マガジンのカバー画像

長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本程度更新します。お芝居に関心のあるかたに… もっと読む
すべての有料記事はこのマガジンに投稿します。演劇関係の記事を手軽に読みたい方に、定期購入をおすすめ… もっと詳しく
¥500 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

2021年7月の記事一覧

菊之助が大阪で『六歌仙容彩』を踊る。

 『六歌仙容彩』には、思い入れがある。  今はなき坂東三津五郎の取材を重ねていた頃、『京鹿子娘道成寺』とともに『六歌仙容彩』には、身をいれて話を聞いた。『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』(岩波現代文庫)には、そのときの聞書きが収められている。  三津五郎襲名のときは、この『六歌仙』のなかで、もっとも仁に合っていた『喜撰』を踊った。平成二十一年八月には、この『喜撰』を含む五本の踊りを、ひとりで踊った。 「天保の時代につくられた振りの原型を、そのまま残している変化舞踊ですから、本

有料
100

野田秀樹の発案で生まれた東京キャラバンin駒沢が中止になった。2015年に行われた駒沢での公演についての原稿を再録します。

 今日になって8月21日〜22日に予定されていた東京キャラバンの中止が発表された。東京都の感染拡大の劇的な急増、医療態勢の逼迫が近づくなか、賢明かつ冷静な対応だと思う。2015年の同地で行われた公演の批評を再録する。当然、この時点では、東京オリンピック2020が延期になり、現在のような状況になるとは、誰も予想していなかった。 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^  昨夜(2015年10月)、「東京キャラバン」公開ワークショックを駒沢オリンピック公

有料
100

野田秀樹が描いた幻のオリンピック。『エッグ』劇評14枚。

 劇作家・演出家・俳優の野田秀樹には、幻のオリンピックを描いた名作がある。2012年に東京芸術劇場で初演された「エッグ」である。  ここでいう東京オリンピックは、一九六四年に開催された東京五輪ではなく、一九四○年に東京市で開催される予定だった夏季オリンピックである。  欧米以外ではじめて開かれるオリンピックとなるはずだったが、日中戦争の影響で日本政府は、開催権を返上した。幻のオリンピックであった。  野田の奇想は、満州国へと飛び、その地での細菌兵器実験にまで、及んでいく。40

有料
300

時間との闘い。音羽屋関連の本を集めて。

 資料を揃えるために、時間も労力もお金も惜しんではいけないと思ってきた。回り道もしたし、無駄と思える投資もしたけれど、古書店、新刊書店をとわず、お世話になってきたと思う。  ただ私は、あまり収集癖はない。資料として読めればいいので、美本などを揃える趣味はもたなかった。今、進めている音羽屋の仕事のために、「菊五郎の色気」(文春新書)以来、久し振りに関連の本を手元に集めている。東日本大震災やその後の引っ越しが重なり、大切な本を手放してしまっていた。以前、手元にあった本を、再度、

有料
100

【劇評233】海老蔵の「北山櫻」。超特急なれど、実質あり。

 海老蔵の行方が気になっている。  團十郎襲名が、コロナウィルスの脅威によって延期になり、まだ予定も発表になっていない。歌舞伎座出演から遠ざかって、二年。海老蔵が第三部に用意したのは、『通し狂言雷神不動北山櫻』である。  筋書によれば、昭和四十二年一月、二代目松緑による復活では、五時間二十一分。平成八年一月、十二代目團十郎による通しでも、五時間一分。現行にもっとも近い平成二十一年一月の海老蔵による短縮版でも三時間四十二分だから、三部制を取っての公演には、大胆なカットが必要に

有料
300

【劇評232】歌舞伎座第二部、七月は白鸚の『身替座禅』の内省。菊之助の『鈴ヶ森』の気迫。

一年のうち、もう半分が過ぎたのか。  終息の気配が見えないコロナウィルスの脅威のなか、懸命の興行が続く。  歌舞伎座の七月大歌舞伎、第二部は、白鸚、芝翫の『身替座禅』に、菊之助、錦之助の『御存知鈴ヶ森』が並んだ。  まずは、『身替座禅』。白鸚の山蔭右京が初役とは驚いた。年表を見ると十七代目勘三郎を相手に、初代白鸚(八代目幸四郎)は、玉の井を昭和二十六年に立て続けに勤めている。  ともあれ、白鸚の年齢を考えると、初役に挑むだけの意欲は驚異的である。  奥方玉の井を勤める芝翫も

有料
200

『フェイクスピア』を演じた役者たち。白石加代子、橋爪功、野田秀樹、高橋一生、前田敦子らの演技について考える。九枚。

 声が空間に屹立している。  野田秀樹作・演出の『フェイクスピア』も、ようよう七月に入って、大阪での大千穐楽も射程に入ってきた。  すでにこのnoteに二度に渡って書いたが、劇の後半、航空機事故とヴォイスレコーダーが要にあるために、劇評を書くにもためらいがあった。戯曲も初期の野田作品を思わせる難解さだったので、その解読に紙幅を使っていた。  そのために、出演の俳優論に筆が及ばないきらいがあって残念に思っていた。七月一日に三度目の観劇を行ったので、俳優の演技にしぼって、覚え

有料
300