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温暖化が植物プランクトンに及ぼす影響 〜サロマ湖の調査から〜

今月、オホーツク・文化交流センターで行われた網走市市民公開講座から、東京農業大学生物産業学部の塩本明弘教授の講演「温暖化が植物プランクトンに及ぼす影響」より抜粋し、さらに他の塩本教授の講演などから補足した。
塩本教授は、1987年に北海道大学で水産学博士を取得し、2007年より東京農業大学生物産業学部  アクアバイオ学科(現在は海洋水産学科)教授、昨年より同学部自然資源経営学科教授。サロマ湖や能取湖、オホーツク海などで、プランクトンについて、長年に渡り研究を続けている。

プランクトンとは

まずはプランクトンの定義を。プランクトンとは、大きさは問わず浮遊生物のことである。たとえば、クラゲもプランクトンに含まれる。水流に逆えるに足る遊泳能力を持たない生物の総称。
一般に光合成を行なうものを植物プランクトン(Phytoplankton)、摂食によるものを動物プランクトン(Zooplankton)という。
海の植物というと、コンブやワカメを思い浮かべるが、これらは10%程度にすぎず、90%は植物プランクトンといわれる。植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、さらに動物プランクトンが小型の魚に食べられ、その小型の魚が大型の魚に食べられるという食物連鎖が起きる。
オホーツク海の植物プランクトンは、おもに珪酸質のカラに覆われているのが特徴の珪藻類(けいそうるい)である。

冬季の生態系を支えるアイスアルジー

塩本教授らによるサロマ湖でのプランクトンの調査は、10年ほど前から始まっているもの。サロマ湖は、北海道オホーツク海岸の北見市、常呂郡佐呂間町、紋別郡湧別町にまたがる湖。
北海道内で最も大きな湖であり、琵琶湖、霞ヶ浦に次いで日本で3番目に大きく、汽水湖(淡水と海水が混ざる塩分の低い水をたたえる湖)では日本最大であり、湖面が凍る湖としても日本最大だ。

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湖面が凍ると、氷の中にアイスアルジー(ice algae=氷中藻)が入り込む。アイスアルジーとは、海氷の底部に付着する珪藻類のこと。 氷の中の窒素やリンを栄養として育つ。大繁殖すると茶色または褐色に色づく。 オキアミ類などの海洋生物の餌となり、北洋や南極海の豊かな生態系の食物連鎖を支える役割を持つ。
氷の中で育ったアイスアルジーはさらに大きく成長し、夏になると湖の底に落ち、オキアミなどの動物プランクトンやホタテやカキなどのエサとなり、生態系を支える生産者になっている。

50年間で結氷期間が半減

サロマ湖が結氷している期間を調査した記録によると、50年ほど前には120日程度もあったのが、最近は60日前後とほぼ半減している。1990年以降では、結氷しなかった年も出てきている。
地球温暖化で植物プランクトンが増加すると、生態系が変わり、漁業にも影響が出てくるかもしれないと言われている。
植物プランクトンは約100万分の1㍍という目に見えない大きさであり、目視でかぞえることはできないが、クロロフィルの量を計ることで大まかな計算ができるそうだ。
サロマ湖全体では、アイスアルジーがおよそ2.8㌧、その他の植物プランクトンが2.0㌧とみられている。アイスアルジーやその他の植物プランクトンは、強い光だと生産力が落ち込むことがわかっている。
つまり、弱い光に対応しているとみられる。だから、湖面が凍らず、光が湖の深くまで届くとアイスアルジーやその他の植物プランクトンの生産力が落ちてしまう。
また、双方の量のバランスも問題で、現時点はアイスアルジーがその他の植物プランクトンより多いが、この比率が逆転してその他の植物プランクトンが多くなれば、全体の量は減ってしまうとみられている。

富栄養化が進みすぎると環境が悪化

水域に含まれる栄養分が自然の状態より増えすぎてしまう「富栄養」の状態へ変化した場合、栄養塩が豊富に存在するため、日光の当たる水面付近では、植物プランクトンが増殖する。また、それを捕食する動物プランクトンも増える。さらに、これらのプランクトンを捕食するウニやホタテなどの魚貝類の増殖につながる。これは、富栄養化のメリットである。
だが、北海道立総合研究機構の三上英敏氏らの研究によると、夏季に湖の底に沈むプランクトンの量が増大すると、分解による酸素消費が進み、それと同時に有機物の分解によりアンモニアやリン酸といった栄養塩が水中に放出される。
また、サロマ湖のような汽水湖では、海水に由来する硫酸イオン(SO 2-)が存在するため、無酸素状態にまで至っても、硫酸イオンを利用した微生物呼吸(硫酸還元)によって、栄養塩や硫化水素を含む硫化物が水中に増加し、悪臭が発生したり赤潮などの発生につながり、水環境や漁場環境へより悪い影響を与える。
これらのことから、サロマ湖の富栄養化の進みすぎを食い止め、漁業環境を適切かつ持続的に保っていくためには、サロマ湖のプランクトンや栄養塩についての調査・解明を継続していくことが極めて重要である。
温暖化の進行による結氷期間の短縮は、アイスアルジーやその他の植物プランクトンの生産(一時生産)にどう変化をもたらしているのか、また現存量の変化につながるのか、さらにそれらの変化が湖内の水環境をどう変えていくのか。
水環境の悪化は、サロマ湖の主な漁獲物であるウニやホタテなどの漁獲量の減少につながってしまう。前回触れたように、オホーツク地域では栽培漁業が中心になっており、ここでの調査・研究は、近隣の湖での漁業関係者にも大いに参考となるもの。
過去にはなかなか北海道の端まで来て調査する人たちはいなかったそうだが、東京農業大学の方々などにより継続的な調査・研究が進んでいるのはオホーツクの漁業関係者にはありがたいこと。
どしどし協力して、漁獲量増加につながる調査・研究を地域としてバックアップしていきたいものである。

地元網走に帰ってきて5年半経ちました。元競馬専門紙編集部員。サッカーや野球、冬はカーリングなどスポーツ観戦が好き。もちろん、競馬も話題にしています。時事ネタや網走周辺の話題なども取り上げます。よろしければ、サポートもお願いいたします。