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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2021年6月の記事一覧

【劇評231】岡田利規『未練の幽霊と怪物 —「座波」「敦賀」—』は、舞と音と謡がねじれ、からみあう。瓦解する巨人としての日本。十二枚。

 「構想」という身体 複雑かつ堅牢であったはずのシステムが、崩壊していく。  岡田利規作・演出、内橋和久音楽監督の『未練の幽霊と怪物 —「座波」「敦賀」—』は、能楽の形式を借りて、死者を呼び出す。ここでは、死者とは必ずしも、人間を意味しない。 『座波』の後シテは、国立競技場の設計者に内定していたザハ・ハディドであるが、『敦賀』では、核燃料サイクル政策の亡霊とされている。岡田の独創は、過去に生きた人物が、怨念を持って舞台上に呼び出されるばかりではない。核燃料サイクル政策のよ

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【劇評230】博多座の菊之助二題。『与話情浮名横櫛』と『身替座禅』の出来やいかに。八枚。

 博多へと旅立つ 六月博多座大歌舞伎、緊急事態宣言下の博多を訪ねた。  飛行機を予約するときから、現在が「緊急事態」であると知れた。羽田、福岡は、幹線だと思うが、大半の便がのきなみ欠航となっている。そのため、登場した便は、空席などなく、満員御礼の三密状態で、航空会社が極限まで追い詰められているとわかった。  ホテルにつくと、カフエテリア以外のすべてのレストランが閉鎖されている。オールデイと名のつくカフェテリアも20時で閉まる。都市ホテルのロビーはがらんとしていて、十分な機

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【劇評229】井上ひさし作、小川絵梨子演出の『キネマの天地』は、スタアの神秘性を剥ぎ取る。六枚。

 スタアの神秘性を剥ぎ取る。  井上ひさしの『キネマの天地』は、小川絵梨子の演出によって、新たな視点が導かれている。  昭和十年、第二次世界大戦までまだ、間がある。自由の風は、当時、絶頂であった映画界を吹き抜けていた。  松竹キネマ蒲田撮影所の四人の女優、大御所から若手花形まで。娘役の田中小春(趣里)、野性味あふれる人気の滝沢菊枝(鈴木杏)、母親役で当たりを取る徳川駒子(那須佐代子)、トップスターの立花かず子(高橋惠子)は、超大作の映画『諏訪峠』の打ち合わせと聞き、集まっ

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【劇評228】野田秀樹作・演出の『フェイクスピア』の真実。完全版劇評、十四枚。

 お読みになる前に 野田秀樹作・演出の『フェイクスピア』は、そのタイトルから想像されるようなシェイクスピアの知的な書き替えにとどまらない。人間にとって、生と死は皮膜一枚隔てたところにある。このまぎれもない現実を、昭和に起きた歴史的な事件を通して描き出している。  当初、このNOTEには、具体的な細部を伏せたかたちで劇評を書いた。これから舞台に接する観客の興を奪わないためである。背景や結末を書くことに躊躇しない、長文の批評を書いてほしいという要望が聞こえてきた。  六月七日

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【劇評227】仁左衛門、玉三郎、エロティシズムの根源。『桜姫東文章』の秘法。

 四月の歌舞伎座を満席にした『桜姫東文章』(四世鶴屋南北作 郡司正勝補綴)の下の巻が、六月の第二部に出た。  上の巻は、前世の因縁と清玄と桜姫の墜落を描いた。下の巻は、ふたりの流転と、仁左衛門二役の釣鐘権助の荒廃ぶりに焦点が合う。  序幕は、岩淵庵室の間から。歌六の残月と吉弥の長浦は、上の巻にも増して、嫉妬と憎悪に貫かれている。美男美女と対になる醜悪な悪党ぶりで、場内を沸かせる。歌六、吉弥、仁左衛門、玉三郎の対比が、人間の諸相を現しているかのようだ。  孝太郎のお十は、

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【劇評226】イキウメの新作『外の道』は、あまたの視線によって歪む現実を映していた。

 私たちは、人々の視線にさらされている。  イキウメ一年半ぶりの新作『外の道』(作・演出 前川知大)は、衆人環視のもとで生きることになった私たちの現実を映している。  まるで幽界のようなしつらえのカフェからはじまる。下手からは、西日が深くさしこんでいる。九人の男女がそれぞれこの部屋に入り込んできて、椅子に座る。 かつて同級生だった宅配便運転手寺泊満(安井順平)と司法書士補助の山鳥芽衣(池谷のぶえ)は、生まれ育った町から遙かに離れたこの地で、二十数年ぶりに再会を果たす。

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