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はじめてのSEE NOW BUY NOW

僕は最近、スニーカーの推しを変えた。ファッションとしてのNikeはここのところ復刻とかリメイクとかコラボを連発していて、その顧客はデザインの善し悪しではなく「アフターマーケットでいくらで売れるか」のみに注目し、発売日はガラの悪い転売屋が闊歩して携帯電話で手下に大声で指示を出している。そんな光景を見るのが嫌になったからだ。海外から買いに来る人の方がまだ品がある。

Nikeの靴は性能面からみてもコスパが非常に良く、トレーニング用途で毎日酷使しても何年でも使えてしまう(サッカーや野球などのフィールド競技はたぶんすぐ消耗すると思うけど)。なので、実用はNike、ファッションはそれ以外を推すことにした。目をつけたのがOnitsukaだ。

ご存じの方もいらっしゃるかも知れない。Nikeの前身であるブルーリボンスポーツ社はOnitsukaの販売代理店だった。その後の展開は書籍やWikiに譲るが、NikeからOnitsukaへ推し変するというのは、歴史からみてもとても興味深い。

Onitsukaの僕のファーストシューズはNIPPON MADEのFABRE NIPPON LOだ。ど定番のMEXICOはソールが薄くてちょっと冒険かな?って思って、ソールが厚めのこれにした。今はだいぶなじんで普段履きにもしている。

突然のGIVENCHYコラボリリース

僕はファッション系のメディアを作ったり作ろうとしたりしている関係で、ファッションのニュースがあちこちから集まってくるようにしている。すると、ラグジュアリーブランドのGIVENCHYのショーでモデルがコラボモデルのMEXICO 66を着用し、なんとショーの翌日からオンラインを含めて販売開始する。というニュースが入ってきた。

弊社のすぐ近くには販売店舗であるGIVENCHY表参道店とOnitsuka Tiger表参道店がある。GIVENCHYはドアマンがいる系の入りにくい感じがあるので、Onitsukaへ行くことにした。

執筆時点でオンラインでは白ほぼすべてのサイズが完売となっている。黒はまだ余裕がある。

当日は仕事の関係でお店には行けなかったが、翌日に立ち寄ってみたところ、店頭には専用の什器が置かれ、海外からの客がたくさん来店していた。

用意されているのは白と黒。それぞれで色のパターンが異なり、白の方は差し色も入れない真っ白のスニーカーで、運動靴らしさがほとんどない。大して黒はアシックスの意匠に白の縁取りが施されていて、運動靴っぽさが際立っている。かかとの補強部は赤の差し色が入っている。

当日まで知らされなかったと言うが

応対したスタッフは「当日まで誰も知らなかった」という話をしていた。そんなことはないだろう。スニーカーの企画から販売まではだいたい1年から数年かかると言われている。少なくとも去年の段階で社内では「G」とか「パリ」とかいう隠語プロジェクト名で話が進んでいたはずだ。

また、靴は専用のケース、専用のショッパーが与えられ、ご丁寧にキャンペーンサイトも立ち上がっている。半年から数ヶ月前レベルでは社員はもちろんのこと、店長レベルまでは話が通っていたと考えられる。販売計画や予算立てなどを考慮すると、スタッフの言うようにホントに当日やられると現場が大混乱してしまうことは、容易に想像できる。

ただ、販売員が当日まで知らなかった可能性はあるだろう。店長レベルまで話を通しておけばうまいこと対処することはできると考えられるからだ。

結局僕は、この靴を少し悩んで購入した。店に行くまでに「NIPPON MADEでなかったら買わない」と固く決意していたせいで、ソールに書かれた「日本製」を見た瞬間にコロッといかれてしまったのだ。

ファッションの新しい買い方、SEE NOW BUY NOW

ショーの当日や翌日ぐらいからその商品を買うことができるというのが、ファッションの新しい買い方として注目を浴びている。本来、ファッションショーはバイヤー向けに商談の一環として行われている面が大きかった。1年後に販売するコレクションを見てもらい、注文をあつめて、生産の準備を進めていく。受注が少ないモデルはそもそも発売されないこともある。1年かけてここを調整していくわけだ。

ショーの翌日などから製品が実際に買えるという体制を作ろうと思ったら、ショーを1年遅らせるか、生産から販売までの準備を1年早くするしか方法がない。また、服の販売開始は全コレクションが1日で揃うということはなく、数回に分けてリリースされる。そんな簡単な話ではないのだ。

ファッションショーはインターネットの普及に合わせてその特性が顧客よりになってきている。ネット中継され、ゲストにインフルエンサーが招かれ、昔のように専門チャンネルや業界紙でだけで取り扱われるショーはなくなってきている。

発売1年前はショーではなく業者向けの内覧会、プレゼンテーションを非公開で行い、ファーストドロップ(初入荷)の前日くらいにショーを行うことでSEE NOW BUY NOWが一応は実現できる。でもこれは、結果的に二度手間になるし来期のトレンドを追いたいメディアは情報を掲載できないし、すべてを移行するのはかなり難しいし、現実的ではないと思う。

未来の買い方を実現すると、カルチャーが後退してしまうのだ。

SEE NOW BUY NOWを昔からやっていた業界

実は、プレゼンテーションの翌日ぐらいからすぐ買えるというのをやっていた業界がある。ガジェット業界、特にAppleだ。iPhoneは販売網の関係もあるのですぐに買えるというのは難しいのだが、iPodなどの新作が発表されると、プレゼンの場で「明日から買える」と喝采を浴びるなんてことが行われていた。

Appleは開発中の製品については徹底的に箝口令を敷き、漏洩に関与した人や業者はそれなりのペナルティを受けてきた。結果、メディアはAppleの噂話ばかりをしはじめ、ファンアートのようなものを「次期iPhoneのモデリング画像が公開」などと騒ぎ立てている。当のAppleは何も言ってないにもかかわらずだ。

完全なSEE NOW BUY NOWとなると、もはやファッションメディアもタダの噂メディアになってしまいかねない。

従来型ショーとSEE NOW BUY NOWの並行こそ未来

今回のGIVENCHYとOnitsukaのコラボのように、ごく一部の製品がSEE NOW BUY NOWできるというパターンは今後も増えてくると考えられる。すべてをそうするにはコストがかかりすぎるが、一部の製品であれば調整はつくだろうし、ここ最近のコレクションは単純な春夏、秋冬だけにとどまらず、リゾートコレクションであるとか、プレスプリング、プレフォール、それらに属さないカプセルコレクションなどプロパー消費を高めるためセール時期をにらんであの手この手で施策を打っているからだ。

この一つの手段としてSEE NOW BUY NOWを利用しない手はないだろう。実際、今年の春夏シーズンのセール立ち上がりは本日、6月20日前後。GIVENCHYとOnitsukaのコラボの販売開始は6月13日だった。偶然だろうか?もし僕がGIVENCHYの店頭でこのコラボモデルを買い求めた場合、新作やセールの案内がきっと今頃来ているだろう。

SEE NOW BUY NOWはユーザーは新しい購買体験として、ブランドは新規顧客の獲得とプロパー消費率向上の施策の一つとして、これからますます財布のひもをいつ緩めるべきか、悩ましい時代に突入するのだろう。それが楽しいから、ファッションが好きなのだろうけど。

そうそう、セールと言えば伊勢丹のセールは6月28日からですよ。

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