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【イベントレポート】スタートアップを成長させる「ご縁」の作り方

スタートアップにはヒトもモノもカネもないのが当たり前。その中で事業を進めるために、時には誰かに助けを求めることも必要です。人との出会いで生まれる「ご縁」を事業成長につなげるためには、どのような準備や心構えが必要なのでしょうか。
 
HAX Tokyoが「ご縁」を考えるために開催したイベントの舞台は、ビジネスマッチングとハードウェア開発のサポートに取り組み続けるDMM.make AKIBA。2022年10月19日に開催された「スタートアップはビジネスの『ご縁』を事業成長にどう活かす? ~ご縁は運ではありません〜」から、ディスカッションの様子をお届けします。
 
登壇者はHAX Tokyo Directorの市村慶信と岡島康憲、DMM.make AKIBAの技術顧問を務める阿部潔氏と松山工業株式会社代表取締役社長の鵜久森洋生氏の4名です。

どのような助けが必要か言語化する

市村:ハードウェアスタートアップは団体競技に近い部分があります。ヒトもモノもカネも少ないところから、どのように周りの人を巻き込んでいくかが鍵になる。人との「ご縁」を作り、成長の糧にしていくための方法について、今日はお話しできればと思います。阿部さんはDMM.make AKIBAの開設当初から8年ほどお勤めですが、ハードウェアスタートアップの方から寄せられる相談には、どのような内容が多いのでしょうか。
 
阿部:作りたいものがあるのだけど手段がわからない、あるいは誰かに頼りたいという相談であれば、すぐに調査してお返事したり、テックスタッフが直接対応したりしています。しかし、具体的に何がしたいのか、どういう製品が作りたいかがわからない状態で相談に来る方も少なくありません。

松山工業株式会社 代表取締役社長 鵜久森洋生氏(左)
老舗企業の三代目経営者としての本業の傍らで、 拠点を持たないコミュニティマネージャー「エア・コミュマネ」 として精力的に活動。「共存共栄」を軸に、 人と人を繋ぐハブ役としてのアクションを進める中で培った「 ご縁」を起点に、国際ロボット展でのイベント(1,800㎡ 規模)の企画運営や、 品川女子学院向けの特別授業など幅広い取り組みを実施。 インタープレナーとして、次世代支援、​ スタートアップ企業支援を通じ、未来を創り続けている。

DMM.make AKIBA 技術顧問 阿部潔氏(右)
1974年秋田大学鉱山学部燃料化学科を卒業。1974年東北ムネカタ株式会社に入社、パナソニックブランドの家庭用オーディオ設計に従事。1977年ソニー株式会社に入社、最初の3年はオーディオ事業部でFMチューナー回路設計、後の30年はパソコン関連事業に従事。2010年同社を定年退職。2011年日本ディックス株式会社に入社、顧問としてアドバイス。2014年株式会社DMM.comに入社、.make事業部DMM.make AKIBAにてベンチャーのタマゴの皆さんの相談相手と電子工作教室の計画から講師までを担当。

阿部:そのように目的が定まっていない方に、DMM.make AKIBAのユーザー交流会で開催されるライトニングトークへの参加を勧めたことがありました。頭の中を整理して、自分がやりたいことやターゲット、必要な助けなどを数枚のスライドにぎゅっとまとめて、3分間で伝えてもらうことが目的です。必死に練習してプレゼンした結果、交流会後にはその方の周りに人が集まって、その日のうちにチームが完成していました。
 
市村:最初は相談内容すらまとまっていなかったけれど、ライトニングトークに向けて「何をしたいか」「何をしてほしいか」を整理して自分から発信した結果、ファンや「ご縁」ができたということですね。さまざまな企業やスタートアップ、学生などをおつなぎしている鵜久森さんのところにも、フワッとした状態で相談に来られる人は多いのでしょうか。
 
鵜久森:相談内容がはっきりしているケースはとても珍しいです。相談に来られた方が現状や将来像をしっかり言語化する過程で、私はそれを通訳のようにサポートすることが多いですね。熱意があって、ある程度プランが固まっていたとしても、たとえば知財関連を調べていないなど、どこかの要素が抜け落ちていることもよくあります。

「100話で心が折れるスタートアップ」に学ぶ、モヤモヤの伝え方

 岡島:SNSで「100話で心が折れるスタートアップ」が話題になりましたが、あの作品を読んで、登場人物を評価する側に回ってはいけないと思います。正しい反応は、貴重なケーススタディだと思って自分の事業計画を見直すことです。

岡島:自分が主人公のウサギの立場だったら、どう判断するだろうと考えてみましょう。ウサギが誰かに助けを求めるタイミングは、既にだいぶ状況が悪化した「ヤバい」状況であったことにも注目したいです。
 
市村:悩みが明確であれば相談しやすいけれど、はっきりするまで助けを求めてはいけないのかというと、決してそんなことはない。ヤバくなる前の段階、なんとなくモヤモヤした状態でも相談できれば、自分を助ける「ご縁」につながっていきそうです。


HAX Tokyo Director / PnO代表 岡島康憲氏
大学院修了後、動画配信サービスやIoTシステムの企画開発に従事。2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事(株)を創業。企業向けにハードウェアプロトタイピングや商品企画の支援等も行う。2017年には、センサーにより収集した情報の可視化プラットフォームを提供するファストセンシング(株)を創業。並行して、様々なスタートアップ支援プログラムの立上げ・運営を行う。

岡島:HAX Tokyoで見ている限り、はっきりとは言葉にできていなくても、モヤモヤした状況も含めて相談しているチームは順調に進んでいます。自分に何が足りないのか、どこがモヤモヤしているのかを明確に伝えれば、相手も相談に乗りやすいはずです。
 
鵜久森:わからないことをわからないと言えない人は、意外と多いですよね。欲張らずに「知らないです」「わからないです」と素直に伝えたほうが、相手の共感を得やすいと思います。
 
阿部:誰でも「教えてください」と言われると嬉しいものです。自分を頼ってくれたのだから、質問に答えてあげたり、他の人を紹介したくなったりする。だから、モヤモヤしていて、こんなことを聞くのは憚られると思っていたとしても、とにかく「教えてください」と言う方が得です。
 
岡島:相談した相手から受け取ったアドバイスをどう処理するかも大事です。僕は常に複数の人から意見をもらうべきだと考えています。ただどんなトピックでも「この人の言うことだけ聞いていれば間違いない」ということはないので、3〜4人の違う属性の人に声をかけて相談したうえで、それらに振り回されず自分の持つ根本的なポリシーをもとに最後は自分で腹を決めるしかありません。

プロダクトもビズデブも、小さな失敗を繰り返す

市村:会場から「小さく転んで、上手に失敗するコツを教えてください」という質問をいただきました。スタートアップの成功に一般的な答えはありませんから、成功方法よりも、致命傷にならず、よいアップデートにつなげるための上手な失敗の仕方を知りたいということでしょう。
 
阿部:プロダクトの試作は、早い段階で失敗や欠点を見つけて、それを直して次に進めるために行います。いきなり完成形を作ろうとすると、取り返しがつかなくなるかもしれません。もし根本的な問題が見つかった場合、ビジネス自体のピボットも検討するなど、傷口が大きくならないうちに次に進むことが必要です。
 
市村:成功なのか失敗なのかを判断するためには、何を検証するための試作なのかを明確に定める必要があるのですね。
 
岡島:仮説検証を繰り返すプロセスは、プロダクトだけでなく、ビズデブにも言えることだと思います。たとえば展示会へ出展するならば、どういう反応を得たいのか、商談やメディアにどれだけつなげたいかといった目標を立てて、それぞれ成果を検証すべきです。
 
市村:ビズデブにおける大きな失敗があるとすれば、事業計画書で大きなポジションを占める相手との関係構築に失敗することでしょう。最大の販売先や提携先として想定していた意中の相手との交渉が頓挫してしまうと、計画書を書き直さなければいけないし、精神的にも大きなダメージがあると思います。

HAX Tokyo Director / 株式会社プロメテウス 市村慶信氏
国内電機メーカーの半導体営業・企画部門にて営業業務を通じて電子機器製造のサプライチェーンの理解を深める。その後2007年から電子部品商社の経営企画部門に移り会社経営に従事。経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への経営支援や提案を実施。2014年に株式会社プロメテウスを創業。これまでの経験を活かし国内外で複数のベンチャー、広告代理店など、非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行う。

阿部:いきなり意中の相手に真正面からぶつかる前に、小さな失敗を経験してみるとよいかもしれません。メインで手を結びたいA社とは別に、プラスアルファで他のB社も進めておく。そうすればB社がうまくいかなかったとしても、それを反省材料にして、本命のA社に向けて修正することができます。
 
市村:まずはデスクトップリサーチをしっかり進めて、交渉相手の優先順位をつけることが必要です。その上で、一番落としたい相手ではなく、あえて2番目以降の候補にあたって、特定の話題に対するリアクションや、相手が嫌な顔をするポイントを感じ取っておく。こうした「検証するための商談」で経験値を積んで、本命での成功確率を上げていくアプローチですね。
 
鵜久森:交渉でも段階を踏んでいくことは大切です。私が新規開拓で「ご縁」を作っていく中で、関係がゼロのところからスタートとなるお客様がいました。ストーカーのごとく展示会のたびにご挨拶していたら、「また来たんですか」といった具合に会話が始まりました。そのタイミングで、その会社専用に作ったフライヤーをお渡ししたら、とても良い返事をもらえました。ただ、実はその前に数社で同じようなことを試して、本命にどう刺さるかの検証を進めていたんです。
 
市村:多くの人がプロダクト開発とビズデブを分けたがるのですが、すべてはひとつながりになって事業が成り立っています。たとえば量産パートナーを探す時にも、プロダクトの仕様だけでなく、ビジネスサイドで必要な数量や納期がわかっていなければ誰も話を聞いてくれません。「ないないづくし」のスタートアップですから、これは自分の仕事じゃないと切り分けた時点で、スピードが制限されてしまいます。ビジネスとプロダクトを分けて考えた途端に、いい縁は生まれなくなると考えた方がよいでしょう。

共存共栄を前提に、高め合える「ご縁」を結ぶ

市村:最後に、日々のパートナーづくりや仲間集めで、意識しておくべきことがあったら教えてください。
 
阿部:出会いは突然訪れますから、そこで慌てず済むように、普段から自分の考えを整理しておくことが大事です。
 
鵜久森:私が大切にしているのは、利他の心です。他人を思いやる心が、結果的にはいろいろなご縁に広がって、よい結果につながっていくと感じています。
 
岡島:僕は人を信用しないことも必要だと思います。心の底から利他的に接する一方で、「これが100%報いるわけではないぞ」と考えていた方が、自分は傷つかなくて済む。止むに止まれぬ事情で期待が裏切られる可能性はゼロではない、くらいの気持ちで接していた方が、ダメージが少なくなります。利他的に動きながらも、頭の片隅には冷めている自分を置くようなバランス感覚は、常に意識している部分です。
 
市村:相手に与えられるメリットと、自分の成長ストーリーをどう組み合わせられるかが大事ですよね。人のためだけを思って行動していると、いつしか息切れしてしまいます。相手にメリットを提供しつつ、自分の成功にもつながってくると、長く付き合えるパートナーになるでしょう。


(取材・撮影・文:淺野義弘)

スタートアップからの相談にこたえるオフサイトイベントを開催しています

HAX Tokyoでは起業予定の方や既にスタートアップとして活動されている方、ハードウェア・スタートアップとの事業開発に興味がある大企業の皆様向けに、カジュアルな相談会を実施しています。

相談会ではHAX Tokyoでスタートアップをメンタリングするディレクターやメンター、大企業とスタートアップをつなぐHAX Tokyoスタッフが聞き手となり、大企業との連携のコツや試作開発の進め方、創業期の事業開発など、さまざまな相談をお受けします。

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