リターン食堂【小説】

過去は変えられない。未来は変えることができる。だから、人生は面白い。

だから、人生は怖くもある。

勇気付けられる言葉で「未来を向いて進もう」という言葉がある。時には過去の思い出を、もう一度見たいと思わない?

久しぶりに実家に帰って、おかんの味を食べたときのように過去を思い出してしまう。

そんなことありませんか?不思議な世界へお連れします。

ぜひ、ご賞味ください。

食堂って懐かしい感じがする。料理の匂いが心を安心させる。精神剤より効果的だ。

久しぶりに地元に戻ってきた。何年ぶりだろうか?高校を卒業してから都会の街に呑まれた俺を果たして快く迎えてくれるだろうか?

裏切ったみたいなものだ。田舎じみた街に希望が持たなかった。希望というか、絶望しか見えなかった。

飛行機が遅れたので到着時間が遅れて夜になった。腹が減ったので、引き込まれるように食堂に入った。

街で唯一有名な場所は、この食堂「リターン食堂」だ。

昔から変な店舗名だと思った。狙って付けた名前かは真相不明だ。

初めて行った時は、小学校の時だった。おかんに連れて来られて食べに来た。

貧しかった家庭で育った俺は、外食なんて殆ど出来なかった。

たまに連れて来られた街一番の有名店に来た時は嬉しかった。

初めて食べられる幸せを感じた。

あれから20年くらい経った。おかんも亡くなってしまった。地元といえども街はどんどん変わっていく。でも、この食堂は昔からこのままだ。

店長も昔から変わっていない。もしかして、サイボークかもしれない。

そんなことを考えていた。

店内からラジオの音が流れる。オシャレを演出しているらしい。

頼んでいた定食が出来上がったらしい。割烹着を来たおばちゃんがおぼんから机に定食を差し出した。

久しぶりに食べる定食だ。都会では自炊ばかりしていた。昔の貧乏根性は、良くも悪くも忘れていないようだ。

涙が出てきた。まだ食べていないのに昔を思い出してしまった。

お冷に涙が溢れる「ポツポツ」と音がした。
周りからは変な目で見られている。そんなのどうでも良かった。

定食を野獣みたいに食べまくった。美味しい気持ちでいっぱいだ。

戻りたい。過去に戻りたい。この街にも。

目が覚めた。

とこだここは?布団から起き上がった。カーテンの隙間から光が漏れている。

朝だ。布団から起き上がった。大きいカレンダーに目をやる。

10年前のカレンダーだ。本当に何なんだ?ここはどこなんだ?教えてくれ。

誰もいない部屋で不安になった。その時、ドアの叩く音がした。

ドアが開いた。一人の女性が入ってきた。見たことのある女性だった。

「ちょっと老けた?」

と女性から聞いてきた。返す言葉が見当たらない。

誰だ?の気持ちでいっぱいだった。

「変な人。彼氏のクセに生意気!」

彼氏?君の彼氏?徐々に過去の記憶が戻ってきた。そうだ彼女の名前は「伊住 優」だ。

伊住 優は初めての彼女だ。初めて付き合った日は10年前。10年前?ふと思い出してカレンダーを見返した。

過去に戻っている?

漫画みたいな展開になっている。こんなことある?

「変な人」

愛想を付かされた。過去に戻った事実が心を撃ち抜いた。

そうだ、外に出よう。気分転換の意味も兼ねてよう。彼女に「ちょっと外出してくる」と言った。

10年前は東京で暮らしていた。そうか、ここは東京だ。東京といっても下町の方なので、特に変ったことはない。

街をフラフラ歩いている。まるで、ホームレスのように。すれ違う人に避けられるが、気にしていない。

見覚えのある公園の前に来た。ここで、昔の彼女に告白した。

昔といっても、彼女にとっては最近のことだろう。

懐かしい思い出が、記憶の中に浮き上がる。たまには過去に戻ってみるのもいいな。漫画の世界だけだと思っていた。

お腹が空いた。今日は何も食べていない。幸い財布を持っていたので、食堂に入った。ここの食堂は初めてだ。

名前は亀山食堂。いかにも食堂と言う名の店名だ。

なかなかオシャレな食堂だな。リターン食堂とは違い、近代的だ。

やっぱり水は上手いな。幸せを噛み締めながら未来に戻る方法を考えていた。

どうしたら未来に戻れるだろう。このまま、当時の彼女とやり直せるかな。

過去を知っている僕は彼女とやり直せることができるはずだ。

振られる前に、対策を考えておこう。

出てきた定食を食べていると、眠くなってきた。このまま目を閉じて死んでしまうのか?

ラジオの音が聴こえる。店内に入って来たときには聴こえていなかったのに。ラジオすら無かったはず。

聞き覚えのあるおばちゃんの声が聞こえる。

「もう閉店ですよ!」

目が覚めてしまった。周りを見渡すとリターン食堂に戻ってきたらしい。おばちゃんに追い返されるように店を出た。

夢だったのか?

現在に戻ってきた。安心が戻ってきた。財布をポケットに入れたときにポケットから一枚の紙が出てきた。

そこには10年前の日付と亀山食堂と書いている新しいレシートがあった。

その紙を店の前のゴミ箱にそっと捨てた。

深堀をしても過去は変えられない。変えられるのは未来だけだ。

今日は帰ろう。明日はきっと来る。生きてさえばきっと来る。

そのゴミ箱には、レシートが沢山捨てられていた。

〜作者からのメッセージ〜

ミステリアスな展開にしようと思った。未来に行く物語は沢山ある。でも、過去に行く物語をどう面白くするのかが問題だ。もっと面白いのが主人公の名前を出していないこと。

読みやすいように改行をして、小説を執筆しました。この小説を執筆しながらストーリーを考えました。

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植田晴人
自称エッセイスト。小説のアイデアが、突然浮かんでくる。書いた小説は15作以上。