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野田秀樹の発案で生まれた東京キャラバンin駒沢が中止になった。2015年に行われた駒沢での公演についての原稿を再録します。

 今日になって8月21日〜22日に予定されていた東京キャラバンの中止が発表された。東京都の感染拡大の劇的な急増、医療態勢の逼迫が近づくなか、賢明かつ冷静な対応だと思う。2015年の同地で行われた公演の批評を再録する。当然、この時点では、東京オリンピック2020が延期になり、現在のような状況になるとは、誰も予想していなかった。

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 昨夜(2015年10月)、「東京キャラバン」公開ワークショックを駒沢オリンピック公園特設会場で観てきた。2020年の東京オリンピックへ向けての企画で、「アート旅団」「文化サーカス」と呼べばいいのかとあるように、移動型の文化イベントのショーケースをご披露した。

 まだ、準備段階で、作品としてうんぬんするには気が早い。むしろこうしたイベントが日本の全国の都道府県を巡回したときのインパクトについて思った。

 会場は名和晃平による空間構成に加え、音楽、照明が効果的に使われ、この場にいる楽しみ、ざっくばらんにいえば「わくわくする感じ」が開演前から高まっていた。

 野田秀樹の監修・構成・演出。日比野克彦の監修補とクレジットされている。「旅立つ前夜 一九六四年の子ら」によって全体がサンドイッチされ、さらに祝祭のマレビト(客人)と題した民俗芸能の披露がある。単なるページェントと一線を画するのは、言葉を大切にしているところだろう。冒頭と祝祭の前には、松たか子と宮沢りえによる朗読があり、言葉とその連なりによる物語を、パフォーマンス集団の身体によって展開していく手法は、演出家野田秀樹がもっとも得意とするものだ。闇の中に浸透していく言葉、そして変容していく空間のダイナミズムは、このショーケースからも容易に読み取ることが出来た。

 全体を貫くテーマは「交わる」である。
 異質なもの、たとえばクラッシックの弦楽と津軽三味線の競演であったり、宮沢りえが演じる人魚とドラァグ・クイーンの交錯であったりするが、この夜もっとも感動的だったのは、前の場で踊り狂ったドラァグ・クイーンたちと次の場をになう松たか子が舞台上ですれ違うときに、さりげない挨拶がお互いの間に交わされた瞬間であった。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。