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夕寝で会いに来て


 夢日記を書くのはあまり良くないと聞くが、
どうしても忘れたくないことがあったので記そうと思う。

 その日は会社を休んでいた。まあ、体調も良くなかったのだが、結局はいつもの心の問題だと思う。
 それなりに1日を過ごし、16時すぎに一旦夕寝をしようと思いベッドに潜り込んだ。窓を全て開けていたので白いカーテンが顔の近くまで広がり、不思議な気持ちになった。

 夢はシンプルだった。
クロードが出てきたのだ。彼はわたしが幼稚園の頃から一緒に暮らしていた愛犬だ。4年前の8月13日に16歳で亡くなった。寿命だった。
家族としかいいようがないから、飼い犬という表現に違和感を覚えるほどにわたしは彼に愛情だけでなく、尊敬の念も持っている。
夢のクロードはわたしの腕の中で、小さく息をしていた。
でもあの時と一緒で、それは終わりを迎える瞬間だった。
わたしと母の2人に抱かれたクロードはまだ温かく、頼りないくらいに柔らかかった。
しばらくして、あの時と同じようにクロードは息を引き取った。

 場面が急に変わった。
車の荷台だろうか。
わたしは座っていて、横にクロードもいた。
風がそよそよと吹いていた。
ごく自然に、当たり前のようにクロードは喋り出した。

「あのさー、いま順番待ちでさ、生まれ変わりまでもう少し時間かかるんだよね。でももう少しだからさ、待っててよ」

 声は20〜30代くらいのものだったと思う。
紳士…という感じではなく、ちょっとノリが軽めのお兄さんという具合だった。
わたしはクロードの言葉に疑いもなく、うん、わかったと言った。
生まれ変わりにも順番があるんだな。
それにしても、結構待たされるもんなんだなぁと呑気に思った。

 クロードはわたしの返事に満足した様子だった。
ニュアンス的には、生まれ変わったら会いにくるからさ、という話だったと思う。

 クロードはわたしたち家族の中で、かっこいい男という認識だ。
彼は誇り高く、プライドもそれなりに高く、弱いものを守り、女の子からはあまりモテず、ちょっと内弁慶だったけれどそれも愛おしく、そして決して愛を履き違えない男だった。
最後まで生きた。
 わたしたちはクロードよりも生きているくせに、クロードの死を受け入れられなくて、もうダメだとお医者さんに言われた時も、延命治療をさせてもらった。
クロードは辛い病院に耐え抜いた。

 そうして、やっと家族の気持ちが覚悟に変わり自宅療養に切り替えた途端すぐにクロードは天国へ旅立った。
わたしが外出先から帰宅してすぐのことだった。
最後まで待っててくれたのだ。
だから、わたしはクロードのことをただの愛犬ではなく、尊敬できる家族、そして「生」のシンボルとして捉えていた。
家族とは「クロードみたいにかっこよく生きよう!」とよく話している。
わたしの心が弱っている時に夢に出てきてくれるなんて、やっぱりかっこいいんだよなぁ。

 夢から醒めて、はっとした。
クロード、きっと会いに来てくれるのは分かったよ。でも、もう少しってあとどのくらいか聞けばよかったな。
風が頬を撫ぜた。

とても励みになります。たくさんたくさん文章を書き続けます。