仕事マトリクス

「仕事のデジタル化」と、「人間の仕事の進化」を両立させるために


1 デジタル化の推進の本質


RPAやクラウドツールなどのITテクノロジーを活用し、仕事の無駄を減らし、効率化しようという取り組みが始まる中、忘れてはいけないことがあります。それは、「人の仕事の付加価値を上げないと、生産性は上がらない」ということです。生産性=生み出す付加価値÷投入する工数 という方程式で表現されます。RPAの活用は分母を小さくすることに寄与しますが、分子を大きくするためには人間の仕事の進化と、チーム力の向上が必要です。

「デジタル化の取り組み」と「人間の仕事の進化」をいかに両立させるか。これがデジタル化推進の本質です。このためには、人事部のような能力開発・組織開発を担当する部署と、デジタル化推進の部署が、部署の枠を超えて協働していくことが必要です。

人間の仕事を進化するために必要なのは、テクノロジーが持ちえない人間としての力を引き出す・伸ばす取り組みです。AIが持っていないのは「目的・意志」と「感情・感性」です。「なんのためにこの業務を行っているのか」という目的(ビジョン・ミッションとも言えます)を設定し、そこに向かって意志を持って、仕事を再定義(リデザイン)すること。その目的に応じて、やめるべき業務・RPA化すべき業務・新たに始めるべき取り組みを、一人一人が考え言語化し、またマネジャーのリードの元、チームで共有していきます。


目的を喪失し、ただ業務をこなしているというのが人間のロボット化であり、ここから脱却していくことがデジタル化推進の本来的な目的のはずです。

2 デジタル化が進んでいく上で陥りがちな罠


RPAにもITにも感情はありません。ですから、24時間365日、単純作業を大量に繰り返し行わせても、「やりがいがない」「成長を感じない」「飽きた」などと言いません。ですから、そういった仕事はどんどんRPAに代替していく大きな意味があります。しかし、RPAの目的を「効率化=時間削減」だけに置くと、人間が持つ感情が損なわれる恐れがあります。そこに気を付けて推進していかないと、思わぬデジタル化推進の罠に陥ります。


RPAは、業務要件の整理⇒仕様確定⇒運用開始⇒改善のステップを踏みながら進んでいきます。「RPA化されたら楽になる」ものの、そこに至るまでは結構大変な道のりです。まずはここでかなり「疲れ」が出ます。たくさんの人を巻き込みながら、仕事のフローを変化させるのは心理的な負担が大きいものです。「変えるのがこんなに大変ならば、今のままの方が楽」という心の声を乗り越えながら、そして、「でもきっと楽になるはずだから」と期待値を上げながら山登りをしていきます。そしていざRPAの運用が始まったとき、「なんだよ、もっと楽になると思ってた」という声を内外から聞いてしまう。これはRPAをはじめて推進した会社にとってよくある事態です。この声は厳しい。あたかも、山登りを終えたら「なんだよ、そんな低い山じゃ登山とは言えないよ」と言われるようなものです。期待値のコントロールも大切なのですが、「RPAにあまり期待しないでください」とはなかなか言えないもの。どうしても「時間削減」を目に見える目標に置くのは致し方ありません。


目に見えやすい指標で人は動かしやすいですが、古来から人間は理と情で動くというように、情の部分を意識しておかないといけない。しかし、情というのは見えにくいもの。ではどうしたらいいのか。ここにおいても、活用できるテクノロジーが出てきています。


3 仕事と組織への主体性・貢献意欲を見るエンゲージメント指標

昨今エンゲージメントという指標が、組織の感情状態を知るための指標として注目されています。エンゲージメントの説明として次の二つが一般的です。


1つは、企業と従業員の関係性である従業員エンゲージメントで「従業員一人ひとりが組織に愛着を持ち、従業員と企業が一体となってお互いに成長し合い絆を深める関係」になります。もう1つが仕事と従業員の関係性であるワークエンゲージメントで「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられるもの」と定義されています。

参考:従業員満足度とモチベーションとエンゲージメントって何が違うの? 


このエンゲージメントの測定を、高頻度・安価・楽に実施できるテクノロジーが生まれ、多くの企業で活用がスタートしています。人間の健康診断で例えるならば、年に1回の人間ドッグではなく、毎日のトイレの尿検査を自動的に行い、ヘルスケアに役立てるテクノロジーが生まれたといえます。
これまで、測定と分析レポート化が大変であったため、どうしても頻度は年1回~2回となっていました。しかしそれでは、「測定結果をもとに、組織マネジメント・コミュニケーションを変えてみたけど、その結果がわかるのは半年~1年後」となってしまうため、PDCAサイクルが回りません。そのために、「測定したけど、結果は使えなかった」という事態に陥っていたのです。

※多くの企業で活用が進むwevox


デジタル化推進のサイクルは、3か月~半年です。RPAを始める前の組織の状態、業務仕様を整理しているときの組織の状態、RPA運用が始まった後の組織の状態、を把握しながら、デジタル化を推進するということができるわけです。これは、野球の監督が、自分のチームメンバーのフィジカル(健康)・メンタル(意欲)の状態を把握しながら、ペナントレースを戦っていくことと同じです。デジタル化推進という今までに取り組んだことがないテーマに挑んでいくマネジャーに、「データで野球をする」という武器を与えること。これがエンゲージメント調査とデジタル化推進を同時並行で行っていくことの価値です。


組織診断からの組織開発、という人事部的な打ち手と、デジタル化推進を両立させていく。「目的・意志」「感情」という目に見えないものをテクノロジーの力を借りて見える化させ、人間の仕事を進化させていく。人とテクノロジーの協働が始まっています。

働きごこち研究所は、Wevoxの「伴走型サポート」のパートナーとして活動しています。(2019年4月2日発表:プレスリリース


2冊目の本書いていて、たまにやる気出すためのNote書きます。