出口の目線・29

父の火葬が終了するまで数十分の間、再び別の控え室に案内された。お菓子や飲み物が用意されていた。

それぞれがそれぞれの場所で歓談をしている、大笑いしなくてはならない以外の話題が、あちらこちらで展開されていた。

喜ばしい席なら私も適度に動き、挨拶をしてまわるが、疲れだけではないような理由で、大勢が居る場所に飛び込んで会話をするのが本当に恐くなっていた。

親戚で問題が有るような関係も無いのに、なぜかこの空間を恐れている自分がいるのだ。とにかく人の【気】が心に痛い。

これからここで全てが終わった後、レストランに移動して会食が有るが、こんな状況で私は数時間 耐えられるであろうか。

葬儀社担当の方が来て、火葬が終了したので火葬炉に移動して下さいと告げてきた。やっとこの狭い空間から、ひとまずは逃れられる。

先程の火葬炉から少し離れた場所、収骨の場で品の良い声をした係員が骨の説明をして下さいながら、私たち家族から骨壺にお骨拾いをしていく。

箸渡しで父の骨を骨壺に入れていく状況をボンヤリと眺めながら 子どもの頃、箸の使い方…箸どうしで物のやり取りをしてはいけないって父にも叱られたな…そんな父が今、骨になって私が箸で拾っている。

係員の、ひとつひとつの骨が何処のものかを丁寧に説明してくださる声が本当に心地好く、きっとこの場所だから癒される声の良い職員が選ばれてるんだろうなと思っていたら、最後に

『こちらが喉仏です…しっかりとされていますね…』

より優しいあたたかな声でゆっくりと誉めて下さり、頭の骨を乗せて蓋が閉められた。

この場面ではお決まりのセリフだろう…皆に言ってるんだろうと思いつつ、やはり誉められると言うのはどんなことでも嬉しい。

父はドラマなどでみられるような、白い四角い形となり 両手で抱えられるまでの姿になった。

【【続く】】

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