人生を変えたバイト_ホール編

オゾン・スパイラルにアルバイト入社してから、3ヶ月程経った。

私は大学を中退して、当初はハーゲンダッツ、事務の仕事、オゾン・スパイラルの3つのバイトを掛け持ちしていた。けれど、あまりにも勤務時間が違う事務の仕事で居眠りしそうになったりして、体力的に厳しかったのでまず事務の仕事を辞めた。

最初はそんなにシフトも入れられない程たくさんスタッフがいたので、ハーゲンダッツは残したまま2本掛け持ちにした。

オゾン・スパイラルがオープンして3ヶ月経った頃、当初いたオープニングスタッフも15人程度に減っていた。まず1ヶ月で10人くらい一気に減る。誰がいなくなったか分からない速さで減った。残り2ヶ月くらいで徐々に15人くらい減って行く。1週間で2人くらい減っていく。そもそもでそれを踏まえて、全員採用していたんだと思う。

その結果、シフトもどんどん入れられるようになったので、秋の中頃にはハーゲンダッツを辞めてオゾン・スパイラル1本にした。

そんなに人がどんどん辞めるって、どんな仕事内容だよ、と思うかもしれないが、以前の記事でざっくりは書いたものの、どんな仕事だったか覚えている程度で詳細に書き記したいと思う。


まずは、ホール。ホールといえど、バー・エントランス・VIPルーム以外の、フロア・トイレ・廊下・ステージ裏・楽屋のあるバックヤードのほぼ全てを意味して、担当の間はそこを全て回る。ダスターと、吸い殻入れの缶や替えの灰皿を持って、机やカウンターを綺麗にする。トレイに持ち替えて空のグラスを下げる。たまにグラスが割れたり、ドリンクが溢れたりするので、モップと箒塵取で掃除する。これはステージ裏やバックヤードも同様だった。

グラスが足りなくなって、行き来できる違う階に行ってしまっているグラスを回収に行く。廊下や階段にたむろして座っているお客さんをどかす。お客さんがパンパンの日は、これを本当に休みなくやっていても回らないくらいだった。ホールは常に走っている感じで、下手にジムに行くより良い運動だったと思う。

ここまでは容易に想像できるホール業務かと思う。クラブはこの先が違う。

まずは、ダンスフロアでの業務。

ホールはOKだが、ダンスフロアは基本的に禁煙だった。基本的に満員で密着したダンスフロアで喫煙する事は危険だったのだ。ただ、酔っ払いがタバコを我慢するなんて事は、不可能に近い。満員のダンスフロアでタバコを吸うとトラブルが起きかねないので、見つけた場合はフロアの外に出してフロア入り口にある灰皿で吸えと促す。女性しか上がってはいけないお立ち台に男性が上がっている場合は、パンツのふくらはぎ辺りを引っ張って引き摺り下ろす。肩車とかし始める奴もいるので、それも引き摺り下ろす。変な臭いがして変な動きをしている奴がいた場合(簡易的に書くので察して欲しい)や、止められそうにない喧嘩や揉め事が始まった場合は、セキュリティを呼ぶ。

男性スタッフの助けを呼べないくらい忙しい時は上記全て自分でやるので、最初はさすがにビビっていたが、段々慣れてひるまなくなっていった。


次にトイレだ。女も男も関係なく、トイレチェックに回るので、最初は慣れなかったが、私も男子トイレに入っていた。これも普通の飲食店でも当たり前の事と思う。

だが、クラブのトイレなんて何が起こるか分からない。

トイレの洗面台を占拠して、0からメイクしたりコテで髪巻いてる奴。お酒を飲みすぎたのか、エントランスでチェックしきれなかった悪いものをやったのか、個室でぶっ倒れて出てこない奴。小便器に吐く奴。女性を男子トイレの個室に連れ込んでヤろうとする奴。などなど、思い出しきれない程いろんなパターンがあった。

最初はびっくりの連続だったが、数々の現場をこなす内にフロア同様慣れて強くなった。髪まいてる奴のコテのコンセントは引っこぬくし、小便器に吐かれたゲロもさっさと処理した。男子トイレで「お姉さん、俺らにちんこ見に来たの?(笑)」などと言われて、最初は怖かったものの少し経つと「逆に、見る価値あんの(笑)?」と往なせるようになっていたし、女性を連れ込んでる男子トイレの個室をノックして、「こんなとこでやらないでホテルでやれよ、あと女もこんなとこでやらせんな。セキュリティ呼ばれたくなかったら、早く出て、出禁になるよ」と言い、ヤッてる途中で個室から出させた。出てこなかったら、セキュリティを呼んだ。

一番めんどくさいのが女性トイレの個室から出てこない奴で、女性トイレの個室に男性のセキュリティも男性のスタッフも入るわけにはいかない。なので、そこは女性スタッフが担当しなくてはいけないのだ。

個室に篭った人がいると、トイレが渋滞する→他の客からクレームが来たり、篭った人の友人からヘルプがスタッフかセキュリティに来るというのが大体の流れだ。

ある日、女子トイレの個室に外からノックしてもノックしても出てこない奴がいた。どれだけ叩いても全く返事がないので、何らかもう意識がないのであろう。何をしたかは分からないし知りたくもなかったが、とにかく個室から出さなくてはいけなかった。

どうするか、とセキュリティの一番怖い人と並んで考えていたところ、その人は私に言った。

「ハタノさん、トイレのヘリに登って中に入って中から開けてください」と。ちなみにヘリは普通の薄い壁とドアで2cmくらいしかないし、天井との隙間も50cmくらいしかない。

え?私、猿じゃないんだけど、と思ったが、少し色んな経験を踏まえた私は一瞬で抵抗もなくなり、それ以外に方法がない事も理解していたので、迷っている時間も勿体ない事を察した。

すぐに洗面台に飛び乗って、トイレのヘリと天井の隙間によじ登った。篭っていたトイレは4番目くらいだったので、ヘリを屈みながら雑技団のように歩いて4番目のトイレに向かった。

上から見下げると、中で女性が便器に顔を入れたまま動いていなかった。幸いにも便を漏らしたり吐いている様子はなかったが、パンツは吐かず下半身真っ裸で居る。上から「お姉さーーーーん、大丈夫ですか?!」と大きな声で声をかけたが、一切動かない。ここで起きてくれたら降りなくてもよかったが、全く動かないし起きないので、仕方なく全く見知らぬ人が半裸でいる個室トイレに飛び降りて、一応スカートだけ下げてあげて、中から鍵を開けた。

外にいた友人らしき子達が「大丈夫ぅぅぅ!?」と駆け寄る中、セキュリティに声をかけて、ぶっ倒れた女の子を担ぎ上げてもらい、友人にはその子の荷物を持たせてついて行かせた。

私はトイレに何ら問題がない事を確認して、簡易清掃をして、倒れた女の子に水と冷たいおしぼりを持って行った後、すぐフロアに戻った。「怖かったぁ」とか「大変だったぁ」などと感傷に浸っている暇などない。

すぐまた別の事件が起こるような場所なのだ。

ちなみに、前回の記事で書いたヨコイさんは、フロアでの仕事が神っていた。お客さんと会話しながらグラスも灰皿も一瞬で片付け、トラブルが起きそうな現場では空気を和らげて仲裁したり、フロアだけではなくその他の場所にもとても気軽な感じで気を配れていた。全てにおいて対応も早く、女の私に処理しきれないような出来事が起きていた場合、天性の勘で察して助けに来てくれたりしたのだ。構いすぎず、放って起き過ぎずというそのバランスがすごかった。フロアの仕事に慣れれば慣れる程、ヨコイさんのすごさに気づいた。


全部書ききれたかは分からないが、フロアの仕事は大体こんな感じだった。もっと細かな事件などはあったと思うが、思い出しきれもしない。

こんな感じだから、入ったばかりのオープニングスタッフがどんどんいなくなるのも致し方なかった。名前と顔を覚える前に、どんどん同期が辞めていった。

どれもこれも信じられない話だと思うかもしれないが、16年前の話なのでまだクラブも全盛期の名残があり、とても忙しく今では考えられないような事件が起こる時代だったのだ。

本当はフロアの仕事以外も1記事にまとめて書こうと思っていたけど、フロアの仕事が盛りだくさん過ぎて書けなかったので、また次に書こうと思う。


ハタノ
















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