重さを速さに? 〜肥満判定トライアスロン選手、ブルンメンフェルトのランニング
オリンピックに次ぐ最高峰のトライアスロン大会シリーズ The World Triathlon Championship Series 今年は世界8大会が開催(+五輪)、2戦め横浜大会(2021.5.15)、男子エリート優勝はノルウェーのクリスティアン・ブルンメンフェルト(Kristian Blummenfelt)、174cm77kg=BMI25.4、適正体重より10kg重い「肥満1度」ようするに肥満体判定!(日本肥満学会基準、WHO基準では「前肥満」相当)
その肥満(と数字上判定される)身体でランパートでも軽量高速ランナーたちを圧倒し1位。その重量級ランニングについて書いてみたい。
(最終更新:2022年9月)
BMI25超=肥満判定者の高速ランニング
こちらは公式Facebook写真の右がブルンメンフェルト。左は 4位アレックス・イー(Alex Yee) ↓
イーは180cm55kg=BMI16.9、適正体重マイナス16kgの低体重。陸上トラック1万mで27:51:94の公式記録を持つ。日本の専業トップランナー内でも十分に速いタイムだ。
上記の写真を拡大 ↓
ランニングの教科書的には、体型もフォームも、イーが優位にみえるだろう。しかし、綺麗な走りが強いとは限らないのがトライアスロン。勝者はBMI肥満判定の方、ラン単体でも10km29:26(最後数十mを歩いてのタイム)、でラップ1位。
上の写真で、ブルンメンフェルトのフォームは、前傾がすごい。たまたま加速を強めたタイミングかもしれないが。重たい上体を前傾させれば、不安定になり、普通は制御が難しい。肘を大きくふる腕振りにより、その重さをコントロールしているのではないかな?
レース動画ダイジェスト:ランは1:46あたりから ↓
胴体は安定させ動きは少ないが、肩〜肘あたりを大きく動かす。そもそも胸と背中の筋肉量も多いから、少しの動きでも、大きなパワーを発揮できるはず。
パワー発揮=エネルギー消費も大きいわけで、最大酸素摂取量(Vo2max)は90超だそう。そこで「高すぎないが高めの負荷レベル」での練習時間を最大化するようなトレーニングをしているらしい。結果、月間練習量は3種目ともけっこう(かなり?)多い。
ピッチは遅めかな。ということはストライドが大きいわけだが、跳ねるのではなく、モモを大きく動かしている感じかな。「大太鼓を打つバチ」のようなイメージかと僕は思っている。これはバイクのペダリングとも共通する動作感覚。上下動もめだつ。
少年時代はクロスカントリーRunでノルウェー国内の有力Jr.選手だった過去もあり、起伏ある不整地で鍛えた技術かもだ。
僕は生ブルンを、たしか2016年の横浜大会でまじかに見て、その重量感にびびった。ズシンズシンと前進する精密ロボット的な。先頭にやたら太くて厚いオッサン風(※当時22歳)がいて、いつ落ちるかな?と見てたんだけど、ゴールまで落ちず、Run29分44秒で3位表彰台。
なお、3位表彰台ピアソンはコロラド大で全米学生クロカン2位を2度、ハーフマラソン62分というエリート長距離ランナー出身:
彼も左右にゆらゆら揺れるような、あまり良いフォームとはいえないが、アレックス・イーにラン対決で勝った。
タイムは上位5人まで29分台。ちなみに僕は最高で35分台で、この1km30〜40秒の差はすさまじい。
なお使用シューズは、1位ASICS、2位NIKE、3位中国の361°、4位NewBalance。以前のNIKE一色から多様化が進んでいる。(2022箱根駅伝もアシックスなど増えるはず)
ランニング差とはバイク差である(ある程度)
男子のレース展開については、山梨で独自のプロ活動を展開する「エース」こと栗原正明さんFb投稿が詳しい ↓
3分レースダイジェスト動画への日本語解説 ↓
日本人6人を含む42人もの大集団でランをスタートしたが、誰が勝てる可能性があるのかは、ランのスタート直後に明確に見える。
この種はバイク(=自転車のことデス)で蒔かれていて、ラン単独の走力よりも、バイクでどこまで消耗したか?が大きい。
一つの集団で差なく走ってるようにみえるバイクだが、超強い選手が集団先頭で「引きずり回しの刑」を執行する。集団後方はコーナー後の立ち上がりなどで脚力を削られてく。
こちらエリートのコース図(一般部門は別)、バイクは黄色 ↓
90°+のコーナーが1周18×9周で合計162回。集団前方では、風を受けるのでより多くのパワーを要するのが基本。だが1周4450mのコースで18回まがる=1コーナー平均247m、さらに緩いコーナー6個をたせば1周24で185m。加速してらすぐにコーナーだ。仮に時速45km(40kmを53分20秒=2位イェール・ジーン53:21がこの速さ)だと1秒で12.5m進む=100m8秒なので、ランニングなら、十数秒間の100mダッシュを160本、的な鬼メニューだ。
横浜トライアスロンのバイクとは青い鬼なのである!
すると、パワーを要するのは、コーナーで減速した後の立ち上がり局面となる。それが162回だ。集団の前に位置取り、自分のペースでレースを組み立てた方が、消耗しない。
今回、男子のバイク後半は緩いペースになったようだが、ブルンメンフェルトは常時先頭付近で、自分の負担のないペースで巡航していた感じ。これも、集団先頭付近なら楽だが、後ろの方は結構撹乱される可能性ある。
ここで問題設定:
選手たちは一緒に世界を転戦していて、ほぼ全員顔なじみだ。その中で実力が認められていることは結構重要かと思われる。自転車ロードの別府史之さんが海外トップレースで常時前にいられるという話もあり↓
自転車の集団は、生命の危険すらあるわけで、下手な選手を混ぜるわけにはいかない。有利な位置ならみんな入りたいから、せめぎあいもある。ただし相手が大物なら譲ることもある。技術に加えて信頼=長年続けていることによる顔の力は結構大事なのではないかな?
(参考:サガン級なら敵相手でも自由に位置取り可能↓)
ただし先頭をガン引きし続ける力があれば、無名選手でも即実行可能。前から2−3列めに居続けるにはある種の政治力的なものが必要だとして、先頭に出るのは自由。力のない選手ならすぐにタレて「ごくろうさん」と終了。まあTV中継あれば映ることはできるかもしれない。でも前で引き続けることができれば、「こいつ実力あるな? ついてったほうが得かもな?」と信頼獲得できる。
ブルンメンフェルトは90kmの単独走を平均時速46kmとかできる怪獣。「引き回し刑」の執行能力者だ。イーもバイクは十分強くて、スイムで遅れた後で先頭集団に単独で追いつけるような実力もあるのだが、それでも負ける。
(なお私、自転車の集団走は、トライアスロンでは関東選手権・東京都選手権、自転車ロードレースではJCRCシリーズ(3戦2表彰台1救急車w)で経験しており ↓ 集団後方はびっくりするくらい楽なことがあるけど、展開にたいして無力なのです)
「体重=パワー≒スピード」である
ランニングもバイクも、さらにはスイムも、体重はパワーに直結する。ニュートンの運動方程式:
により、加速度(=速度変化)が同じ場合、力は質量に比例して大きくなるから。あるいは、重たい物体はゆっくりした動きでも大きなパワーを出せるから。
この話は、"要は腰 -- ランニング動作の「原因と結果」" 2020/08 noteでも書いた通り。
これらの考えは、トライアスロン開始初期から興味あるところで、以前のココログ時代から書いてきた。たとえば:
2014年12月 "オフトレを太れ! Maccaの体重増減戦略"
2013年12月 "トライアスリートはランナーより20%体重を増やしていい"
2014年4月「無月経、疲労骨折・・・10代女子選手の危機」シリーズ
などなどあります。(いずれ整理したい)(ができていない、、)
ついでに1.「横浜港が汚い」問題
ツイッターを覗くと「海水が茶色い」など一部でディスられていたが、競技トライアスロンとは昔からそういう競技。海外でも、たとえばロンドン五輪ではハイドパーク内の池だ。
この点は、東京五輪2021のお台場でも騒がれ、整理している:
五輪トライアスロンの「湘南開催プラン」を提案させていただいているのだが政治的支持はひろがらなかった笑 自信あるんだけどな笑
もちろん綺麗に越したことはないのだが、そもそもがアメリカ軍人が始めた競技なのである。黒く濁ろうが、船舶用の油が浮かぼうが、かまわず力比べをするのがヤンキー魂!危険ならば飲み込まないのも競技の一部なのだw
嫌な方は、ハワイ島コナ・宮古島・伊良湖・天草・村上(出場歴ある範囲内で)・・・と綺麗な海域の大会はいくらでもあるので、選びましょう。僕は横浜は5回出てます。
なお今回の横浜、日曜エイジ部門(一般)は海底が見えるくらい透明だったそう。信じられん。
ついでに2.「こんな時期の大規模大会」問題
さらにについでで書いておこう。この大会は非常事態宣言下での最大規模大会。15日は36の国・地域から集まり、16日の一般選手、ボランティアなど含めて約4000人規模。
「こんな時期に・・・」的な批判もみたのだが。
「バブル方式」と呼ばれる、選手や関係者の行動先をホテルや競技場などごく一部のエリアに限定し、外部との接触を徹底的に遮断する手法が徹底されている。Yahoo5/15記事に詳しく書かれている。
今、オリンピック関連の運営を叩けばアクセスを稼げる情勢ではあり、もちろん問題点は指摘していくべきなのだが、まずは事実をただしく把握した上での話であるべきだ。
参考して:有名経済系メディアが、飛び込みの世界大会についての批判記事がバズってたけど、鵜呑みにせずに、東京都議会の白戸太朗先生による簡単な調査結果もあわせて読んでおくといい ↓
ついでに3.体重107kgで10秒36のアメフト選手
ついでについで(←?)で載せておくと、NFL新人レシーブ記録を2019年に更新したワイドレシーバー、DK Metcalf=メットカーフが体重107-108kgの巨体。東京五輪100mアメリカ代表を目指し大会に出場して、10秒36で予選敗退 ↓
2レーンですよといわなくても一目でわかる厚い胸板、を通り越した巨大な上体。アメフトでは同じく巨大なディフェンス相手に押し勝ってキャッチし引きずり走る。195cm108kg(=BMI28.4, 肥満1度=肥満とは笑)ランニング単体では、さすがに上体が重すぎ感もあり(ボルトは195cm95kg=BMI24.98でギリギリ普通体型=普通とは笑)、その重さによる地面反力を推進力に変換しきれてない印象もうけるのだが、まあ周りが速すぎるからそう感じてしまうのだろう。ただ、中間加速のテクニックを磨けば、もう少し伸びる気もする。
※肥満の判定基準は日本肥満学会による。WHOではブルンメンフェルトもメッカトーフも「前肥満」
まあ、BMIの杓子定規さ加減を示す事例ともいえるか笑
・・・
ついでに5:
写真は2011年9月の横浜大会の私
エイジ35−39歳カテゴリで184名中1位、総合995名中7位。たしか58kg台だったかと思い(165cm)、その秋冬からバイク最優先で増量して、2012年は60kg超え、さらにバイク強化で増量した2013年の62kg台が僕の最速ボディです。
5/19追記:note公式 #スポーツ記事まとめ 掲載いただきましたー
追記:東京オリンピック、アイアンマン、等々
2021/7/26 東京オリンピック男子トライアスロン優勝!@@!
下記の5月横浜ワールドカップの再現のようなレース展開。バイクで先頭集団をコントロールしてバイク苦手なラン強者の脚を削ってからの、174cm77kgの肉弾ランで、1万m27分台の超速ランナーYeeを突き放す。
8/22:ITU年間ランキング王者!
カナダ・エドモントンの最終戦は、スイムでやや出遅れるも、バイクで先頭に追いつき(このバイクの強さが安定した成績の土台)、ランのラストで写真の通りスプリント勝利。
<2022年9月追記>
合計226kmの長距離カテゴリに進出すると、2021年11月にフルディスタンス(swim3.9km/bike180km/run42.2km=計226km)のアイアンマンに挑戦、初戦コスメル大会をいきなり7時間21分12秒で優勝。Bike112マイル(約180キロメートル)を4時間2分40秒=だいたい平均時速45kmで走った直後のフルマラソンが2時間35分24秒。すご!@@!
2022年6月5日、ペースメーカーを最大10名まで使える特殊形態イベントで、世界初のアイアンマン7時間切りのを6時間44分25秒を記録。Bike3時間24分=時速52.9km(集団走効果)、Run2時間30分。すご!@@!
サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます