砂漠の獅子『第五話 獅子と雷獣1』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~

*砂漠の獅子第一話:『災難』マハト・オムニバス

 夜の静寂を吹き飛ばすように轟音がこだました。大量の砂埃が宙を舞い、トーマ達に降り注ぐ。
 爆発だ。トーマが振り返ったその先には、フーデリアがまるで散歩でもするかのように悠々と歩いていた。
「ちょっ……おま……フーデリア! 顔面にモロに砂がっ、目がっ……手が縛られてて擦れねぇ!!」
 ビクターが悶絶しているとフーデリアはふんと鼻を鳴らす。
「別にお前の目がどうなろうがわたしの知ったことじゃない。生きてさえいればね。顔に傷のひとつやふたつ付いてた方が、お前の国じゃ男前に映るだろうよ。こっちは久しぶりのお出かけなんだ。少しくらい、はしゃいだっていいだろう?」
 フーデリアが撫でるように手を払うともう一度派手に爆発が起こる。爆風によって砂が巻き上げられ、むせそうなほどに空を漂う。
「……ずいぶん派手な登場だな」
 トーマは立ち上がり彼女を睨みつける。
 全身から細かな放電がきらめいていた。吸収した稲妻のパワーがたっぷりと残っている証拠だ。
「目覚ましにはちょうど良かっただろう? 子供はもう寝ている時間だからね、坊や」
 再び爆音が響く。
 フーデリアは自らの力を誇示するように砂埃をまき散らし、笑みを浮かべながら煽る。
「ビクターは無事だな。別に人質にしたって良いんだぞぉ? たとえそうされたとしても、わたしが負ける要素はないからな」
「俺は戦士だ。そんな汚い真似はしない」
 トーマは挑発に乗ることなく身構えるとすぐさま仕掛けた。
 街中で見せた超高速の突進だ。常人では反応することすら難しい神速の一撃、それも今度は稲妻の力を加えて襲い掛かった。
 だが、フーデリアは神速すら躱す。
 身体の周りで小さな爆発を起こし、その爆風に乗って機動力を上げる。『爆速剣術』の応用だ。
「ふふん、見えてさえいれば坊やの攻撃を見切るのは容易い。たとえフル充電でもな!」
「まだだ、俺の牙はこんなもんじゃない!」
 勝ち誇るフーデリアにもトーマの闘争心は一向に衰えない。
 地面に深く爪を立て、四つん這いの姿勢で吠える。それはもう人間とは呼べない。まるで獣の狩りだ。
 刹那——トーマはフーデリアの視界から消えた。
 フーデリアは相手がどんなに策を弄しようとそれに対応できるだけの技と自信があった。
 しかし、これだけ注意を払ったにも関わらず敵を見失ってしまう。先ほどより明らかに速い。
「来る——ッ!」
 眼ではない何かが異変を感じ取った——殺気だ。にも関わらず、反応が一瞬遅れる。
 ガキン——! 鉄を叩く音が闇夜を駆ける。
 守るだけで精一杯だった。トーマの拳は寸でのところで剣の腹に阻まれる。
 もし身体まで届いていれば、電流を一気に流し込まれて黒焦げになっていただろう。フーデリアの背中に冷やりとした汗がにじむ。
「食らえぇぇぇ!!!」
 さらにトーマの拳が光り始めた。剣に阻まれていようが強引に電撃を流し込むつもりだ。
「くっ——!」
 危険を察知したフーデリアは咄嗟にトーマとの間で爆発を起こす。
 至近距離における緊急時の脱出法だ。双方は吹き飛び砂上に着地する。二人の距離は開き、間合いの外で視線をぶつけ合った。
 受け、守り、距離を取る——ここまでの一連の動きはフーデリアにできる最善手だ。
 しかし、それでも全ての電撃を避けることはできなかった。火傷のような痛みに腕をかざすと電撃を流された腕がバチバチと光る。
 トーマとの戦闘はこれで三度目。電撃を受けたのはこれが初めてのことだ。
「この威力……さすが、雷を直に吸収しただけのことはある」
 フーデリアは思わず称賛の言葉をこぼす。
 それと同時に、この力を人間が扱いきれるとは到底思えなかった。トーマの力は、ある種の狂気さえ感じさせるものだった。
「始めたのはお前らだ。だから俺が終わらせる。殴った奴らに終わらせる権利はない。俺が終わりと言うまで、何度でも、何度だって続けてやる!」
 トーマが血走った目でにらみを利かせ、狂ったように吠える。
 彼はより獣に、より人ならざる者に近づいている。得体の知れない、狂暴な何かへと着実に近づいていた。
「何を言っているのかわからないが。ふふふ……まあいい」
 フーデリアは呼吸を整えると意識を集中させる。
 空気が変わった。さっきまでの荒々しい空気とは裏腹に、あたりには凛とした緊張感が張り詰める。
 しばらくすると身体の周りで「ボッボッ」と小さな爆発が繰り返され始めた。
 これは車でいうところのアイドリングだ。この小さな爆発は全身どこでも、いつでも爆発させられることを意味する。
 この状態のフーデリアは、肘や関節といった特定の部位付近を爆発させることで踏み込みや回避の質、運動性全般を強引に引き上げることができる。
 つまり『爆速剣術』を全身で発動している状態なのだ。
「さあ、それじゃあ楽しもうじゃないか。切った張ったのどつき合い、滾る劣情を剣に込め、お互いを想い合う二人だけの世界を」
 ここで負ければウアタハの王子は死に、ペルセケイレスは報復で侵略されるだろう。
 相手は雷の力を得た強敵。自然を相手に戦っていると言っても過言ではない。いかにフーデリアが達人であろうとも、大自然と戦って果たして勝てるのだろうか。
 だが、そんな状況とは裏腹にフーデリアの胸はどうしようもなく高鳴っていた。
 久々の好敵手。勝てるかどうかもわからない相手に死神の影がちらつく。けれどそんな相手だからこそ、戦は、闘争は楽しい。
 強大な敵を前にして、フーデリアの表情はご馳走を前にする少年のように爛々と輝いていた。

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