼ねていた』ことは考慮しておかなければならない。

だが、それを差し引いても山雅の序盤のプレスや沸いてくるような攻撃は良いものがあった。常々言っているが、後ろのマンパワーで上回っている限りは序盤から飛ばしていくとそう簡単には突破されない(ただポジション移動も多いのでその反動は前後半の終盤に数字として出てきてはいる)。この試合も立ち上がりには非常に強く、そこから双方の修正が入って、徐々に失速していくといういつもの内容となった。

■敵陣で奪取、侵入できたロジック

さて、それでは具体的にどう立ち上がり優位に立ったか。

前線から精力的にプレスをかける山雅はこの試合でも3バック&GKから繋いでくる甲府に対してIHが1列前にでて対応。甲府はこれに対して、ドゥドゥを残してほぼ全員が足元で貰う意識が強く、ずるずると自陣に戻ってきていたので、こちらは佐藤や大野らが勢いよく前線まで奪取にいくことが可能になった。また主審も多少のコンタクトは流す傾向にあったのもこの時間は有利に働く。こうして5回に4回くらいのペース(あくまで感覚)で敵陣から攻撃を繰り広げることに成功していた⇩

プレス

甲府側もそのプレスをひっくり返すためにロングボールを増やしてくるも、前線に厚みはなく、1発があったドゥドゥもロングカウンターや裏抜け時に橋内や常田を上回るプレーはほぼ見られなかった(大野は若干苦労してたが)。

このように甲府はポゼッションもプレスを上回れず、ロングボールも不発だったので、トラジションのバランスも悪く、すぐにこちらの保持に切り替わっていたがこの日の山雅はこのフェーズでも安定。

こちらの31ビルドアップを阻害するためにDHの1枚が佐藤を潰しに出てくるが、こちらの中盤は間受けができる塚川・久保田に加えてセルジが下りてきて組み立てに参加。一度前線にボールが繋がることで佐藤が自由に動くことができ、さらに展開できるという好循環を作り出せていた(前線で動き回り、CBを惑わせていた阪野の働きも見逃せない)⇩

まわし

■甲府の修正策により立場が逆転

そこからCKからセルジのゴラッソで先制。GKのミスを誘うセルジの技術の勝利だが、やや幸運であった。この1点のみで終わったというのは試合を振り返ってみると少し寂しさもある。

そして、給水後には甲府も守備の修正を図る。前線のプレスを削ってシャドー中山が守備時にやや下がり目になり、中盤の攻防に参加。こうすることでDHが佐藤を潰しに行っても数的な問題が起こらないようにしたが、戦況をひっくり返すような違いは見せられず……。そのまま圧倒的なスタッツで前半を折り返した。

そこで後半から甲府は高橋の守備をなかなか崩せずにいた橋爪に変えて、突破せずともチャンスメイクができる荒木に。アタッカーの中山に変えて技巧派ゲームメイカーの野澤に選手交代。352気味の配置にする舵を切る。

山雅に合わせたポジションチェンジだが、中の3枚の配置は流動的。
守備時には中盤で3角形を作り、最初から佐藤を野澤がマーク。塚川・杉本も2枚のDHに監視されるようになったことで前半のようなスムーズなパスワークが繰り出せない時間が続く。前線を活性化させていた阪野の動きも減少したことで、甲府CBもセルジに付いていきやすくなる⇩

修正

そして、前半はポゼッションしながらも縦に急いでいた甲府も後半は意図的に保持率を高めていく。

これまで通り、甲府の31ビルドアップにIHが迎撃することで枚数を合わせる山雅だったが、後ろはドゥドゥと松田の2枚を3CBで見ることになったため、前半ほど前に出ていけず。さらに新たにできた野澤、中村2つのルートにパスを通されるようになっていくことで前半佐藤和が空いたのと同じように中盤で自由に回されるようになってしまう

修正2

ただ山雅側の守備も簡単には侵入を許さず、一度532ブロックでセットしてしまうと縦にボールを刺しこまれるようなことはなかった。が、その分奪取ポイントも自陣になり、カウンターに出ていく力がなかなか出せないという時間が続く。

■勝つために選んだのは「撤退」

・らしさより勝利を選んだ背景

ここで「攻撃的な采配により追加点を狙いに行く」か「守備の修正を図る」かどちらに修正するか選択が迫られたが、柴田監督が選んだのは後者。阪野を下げて山本真が中盤に入ることで相手の2つのルートは制限することができたが、カウンターを捨てて更なる「撤退」に向かうことになる。

引きこもり

この割り切りも「山雅らしさ」といえばらしさなのかもしれないが、ここまでの柴田監督のスタイルを考えるとかなり守備的な采配に思えた。しばらく交代はないまま、最後に隼磨を投入したが、村越、アルヴァロの出番がなかったのも守備面を考えてのことだろう。

監督的にも不本意的な戦い方になってしまったのは理由はいくつか考えられるが、大きな理由としてベンチの交代選手の関係だろう。要は残り選手での前線の活性化よりも山本真の安定感のほうが勝率が高いと考えて、こうした交代になったはずだが、いくつかの課題と疑問は残る。

まずはHTでの交代。柴田監督は比較的経験豊富な選手を選ぶ傾向があるが、相手の後半の出方を見ずに経験のある杉本・浦田のカードを切ったことで、後の選択の幅を狭めることになった。もしも後半1点でも返されていたら一気に戦局は変わってしまっていただろう。前節は久保田や圍を起用して勝利に結びつけたのでこの試合でもそこの変化があるかと思われたが、そこまでして固定したメンツで戦う必要があるのかどうかはこの時期の戦いとしてはこの試合でも疑問が残った。

そして、阪野の交代後のCF。攻守に効いていた阪野を下げる戦術的な理由はあまり考えられないのでこの交代は「過密日程を見据えて」ということが大きいはず。しかし、これまでベンチ入りしていたジャエルだけでなく、他のFWの選手もベンチ入りせず。セルジの0トップも理屈上は可能ではあるが、そこに意図はそれほど感じられなかった。阪野を下げるプランがあるならば他の選手を入れておくべきだったように感じる。

・来季に繋げる=勝利とするならば…

ただし(やり方はもう少し合ったようには感じるが)スタイルを崩してでも貪欲に、絶対的に勝ちを狙いに行くという強い意志が根底にあるということは触れておかなければならない。そういう方向性を続けるならば何としてでも残り2戦も連勝、そして1桁順位を目指したいものである。

そこで次節の東京Vは目の上のタンコブである、勝ち点3差の絶好の相手。得失点差に差があるため次節抜くのは現実的ではないが、逆に勝てなければ6差がついて今年抜くのは不可能になる(=1桁順位も消滅する)。

ポゼッションを重視するスタイルの相手になるので、多くは「ポゼッションの東京V」VS「プレスの山雅」になるのは想像に容易い。良い守備をしてどれだけ高い位置でボールを奪えるか?で、攻撃もどこから始められるかが決まってくるので、できれば激しいプレスに必要な体力のある序盤のうちに1点決めておきたい。

このメンバーでできるのは泣いても笑ってもあと2試合。悔いのないように、そしてサポに取っても選手にとっても強い意味の残せる試合を目指したい。

END



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