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下町地域と南葛SCが秘めるポテンシャル

 南葛SCと聞いて、パッと『キャプテン翼』を思い浮かべるサッカーファンは多いだろう。多くのサッカーファン、そしてプロサッカー選手のバイブルともなった漫画『キャプテン翼』において、主人公・大空翼が小学生時代にプレーしていたチームの名前である。
 その南葛SCの名前が付けられた実際のサッカーチームが存在する。このところ、サッカーファンの間でも話題が絶えないそのクラブこそが、2021年シーズンから関東2部リーグを戦う南葛SCである。
『リアル南葛SC』とも呼べるこのチームは、何も勝手に南葛SCの名前を名乗っているわけではない。原作者・高橋陽一先生の協力の下、正式に『キャプテン翼』の名前を背負って戦っているクラブなのだ。
 2020年にJリーグ百年構想クラブにも認定されたこのクラブは、東京都葛飾区をホームタウンの中心として活動している。現在、東京23区にはJリーグクラブは存在しない。そして、23区からJリーグ入りを目指すクラブは他にも多数ひしめいている。
 その中で葛飾区、ひいては下町地域は他の23区とは異なる特徴を有する地域である。それでいながら、その土壌は他のJリーグ加盟を目指す地方クラブとは決定的に異なるポテンシャルを有している。
 今回は岩本義弘GMのお話を基に、南葛SCというクラブの紹介をしながら下町地域という唯一無二の場所をホームタウンとする意味を考えてみよう。

1. 南葛SCとは


まず、南葛SCがどのようなクラブなのか、というところから紹介していこう。
 南葛SCの前身となったのは常盤クラブという地元のサッカークラブだった。転機が訪れたのは2011年のこと。当時の葛飾区サッカー連盟が主導となって、Jリーグ加盟を目指すNPO法人「国際サッカー普及育成会」が立ち上がった。この傘下に常盤クラブが組み込まれ、翌年には葛飾ヴィトアードとチーム名も改称される。
 東京都3部リーグから新たなスタートを切った葛飾ヴィトアードであるが、翌2013年に更に大きな変革期を迎えることになる。それが『キャプテン翼』の作者・高橋陽一先生との出会いだった。
 高橋先生は葛飾区で生まれ育ち、現在も葛飾区に在住している。世界的に有名なサッカー漫画の作者である高橋先生は、まさに地元の英雄でありレジェンドのような存在だ。その高橋先生を後援会の会長に迎え、共に手を取り進もうとクラブ側が考えたのだ。
 この交渉の席で、高橋先生から予想だにしなかった一言が発せられた。
「どうせならクラブ名を南葛SCにしたらどうでしょう?」
 その一言がクラブの歴史を大きく動かすことになった。
「どうせだったら『キャプテン翼』のチームとしてやりませんかという提案は高橋先生の方からされました。高橋先生自身、地元葛飾で生まれ育ってるので地元に還元したいという思いが強かった。どうせ応援するんだったら『キャプテン翼』のライツの活用をしたり、自分自身も後援会の会長としてやるんだったら南葛SCという名前の方が思い入れがより持ちやすいのではないかという形でのお話でした」
 岩本GMは当時をそう振り返る。高橋先生の情熱は出版社サイドも動かした。
「高橋先生が望んで提案したことなので、集英社さん側も協力的なスタンスをとってくださいました。『キャプテン翼』の肖像の利用等に関して監修をしてくださっています。試合にも足を運んでくださってますし、今年(2021年シーズン)からユニフォームの背中下のスポンサーにもなってくださいました」
 こうして高橋先生と集英社の全面協力のもと、2014年から南葛SCとしての歩みが始まった。それは、『キャプテン翼』という地元葛飾を舞台とした世界的な漫画作品を背負うという前人未到と呼んで差し支えない挑戦だった。
 だが、未到の道を進むからこそ、『キャプテン翼』というビッグネームの上にあぐらをかくことは決してしないのが南葛SCのポリシーだ。
「我々は葛飾や下町にもトップレベルのスポーツを見られるような環境を作りたいと思っています。それから地域への誇りを持てたりということも含めて、葛飾区のシンボルになれるようなクラブを目指しています」
 そのためには、競技の結果もさることながら、地域での目に見える活動も重要となる。
「例えば、地域のイベントの協力を行っています。そのイベントは地元のお祭りの場合もありますし、「おいでよ葛飾!ウェルカムカツシカアートプロジェクト」などにも協力してます。それから、地元の小学校を訪問して『翼DREAM』という形で選手を派遣して子供たちのサッカースクール等をやってます。今後も葛飾区でやる色んなことに南葛SCが関わっていきたいですね。例えば、地域の図書館で選手の推薦する本を掲出するとか。各商店街を盛り上げるために色んな商店街の人たちとの話し合いもスタートさせてます」
 更に、育成に関わる部分でも将来像をのぞかせてくれた。
「今、うちはジュニアユース(中学生年代)しかないんですけど、Jリーグ加盟にはユース(高校生年代)も必要になってきます。アカデミーの選手にはトップチームの試合の運営ボランティアをやってもらってるので、そこで地域の方々とコミュニケーションをとってもらってますが、ユースができたら彼らにも地域でサッカースクールをやってもらったりというのも考えてます」
 現時点でも様々な地域活動を行っているが、将来的にも活動の範囲をどんどん伸ばそうとしているのが感じられる。東京23区という様々な人々が様々な文化的活動を見せる場所だからこそ、その選択肢は多種多様な印象を強く受けた。
 そして、様々な分野で地域に貢献していく姿勢は確かな手ごたえを得られている。
「今年のホーム開幕戦でも400名くらいが入場のマックスだったんですけど、マックスの方にご来場いただき、すごく良い雰囲気の中でやらせてもらいました。このカテゴリーとは思えないくらい(の盛況ぶり)で、新しくパートナーになっていただいた企業の方も試合に来てみてビックリされてましたね。Jリーグ経験のある選手たちも、パワーをすごく感じたと言ってました。それから、クラブのポスターを沢山作って色んなお店に貼ってもらったりしてるんですけど、皆さん喜んで貼っていただいてる。そういう意味でも南葛SCを取り巻く輪がすごく大きくなってるのを感じてます」
 葛飾区を中心とした南葛SCの渦は、確かに大きなものとなって周囲の人々を巻き込んでいる。こうした活動を通して、行政の理解と協力も得られ始めた。Jリーグ百年構想クラブ認定はその結果を示したものと言って差し支えないだろう。
「ここ数年は葛飾区の協力してくださる姿勢が前面に出てきていて本当にありがたいですね。あとはスタジアム構想があるのですが、建設にあたって行政の協力は欠かせません。そこの部分を今丁寧に話しながら進めてる最中です」
 そう語る岩本GMの言葉の端々からは、地域への感謝の念があふれ出していた。

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合同会社髪明家

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