日本人の果物の嗜好「糖度至上主義の現状」
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日本人の果物の嗜好「糖度至上主義の現状」

はたんきょー

色々な品種を食べ比べていると日本人の嗜好がだんだんと掴めてきた。その嗜好の変化は非常にわかりやすく、果物の品種の遍歴から辿ることができる。その顕著な例で言えば「シャインマスカット」である。まずは「シャインマスカット」を例にとって話を進める。

若者文化に根付いたシャインマスカット


たまたま流れてきたMVに「シャインマスカットのお団子」という歌詞が出てきて非常に驚いた。そのMVは48(フォーエイト)による『TikTok Winter 2021』という曲であり、いずれも10代〜20代を中心に人気のあるグループ・ソーシャルメディアだ。その中で私が注目したいのはブドウでもなく、「巨峰」でもなく、「シャインマスカット」であるという点だ。若者世代の果物離れが深刻化する中でも、シャインマスカットが若者世代(俗にいうZ世代)に浸透し、文化の1つになっていることがわかる。これは果物の品種の中でかなり特異なものであり、日本人の嗜好を変化させた要因の一つでもある。

日本人の嗜好の変化の歴史

まずは日本人の嗜好の歴史から軽く紹介する。
まず日本人が果物というものを強く認識し始めたのは明治時代からである。西洋から新しい種類や品種導入され、国内でもニホンナシや柿の有望な系統が見出されてからである。そこから日本人の嗜好が形成された。台湾からの安価のバナナの輸入、リンゴだと「国光」「紅玉」、モモだと「上海水密桃」などであり、ナシやブドウのように東(長十郎ナシ・甲州ぶどう)と西(二十世紀ナシ・キャンベルぶどう)で好みが別れたものがあった。まず日本人の嗜好に大きな変化を与えたのは第二次大戦の影響だ。第二次世界大戦の影響で果物は不用作物とされ、多くが麦やイモ類などに急速に転作が進んだが、戦後にある程度の余裕ができると果物が求められ始めた。最初は戦前からある品種で優良な品種が栽培されたが、昭和30年代に突入すると果樹の育種が盛んに行われた昭和10年代に開発された品種郡が出回るようになる。リンゴでは「ふじ」、ナシは「幸水」、ブドウで言えば「巨峰」などだ。それから東京オリンピックを迎え、高度経済成長期になると既存品種から国内育成品種に置き換わり始める。これが「第一次嗜好変動」だ。ただ品種が置き換わったという訳でなく「巨峰」で言えば粒が落ちやすかったが輸送技術の向上や、「幸水」で言えば成長途中に実が割れやすかったが栽培技術の向上で普及したものある。

幸水
巨峰
全てフジだが違う系統が3種類入っている

この頃の嗜好の特徴としては酸味と甘味のバランスがおおよそ3:7位の割合のものが多い。甘みメインで、酸味は清涼感を出して甘みを引き立てる裏方のような立ち位置になった。それ以前の品種はかなり鋭い酸味を感じるものが多く、甘い品種が求められたのは戦争の影響で甘いものに飢えていた時代が長期間存在したのも大きいと推測する。

日本人の嗜好の根幹

ここからの項目は現在も変化がないと考える。日本人が果物に求めるものは「甘み」のほかに「みずみずしさ」「程よい柔らかさ」「甘い風味」がある。ほかにも「見栄え」や「大きさ」も重視される。

「水菓子」の文化

甘みの次に重要なみずみずしさについて見てみる。昔は果物は「水菓子」と呼ばれており、水分があるものとされた。正直なところ「水菓子」と嗜好に重要な関係はないが、みずみずしさを重要視しているのは間違いなく、甘さの次に重要である。もしこれを見た方で「果物だからみずみずしいのは当たり前でしょ?」と思った方も少なくないと思うが、日本の品種はかなり世界的に見ても特異なのである。
例えばリンゴにとって見ても海外の品種の「グラニースミス」「ピンクレディー」や「ガラ」「レッドデリシャス」なんかがある。食べたことがある方はわかると思うが、「グラニースミス」はバリっというくらい歯切れがいい。「レッドデリシャス」は果肉がフカッとしていてやや柔らかい。個人的にはその二通りに分けられると考えているが、どちらも果汁は少ない。アメリカなどではかなり「ムツ(クリスピン)」人気がある、これも歯切れが良くて適度に酸味と甘みがあるのが受けたのだろう。日本人には若干アッサリし過ぎており、果物カゴに入れて見栄えを良くするくらいの認識である。

奥の緑のがグラニー、左手前と中央のがピンクレディー

一方で日本で主流の「フジ」などは硬いけど噛むとジュワ〜と果汁がたくさん出てくる、日本の品種はそのような特性を持ったものが多い。日本の品種の多くは他の海外の品種と比較しても果肉が若干粗いが、果肉が粗い=細胞が大きいということであり、その大きな細胞に果汁を蓄えることであのジューシーさが生まれる。海外でもそういう品種がなかったわけではないが「ゴールデンデリシャス」なども果肉がやや粗いが、どちらかというとクリスピーよりである。リンゴにも「印度」と呼ばれる非常に甘い品種が存在したが、酸味と果汁の少なさから衰退してしまった。ただ甘くてもダメだということの裏付けである。

右がインド、左が国光。インドは今だからこそ受けそう


ほかにもモモが顕著であるが日本の品種はほぼ「上海水密桃」由来であり、果汁滴るジューシーさを受け継いでいる。そのジューシーさは収穫後にエチレンを急激に生成することで急激に柔らかくなり特有のジューシーさが生まれる。これは「溶質」と呼ばれており、日本のほぼ全ての品種が該当する。日本ではあまり馴染みがないが熟しても硬いままで、ゴムみたいに弾力のある品種は「不溶性」であり、海外では「不溶性」の品種が主流である。輸入の缶詰の桃が「不溶質」である。「溶質」の柔らかい桃を食べるのはほかに韓国、中国の一部位であろうか?世界的に見ると特異的である。

上海水蜜桃
不溶性のモモは動画のようにかなり弾力がある。

ほかにも輸入のアメリカンチェリーやイチゴ、ブドウ、メロンなども果汁が少ないようが気がする(そして大抵マズいと言われる)。これらの嗜好は輸送性が関わっていると考える。果肉が硬いということは輸送に耐えるということでもあるので広い国土や海外に移出しようとするとなると、どうしても硬い品種が選ばれるようになってしまうのかもしれない。その結果、硬い品種が出回り、果物=硬いという認識なったのかもしれない。その分、日本は国土がコンパクトかつ近代以降は鉄道による交通網が発達しており、昭和初期にもなるとかなり成熟していた。そのおかげで昭和6年には痛みやすいサクランボを東北から東京に新鮮なままで輸送できるようになっており、さらには台湾から冷蔵機能のある船で生のライチまで運んでいた、かの楊貴妃に引けを取らないくらいだ。このように地理的要因や交通網などの事情も嗜好に関係がありそうだ。

戦前も生のライチを楽しむことが出来た。戦争や昭和恐慌に掻き消されがちであるが豊かな時代であった。

他の要因

ほかにも日本人の好みは激しい。硬さで見てもぼけた「スターキング」のようなリンゴのように柔らかすぎるのはだめで、デラウェアのようなチュルっとした肉質も好ましくない。なしで言えば二十世紀系品種の登場でガリガリとした食感の「長十郎」も次第に好まれなくなった。その次に「香り」であるが、これはかなり変わっており日本人は米国系品種特有のフォクシー臭にはある程度の抵抗は持っている。海外の人はフォクシー臭の少ない「巨峰」ですら苦手とする人もいる。ただリンゴは違うらしく「ワインサップ」という品種があるが、味は良いのに薬臭いとされ普及しなかった品種もある。個人的に「国光」の風味も独特で「これはいいのか?」思ったりもする。全体的に桃のような上品な香りを求めているのは間違いない。トロピカルフルーツと呼ばれるような海外の果物がかなりあるが、かなりクセが強いものが多い。普及したのは癖の少ないマンゴー(アーウィン)、パパイヤ、パインアップル、ライチー、パッションフルーツくらいではないだろうか?ドリアンやパラミツ、マンゴーでも種類によってはかなりクセがあり、日本人では好みが別れそうだ。

去年に主催したトロピカルフルーツを食べる会の写真。好みはまちまちだった。他にも不定期にリンゴを100品種食べる会などを開催。

あとは大きさが小さいかったり、不揃いであってもダメである。「東光」というかなり優良な品種があるが小さいという理由で消えた品種もある。自然の産物であるはずの果物も工業製品のように規格化される時代になったのである。他は着色の問題があるが、りんごで言えばこれは味と保存性さえ良ければ栽培が広がっていくうちに着色系の系統が見つかって解決する。「ふじ」も「つがる」も最初は着色が悪いとされたが、着色系統が見つかり解決した。ただ、着色系統は味が劣ることも多い。

普通デリシャスが原型の品種で、フジの親として有名。スターキングやリチャードはデリシャスが突然変異で皮の色が良くなった系統。戦後〜昭和60年代末期までの主流品種。
東光りんご。味や風味、食感などは優れているが小さいために淘汰。育種親としては非常に優秀で東光を親に持つ品種も多い。

また皮や果肉の色もかなり重視されている。近代以降、果肉の赤いスイカやイチゴなんかは血を連想させるとされ人気が伸び悩んだ。しかし、明治に入ってからは特に赤色、赤みを帯びた色などが好まれるようになった。今でこそ一般的な「巨峰」のような黒いぶどうも流通し始めた頃は「なんだあの色は!」という事もあったようだ。これはリンゴでよく見られ、現在でも若干その傾向がある。戦前から10年前までリンゴといえば赤いものの方が人気で、皮が黄色や緑の品種は人気が伸び悩んだ。最近では「シナノゴールド」「とき」「ぐんま名月」のような味の良い黄色系統も増えてきていることや、ギフト用に入れるのに黄色いりんごなどがあると見栄えが良くなるなど、嗜好や需要の変化で年々日本ではその傾向がなくなっている。最近でいえば10年くらい前から見るようになった「秋映」は、どす黒い赤色のリンゴは未だに毒リンゴと言われるが、その美味しさから着々とファンを増やしている。

毒リンゴと呼ばれる可哀想な秋映

中国本土ではその傾向は根強いそうだ。日本を含む東アジアでは赤はおめでたい色とされることが多く、かなり重宝されている。原発事故の影響で中国本土に輸出することは叶わないが、それ以前は「王林」のような緑や黄色いりんごの売上は良くなかったそうだ。しかし、最近では台湾に皮の黄色い「とき」を中秋節の満月になぞらえて販売したところ人気を博した。売り方が上手いと感心したのだが、間に合わせるために早く収穫した未熟な物を送ってしまった為に評判を少し落としてしまった。非常に残念である。この様に緑や黄色の品種、赤色でも着色が良い系統を選抜した品種はある程度色がついたら早もぎされて評判を落とす傾向がある。困ったものである。 

トキ


また赤色は食欲を増幅する効果があり、果物でも赤やオレンジ色の物が選ばれる傾向にある。コカコーラ、マクドナルドやケンタッキーフライドチキンなど食品関係のロゴに赤色が多用されているのもそのためだ。ただ、昔からメロンやマスカットは緑でも良いとされた。不思議であるが見た目が美しいからだろうか?戦前は赤肉のメロンもかなり出回ったのだが戦争の影響で壊滅し、戦後になって「夕張メロン(夕張キング)」が登場した際にカボチャメロンと揶揄されたくらいだ。昔からある「二十世紀」も最初は見た目でとやかく言われたが、食味の点で優れ「よく見たら綺麗ではないか」ということもありすんなりと受け入れられた。
そう考えると見た目が変わっていても、味が良ければ幾分の評価を貰える時代になったと考える。

嗜好の急激な変化

私はここ10年前後で日本人の嗜好が急速に変化したように感じる。それが1番よくわかるのがグレープフルーツの消費量の減少と、シャインマスカットの生産量の急増である。これを「第二次嗜好変動」と呼ぶことにする※以下「一次」「二次」に省略。「一次」から海外産果実の輸入増加などの変化はあったが、大きな嗜好の変化はなかった。これはJBPRESSより引用したがグレープフルーツの家庭あたりの購入量が年々減少している。しかし、シャインマスカットの生産量と比較して見ると反比例している。これはなぜか?関係ないように見えるが、大きく関係している。

引用元(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57509)
引用元 (https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h30/h30_h/trend/part1/chap3/c3_5_00.html)

第二世代の登場

グレープフルーツの購入額の減少した時期と戦後に普及した品種を交配親として誕生した品種が登場してきた時期と重なり、「シャインマスカット」も第二世代の品種である。またこれらは酸味がかなり少ない、ほぼない品種が多いというのも特徴である。イチゴでは「女峰(昭和60年発表)」や「章姫(平成4年発表)」など平成初期から早くもこの傾向が見られたが、理由は単純で育種にかかる期間が少ないからである。リンゴなどの果樹だと長くて30年ほど掛かる場合があり、長い年月を要する。それ故にりんごで言えば「シナノスイート」「シナノゴールド」「はるか」、ぶどうだと「シャインマスカット」「ナガノパープル」、ナシだと「あきづき」、柑橘でいえば「紅マドンナ」「せとか」など有名な品種は2000年前後に発表された。個人的大きく変わったのは東日本大地震以降からである。その前から少しずつ見かけるようになり、今では急激に普及してきたものも多い。その頃になると「第二次ベビーブーム」と呼ばれる年代(当時30〜40代)の人々が家庭を築き、子どもを育てるようになる。その世代の人々はフジなどを食べて育った世代であり、食べ慣れた品種を買うようになる。その子供たちはいわずもがなである。嗜好の変化は時代の流れによるものというのが正しいであろう。試験場の選抜者は年代的にもある程度酸味があった方がいいという方も多かった。「シナノスイート」は試験所の意見では酸味が足りないという評価であったがは試食会では好評で子どもの「甘いリンゴがあってもいいと思う」との一言で誕生した品種もある。

「糖度至上主義の誕生」

脱線したがグレープフルーツの話に戻す。私が小学生の頃、いまから15年くらい前の話。春先になるとサンキストのグレープフルーツが山盛りで売られており、価格も100円ほどとかなり安かった。親がその頃グレープフルーツにハマっており、ソフトボールもあろうかという大きさの物を1日ひとつ食べていた。記憶が定かではないが、この頃にテレビでグレープフルーツが健康に良いと紹介されたのではないだろうか、私の親はそういうのに人一倍敏感だった。しかし、それから2年もしないうちにグレープフルーツが店先からどんどん姿を消した。本当に急な話であった。その代わりによく見るようになったのが「メロゴールド」である。「メロゴールド」は昔から出回っている緑の「スウィーティー」とグレープフルーツの交配種で、文旦のようにサクサクしている。「メロゴールド」の1番の特徴は酸味が少ない事だ。長年観察しているがグレープフルーツが無くなったからとはいえ、輸入かんきつ類の売り場が縮小している訳では無い。オレンジに、レモンが少々、そこに「メロゴールド」が並ぶようになった。「メロゴールド」は安くても300円はするが、甘いので売れるようになったが、グレープフルーツは「メロゴールド」の台頭で減少してしまった。後はグレープフルーツが健康良いというブームが過ぎ去ったのもあると思う。今では私の勤める店ではグレープフルーツの取り扱いこそはあるが、フルーツバスケットの傘増しに使われるくらいだ。また似たようなので「スウィーティー」というのがあるが、5年くらい間から急に見なくなってしまった。
しかし、前のチャプターで話したがグレープフルーツに限った話ではなく他の種類でも甘さが強い新品種がかなり出てきた。その影響でより甘さが求められるようになりつつある。リンゴでは「こうとく(こみつ)」のような蜜が沢山入る品種、「紅まどんな」のようなプリプリした柑橘、あとはイチゴだ。イチゴは毎年のように多くの品種が登場し、今日も「ならあかり」という品種が発表された。イチゴは人気がある上に育種が容易で、場所もさほど選ばないため各都道府県で品種開発が進んでいる。その多くの品種の特徴としてはやはり酸味が少ない傾向にある。この糖度至上主義を語る上で欠かせないのが「シャインマスカット」だ、この品種は本当に欠点がないのが欠点だと思うくらい素晴らしい。というのも「シャインマスカット」ほど現在のニーズにあったものがないからだ。「シャインマスカット」は酸味がなく甘みが強いのは言うまでもないが種がなく、皮ごと食べれるので切る手間や手を汚す事無く、ゴミも少ない。また、最近では「映え」もより重視されるようになったが「シャイン」は見た目も良い。「映え」の点で言えばリンゴの「こみつ」のように蜜が沢山入った物も人気が高い。りんごの蜜は実際は甘くないが、目で見てわかる「可視化された甘さ」の象徴である。目で見てわかるということはテレビ等のメディアやインスタグラムに代表されるSNSで共有しやすい。それが私も食べたい!という気持ちにさせるのである。

糖度の補償

平成に入ると自動車保険のように果物にも補償が付けられるようになった。痛みなどではなく「甘さ」への補償だ。平成に入ると光・糖度センサーが導入され、1つづつ切らずに糖度を測れるようになった。そこで1つづつ糖度を測り、基準を満たせば「糖度○○以上」とお墨付きも貰える。最近ではリンゴの「プレミアム冬恋 はるか」では糖度16度以上「紅まどんな」で」12度以上とブランド名を名乗るためには基準の糖度を満たす必要があり、そこから更に酸度や大きさ見た目で選別される。なんだか国公立大学の1次試験(今だと共通テスト?)のようだ。果物の世の中も競争社会である。

このように糖度を保証したシールなどが貼られる

驚いたのが糖度だけでなく「蜜入り」まで保証したものがあるということだ。このように光を当てて1つづつ蜜が入っていることを確かめる。とても手間がかかる作業だ。

正直、リンゴの蜜は一昔前までは日本でも嫌われていた。私が生まれた頃には蜜入りリンゴが既に人気があったのでいつぐらいから人気があったのかは不明である。正式に言うと「みつ症」と呼ばれるもので、梨だと生理障害扱いで出荷出来なくなる。特徴として食感が柔らかくなり、水っぽくなる(水浸し状)傾向にある。厄介なのが時間が経つと蜜の部分が茶色く変色(褐変)してしまうのである。大体は果肉に溶けて消えてしまうのだが、フジのように蜜が残りやすいと春先に茶色く変色してしまう。スーパーで「中が変色してましたらお取替えします」と書いてあるのが褐変であり、腐ってる訳では無いので入っててラッキーくらいに思って欲しい。このように同じ蜜なのにデメリットにもなる。

褐変。冷蔵のフジに多く3~7月まで見られる。腐ってる訳では無い
海外では蜜は厄介者扱いだ

また海外では蜜入りリンゴは日本の梨同様に「ウォーターコア」と呼ばれ生理障害のひとつと見なされる。海外ではそれゆえフジも蜜が入る前にもがれしまう。中国でも蜜入りをアピールしたリンゴがあり、「Icing Sugar Heart Apple」としてカナダにも輸出もされているそうだ。

葉っぱで作られた炭水化物(グルコース)が酵素によって運びやすい形となったソルビトールとなり、果実の中で更にショ糖や果糖などに変換される。しかし、果実が熟してくると果実中よ糖が飽和し溶けきれなくなってしまい、ショ糖などに分解できずにソルビトールのまま蓄積されてしまう。その蓄積されたソルビトールが「蜜」の部分なのである。しかし「蜜」というのだから甘いと思う方も多いかと思うが、実際は「蜜」自体は甘くない。フジなどの品種では蜜入りであることは甘いリンゴの証明にはなるが、蜜が入ってればいいってものじゃない。蜜は高温化でも入ることがあり、糖が飽和している時以外にも起こる。下の写真は「ブラムリー」だが蜜が入っている、これは高温によるもので甘くはなかった。

塩にも糖度はある

変な話に思えるかもしれないが、食塩水にも糖度はある。一般的な糖度計の原理は光が果汁などに溶けた固形分の量で屈折率が変わる特性がある、それを応用したのが一般的な糖度計である。なので塩でもクエン酸でも糖度はある。例えば糖度30度以上のりんごと謳って塩水に浸して作ったしょっぱいリンゴを売ってもあながち間違えではないのである。
確かに糖度補償やリンゴの「蜜」のようなものは可視化出来て甘さを測れるように思えるが、実際はそうでは無いのだ。

品種によってはこのくらい蜜が入る。個人的にかなり好きな品種。名前は内緒

「果物のスイーツ化」

また少し前に出た「メロゴールド」の話でも軽く触れたが高糖度になるにつれ他のとの差別化を図るためにブランド化する傾向がある。そうなると価格が上昇し、話題にもなりやすいが、高価格故に果物離れが進んでいるように見える。実際、フルーツショップで働いているが、果物は毎日食べるものというより、ケーキのようなハレの日にたべる『スイーツ』のような存在になりつつある。確かに輸出にもメリットはあるだろうがブランド化、高糖度が進むにつれ、若年層の果物離れを助長しているのは否めない。
また「シャイン」のように多過ぎず食べやすいことも条件の一つであり。「シャイン」やいちごは水洗いしてそのまま食べれることも魅力の一つだ。みかんもひと昔前までは「皮膚が黄色くなる」とかの理由で減少傾向にあったが今だと「スマホが汚れる」という理由もあるそうだ。全体の理由は「ゴミが出る」「食べきれない」「皮を剥くのが面倒」などが大まかな理由だ、これは私もよくそう思うので激しく同意する。この影響で贈り物には「メロン」のような価格の高いフルーツから皮ごと食べれる「シャイン」や「ナガノパープル」、いちご、マンゴーなど少人数でも食べやすくコンパクトな果物に変わりつつある。グレープフルーツも1人で食べるには大きすぎると言った声もある。グレープフルーツほど嗜好の変化を表したものは無い。
しかし、ただ食べやすくすれば良いというわけではない。カットフルーツのように食べやすくカットしても、果物を食べない人は食べないのである。そこらへんは果物を食べる文化がないとか、金銭的に余裕がないとかが主な理由らしいので私にはお手上げだ。せめて賃金上げろくらいはいっておくべきだろうか?

果物の考え方が変わる時

このように果物への考え方がかなり変わってきている。ただ高くなってるから安くしろという事ではなく。消費者・生産者両方の果物に対する認識が変わる時代が来たのかもしれない。
昭和時代や欧州諸国・中国のように日常的食べるべきものと言うよりはスイーツのようなちょっとしたゼイタク品という位置付けになると思う。また、比較的安価で消費の多いバナナやキウイ、オレンジなども海外からの輸出に頼っている。
現在の農業従事者の不足、人口の現象による消費の減少、世界情勢の急激な変化による資材や肥料などの高騰もある。それに加え気候変動など日本で果物を生産するのはかなり難しくなってきている。その点、少量の作付けでも良いものを作れば高利益をあげることに繋がる。
100円ショップのような安いものをありがたがるよりは、日本の農業を支えていくためにもある程度の値段は覚悟しなければならないと思う。また、良い物をつくれば日本だけでなく海外にも販路が広がる。
本当はこのようなことを書くのは不本意である。日常的に果物を食べるようになって欲しいが、私ひとりにはどうしようもないことである。これは専門外の話になってしまうので深くは語れないが、若い世代にとって果物はかなり高価な物となってしまっている。かと言って少しでも食べてもらえればと思っている。私の周りでは嫌いではないけど、家にあれば食べるという認識。
理想をいえば少ない人数や土地でコンパクトな農業を実現し、高品質の物をつくり、それを安定的に購入できる社会基盤が整ってくれれば良いのだがそう簡単に行かない。
かと言って、全員が嗜好が均一であるわけでないので、酸っぱい果物が好きという人も大勢いるに加え、昔より製菓など加工が盛んになってきたので酸っぱい品種や昔の品種など需要が多様化して来ているとも思う。消費者の情報が入りやすくなって来た今、いかに細かい消費者のニーズに答えらるかも重要である。


日本の嗜好は海外でウケるのか?

また輸出の話になったが、今でこそ品質で勝負できているが、年々近隣の中国や韓国の品質もかなり上がってきており、何度も驚かされた。もう品質では太刀打ち出来ない時代が遠くない未来に迫っている。また両二国は世界にかなりコミュニティが形成されており、そのコミュニティがある国を中心に輸出に力を入れていて、正直なところ日本の競争力は弱い。

カナダ、バンクーバー在住の野菜ソムリエHiroさん(@hiro_vegetable)のTwitterより引用

しかし、他には無いものを作り続ければ活路は見いだせるわけで、新しい品種を作り続けることで対抗するしかない。日本の嗜好はウケるのか?という話では東アジアでもかなり共通しており、韓国や中国などでは日本の品種がかなり流通する。要は日本で受ければ東アジアを中心にウケるのである。

中国、吉林の果物市場にて。りんごの品種はフジである
中国、吉林のスーパーマーケットにて。新しい品種の「あきづき」が早くも出回っていた
中国、吉林の果物市場にて。濃い紫のぶどうは巨峰である。

ただヨーロッパ等では果物の文化が根本的に違うので、日本の品種は少ない。しかし、リンゴはかなり影響を与えていて「フジ」や「ムツ(クリスピン)」や「あかね」などがかなり栽培されている。「フジ」に関しては世界で1番栽培されているリンゴの品種である。最近アメリカで話題の「エバークリスプ」の親でもあり、「フジ」の影響は計り知れない。この事から日本の品種は国内の嗜好を形成するだけではなく、海外の嗜好にも影響かなり与えている。日本は品種が切り替わるのがどの作物でも早く、いちごなど10年単位で変動するものもある。海外だとヨーロッパでは「コックスオレンジ」などのような18~19世紀からある品種が未だに主流である。その点では日本の嗜好の急速な変化は、かなり特異的なもので世界に誇れるものである。ただこの嗜好の変化を可能とするのが品種改良である。日本は昔から海外から入ってきたものを日本人好みにする「ジャパナイズ」が得意なのである。日本独自の品種の作成に携わるのが私の夢のひとつでもある。後は品種流出などの点でも、国も積極的に支援金などを出して欲しい。


嗜好とは?

長くなってしまったが、嗜好というのはやはり小さい頃に食べ慣れたものに大きく左右される。私も甘い品種が好きだが、やはり酸味がないと物足りなくなってしまう。かと言って酸っぱい品種は苦手だ。程よく酸味があって甘みのある果物が好きだ。50代以上の方だと酸味がないと美味くないという方も多い。このようにある程度の嗜好の固定化は避けられない。同年代のさつまいも好きの友人も今人気のネットリ系より、昔ながらのホクホク系が好きだと言っていた。サツマイモもその位から嗜好が変化してきたように思える。別に今の品種を無理に好きならなければ時代に置いていかれるというわけでもないし、こればかりは個人の好みによる。ただ、地理的な要素や時代の変化を大きく受けるのは間違いない。




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はたんきょー
平成生まれの農学生。果物に関する投稿が殆ど。月一くらいの投稿で緩く書いていきます。