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旅エッセイ。どこでなにを考える?

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旅中に頭に思い浮かんだことを並べています。
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#小説

不思議な味の氷がつくった私たちの夏の記憶

不思議な味の氷がつくった私たちの夏の記憶

夏を思い出そうとすると、蝉の鳴き声が脳内に響き渡り、暑さで湯だった田んぼのにおいが鼻につく。田んぼに張られた水は、カンカンに照る太陽で生温かくなり、土と草のにおいが混じって蒸発していた。

植えられたばかりのまだ背丈が低い稲が並ぶ、まばらな緑色の水。それを横目に、自転車で駆け抜けていくあの頃の私は、まだ小学校2年生か3年生だろう。プールの用意を水を弾くプラスチックのカバンに詰めて、水着の上から洋服

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だからお前は成長できないんだってば

だからお前は成長できないんだってば

英国時間午前4時半、私はロンドンの街中で途方に暮れていた。

空港行きのバスが停まるはずの道路は工事で封鎖されていて、一向にバスが来る様子を見せることない。玄関を出た時は空はまだ薄暗かったのに、次第に夜は明けて朝日が街を照らしだしている。

飛行機の時間は午前8:00。空港に着いていなければいけない時間は次第に迫ってくるのと裏腹に、バスがやってくる気配は全くない。どうにもこのままではヤバイ気がする

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私の未来を加速させる最悪な金曜日

私の未来を加速させる最悪な金曜日

鼻の下がヒリヒリする。

仕事終わりの電車に揺られてる時に気づいたそのヒリヒリは、私がオフィスで号泣した本日、固めのティッシュで鼻をかみすぎた為にできた痛みである。

研修期間である4週間の最終日だった今日は、入社からコツコツ積み上げてきた私の微々たる自信を綺麗に粉砕してくれる「最悪な金曜日」となったのであった。

この4週間でいろんなことが起きた。

海外移住を目指している私は、とにかく会社から

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ピントがズレたのは、私達が大人になったから

ピントがズレたのは、私達が大人になったから

朝6時、ロンドン。ルームメイトがバタバタと身支度をする音で意識が目覚める。

頭も体もまだ眠っているため、すぐに眠りに戻ろうとするけど、戻った先は物凄く浅いところで、それが自分の意識の中なのか、はたまた夢なのかは判断がつかない。

そんな”浅いどこか”で、最近よく出くわす二人がいる。遠い昔に仲が良かった人たち。

仲が良かったと言ってもそのうちの一人は、私が昔お付き合いをしていた人だからまた関係性

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クリスマスマーケットは夢の中。

クリスマスマーケットは夢の中。

雪は子供が喜ぶものだと思っていた。

「あぁ雪が降ってきた。」とけだるそうに窓の外を眺めるのが大人。

降り積もっていく雪を背景にして温かいコーヒーを片手に、赤チェックのブランケットを膝にかけ、読みかけの雑誌をめくるのが大人の冬の過ごし方だと思っていたんです。薪ストーブの近くには犬がいたりして。

そんな想像とも妄想とも言えるような私の未来はまだ遠いようで、現在の私は足元のドクターマーチンのチェリ

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さよならアイルランド。飛行機に乗るまでの話。

さよならアイルランド。飛行機に乗るまでの話。

普段オフィスに行くために乗るバスと同じバスに乗った。

向かう先はいつもと違う。あと車内の混み具合。何で大荷物の今日に限って、こんなに人が乗り込んで来るのだろう。他のバスがいるせいで、停留所に止まりきれずウロウロしている私のバスは魚の集団みたいな人の塊をあっちこっちに動かした。そんな人の波を横目にため息をつく。

荷物は取り敢えず詰めたけど、絶対カウンターで引っかかる。Ryanairの厳しさと追加

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アイリッシュアクセントとバグパイプ

アイリッシュアクセントとバグパイプ

「アイリッシュアクセントはどう?」

彼が私に投げかけた2つ目の質問はこれだった。

イギリスのマンチェスターとリバプールの間の田舎町に住むイギリス人の彼。

そんな彼と私が出会ったのは、いまから6年前のことだった。

彼が私の大学に交換留学生として日本にやってきた、2012年以来の知り合いだ。

アイルランドとイングランドは、私が思っているよりもずっと近い距離にあるらしい。

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赤いパッケージ。故郷とビスケット

赤いパッケージ。故郷とビスケット

日本を離れて海外にいると、ふとした瞬間に日本のことを思い出すときがある。

それは突然に、そう、スーパーからの帰り道。ビスケットをかじりながら歩いているときにやってきた。

たった50セントの何の変哲もないビスケットが、どうして故郷を思い出すことになるのだろうか?

最初は私にもわからなかった。しかし誰が何と言おうと、そのビスケットは私にとって日本を想起させるトリガーとなったのだった。

アイルラ

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