日本が世界のハードウェアエコシステムに欠かせない存在になる7つの理由
HAXではアーリーステージのハードウェア・スタートアップに投資するVC視点による製造業のトレンドに関するレポートを、定期的に配信しています。
今回はそのレポートから「日本が世界のハードウェアエコシステムに欠かせない存在になる7つの理由(7 reasons Japan is going to become crucial to the global hardware ecosystem)」と題されたパートの抄訳を掲載します。
ハードウェアの世界は日進月歩の勢いで、日々発展を続けています。
エッジコンピューティング、LPWAの普及、新しいセンサーとソフトウェアを駆使した自動化技術の台頭は、ハードウェア開発を進めるスタートアップのビジネスチャンスに爆発的な広がりをもたらしました。
この流れによって、従来のSaaS事業を対象とした投資家は、ハードウェアスタートアップが独自の価値を持ち、また事業開発を推進する上での独自のデータセットが増えていくと考えています。
急速に進む研究開発と製造拡大において、深センは重要な役割を果たし続けていますが、世界のハードウェアエコシステムの成長にとって、日本が重要な存在になる理由が7つあるとHAXでは考えています。
シリコンバレー投資家コミュニティとの深いつながり
ベイエリアのスタートアップ企業への外国投資家のトップは日本企業です。
過去4年間で200件以上の案件と250億ドル以上の投資を行っています。
流動性が高く、強力な資本市場がある
日本企業による海外企業を対象としたM&Aは、日本国内の産業が停滞し、国内市場が縮小している中で、企業が持続的に成長していくための手段として近年急増しています。
また、基幹事業以外の領域でも、新たな事業機会の創出を目的としたM&Aが行われているのを目にします。
ライフロボティクスを買収したファナックやスイスの重電大手ABBを買収した日立製作所、米半導体企業IDTを買収したルネサスエレクトロニクスなど、これらのM&Aは日本企業がM&Aを通じた事業の多角化に取り組んでいることを示しています。
急成長する日本のVC
日本国内のVC市場は急成長しています。 これは、日本国内のスタートアップエコシステムの成熟が反映されていると考えています。
また、日本国内のスタートアップによる資金調達額が過去最高を記録するなか、ハードウェア・スタートアップが25〜35%を占めています。
日本の投資家は国内の社会課題の解決に向けて、奮闘する日本のスタートアップに注目しています。
日本の若きプロフェッショナル層の意識に変化が起きている
これまで日本のスタートアップを取り巻く環境は盛んではありませんでしたが、近年急速に変化を遂げています。
日本の求職者の6割以上がスタートアップへの転職を検討しており、その結果、「生活のための仕事」という従来の価値観から意識転換し、スタートアップの世界に飛び込む日本人が増えています。
更に、企業主導のアクセラレータープログラムにも大幅な投資と成長が見られます。2019年上半期に30を超えるアクセラレータープログラムが日本で運営されています。
日本のスタートアップの成長には、政府や大学の支援が大きな役割を果たしてきました。2018年は日本の大学主導で設立されたスタートアップが2200社以上あり、そのうちハードウェア関連は3割から4割を占めています。このエコシステムは、政府が日本の主たる大学に交付した1000億円以上の資金によって支えられています。
世界に先駆けてイノベーションを牽引する「課題先進国」
日本は「課題先進国」とも言われる極端な市場であり、グローバルなニーズに先んじて新領域のイノベーションを牽引しています。
少子高齢化、労働者不足などの社会課題を解決するスタートアップへの投資が進んでいます。今後、他の先進国で同様の課題が深刻化した際には、日本が先陣を切ってソリューションを提供することができます。
こうした課題はモビリティ技術との親和性があり、WHILLやACSL、ZMP、MUJINのようなスタートアップが成長するきっかけを創出しています。新型コロナウイルスの問題も相まって、高齢者向けの技術への注目は日本だけに留まりません。
HAXが日本市場向けに行ったデジタルヘルスに関連した投資の一例を紹介します。
2016年にHAXが投資したBISUは検査から2分でパーソナライズされた健康に関するアドバイスを提供する尿検査キットを開発しています。
DXが進む巨大な日本産業分野
日本にはデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む、巨大な産業分野があります。
産業部門が占める国内総生産(GDP)の内訳がアメリカは20%、EUが26%であるのに対して、日本は42%と、非常に高い割合を占めています。
加えて日本の産業分野の発展は国内に留まりません。
海外に拠点を持つ日本企業の2018年における投資額は、産業分野だけでも880億ドル(約9.4兆円)に達します。そのうち55%が海外への直接投資です。
また、日本では産業分野のデジタルトランスフォーメーションの需要が急増しています。
日本企業の70%がDXに着手しており、年々増加傾向にあります。こうした流れにスタートアップが寄与する度合いは大きいでしょう。
環境問題に真剣に取り組む日本企業
地球環境の保全には石油燃料への依存からの脱却し、廃棄物の減少しながらも生産性向上させる必要があります。私たちは、この変革が起こる分野としてエネルギーに注視しています。
世界のエネルギー使用量の80%は石油、石炭、天然ガス等の化石燃料に依存しており、そうした現状を打破するためにハードウェアスタートアップは重要な役割を果たすことになると予測しています。
先に挙げた産業分野における日本のスタートアップ・エコシステムの成熟は、こうした環境問題にも大きく貢献するでしょう。
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取材・文:越智岳人