須藤 智美(すとう さとみ)さん@本郷【Ricos Days】2017年1月31日 ヘッドスパ特別編
あなたはストレスを抱えている。
日々のコミュニケーションを避けられない直属の上司と、そりが合わないのだ。
全く未知の情報についてやむをえず質問するのに、いつも「そんなこともわからないの?」という顔をされ、傷つく。
一度や二度ならば構わない。だが、その反応はほぼ毎回なされ、しかも数を追うごとに程度がひどくなる。大げさな呆れ顔をされる。その芝居がわざとらしいほど、侮蔑されたという気持ちが強まる。最近の上司はもはや、あなたを蔑むことを楽しんですらいると感じる。
あなたは上司のいない時を見計らって、他の先輩に相談する。だが、誰にでもそうだから気にしないで、と軽くあしらわれる。いちいち突っかかったら負けよ、みんな経験してきたのだから、と。ある先輩は、それはあなたが先に食ってかかるからじゃないの? と逆に冷や水を浴びせてきて、あなたは驚く。これ以上、同じ職場の人に相談するのは危険だと感じる。もしかしたら、上司に告げ口をされるかもしれない。この人は私の敵かもしれない。
あなたはストレスを抱え、そのストレスを誰にも相談できないという別のストレスをも抱える。あなたは日に日に疲弊する。
深夜、疲れ果てて入ったベッドの中で、友人のSNSをぼんやりと眺める。あなたは、オフを存分に楽しんでいる友人の、満面の笑みの写真を見つける。「毎日がんばっている自分へのご褒美!」というキャプションを見て、友人のことは好きだが、こういうコメントを書くのはどうかなと思う。せめて(笑)をつけたら、まだマイルドになるのに。そんなドライな反応をしてしまったことに、少し罪悪感を感じる。
そこで「毎日がんばっている自分へのご褒美!」という言葉について、少し真剣に考えてみる。この言葉に抵抗を感じるのは、あまりにも手垢のついたフレーズだからだと気づく。しかし、手垢のついたフレーズということは、それなりの普遍性を持つからなのではと思い直す。あなたはもう一度、キラキラと輝いた友人の笑顔を見つめる。本当にスッキリした表情で、目に曇りがない。肌に張りがある。同い年なのに、私とはまるで違うな、とあなたは思う。
次の休日、あなたは友人が写真を載せていたヘッドスパサロンを訪ねる。本郷三丁目駅の近くにあり、予約しなければ来店できない人気店らしい。
何の予備知識も準備もなく、あなたは【リコスデイズ】という名前のお店のドアを開ける。ネットで予約したので、店主の声も顔も知らないが、出てきた人は、目鼻立ちの整った綺麗な女性だった。もしかしたらハーフなのかもしれない。やはりこういうオーラがないと、こういう商売で成功できないんだろうなと、あなたは思う。
あなたは自己紹介され、目の前にいる人が、須藤(すとう)さんだと知る。話してみると、須藤さんは予想よりもこざっぱりとした、飾らない人だとわかる。妙に気取っていたり、かしこまりすぎたりせず、接客業としての丁寧さを保ったまま、どちらかと言えばフランクな接し方なので、あなたも肩の力を抜くことができる。美容院でもカフェでも、あなたはこういったお洒落なお店に行くと、客である自分もイケてないといけないのではないかというプレッシャーを感じるタイプだから、これはちょっと嬉しいと思う。
やがてヘッドスパが始まる。
シャンプーのいい香りが漂ってくる。ハーブが混じった嫌味のない香り。最近のあなたはストレスで、頭皮に爪を立ててガリガリと削るようにして洗髪していたので、この指の腹での優しい刺激にたちまち癒されるのを感じる。本当はこうやって頭を洗うのか、と少し反省する。
ヘッドシャワーで洗い流す強さも温度も心地よく、しかも頭の場所によって水圧が微妙に変えられていることも気づく。細かい配慮が行き届いているとあなたは感心する。
耳の穴から頭までタオルで丁寧に拭き取ってもらった後、これもまた主張の強すぎないほどよい香りのクリームをまんべんなく塗布され、ヘッドマッサージが始まる。
その途端、あなたは衝撃を受ける。
頭頂部、こめかみ、後頭部、どこもかしかも「気持ち良さ」しか感じることができない。痛みや快感は結局は脳に信号が送られて感じる、とあなたはどこかで得た知識を思い出すが、まるでその信号のコードの配線を直接いじられているような快楽。すべてのスイッチを「気持ちいい」に合わせ、しかもそのボリュームをMAXまで上げているような。あなたはもはや自分がリクライナーで仰向けになっているのではなく、脳でしかない、脳の快楽中枢そのものでしかないような奇妙な感覚に襲われる。
何も考えないで、ただ気持ちよさに身をゆだねることができる。
気持ち良さに身をゆだねることの気持ち良さという、快楽の無限ループ。
あなたは言葉の意味を失う。
言葉で考えられない状態。
それもまた、気持ちいい。
気がつくと、施術が終わっている。
須藤さんが笑顔で感想を聞いてくる。
呆然としたあなたの表情を見て、大丈夫ですか? と今度は少し不安そうな顔を向けているのに気づく。
あなたは、現実に帰ってきたのだと知る。
鏡に映った自分の顔を見て、そこに張りの戻った自分の肌に気づく。
気づいた後、あなたは鏡の中に満面の笑みを見つける。
先日の友人と同じ、キラキラと輝く笑顔だ。
あなたは、ストレスがなければ、それを解消する喜びもまたないのだと知る。
都会には、日々を消耗させるストレスもあるが、それを根こそぎ解消させる力もまたきちんと存在するのだと。それを知っただけでも、私の不安は大幅に軽減されたな、とあなたは思い、腹の底から力が湧いてくる。そもそも、須藤さんという、仕事の愚痴を気兼ねなく話せる心強い相談相手も見つけられたし。
【リコスデイズ】からの帰り道、あなたは友人に連絡を取る。
今度お礼に、美味しいケーキ買って遊びに行くね、と。
友人からすぐに返信が来る。
〔わーい、がんばった自分へのご褒美!〕
そればっかりじゃん、とあなたは胸の内でツッコむが、〔そうだね〕とサラッと受け流しておく。なぜなら、あのお店の、あの特別な時間と別世界へ飛び立つような圧倒的な体験は、確かに自分自身へのご褒美には違いないからだ。
http://ameblo.jp/ricosdays/
*リコスデイズの衝撃ヘッドスパ、ぜひ一度ご体感下さい。マジですごい。
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