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ソプラノ歌手が喉に悪いことをやめるのをやめた話

前回の記事から少し話は逸れますが、どうしても書いておきたかったので。

この記事は、個人的な見解となっております。
もし喉になんらかの不調がある方は、決して民間療法だけに頼らず、必ず信用できるお医者様の指示に従ってください。

さて、皆様もうご存知の通り

私はお酒が大好きだ


コーヒー紅茶、超ウルトラハイパー辛いもの、柑橘類、メロン、カルピス、強炭酸水、なんかも好きだ。

実はこれ全部、真偽はともかく喉に良くないと言われているものたち。

昔は烏龍茶も好きだったのに、今はなんか苦手だ。

なぜかというと、

呪われた


からだ。

おいおい急にスピリチュアルはじまった、と思われたかもしれないが、「◯◯は◯◯にとって良くない」という情報を鵜呑みにしてそれに引っ張られることを、「呪われる」と呼ばせてもらう。

声楽を始めた18歳くらいの頃、私は深刻な呪いにかかった。
早く歌が上手くなりたかった。早くフレーニみたいな声を出せるようになりたかった。
まだスマホもない時代、パカパカ携帯の小さい画面で喉に良くないものについて色々調べ尽くした。
するとインターネットの世界には自分の知らない情報が溢れていた。

・熱い飲み物、冷たい飲み物は控えよう
・烏龍茶は喉の油分を奪うので避けよう
とか、ちょっと検索かければこの手のネット記事は沢山出てくるので興味ある方はどうぞ。(ほんっと多い。ひどい記事は烏龍茶は声帯の油分を洗い流すとか書いてあって、キミ声帯で烏龍茶飲んでるの!?危ないよ!アクセス数稼げるのかな。過度に不安煽るのやめませんか、おかげでいまだにウーロンハイ苦手)

今だったら、「ふーんそうなんだ」

で終わる情報も、当時の私はネットを全部信じて、全部やった。
すると、何が起きるか
レッスン前に、烏龍茶を飲んだとする。すると

「どうしよう!烏龍茶飲んじゃった!喉の油(?)流れた!声出ないかも!」

という焦りが生まれる。
(私はクソ真面目な人間なのである)

また、ある演奏が上手くいかなかったら、
「あー、昨日蒙古タンメン中本のカップ麺食べたからだな」
とかいう思考回路が生まれる。

そう、これが呪いだ。
特に2つめに関しては最悪である。
演奏が上手くいかないのはカップ麺のせいではない。

父親の実家が和歌山で、家にみかんが沢山送られてくるのに、みかんを食べる度になんとなく罪悪感が生まれる呪いも地味に辛い。
(てか、柑橘系が喉に悪いってほんと?むしろビタミン取れていいんじゃないの?よっぽど喉に染みるとかでなければ)

超余談だが、某歌の先生に「紫色は不吉だ」と言われたのを真に受けて、紫色を完全に排除して生活しなければならない呪いにかかっていたこともある

ただ、呪いではなく

おまじない

に関しては大賛成だ。

本番前日は必ず肉を食べる人、前日は頭を洗わない人、歌う直前にコーラを飲む人、直前にメロンパンを食べる人、歌うギリギリまでガムを噛む人、マヌカハニー舐める人、立ちや歌詞を反復し続ける人(これはちょっと違うか)、特別なことは何もしない人ももちろんいる

これをおまじないと呼ばせていただく。
歌手たちはそれぞれ自分に合った自分の身体と心の機嫌の取り方を知っていて、面白いなぁと思っている。

ちなみに私は「歌う2〜3時間前は固形物を食べない」だ。これも人によっては呪いになってしまうが、やっと見つけた私に最善のおまじないだ。

さて、私はソプラノとして生きていると、
「お酒なんて飲んで大丈夫なの」とか、
「そんなに痩せてて声出るの」とか、
もう本当にマジで何回も言われる。
※私は決して痩せていない、日本人平均身長平均体重のごく普通体型

まず、そんなに痩せてて大丈夫なの?に関しては

知らん


(もちろん、身体について色々調べたし実践もした。これについては掘り下げても不毛なので割愛ささせていただく。)

確かに、たいていの喉の不調はお肉を食べてよく寝たら治る。体が楽器だから、しっかり栄養はとった方がいいと。

しかし、Metで超活躍中のとあるソプラノ歌手がヴィーガンを公表しているのを最近知り、私はめちゃくちゃ驚いた。なぜかというと、オペラ歌手にとってヴィーガンなんて絶対縁がないと勝手に決めつけていたからだ。

ヴィーガニズムとは人間が動物を搾取することなく生きるべきであるという主義(Wikipedia より)

つまり、肉どころか牛乳も卵もバターも摂取しない。(皮のお財布も使わない)
そうすると、必然的に普通の食生活の人よりも肥満リスクは少ないだろう。
それどころか、1日に必要な栄養を満たすの大変そうだなと思ってしまう。

でも彼女はめちゃくちゃ素晴らしい歌手で、人気者だ。(元々大柄で、努力して痩せた経緯があったみたいだけど)
だから痩せててもいいんだ!とか、歌と体型は関係ないんだ!とかじゃなくて、

マジで人それぞれ


という話。

そして問題の、

お酒は喉に悪いのか


についてだが、結論から言うと、

良くはない。

誠に残念だ。
皆様に呪いをかけるつもりはないので最後まで読んでいただきたい。

では何故良くないのか。
日本には「酒焼け」という言葉まである。
実は酒焼けという病気はない。
深酒したカラオケオールの次の日に声が枯れているのは、「急性もしくは慢性の声帯炎か結節」だ。
そして、いわゆる酒焼け程度の声枯れは健康な人ならしっかり寝て黙っていればほとんどの場合治る。

よく誤解されているのが、「強い酒を飲むと喉が焼ける」ということだ。
強い酒を飲んだら喉が焼けるように熱くなるだけで、喉は焼けない。

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Vocal chordが声帯、Esophagusが食道。白くモヤモヤっと塗られているのが気道。

このように、声帯と食道は別の道に分かれている。つまり、声帯自体にお酒がぶっかかることはない。

ではなぜ、お酒は声に影響を及ぼすのか。
まず、そもそもお酒の飲み過ぎは身体全体の健康を害すリスクがあるからだ。

そして、お酒が直接喉に悪い1番の理由は、

乾燥

ではないかと私は思っている。

アルコールが多く含まれる拭き取り用化粧水やメイク落としなどを使用して、肌が乾燥した経験はないだろうか。
それは、アルコールの持つ揮発性で皮膚の水分も伴って蒸発してしまうからだ。
声帯と食道は全く別の道とはいえ、ご近所さんだ。
声帯に直接お酒がぶっかかっていなくても、声帯の周りの粘膜は乾燥もしくは炎症している可能性がある。
というかそもそもアルコールの持つ利尿作用で体全体の水分が出て行ってしまっている。

乾燥した状態で、騒がしい居酒屋さんで喉を酷使した日には多少なりダメージをくらうはずだ。



で、私はまさか「お酒は喉に悪いのでやめましょう!」と言いたいわけではない。

本題に戻ると、

「喉に悪いことをやめるのをやめた」


のだから。
私はお酒も飲むし(今はやめてるけど)、これまた利尿作用はんぱないコーヒーも飲むし、悪者にされて可哀想なみかんも食べるし、蒙古タンメン中本も食べる。あー食べたい。

だって、基本的に全然問題ないのだから。
喉への刺激が気になるなら、歌った後に中本を食べればいいだけの話。食べた後にお風呂入ってしっかり寝て次の日もリセットされてないなら、それはまたちょっと違う話なような。

私が皆様にどうしてもお伝えしたかったことは、

よそはよそ、うちはうち


ということだ。

なんだそれと思われるかもしれないが、本当にこれに尽きる。
当たり前のことなのに、この素晴らしい言葉を、人は忘れてしまう。

よく「あの有名な歌手がスモーカーだ」とかなんとか言われるが、よそはよそうちはうち。
正直タバコについては知識が浅いのでわからないが、お酒を飲むことに関しては、

歌に関係ない


と断言できる。
散々喉に悪いと言ってきてなぜなぜそう言えるか。

これはあくまでも私の場合だが、静かな環境でワイン1本あけたくらいならちょっと酔いそうかな〜くらいで声帯の乾燥を感じない。飲んだ後帰って練習しない。してたこともあるけど、私には良くなかった。

何よりも、今時本番直前に楽屋でお酒をひっかける人はいないのではないか。
中には逆に1杯ひっかけるのがおまじないの人もいるのかもしれない。
でもよそはよそ、うちはうち

そしてとにかく大切なのは、
どうしても色々気にしてしまう時、

「お酒を飲んだら歌に影響が出るおそれがあるから控える」

と自分を呪うのではなく

「お酒を控えた方が演奏が上手くいく」

というおまじないに変えるべきということだ

もう本当にこれ!ほんこれ!

(これが言いたいだけだったのに、こんなに長々と書く必要あったのか)

自分を大切に出来る人は、すばらしい。

ちょっと疲れてるなとか、明日のレッスン不安だなとか、今度の本番緊張するな〜って時は、自分に念入りにおまじないをかける。

おまじないのおかげで自信も付くし、そしたら調子もいいし、本当に良いことしかない。

他人の見解で自分を呪ったらもったいない!
1度きりの人生なんだから、自分をよく理解して、自分とうまく付き合って、やりたいことやって楽しもうよ。

もちろん、心も体も健康に!


お付き合いいただき、ありがとうございました。


ぴーえす
私自分のことお酒強いって言いましたが、お酒強い界では中の下です。
私よりお酒強い人、アルコールの代謝めっちゃ早い人沢山知ってます。

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