人生を変えたバイト_オープン当初

怒涛のプレオープンを終えて、遂にオープン日がやってきた。前の店からの先輩と、ど素人のオープニングスタッフとほぼ全員で迎え入れた。

プレオープンが怒涛だった、と言ってはいけなかった事を気づく時がきた。


オープン日には、プレオープンには入れなかった一般のお客さんもたくさん来店した為、プレオープンの1.5〜2倍くらいお客さんがいた気がした。私がテンパりあげたプレオープンなど、オープンに比べたらガラガラと言う方が正しかった。先輩達がプレオープンの時に余裕だった理由が分かった。

エントランスには、毎度あがってくるエレベーターから人がパンッパンに運ばれてきて、非常階段の1Fまでお客さんが常に並んだ。帰るお客さんもいたが、圧倒的に入ってくるお客さんが多かったので、常に入店・退店の数をカウントしながら、入場規制をした。ボディチェックをしてもしてもお客さんが来た。女性客約700人強を女性スタッフ2人体制で6時間くらいボディチェックし続けていたので、恐らく1人あたり1時間に60人くらいはボディチェックし続けていた。

バーはドリンクが出過ぎて、戦場のようになっていた。特にオゾンのバーは横にかなり広かったので、ZIMAの瓶やハイネケンの缶をゴミ箱に入れる暇もないくらい忙しく、ピークの時には足元に瓶や缶が転がっていた。とにかく酒が出まくる。言い過ぎかもしれないが、体感としては2呼吸くらいする間に1ドリンク出る感覚だ。それを捌いている先輩は、変人…いや、超人と思った。バーの補佐の際は、足元の瓶や缶を拾い続け、補充し続け、洗い続けた。

フロアには、”混乱”という言葉が多分一番近いくらい人がいた。暑いとか大変とかいうレベルじゃない。フロアに回ってグラスを下げたり、灰皿を掃除しようにも、人が多すぎてフロアにいる人と人が密着していない空間がないので、ほぼ突進して割り込んで無理やり抜けるしか方法はなく、練習したトレイなど持てるはずもなかった。でも、フロアを回らないと、何か事件が起きそうなくらい人がいた。指に持てるだけのグラスを持って、バーに必死に戻り、替えても替えても火事になりそうなくらいてんこ盛りの灰皿を替え続けた。

各所でこのような感じで、オープン日からしばらくは開店から閉店まで一瞬で過ぎた。弱音を吐いている暇もなかった。研修や練習などのペースでできる事など何一つなく、持っている少しの知識と、どうにか務めねばという意思で日々食らいついている感じだった。


オープンからしばらくは連日入っていたが忙しすぎて、どこに配置されたかなどの記憶が薄く、ただポイントポイントでは覚えている。

一番思い出に残っているのが、キッチンでの思い出だ。

オゾン・スパイラルはクラブでは珍しくフードを出していた。しかも、ポテトとか唐揚げとかの軽食だけではなく、オムそばや、豚サラダ丼などのごはん系も多数出していた。しかもレンジでチンとかではなく、素材から調理だ。

オゾン・スパイラルは再入場禁止だったので、フードもかなり出た。”かなり”という言葉で足りる表現かどうか分からないが、6時間の間作っていない時間がなく常に4〜5食くらいオーダーが入っている、という意味だ。再入場できないから、みんなお腹が減るのだ。

キッチンは2畳くらいの広さで、ドアは閉めっぱなしなので換気扇しか空気の入れ替えのない場所だった。人が2人入ってちょうど・3人入ったら身動きが取れないレベルだった。

私はオープン日からまもなく、キッチンに入る事になった。新人は一通り色んな場所について様子を見られていたが、私はこの日キッチンにしか入れない大きな理由があった。

何故なら、これまで吸った事もないタバコの臭いにまみれた事で、初日が終わると、知らない間に全く声が出なくなっていた。ガラガラとかではなく、全く出ないのだ。なんて可愛い時代、とか言ってもいられず、爆音で音楽が鳴り続けている店内では、どこでも役に立たなくなってしまったのだ。

キッチンにいてもレシピもまだうろ覚えで、そんなに役立つ事はなく、初心者でもできる揚げ物をとにかく揚げ続けた。トイレに行くか洗い物をしている以外は、とにかく揚げていた。

広くて換気ができクーラーもあるキッチンならまだしも、2畳ほどの密室で揚げ物を6時間揚げ続けると、人はどうなるかお分かりだろうか。


そう、めっっっっちゃくちゃ揚げ物くさくなります!!!!!!!!


忙殺されてその日の営業が終わった時には、スタッフTもデニムも髪の毛も全身が唐揚げの匂いになっていた。

私はごはんものも作っていないのに、忙殺されて閉店間際のフロアで自分から出る唐揚げの匂いに包まれて、ボーっとしまっていた。


そこに社員の人が2人来て、

「あれ?お前、何かめっちゃくちゃ唐揚げくさいな笑」「ほんとだ!くさい笑」と言った。


その瞬間、必死にオーダーに食らいついて頑張っただけなのに・・・好きで臭くなったんじゃないやい!という気持ちが溢れてきて、私はまさかではあるが、、、


泣いた笑。しくしく泣いた笑。


2人の社員の人はびっくりして、「ごめん!ごめん!頑張ったんだよな?ごめんな?」と言って慰めてくれた。今考えると、泣いた私が申し訳な過ぎるのに笑。

一緒にキッチンに入っていた同期と先輩もどうしたどうしたと寄ってきてくれて、社員に向かって「ひどい笑!めちゃくちゃ頑張ったよな?もう社員無視で良いよ笑」と、半ばからかわれつつ、肩を組んで慰めてくれた。本当にワンチームだった、青春笑。


書いててこそばゆくなるくらいの、オープンからしばらくの日々。


ハタノ





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