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孤独のタクシー飯 ride.2  道灌山下にR's KITCHENという幸せになれるお店を見つける

38歳、2人の子供がいる。東京大学に11年間在籍した後、文筆家になるという夢を追い始めた。しかし、夢とは夢で稼ぐことではないと気付き、家族を養うためにタクシー運転手を始めた。

お客様にご乗車頂きながら辿り着いた街で、今日も、独り飯を食う。

……。

……。

まだ2乗務目の新人なので、土地勘のある江東区を中心に回ろうと思っていたのだが、知らないうちこそ色々行った方がいいというアドバイスを頂いたこともあって、墨田区、台東区、文京区へと進みお客様に乗って頂いた。

道がわからないというと丁寧に教えてくれる方ばかりであった。とても温かい気持ちになり、ありがとうございますと心の底から言うことが出来る。優しいお客様のおかげさまでこの辺りの道もだいぶわかってきた。

そんな中、団子坂上と言われて戸惑った。最初は中央高速の「談合坂」かと思ったからだ。聞き返して「団子坂」だとわかったあともどこだかわからない。

聞いてみると、本郷通りを通り、東大前を通過して、日本医科大学へと曲がる角を通り過ぎ、その次を右折するのだという。丁寧に教えて頂きながら、お客様を乗せて目的地へと向かう。赤門、正門、弥生キャンパスと長年通った懐かしい場所を通り過ぎながら団子坂下へ。

無事目的地まで到着した後は、そのまま千駄木や三ノ輪のあたりに抜けていった。

この辺りも美味しい飯屋は多そうだし、駐車場代もあまり高くない。いわゆるこのあたりは大学時代によく歩いたものだ。いわゆる谷根千というエリアである。谷中、根津、千駄木の頭文字を取ったものだ。

さておき、しばらく巡回し、神田のあたりへいったり、スカイツリーへのルートを確認したりしていた頃、乗って頂いたお客様から「団子坂上」までと言われてまた驚いた。

「はい、かしこまりました。本郷通りを直進して右折するルートでよろしいですか?」

タクシードライバーはこうやって道を覚えていくのだ。団子坂から少しいったところでお客様が降車された後、ちょうどお腹が空いたのでせっかくなのでこの辺りでご飯を食べることにした。しかし、インターネットで検索をしてみてもあまり良いお店が出てこない。

足で探そうと思い適当な駐車場に入れて歩き始めた。夜の独り飯というとどうしてもラーメンを思いついてしまうが、健康上の理由もあり2乗務連続で食べたくはない。そう思っていると、こじんまりとした洋風の料理屋を見つけた。

目の前の交差点を見ると道灌山下と書いてある。西日暮里駅のあたりにある高台を道灌山というらしいのだが、そこからまっすぐに進んで突き当たったところが道灌山下である。

看板にはR's KITCHENと書いてあった。お一人様にお勧めの「今日のまかない料理」もあるようだ。ここにしよう。

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店内は手作り感のある内装で落ち着いた音楽が流れていた。また、掃除が行き届いていて、とても気持ちが良かった。ご夫婦とおぼしきお二人で切り盛りしているお店のようだ。タクシードライバーは人の関係性を推測することは多いが、断定はしてはいけない。万一違った場合には大変なことになるからだ。なので、ご夫婦とおぼしきという歯切れの悪い言い方にしておく。

カウンターに座り、今日のまかない飯である「ポークソテー ガーリック醤油味」を注文すると、ポークがしなぎれなのでチキンでも良いかと聞かれた。ポークよりもチキンのほうが好きなくらいなので二つ返事で了承する。


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混雑していたので少し待ったが、非常に食べ応えのありそうなチキンが出てきた。この時点である程度満足である。

ナイフを入れると堅い感触があった。皮が油でしっかりと揚げられている。皮を切断し、肉へとナイフを入れるとこちらはサクッと切れる。

口に入れるとパリパリに揚がった皮が非常に美味しい。そして、ガーリック醤油とハーブの芳醇なかおりが食欲を刺激する。実は、鳥を上手に焼くのが苦手だ。肉厚なので、なかなか適切に火が通らないし、味も浸透してくれないのだ。

しかし、R's Kitchenのチキンは絶妙に火が通っており、鳥のうまみがとじこめられている。また堅くなっているところもなく非常に美味しい。そのへんで売っている適当に焼いり揚げたりしただけのチキンとは、食感もうまみも違う。

皮だけを剥がして食べてみると、パリパリの食感と皮下脂肪の濃厚な味わいがたまらない。チキンだけではなく、添え物のインゲンも深い味わいでとても美味しい。またレタスも新鮮で、自家製と思われるドレッシングもとても美味しかった。とにもかくにもすべての食材から出てくる自然な旨味が豊富で、何を食べても満足させてくれる。

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そして、パンもびっくりするほど柔らかかった。外側だけカリッとしている柔らかいパンを夢中で食べながら、チキンを口に入れる。5時間連続の運転で疲れ切っていた脳と身体に、美味しさがしみこんでいく。

このお店は大当たりだ。なかなか訪れる機会の多くない場所ではあるが、近づいた時にはまた食べに行こう。

会計時に「ふらっときましたが、とっても美味しかったです。また来ます!」と言ったところ、忙しそうに働いていた奥様とおぼしき女性が、こっちを見て、ニコッと満面の笑みを返してくれた。

何とも言えない幸せな気持ちで、車を止めた高台まで歩きながら、口の中にふんわりハーブの香りを楽しんだ。今度はパスタも食べてみよう。

ごちそうさまでした。


R's KITCHEN
東京都文京区千駄木3-23-6 ヴルヌーヴ文京・千駄木101
予約可(席数少なめなので行く場合は予約したほうが良さそう)

食べログURL
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131105/13127857/dtlmap/

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作家・Youtuber。偏差値30からの大学受験を経て東京大学文科Ⅱ類(経済系)→文学部に進学(宮沢賢治の生命観)→大学院は理転して農学系(アワビ類の行動生態および繁殖生態の比較)→自主退学しスポーツ系の物書きに。著書『サポーターをめぐる冒険』がサッカー本大賞2015を受賞。