虚数とパンジー

【小説】虚数とパンジ―【4】

西暦二〇二八年、アメリカ航空宇宙局通称NASAは、惑星探索機ボイジャー一号及び二号の観測装置の稼働を完全停止した。
 ボイジャー一号が太陽圏を脱出したのは二〇一二年の八月のことである。最後の観測において、ボイジャー一号は長い間仮想天体として知られていたオールトの雲の手がかりを人類に遺した。以降、人類はボイジャーの貴重なデータを元に、宇宙理論を更に展開していった。
 それから五世紀を経る頃、別の探索

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【小説】虚数とパンジー【3】

三、未知の飛行

 ――違うんだ。僕は人間。そして名前は廿日カヲルだ。君はイオナイト。そして新しい君だけの名前を得るんだ。シヲン。発音は僕と弟の名前とお揃いにしてあげよう。地球に咲く美しい多年草の花だ……。

 人間《Human》。
 鉱床は、自分が何者なのかを知らなかった。人間――その言葉は、彼の意識が生まれた瞬間、初めて聞いた言葉だった。鉱床は、目の前にいる奇妙な物体は、自分と同じ生き物なのだ

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【小説】虚数とパンジー【2】

Ep.2 知恵の死

 その後データベースを隈無く検索したが、やはり件の鉱床の主たる構成元素は判明しなかった。広大なる宇宙の片隅に、地球人の未だ知らぬ物質があり、未知があるのだ。カヲルはこの鉱床に名をつけた。イオナイト《I.on-ite》、である。
 これは、彼自身のシニック《皮肉》が多分に含まれた命名でもあった。虚数―存在しないが便宜的に定められた数学上の数字――を示すNo. i《ナンバー・アイ

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【小説】虚数とパンジー【1】

Ep.1 はじまりのアダム

 遠い遠い未来の話。
 コオオォ、コオオォ、と音が聞こえている。その闇の中には空気は無いのに、風の音が聞こえるなと誰かは思っていた。そう思いながら、無重力の空間の中を漂っていた。彼ははぐれ宇宙飛行士である。彼の乗っていた宇宙船は、地球の人類の住まうべき新天地を探し求め航行したが、隕石と衝突し大破した。彼の他にも宇宙飛行士はいたが、一部は無事に脱出用の小船に乗り、数人が

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