事務所勤務_マネージャー編④

前回の続き。

無事にデビューの日を迎えた。

デビュー週は都内の各店舗へコメントカードを書きに行ったり、ラジオの生出演や、朝のニュースの特集などをしてもらったりした。こういった事を全くさせてもらえない場合もあるので、有難い事だった。

私はデビューしてからがスタートと思っていたので、こういった地道な活動が始まってこれからだ、と思い日々邁進していた。CD店では来店記念の写真を撮り、お店の人に挨拶をして、新人アーティストらしい地道な事をしていた。そして、こういった地道な事を積み重ねた先にアーティストとしての彼女を助けてくれる事があるかもしれない、と思いながら。


CD販売においても、配信においても数字の結果が出た。想定内ではあったが、そこまで芳しくない数字だった。同じ事務所に大ヒットを飛ばしているアーティストがいるが、そこと比べるのはおかしいのに、事務所内も、当たって欲しくない予想として本人も、目に見えてガッカリしていた。

CMが決まってるから!ニュースが話題になってるから!それがどこまでCDに影響するだろうか。CDバカ売れ全盛期であれば売れていたかもしれないが、そういったネタがあっても、売れるのはごく一部だ。

そこに気づいていなかったのか、そこをまっすぐに信じていたのか、デビュー前の祭りムードが、デビュー週後には嘘のように閑散とした。

本人が信じているのは理解できる。本人以外も本当にそう思っていたんだとしたら、この業界やめた方がいいくらいピースフルな脳みそだ。


私は店舗周りに行った時に自分でCDを買ったりしたが、本人は店舗周りに行っても、どこか上の空でスマホを見たりしていた。今思えば彼女なりの焦りで、ある程度多くフォロワーのいたSNSという武器を使って、何かもっとできないか考えていたのかもしれないが、目の前の状況から現実逃避しているように思えた。

デビュー前の祭り感からの閑散が、やはりボディブローのように効いていると感じた。


あるラジオの生放送の日、レコード会社のプロモーターの方もいて立ち会ってくれている中、彼女は良くない出演の仕方をした。悪態をついたとかではなくて、テンションの問題だったような気がする。それが電波を通して伝わるほどだった。

私はプロモーターの方に謝った。プロモーターの方は、恐らくこの後メディアに謝らなくてはいけない。元プロモーターだけに、その事は痛いほど理解ができた。そのくらいの出演の仕方だった。

デビュー前からラジオもやらせていたけど、練習も足りなかったか、、と思いながら、帰りのタクシーで本人と話した。何がどう良くなくて、など話している最中に横を見ると、彼女はスマホを触っていた。

聞いていない。。?と思った時、少々呆れてしまった。

忙しいのは分かる。でも話を聞かない、自分のした事や現実を見ないというのはありえない、と。大人が乗せたとはいえ、自分で決めたデビューだろう、と。

私は大人気ないが、彼女を降ろした時に話もせずにすぐにドアを閉めて、去った。去り際、彼女はとてもびっくりして、ショックな顔をしていた。


次の日も朝から仕事だったが、彼女は「ごめんなさい」と目を腫らして大泣きしながら来た。私は昨日から引き続き憤っていたが、彼女の顔を見て怒りはどこかへ行ってしまい、悟った。

彼女は混乱しているし、戸惑っているし、若い子特有のものすごいスピードで焦っている、と。

私もその場で謝り、仕事の時間が迫っていたので、泣いている彼女を宥めて、とりあえず現場に向かった。現場が終わった後に、昨夜の件について長く話をした。

話をしながら、これから彼女がもっと混乱して戸惑っていく事のそばにいる事について、腹を括らねばと思った。同時に、今まで以上にもっと会話しなくては、と昨夜の件を改めて反省した。CD店舗周りの時に考えている事も、何をどう考えて、何を目的として、何をしようとするかについても、自分が思っている何倍も彼女と話そう、と。

彼女を乗せた張本人達は、もう彼女の一番近くにいないし、なんなら引き続き調子の良い事しか言わないのだ。コミュ障も治り切ったわけではなかったけど、そんな事言っている場合ではなかった。

彼女は、恐らく私の人生で一番向き合った人だと思うし、これから先も、自分が向き合った人として絶対に片手で数える内に入る人だと思う。


その後、予想した通りに彼女は混乱して戸惑っていった。明るく努めていたが、ずっとそばにいると感じる弱い目の光になっていった。いつ消えてしまうのだろう、というような。

祭りをした人間達は、村ごと消えた?というくらい、周りからいなくなった。BBQの後のコンロやゴミが散らばって、人だけいないような感覚だ。

合わせて、あーだこーだ言っていた人も、なりを潜めた。


元気のない主役、突然消えた祭りの人、何も言わなくなったスタッフと相まって、私までここで地蔵になっている場合ではなかった。私は彼女に一番近いマネージャーなのだ。

恐らく当時本人は嫌だっただろうと思うが、そのまま悩んでいる姿を見せようと思った。着飾った自分を見せるモデルとは違い、人間性を見せる事で、アーティストとして彼女個人としても一回り大きくなるだろうと思った。

負けてメソメソするくらいなら、そこも曝け出そう、と。

リリース時期ではなかったので、レコード会社経由ではなく、自分から信頼できるWEBメディアの編集者に連絡をして、インタビューをしてもらった。久しぶりに記事ページを見たら、見出しにこう書いてあった。


「自信を持てる自分になって、ちゃんと自分を認めてあげたい」


この見出しは本当に彼女自身をしっかり表していると思う。彼女は、見目麗しい見た目とは相反して、本当に自信がない子だった。よく話さないと分からない、彼女の素顔。

だが、ノリにノッている事務所からのデビュー・お菓子のCMのタイアップ決定・初ライブがフランスなど、周りのそれこそ祭り感だけが先行しまくった。

結果、より彼女自身と相反していった。ていうか、この素顔知ってて、よくもまぁ軽くCDデビューに乗せたよなと憤りも募った。


そして、彼女はメンタルと声が連動してしまう人だった。

相反した環境で大きな舞台を踏んでいく中で、彼女はもっと混乱して戸惑っていき、私はそれを全て横で一緒に見て行く事になる。


ハタノ

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