見出し画像

【劇評185】長澤まさみ、秋山菜津子、阿部サダヲが、反ミュージカルの迷宮に遊ぶ。

 松尾スズキの舞台に登場する人物は、強烈は強迫観念に取り憑かれている。
 『フリムンシスターズ』(作・演出松尾スズキ 音楽渡邊崇)は、ひりつくような痛みが散りばめられている。
 コンビニの二階にあるボロアパートで、王城ちひろ(長澤まさみ)は、ふとんにくるまっている。コンビニの店長(オクイシュージ)は、十五分の休憩時間にちひろとセックスしようとするが、EDのためにうまくいかない。
 島から東京に来て、このコンビニの奴隷となったちひろが、妹を轢く交通事故を万引きの常習犯の大女優砂山みつ子(秋山菜津子)が出合ってから、物語は急展開する。
 さらに砂山の付き人まがいな取り巻きヒデヨシ(阿部サダヲ)が、新宿二丁目の店で、店主の信長(皆川猿時)やヒロシ(篠原悠信)らと騒動に巻き込まれた過去も同時に描かれていく。

 一筋縄ではいかない人物たちは、冒頭に書いたようにさまざまな理由から強迫観念に取り憑かれている。
 物語の筋は、自由奔放というか荒唐無稽でもある。
 それにもかかわらず、登場人物たちに愛着を持たずにはいられない。ひとつには、長澤、秋山、阿部の三人の役者たちに、ミュージカル(見方によっては反ミュージカル)を演じて破綻がなく、それぞれが安定した技藝を誇っているからだろう。また、三人のすぐれた部分が相乗効果を起こしている。長澤を中心に、主役が三人揃っている。その魅力はどこにあるのか。

続きをみるには

残り 555字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。