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個人競技アスリート、ビジネス界での弱みと強み

❝陸上競技出身者で社会で通用する人材って少ないなと危機を感じている❞

とのランニング系経営者の言葉がSNSで議論になった。賛否ともに理はあるのだけど、大事なのは、実態は? なぜそうなるのか? どんな対策がありうるか? 自分はどう行動を変えるか? と前へ進んでゆくこと。

1つ前のnote『「プロ・ランナー」を定義する意味』が陸上競技トップレベルのプロ論ならば、

今回、競技をやめてビジネス界に出た後、普通人のためのプロ論を書く。。(2021/3/6更新)

就職でトクする運動部ランキング

まずは状況把握だ。まず体育会の全体の傾向について。(7月追記)

"これまで就活でアドバンテージになっていた「体育会」の看板が急速に通用しにくくなっている"との記事が→ 「体育会系就活、必死の汗 試合なく時間できても逆風強く」 (日経産業新聞 就活探偵団 2020/7/22)

 2021年入社組の就活は、横浜港の客船を上目線で評論してた2−3月頃までにどこまで進めてたかで大きな差が出たのはある。就活ガチ勢に有利、長期インターンシップなど参加しずらい体育会系には不利だった。ただ、もっと中長期な流れを記事では指摘している。

次に競技別の傾向について。2017年の記事だが、人気大企業採用担当へのアンケートをPRESIDENT誌が行っている。人事分野で実績豊富なライター溝上憲文さんのシリーズ記事なので信頼性も高い。

以下29種目について「好印象の競技は?」という質問を5段階評価で答えた結果 ↓

画像1

(画像出典:PRESIDENTオンライン2017/07/31 「就職活動でトクする「運動部」ランキング」)

レスリング部員とか、マイナー競技だとそもそも遭遇数が少ないから「わからない・なんともいえない」わけで、5段階なら3点に近づくのが普通だろう。下位はこのパターンではないだろうか。(卓球部は高校までは多いけど、大学体育会では知人にいないし)

メジャー競技に限ると、明らかに、団体競技が人気。陸上・水泳・テニスと人数的気にも多い個人競技がめだ。低いといっても中間の3点は超えてはいる。ただ、努力はラグビー野球アメフト…等々と変わらないわけで、別に就職のためにスポーツしてるわけではないにしろ、がんばったことが評価につながっていないのはもったいないよね?

僕自身が直接に聞いたのは、複数競技で強豪実業団チームを持つ有名大企業の、人事総務系担当者さん。団体競技の部員は総じて仕事でも成果を出し、出世しがちな傾向あるようだ。個人競技の場合、人によるわけだが、団体競技と比べると、、、

「実業団の陸上部員は、会社からの評価が低いことが多い」とは、青山学院駅伝の原晋監督(53)がスポーツ庁「アスリート キャリア チャレンジ カンファレンス2021」(3/6)でも語っていた。

団体競技の強み

この記事では、団体競技経験者の強みとして、

「自分のミスがチーム全体にどのような影響を与えるか身を以て体験してきているので、業務上のミスも“自分事”として責任を感じられる人が多い」
瞬発的なコミュニケーション能力を発揮できる〜団体競技経験者は、周囲の人間とコンタクトをとりながら競技してきた経験が生きます」

など紹介されている。ようするに、ビジネス社会とは団体競技なので、競技を通じてシミュレーション積んでるようなもの。

アメフトやラクロスは、記事では「スポーツ推薦が少なく、大学入学時点での学業成績が高め」とある。それもありそうだけど、僕の仮説として、チームビルディング経験が大きいのでは。みな大学デビューという点でフラットな状態で始めるから、競技のルール・戦術から、ゼロから共通理解を作り上げる。これは良質な経験。

この点、高校デビューが多いと思われるラグビーも共通。W杯ブームの中での記事『有名企業の社長に「ラグビー部出身」が多いこれだけの理由』(週刊ポスト 2019.09.30)では、組織のなかで責務を果たす精神、が言われる。闘争心の高さも証明済み、いかにもビジネス向きだ。

(余談ですが、早大ラグビー清宮克幸監督(2001-2006)は「俺の言うとおりにやれ」というトップダウンなカリスマ型指導者であったことがわかる。
これは平成前半だから通用した昭和なスタイル。その後、自分で考えるチーム作りの帝京大の時代になった、というのが僕の解釈です)

「チームビルディングの経験」は、野球・サッカーのトップレベルなどでは、少なめにかもしれない。システムが完成された世界だから。エリート分野など明確なプロへの道があって、小学校くらいからのエリートへのレールが明確で、競技成績で選抜されてゆく。指導者も層が厚く、知識経験豊富。レールの上で強い指導者の言うとおりに、自分の技を磨けばいい。

これは一見、恵まれた環境のようで、実は主体性を失いやすい状況となりうる。ごくごく一部の超トップ(野球の古田敦也とか)でもないかぎり、どこかでレールを降りるわけだし。

※「ラクロス人気」については文末参照

個人競技の弱み

そう考えた時に、陸上はじめ個人競技では、自立、結果への自己責任、継続的で徹底した努力、探究・・・などの能力が高い人が多いだろう。結果として個人競技出身は、「目標が狭く明確である状況」に強い傾向があるのではないだろうか。それ自体は良い個性となるはずだ。

問題はマーケットとのフィットだ。

ビジネス界では「相手目線」、相手の立場から考えるのが基本。ラグビーとかいかにもそう。個人競技ではむしろ「自分目線」を徹底できるのが力になる。

さらに世の中は、上にいくほど、目標となるものが広く曖昧に複雑になるものだから、個人競技的スタイルを続けることが難しくなってゆく。

「体育会30歳のカベ」

この「目標の曖昧性」という問題は、30代くらいで管理職レベルに差し掛かった時期に、団体系含め、多くの体育会系社員を襲うようだ。同シリーズの記事『マツコ・デラックス断言「体育会系社員は30代で終わる」説を人事部長に聞いてみた』 に、

「20代は言われた仕事を一生懸命にこなし、こなす仕事量は誰よりも多い。営業でも挫けることなくアタックする姿勢は光っています。ところが30代になると息切れして失速する社員が出てくる。共通するのは指示された目の前の仕事だけをやり、他のことは何も考えていないというか、創造性やクリエイティビティに欠けるのです。上司に対する忠犬ぶりはすごいが、後輩や周囲を巻き込んで創意工夫しながら仕事をこなす能力が低い。」 (PRESIDENTオンライン2015/06/26)

という証言もある。この30代で成果を上げてゆくるのが、上記のラグビー出身者的タイプだ。

対策

あえて単純化していえば、

・ラグビー部出身: 競技の延長線上に、就活-20代-30代があり、一貫して有利
・個人競技出身: 就活の有利さが少なめ、入社後に「ビジネスというチーム競技」に転向する必要

くらいに違うのかもしれない。スポーツ始めるときに就職は動機ではないから、たぶん始めた時からそんな性格の人で、やってく中でさらに強化されてゆくんだろう。

個人競技組などは、どうすればいいのか? 

対策を、弱みをカバーしながら、強みを活かす、という順に考えてみよう。

弱みのカバーについて、たとえば、視野、人間関係、目標設定など、意図して拡げてゆくといいだろう。目標とは、自分一人ではどうしても狭くなるものだ。視野を拡げ、人間関係を拡げることで、新しく広い目標を作る。いろんな人と関わりながら実行してゆく。

これができれば、スポーツで活きた目標達成能力の強さを、ビジネス界でも通用する武器に転換できる。

ただ、特にエリート競技者として活動する場合には、周りがそうした要素を親切心で排除してくれがち。競技だけに集中できてしまいがち。そこに過適応してしまうと、出た後が苦しくなる。

その上で、強みを活かす。結局はここ勝負。弱点がどうだろうが、強みを活かし切ることが、一番強いだろうから。(Youtuberとか適性高そう)

<2021/3/6追記>
"「女子、高3、集団競技」にうつの割合高く 高校生アスリートの健康にコロナの影響は? " とのアメリカの記事が。

2020年5月、ウィスコンシン大のグループがSNSで募集した3243人(女子58%)を対象にした調査では軽度も含め68%がうつ症状を報告。全米約1万3000人への調査結果では、うつ病の割合が高かったのは「女子、最終学年(12年生=高校3年)、個人競技より集団競技、貧困率の高い地域」

集団競技アスリートは、みんなで一緒に、という行動習慣が強い分、今のソーシャルディスタンス状況に弱い面はあるかも。ということは、個人競技経験ある方が、ある種の孤独耐性が高く、自分の目標に対して折れずに進む能力が高そう。コミュニケーションがネット側に寄る状況は、収束後もある程度は残るし一部加速するだろうから、親和性高そう。

言語化力

そして、どんな状況でも通用する武器、たとえば、「言語化する能力」を磨いておくこと。これはどの競技でも、スポーツに限らずとも、大事なことだけど。

「部活動を通して得た自分の経験や考えを普遍化し、言語化して人に伝えられる人は、周囲を巻き込んで企画を進めていくことができるし、後輩を育成することもできる。そういう意味で、活躍できますね」

とは先のPresident2017.07記事。就活面接でも、大会結果だけがウリのタイプはここで差がつく。同2018.11.02記事での証言:

「例えば失敗体験の理由をしっかりと説明できれば、コミュニケーション力はあるな〜第一関門は突破です。でも、問題はその後。私は『もし過去に戻ることができたら、どうやって達成しますか』とツッコミます。成果体験を語る学生に対しては『成果の目標が3倍だったとしたら、どうやって達成しますか』と質問します。これらの追加質問の意図は、自分がやったことに対する構造的理解ができているのか。失敗や成功の要因をちゃんと認識しているのかを確認することにあります。それによって、この学生の考える力を測り、会社に入っても再現性があるかないかを判断しています」

少し条件を変えたシミュレーションにより、構造的理解を試される。とくに体育会などで華々しく活躍して褒められてるスター学生さんほど注意だろう。もう1つ追記 ↓ (7/25)

ここをクリアできる能力があれば、「体育会30歳のカベ」を超える力にもなるだろう。

・・・

PRESIDENTオンラインは #体育会系 のタグで関連記事が幾つかあり、参考にした ↓(引用記事は自分自身へのメモを兼ねてます)

PRESIDENT Onlineは(他の有名経済誌系ウェブ媒体と同様に)PV狙いの怪しい記事も目立つのだが、このシリーズ筆者の溝上憲文さんは実力・実績・取材網に優れた信頼できる方だ。

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今日の一冊:大学9連覇の帝京大学ラグビー部のチームビルディング術はすごい。岩出雅之監督による著書:『常勝集団のプリンシプル』2018日経BP

もう1冊:目標設定を起点としたコーチング手法を小説仕立てで理解できる、2009年の古典、「ザ・コーチ - 最高の自分に出会える『目標の達人ノート』」 谷口貴彦。Kindle Unlimited対象です。

追記:ラクロス人気の謎

それにしても、イケてる感はあるけど基本マイナー競技であるラクロスは、なぜここまで人気なのか? 当noteお読みいただいた方に情報提供いただいた:

こういう競技 ↓

「地上最速の格闘球技」と言うだけあって、プレーが速い。「攻撃の基本はパスワークとポジションチェンジで、相手ディフェンスをずらしてシュートをねらう形が多い」とのこと。そのためには、練習では連携相手と議論したり要求したり、つっこんだコミュニケーションが常時必要になるだろう。

「格闘球技」というように、男子ではある程度のボディコンタクトがある。ということは、サッカー・バスケほどのボール扱い技術は必要ない。(女子は禁止だが、クロスの扱いはサッカーのボール扱いよりはハードル低そう?)

サッカー・バスケ系は相手を押し倒せないから、幼少期からの技術で差がつく。ドリブル技術が高ければ、個人で突破もできるし、パスの選択肢も増やすことができる。この経験差は明確。だから大学レベルでは、既にヒエラルキーができた状態で始めることになる。超トップは既にJリーグへ、もっとすごいと海外トップリーグへ進んだ残り組でもある。

このような技術的積み上げが重要ではない競技ほど、「大学スタート」に向く。みな横一線でスタートし、戦術やフィジカルや、いろんな能力を組み合わせることで、自分なりの強みを創り上げる余地が大きい。(こう書きながら、僕が10年前にトライアスロン始めた時を思い出した😁五輪フォーマットのトライアスロンは競泳経験が必須だけど、長距離では後から参入しやすい)

チーム全体でも、そんな過程をみんなで一緒に作ってゆく。良質なチームビルディング経験になっていそうだ。

この点はアメフトも同じ。ラグビーは男子だと高校デビューが多い気がするが女子もそう。こちらはパワーで押し切るプレーが可能なので、1年で何十kgレベルの筋肉増量にチャレンジしたりもする。大変だけど、それくらいしないとフィールドに立つの怖そう。。ラクロスではそこまではしないのが違いかな。パワーといえばアメリカか、とNCAA動画みると、タックルで決する場面もあるけど、割合は少なそう。

歴史的には、Wikiには、「日本にラクロスが伝わったのは1986年〜慶應義塾大学の男子学生(日本ラクロス協会の早川、大久保ら)が日本で最初にラクロスチームを結成する。」との記述があるのだが、、

衆議院議員長島昭久氏(1962年生まれ)公式ウェブサイトには、「高校時代には仲間とともに日本で初めてのラクロス同好会を創設」との記述がある。長島先生は23年間彼は小学校から大学院博士課程まで慶應で、高校在学は1977.4-1980.3かと思われ、1979年には日本初のチームが存在したのではないかな? 

その慶應高ラクロスには3代目J Soul Brothersの岩田剛典(1989生まれ)も所属。眩しい。

眩しすぎて正視できない。

山尾志桜里衆議院議員(1974生まれ)も東大ラクロス部。

「当時のラクロス部は、設立されて10年も経たない新しい部で、合コンや飲み会が大好きな遊び人の集まりでした。準備体操やストレッチしながらも、いつも女の子やSEクロスの話ばかりするような雰囲気でしたね。」

(誤字が)

「当時、彼女がつきあっていたのは、同じラクロス部の学生でした。開成高校出身で、とても優秀な男でした

(へー)

このように出身者を並べながら、都会の中上流家庭出身者が競技文化のコアを形成しているのではないか?と感じる。山尾先生は学芸大付属高。ビジネス文化的な振る舞いも家庭内で自然に身につきがち。社会学でいう「文化資本」だ。

以上、ラクロス褒めすぎたか😁 競技自体に優劣はなく、大事なのは、自分自身の強み弱みを客観視すること。こうした特徴はどんな活動にも応用できるはず。

※2020/11 特集note書きました ↓


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