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その3:究極のラーメンAWARD 後編・紙媒体としての使命

「不便だからこそ、優位性がある」

随分と仰々しいタイトルをつけたなぁ、と自分でも感じてしまうほどですが、「美味しいラーメン店を探したい」「もっと自分に合うラーメン店に出会いたい」とお考えの方にきっとお役立て頂ける内容とするつもりですので、ぜひ最後までご覧ください。

前回投稿「その2:究極のラーメンAWARD 前編・選考システムについて」で、ぴあ株式会社「究極のラーメン東海版2022」における「究極のラーメンAWARD」の仕組みについて述べました。

私がAWARD選考委員として初めて起用頂いたのが、2014年9月に発売された「究極のラーメン東海版2015」の巻頭特集であった「第3回 究極のラーメンAWARD」でした。

紙とデジタルの狭間にいた2010年代

ラーメン関係で雑誌に載るのは、2011年10月発売のKADOKAWA「ラーメンWalker東海2012」以来、3年ぶりでした。この頃には既にtwitterの使用を始めていましたが、まだまだ発信の主戦場はブログでした。一方、2014年もブログを使っていましたがSNSとの併用を始めており、新たなプラットフォームの利便性を身をもって感じていました。この点については、当記事をご覧の皆さまも同じではないでしょうか。

そんな中のオファーでしたから、嬉しかった反面「この時代に紙媒体に登場して、何かメリットはあるのだろうか?」という疑問も感じていました。ただ、疑問といっても直ちに払拭する必要もなかったことと、当時発足したばかりの「東海三県 自家製麺活性化プロジェクト」も取材してもらえるということで、その疑問を表に出すこともなくAWARDの投票・寄稿をしました。

20年以上マイナス、廃刊・休刊が続出する雑誌業界

私自身もウェブライターを3年ほど本業にしていましたし、友人が出版社に勤めていた時期もあったので、近年の出版不況はほぼ自然現象の如く、ぼんやりと認識していました。

当記事を綴るにあたって改めて調べてみると、公益社団法人 全国出版協会の統計によれば、国内の雑誌販売額は1997年の1兆5000億円超をピークに、昨年まで23年連続マイナスだそうです。AWARD選考委員初参画の2014年は8000億円、最新データの2020年には5500億円まで落ち込んでいます。

オールジャンルの出版不況についてこの場で語るつもりはありませんが、ラーメンを食べる/ラーメン店を探すという行動のためでいえば、かつてはお店のウェブサイト・ブログ・口コミサイトを検索する、現代ではSNSをはじめとするスマホアプリで探すといった手法が当たり前になっています。もちろん私もこれらを日常的に利用しています。

調べる行為は「ノイズ」こそが面白い

だったら「何で紙媒体の選考委員なんて8年も続けてやってるの?」と思う方も多いでしょう。確かに私も「出版不況からのV字回復」はあり得ないことだと認識しています。

ただ一方で、私自身が地元以外の全国のラーメン雑誌(年1回出版されるムック本やタウン誌のラーメン特集など)を含むラーメン関連の書籍を、ほぼ全て買うことにしています。書籍はさておき、雑誌は概ねどのエリアでも新店特集や有名店の記事が多く、これだけなら口コミサイトのランキングやSNSで話題の店を追えば済む内容です。

しかし雑誌には、オンライン上では評価が高くなく話題にもなっていないのに掲載され続けている店や、特定のエリアの2誌を購入してA誌に掲載されていないのにB誌には掲載されている店があり、私はそんな店を知りたいからです。

こうした発見を私は「ノイズ」だと捉えています。この単語自体の聞こえは決して良いものではありませんが、図書館情報学用語辞典では、

情報検索システムにおいて,ある情報要求あるいは検索質問に応じて検索を行ったとき,不適合情報であるにもかかわらず検索された情報。

と定義されています。紙の国語辞典や英和辞典で特定の単語を調べる時、その単語の前後に掲載された面白い単語があったら、そっちもついでに記憶に入ってしまう、そんな経験が誰しもあるのではないでしょうか。

オンラインで調べた情報はブックマークかスクショしたら、以降はいちいち調べずそこにダイレクトにアクセス可能です。しかし紙媒体なら特定の店舗情報にアクセスする際、必ず同じページの他の情報もある程度は目に飛び込んできます。しかも毎回。

あくまで私個人の話ですが、AWARDのページについては先述した「ノイズ」としての機能が一番重要だと考えています。自分の好きな店や近所の店が掲載されたページを見た時、他の知らない店もランクインしている、それならばいつか行ってみようか。そんな発見ができるのは、紙媒体だからこそなんです。

アーカイブすべきラーメンクロニクル

この章が最も重要なんですが、オンラインはどうしてもアーカイブとしての機能が脆弱であると考えています。SNSのタイムラインは日々刻々と新しい情報が古い情報を追い越しますし、ウェブサイトは更新担当者を割り当てるマンパワーがないと情報がすぐに陳腐化します。

それと比べて毎年発刊される紙媒体は2度と更新されることはないですし、何よりその年の事象として以降いつでも見直せます。一度印刷すると修正できないという不便さがある一方で、確固たるアーカイブとして残ります。

また、毎年継続発刊されているからこそ、年代順に並べればラーメンシーンのクロニクルとしても成立します。特に今年の誌面32~33ページでは過去9年間の受賞店を一挙掲載しており、ひとつの東海ラーメンクロニクルとして様々な方にお役立て頂けるはずです。

ラーメンを好きになるタイミングは人それぞれ、だからこそ今を映すSNSだけでなく、アーカイブとして、そしてクロニクルとして我々選考委員の体験を残す必要がある。今すぐ役立つのではない、いつか役立つものとしての使命、それが紙媒体にあると考えます。私は今回で選考委員を引退しましたが、以降の同誌にも「利便性に劣るからこその優位性」を持った誌面作りをいち読者として期待しています。

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