【未来の自分への手紙~北欧、暮らしの道具店「3年日記」を購入して】
「自分のためだけのものを買う」行為に、わりと抵抗がある。
食品や生活用品は、「なくては生きていけないもの」、いわゆる「不要不急」のもので、さほど罪悪感なく買える。果物やデザートなども、頻度さえ決めてしまえば、“たまにだしいいよね”と思えるようになった。本は、仕事に直結しているので、「仕事のため」「文章力向上のため」との建前が使える。実際には「ただ読みたいから読む」のだけど、自分に対する言い訳がきちんと用意されていないと、お財布の紐を緩ませられないのだ。我ながら、なんて面倒な性分なのだろう、と思う。
物欲がないわけじゃないし、何を買ったからとて誰に怒られる環境でもない。それでも、幼少期から刷り込まれた価値観は、なかなかどうしてしぶといものだ。私の母は、いつもお金のことでピリピリしていた。そんな母の口癖は、「贅沢は敵」だった。理由のない買い物は、決して許されなかった。
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先日、Twitterでとある投稿を見かけた。
友人に勧められて、あっという間に虜になった「北欧、暮らしの道具店」が、15周年を記念して『3年日記』を販売するお知らせだった。
食い入るようにスマホを見つめ、思わず喉を鳴らした。
ほしい。すごくほしい。この日記帳に、日々のよしなしごとを書きつけたい。
表紙の美しさだけではなく、機能面にも惹かれた。この日記帳は「連用日記」と呼ばれる仕様になっており、同じ日付の記録を3年分、同じページに積み重ねていけるのだ。
素敵すぎませんか……もう、素敵すぎるでしょ。
来年を楽しみにしつつ、数年前の自分をも振り返れる。個人的には、「振り返り」はわりと得意で、頼まれずとも無意識にやるタイプだ。しかし、「来年を楽しみに」するのが、私には難しい。これまでの人生がわりとアップダウンの激しいものだったので、どうしても刹那的な考えにとらわれがちで、先々のことを考えると「希望」よりも「不安」がつきまとってしまう。でも、この日記帳なら、無理やり前を向くのではなく、自然に「来年の今頃は何をしているのかなぁ」と思えそうな気がした。
三日三晩、悩んだ。ほしい。どうしてもほしい。不要不急じゃないけれど、なくても生きてはいけるけど。でも、それでも、あの表紙が、シンプルなページが、素敵なコンセプトが、頭から離れない。
『3年日記』のコンセプトは、「わたしの“いつも”が物語に」。
結果は、写真の通り。買っちゃいましたよね。だって、どうしてもほしかったんだもん。
購入ボタンを押す際、自分に対する言い訳を、あれやこれやと並べそうになった。「日記も文章力向上につながるかも」とか、「心地よいものが傍にあればメンタルが安定するかも」とか。でも、もっとシンプルでいいのかもしれないなと、ふと思った。本を「読みたいから読む」のと同じように、「ほしいから」、ただ素直に「惹かれたから」という理由で、何かを買ってもいいよね、と。
「北欧、暮らしの道具店」の商品は、総じてシンプルなものが多い。雑貨も、カトラリーも、洋服も、靴も。この『3年日記』も例外ではなく、そんな商品が持つパワーに、良い意味で背中を押されたのかもしれない。
今現在、一緒に住んでいる相方(パートナー)は、いつも私に言う。
「お前が決めていいんだよ。お前の人生なんだから」
そんな彼の言葉もまた、きっと、後押しになったのだろう。
美しいグレーの布張りの表紙は、ざらりとした感触で温かみを感じられる。ゴールドの箔で描かれたスワッグと、それを囲む飾り枠は、強すぎず上品なイメージ。栞はシンプルな茶色。ゴールドのラインは背表紙にも入っていて、本棚に立てかけると静かな存在感を放つ。
うん、素敵。悔いはない。
商品に挟み込まれた小さなメッセージカードには、こう記されていた。
なんだか「書くこと」全般に共通する思いを感じて、ホッと肩の力が抜けた。ずっと書いていなきゃ、ずっと読んでいなきゃ、毎日文章に触れていなきゃ。そんなふうに思う必要は、ないのかもしれない。もちろん仕事に関しては、そうもいかない部分はあるけれど。少なくともそれ以外は、「~せねば」の精神で文章に触れるのは、なんだか健康的じゃない。
『3年日記』を買ったからといって、「3年間休まずに書き続けなきゃいけない」なんて思わなくていい。そのメッセージをお店側が伝えてくれるところに、やさしさを感じた。
同封されていた『クラシ手帳2023』も、シンプルかつミニマムで、持ち運びも使い勝手も良さそうだ。白い表紙に、これまた金の箔で描かれた連なる北欧の木々。針葉樹のシルエットって、どうしてこんなにも心惹かれるのだろう。
3年日記とクラシ手帳の置き場所を、仕事用デスクの一角に作った。月はじめに届いたからには、さっそく今日から綴りたい。
何を書こう。何を綴ろう。これがいつか、未来の自分への手紙になるのだと思ったら、胸がかすかに高鳴った。
人生は、良いことばかりじゃない。でも、悪いことばかりでもない。どんな物語もそうであるように、山があり、谷があり、凪がある。凸凹道を生き抜いた今日の私を愛でて、明日の私へとつなげていく。そんなふうに1日を振り返るために、私は、『3年日記』を使おうと思う。大切に、丁寧に、日々を慈しみながら。
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「北欧、暮らしの道具店」が配信しているコンテンツ『青葉家のテーブル』が、2021年映画化されました。以前、こちらの作品のエッセイ風レビューを書いたので、あわせて読んでいただければ嬉しいです。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。 頂いたサポートは、今後の作品作りの為に使わせて頂きます。 私の作品が少しでもあなたの心に痕を残してくれたなら、こんなにも嬉しいことはありません。