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2時間遅刻してくるイギリス人と定時で帰れない日本人

ロンドンにある今の会社で働き始めてから8ヶ月ほどが経った。せっかく国際色豊かなロンドンにいるのだから…との考えから多様性のある職場にいる。「色んな国出身の人と話をしたい」という夢も叶い、毎日楽しく仕事に向かっている。

多国籍な私のチームにはイギリス出身、イギリス育ちのギャルがいる。気が強いなぁと思うこともあるけど、優しくて礼儀正しいし、パーティ好きで派手だけど、誰にでもフレンドリーなところに好感が持てる。ギャルが死語かどうかはこの際どうでもいい。

そんな私の同僚の彼女は、1日も欠かさず普通に遅刻してくる。30分ほどの遅刻でおさまるときもあれば、先日は始業から2時間ほど彼女がどこにいるのか分からなかった。ちなみに「遅れる」と連絡が入るどころか、オフィスに到着しても詫びをいれることもない。何事もなかったように「グッモーニング」と出社してくる。私だったら、周りに対する申し訳なさから腰をかがめ低姿勢でオフィスに足を運ぶしかないのだが、彼女は違う。スタスタ歩く。つよい。つよいのだ。

業務はオフィスワークだが、私たちのチームは少し特殊なところがあって、早朝シフトが存在する。早朝シフトの人は7時から出勤なので、誰もいない静かなオフィスで、清掃員の人にときどき話しかけられながら、業務をこなす。

ここで勘のいい人は気づいたかもしれない。そう、遅刻してきたからといってオフィスに彼女がいないことは誰も見ていないのだ。だから大幅な遅刻もできてしまう。社員と会社の信頼があるからか、必要であればリモートワークができる社風からか、勤怠チェックやタイムシートというものは存在しない。そのため、上司にそれがバレることも、誰かに咎められることもない。悠々と自分時間で出社することができている彼女は「うまくやっている」のだ。

そもそも、5分や10分くらいの遅刻だったら社員のほぼ全員がしていると思う。この遅刻は、日本で育った私もしてしまう。ここにいるのが長くなるにつれて、数分の遅刻に対する悪気も薄れてきた。電車遅延が原因で遅刻するときも、遅延証明書は要らない。ここでは電車は遅延するのがデフォルトなので、そもそも証明書なんてものを地下鉄の運営会社からもらえるのかも不明だ。なかなか電車が動きそうにないときには、チームの誰かにチャットで連絡を入れる。長ったらしいメールは書かない。電話なんて誰にもかけたことない。

あるとき、ロンドンの大学を卒業した友人に聞いてみたところ、イギリス人は30分くらいの遅刻なら普通である、と言っていた。なんなら教授もそれくらい遅れてくる。そして何事もなかったかのように授業が始まる。現在は就職してロンドンで働いているその友人のオフィスでも、大体30分くらいみんな遅刻してくるらしい。ここまできたらもはや始業時間を設定している意味とは…と日本人の私は頭を抱える。

日本と違うところは、遅刻してきても誰も文句を言わないことだ。みんなで残業して頑張ろう!とか、同じ時間だけ働いていないのは不平等だ!とか言わない。なぜかと聞かれると『遅刻』がもはや文化の一つだからであったり、『それでも問題ないから』とみんなが理解しているからだろう。でも一番の理由は、自己と他者の区別がはっきりとしていることが要因なのでは、と私は思う。

私のチームでは、イギリス人の彼女の遅刻が原因で他の人の業務に影響することはない。彼女は、やるべきことはしっかりとやっているし、誰も頼んでないのに必要であれば、やり残したことのために残業している。(残業代はでない)ちなみにオフィスにはいないけど、家で少し働いてから出社するという方法もたまに使っている。やるべきことはやってくれているので、周りは何も言わないし、上司にもサボっていることがバレていない。うまくやっているのだ。(事実、彼女が上司から何を言われているかは知らないが、関係は良好そうだ。)

もちろん私のオフィスでは彼女みたいに遅刻してくる人もいれば、結果を出すために時間関係なく働いている人も中にはいる。時差がある海外オフィスとミーティングがある場合は、いつもより遅く出勤して働く時間を調整したり、早く帰宅して家からミーティングに参加する人もいる。

周りがこうしているから…と従うのではなくて、みんな会社勤めながらも自分に最適な方法を見つけて働いているのだと感じる。だから、キャリアアップにそれほど重心をおいている訳ではない人は無駄な残業などせず、やるべきことはやり、あとは遊びに出かける。言い訳になりそうなものは全部使って、最大限休憩する。自分が良いと感じていて、業務に支障が出ていないなら誰も文句は言わない。「他所はよそ、うちはうち」なのだ。

日本では、わたしが働くオフィスのような柔軟さはないと思うことはよくある。もちろんルールに沿って、定時で帰れる人もいると思うが『わたし、定時で帰ります。』というタイトルのドラマが2019年に放送されているくらいなので、正直あまり期待はできない。長時間労働が当たり前の業界や会社はまだまだたくさんあると思うし、長時間拘束される代わりにどれだけ社員の有給希望やフレックス制といった要望に会社が応えることができているのかは不明だ。

日本でもコロナウイルスが原因でテレワークが推奨される会社もちらほら出てきていると聞く。フレックス制やテレワークのアイディアは以前から出ていたはずだが、考え方が広まるだけでなく多くの人が体験できるいいきっかけになると思う。実行される回数が増えてからじゃないとそのメリットやデメリットに気付きにくい。

ところで、こんなに自由に仕事している私の同僚は、なぜ遅刻してもなおまだオフィスに足を運ぶのか、と思う人もいるかもしれない。それはまぁ、ルールだからと言ってしまえばそうなのかもしれないけど、彼女がちゃんとオフィスで働く事のメリットを知っているからだと私は思っている。オフィスにいないことで、誰にも邪魔されず作業が進む人もいれば、集中が切れやすくなる人もいる。家で一人で働くことで寂しくなり、同僚とたわいもない話をしたくなる人もいる。(ちなみにこれらの感想は私がテレワークで感じたことである。)ここでも、ルールをうまく利用しながら自分の最適な方法で働いている。イギリスにはこういう人がいっぱいいるんじゃないかな、と思うのだ。

もちろん、イギリス人の全員が私の同僚みたいな働き方や遅刻をする訳ではないだろうし、日本で働いている人にも彼女のような人もいるだろう。対して、コロナウイルスがきっかけで初めてテレワークをしている人も日本には多くいると思う。これを機に、もっと考え方と制度をフレキシブルに、「自分は自分」と他人に干渉しすぎることなく日本社会も変わっていったらまた新たな道が開けるのではないかな、なんて思う。


#はたらくを自由に


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ハルノ
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