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版画展開催記念SS第二弾「半熟作家の宣言~この結婚式が終わったらオレ、初恋の人に告白するんだ」

 ※『雀宮快斗の追想~あの、光満ちる場所。』と合わせておめしあがりください。

 明日、遠子【とおこ】さんは結婚する――。

「素晴らしい仕上がりだよ雀宮【すずめのみや】くん、これで明日の披露宴での我ら白組男子チームの勝利は決まったようなものだね。遠子ちゃんと井上くんのめでたい席に大輪の白い華を添えようじゃないか」

 遠子さんの上司で、オレも世話になっている薫風社【くんぷうしゃ】編集長の佐々木さんの熱い語りを、うつろな目で聞いている今、現在。
 イケメン高校生ベストセラー作家であるオレ、雀宮快斗【すずめのみや かいと】の気分は最悪だった。
 大安吉日の明日、日曜日。
 オレの担当編集者の天野遠子【あまの とおこ】さんが、井上なんちゃらという野郎と式を挙げる。その披露宴にオレも招待されており、余興でオペラだかミュージカルだかをすることになってしまったのだ。
 遠子さんの亡くなった父親の友人で、赤ちゃん時代から遠子さんを知る佐々木さんが妙に盛り上がり、

 ――遠子ちゃんの担当作家と編集部一同でオペラを披露しよう! 私と妻は若い頃、歌声喫茶の常連だったんだ!

 などと言い出し、やはり王道は『フィガロの結婚』だ、いや『ジャンニ・スキッキ』も捨てがたいと真剣に演目を選定しはじめ、歌声喫茶で知り合いゴールインしたという奥さんが『椿姫』の『乾杯の歌』がいいわ『ワルキューレ』も素敵、と言うのを『椿姫』もワーグナーも悲劇だ! ともめたあげく、男女紅白に別れてそれぞれ歌を披露しあうことになったという……。
 
 もはや単に人前で喉自慢したいだけなのではと突っ込みたいが、遠子さんの相手とも面識があるらしい佐々木さんは、稽古中もたびたび、

 ――あの小さかった遠子ちゃんと、あの初々しかった井上くんが結婚だなんて。二人は高校時代から好き合っていて、様々な困難を乗り越えて結ばれたのだよ。

 ――遠子ちゃんが井上くんを見つけたのは、きっと運命だったんだねぇ。小説の神様が二人を引き合わせたんだ。いや、亡くなった天野と結衣さんかもしれん。

 と声をうるませ涙ぐむので、実の父親のように遠子さんの幸せを願っていて、井上なんちゃらとの結婚を全力で祝福したいと願っているのに間違いはないのだろうけれど。
 ちなみに白組男子の演目は『フィガロの結婚』と『雨に唄えば』と『リトル・マーメイド』のごっちゃまぜで、オレは『リトル・マーメード』の『キス・ザ・ガール』の合唱に参加させられる。

 さぁ、キスして! 彼女も待ってるよ! キスして、キス!

 とせかすあの歌だ。
 ああ、くそぉっ! これ絶対、井上なんちゃらが遠子さんにキスして盛り上がる流れだよな~。
 くそっ!
 くそっ!

 数ヶ月前までオレは遠子さんに恋していた。
 きっちり失恋し、気持ちにケリはついている。だからといって目の前でラブシーンを見せつけられて、はしゃげるわけがない。
 てか、マジムカつく!
 当日腹をくだしてぴーぴーになれ、井上なんちゃら! と思ってしまう。

 佐々木さんから『井上くん』がいかに好青年で、遠子ちゃんと好き合っているか、をさんざん聞かされたが、苗字が井上というだけで、オレのやつに対する好感度は最悪最低だ。よりによってあのめそめそした恋愛小説を書いている、大っっっっ嫌いな井上ミウと同じだなんて! 
 
 べ、別に井上ミウがオレより売れっ子で評価も高いからじゃないぞ!

 そう、井上ミウなんて天才作家のこのオレがすぐに抜いてやる。
 ああ、けど、遠子さんは結婚したら『井上遠子』になってしまうんだよなぁ。

『井上遠子』

 ぐおおおおおお! 悪夢だ。

 もっとも遠子さんの相手の井上なんちゃらは、累計部数千万越えのベストセラー作家ではなく会社勤めの一般人だろうけど。
 いや、遠子さんや佐々木さんの話から推察すると、平日も家にいるようだし、自営業? もしくはフリーター?
 まさか無職のヒモじゃないだろうな!

 前に遠子さんと手をつないで歩いているのを見たことがある。
 線の細い文学青年風の優男で、遠子さんはめちゃくちゃおだやかな幸せそうな顔で、そいつを見上げていた。

 あのときは、お似合いかな、なんて思ったりしたけれど、あの手の顔は人あたりは良いけれど、優柔不断で生活力も乏しそうだ。
 どちらにしても、年収一億円超え作家でモデルもしているオレより男の甲斐性は劣るはずで――くぅぅっ、やっぱりめちゃくちゃ悔しいぞ~!

 とはいえ、オレも破れた恋にとらわれているばかりではなく、ちゃんと次の恋をしていた。
 いや、より古い恋に回帰したというべきか、子供のころ好きだった初恋の人に再会したのだ。

 日坂菜乃【ひのさか なの】さんは、町の小さな図書館で司書をしている。おひさまみたいに朗らかであたたかくて可愛い、オレの恩人で最初の“文学少女”だ。
 日坂さんに似ている遠子さんに恋をして、失恋してすぐまた日坂さんに再会して恋に落ちるだなんて、佐々木さんじゃないけれど絶対運命だろう、これ。
 
 そんなんで、余興の稽古が終わったあと、日坂さんが働く図書館へ行ってみた。
「あれ? 快斗くん。なんだか元気がないね。どうかした?」
 ぎくっ。
 顔に出ているのか?
 いや、日坂さんは昔から、ガキのオレが落ち込んでいるとすぐに気づいて声をかけてくれた。大雑把なわりにカンが鋭いというか、ちゃんとオレのこと見ていてくれてるんだなってホッとして――今もまた、あのときと同じように胸がじんわりぬくもって、この人には弱みを見せてもいいんだって安心できた。
 けど、大人のオレはあの頃よりも狡猾で恋の駆け引きだってやろうと思えばできるので、さりげなく――あくまでさりげなく声と表情に憂いをにじませてみる。

「日坂さんには隠せないな。実はオレが好きだった人、あしたが結婚式なんだ。それでさっきまで披露宴でやる合唱の練習してたんだ」

 ほら、女の人って弱っているイケメンにキュンとくるものだろう。前に日坂さん、泣いている男の子を見て恋しちゃったとか言ってたし。

「え、快斗くんも? わたしも明日、好きな人の結婚式なんだよ」

 なんと! 日坂さんも明日、片想いしていた相手の披露宴に出席するらしい。

「てか……日坂さん、い、今『好きな人』って……」

 この前聞いたときは、もう何年も前の話だと言っていたのに、ひょっとして今も好きなのか? 
 日坂さんは、えへへと笑い、

「じゃなくて、『好きだった人』だね。結婚式が近くなって昔のこと色々思い出してたからかな。気持ちがあのころに戻っちゃって」

「そそそそそれは……! 結婚式で略奪してやるぜ、とか」

「やだなー、快斗くん。そんな物騒なこと考えてないよ。ああ、あのころ、本当に夢中で恋してたな~! ってひたってただけ。あ、わたしも余興で合唱するんだよ。『椿姫』と『ワルキューレ』と『アイーダ』のごちゃまぜオペラで」

 ……どこかで聞いたような。流行ってんのか? 披露宴でオペラ?

「てか全部悲劇」
「それを、ぜ~んぶハッピーエンドにしちゃおうってコンセプトなんだよ。会場中に真っ赤な恋の花を咲かせちゃおうって」

 おひさまをさんさんと浴びた菜の花のように、日坂さんが朗らかに言う。オレが一番好きで、一番勇気づけられた顔と声で。

「日坂さんは?」」
「え?」
「その……もう恋、しねーの」

 吹っ切れているように見えるけど、やっぱりまだ好きなんじゃと心配になって尋ねると、日坂さんはまたあの晴れ晴れとした笑顔で、

「するよ」

 明快に断言した。

「だって初恋の先輩に恋していたとき、毎日すごく嬉しくて楽しくて、発見と変革の連続だったもの! あんなに素敵でわくわくすることしないなんて、もったいないよ」

 辛くて苦しいことだって同じくらいあっただろうに、日坂さんのこういうところがすげー好きで、何度も惚れてしまう。

 ああ、この人と一緒にいたいな。
 この人の言葉をいつまでも聞いていたいな。
 この人の笑顔をずっとずっと見ていたいなって。
 そうしたらオレは最強の男になれるんじゃないか。

「なら、どんなやつならいい? 日坂さんはどんなふうに告られたら恋に落ちる?」

 マジ顔で尋ねるオレを、日坂さんが驚きの表情で見つめ返してくる。

「オレが好きな人――あした結婚する人じゃなくて、今! めちゃくちゃ好きな人! その人、年上で図書館の司書で、昔すげー世話になった恩人で、最近再会したんだ」

 日坂さんがさらに目を見張る。

「それって、わたし……」

 そうだ日坂さんのことだ、と断じるより早く、

「わたしにかぶりまくりだねぇ!」

 とつなげてきたので、オレはコケそうになった。
 ここまで言ってわからないか! なんでこいうとこだけ大雑把で鈍いんだ!
 負けるものか。

「だろう。めちゃくちゃかぶってんだ! かぶりまくりだ! だから教えてよ。どんな告白されたら前よりすごい恋に落ちる? そいつを好きになる?」

 ぐいぐいと前のめりで問いつめるオレに、日坂さんはまた驚いているようだったが、うーんと考え込んだあと、ふわりと笑った。

「学校の木に登って、一番高い枝にリボンを結んで『日坂菜乃さんが大好きで~す!』って言ってくれたら、かなぁ……」

 木登り? リボン? なんだそりゃ。
 日坂さんはなにか思い出している様子で、まだうふふと笑っている。

「快斗くんの新しい恋も叶うといいね。頑張ってね」

 と激励されて複雑な心境になったが、木登りして日坂さんが恋してくれるなら、天まで登ってやろうじゃないか。
 そして、叫んでやる。
 日坂菜乃さんが大好きです、オレの“文学少女”はあなたですと。

 でも、この新しくて古い恋が成就する前に――。

 明日は少しメランコリックになって、もう一人の“文学少女”の恋の成就と新たなはじまりを祝おう。
 キス、キス、キスとはやしたて、井上なんちゃらのこともついでに祝福してやろう。

 それで結婚式が終わったら、オレ、初恋の人に告白するんだ!

※画像その他、ファミ通文庫さんのご許可をいただいております。ありがとうございます🙇‍♀️

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野村美月
野村美月
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コメント (2)
どうなるんだろう、この2人。2人の未来を考えると身悶えてしまいます。
この二人の関係、ほんわかしていて大好きです!
結婚式がどうなるか色々妄想して、にやにやしてしまいます……!
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