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樹木を好きになってもらうには? 〜樹木ツアー開始から3ヶ月・近況報告〜


6月末にこのnoteでお伝えした樹木ツアーの開始から、早3ヶ月。おかけさまで、大きな事故•トラブルもなく、続けていくことができました。

これまで、さまざまなお客様をご案内させていただきました。
これまでツアーにお越しくださった方々、ツアーを支えてくださったおいけんの皆様、本当にありがとうございます。これからも良いツアーを作りあげるべく、精一杯頑張っていきますので、よろしくお願いします。



さて、今回の記事では、樹木ツアーを数ヶ月やってみて感じたことを、簡単に書き留めました。
ガイドとして半人前にも到達していない僕がこんなことを書くのはかなり生意気なことなのかもしれませんが、新人なりに、実際やってみて体感したことを、素直に書いていきたいと思います。

樹木のことを褒めすぎないほうが良い

樹木ツアーの大きな目標のひとつは、ズバリ「樹木を好きになってもらう」ことです。

この目標を達成するために、さまざまな樹木を紹介していくわけですが、お客様が樹木を好きになってくださるかどうか、はそのときの「説明の仕方」で大きく変わってきます。

何回かツアーをやっているうちに気づいたことは、「樹木のことをあまり褒めすぎないほうが良い」ということ。
多少樹木のことをディスるような説明を入れた方が、お客様の樹木への関心が深まるなぁ、と思うのです。

たとえば、奥入瀬渓流館裏の森には、つる性木本植物である「ツルアジサイ」がたくさん生えています。
つる性木本というのは、自立する能力を持たず、ほかの樹の幹に絡みつくことで、短い期間で樹冠まで枝を伸ばし、日光を獲得する樹木。要は、他の樹に寄りかかりまくって成長するのです。

当初は、このツルアジサイの生態を「すごく賢い戦略をとった植物なんです」と紹介していました。
この説明だと、お客様はなるほどなぁ、という反応はするのですが、そこからさらに興味を持たれたり、質問を受けたり、ということはありませんでした。

一方、「なんだか他の樹の努力を横取りして、ラクをしているように見えますよねぇ」という、少しディスりを入れたような説明をすると、お客様の反応は全然違いました。
「巻きついた樹を殺してしまうことはあるんですか」
「アジサイという名前がつくということは、アジサイの仲間なんですか」
などなど、質問がたくさん飛んできたのです。


少しツルアジサイのことをイジったほうが、お客様の関心を引くことができたのです。

「賢い戦略をとった植物なんです」「したたかな生き方ですよね」「森にとってなくてはならない存在です」などなど、植物の生態を褒めちぎる説明も全然良いけれど、それだと「植物への親近感」を抱いてもらえない。良いところを羅列する紹介の仕方は、成績表の担任記述欄みたいで、植物のわずかな一面しか伝えていないように感じるためでしょう。
反対に、褒めちぎらず、少し性格の曲がった切り口で植物の生態を説明すると、お客様が植物への親近感を膨らませやすくなる。
あいつはこーゆーとこあるんだよな……みたいな、友達を紹介するときの語り口調で植物を紹介した方が、お客様と植物の関係をよりフランクなものにできると思うのです。

「この森には僕の知り合いがたくさんいるんですよ。みんなクセ強いけど、イイやつばっかなので、皆さん友達になってみませんか」というスタンスで樹木を紹介する、というのが現在の目標です。
まあ、いくらイジるといっても、樹木たちへの敬意は忘れず、名誉毀損になるような紹介の仕方は絶対にしないよう、気をつけながら。

地理の知識が結構役に立つ


ぼくは小さい時から、地図が好物でした。
暇さえあれば、昭文社の全日本道路地図や、国土地理院の電子国土をダラダラと眺めていたのです。

なんで地図が好きなんですか、と聞かれても、答えに困ってしまう。でも、なんか地図って魅力的。広い日本列島の隅々に散らばる膨大な情報を、薄い紙の上に表現する、という地図の性質そのものが好きなのであって、そこに理由はないのです。

おかげで、日本各地の町や、特産品に詳しくなりました。
地図に夢中になっていた当時は、こういった地理的な知識がのちのち役に立つとは思っておらず、役立てたい、とも思っていませんでした。
地理のウンチクはあくまでも地図鑑賞という自分の趣味について来た「オマケ」であって、地理を学ぶために地図を見てるわけじゃない、と考えていたのです。

しかし、樹木ツアーが始まってから、自分の地理趣味に心底感謝するようになりました。
地理の知識が、ツアーに来てくださったお客様と心の距離を近づけるときに、有効なツールになったのです。

たとえば、ツアー中の雑談の際の最もオーソドックスな話題は「どこからいらっしゃったのですか」というもの。
そういうときに、
「今日はどこからいらっしゃったんですか?」
「秋田県の大館です」
「きりたんぽと秋田犬の町から来てくださったんですね」
という会話ができると、その後の雑談が結構盛り上がりました。

関西から1000キロ離れた青森県で、自分の地元の兵庫県のことに詳しい人に出会うと、とてつもない親近感が湧きます。「あ、この人自分の街のこと知ってくれてる」というのは、純粋に嬉しいのです。
だからこそ、樹木ツアーに来てくださったお客様とよい関係を築くためには、お客様の馴染みの土地の話をして親近感を持ってもらう、という方法が有効だと思うのです。

ガイドの仕事は、樹木の紹介をすることだけではありません。お客様の旅行を楽しくするのも、大事な任務のひとつです。そのためには、思いっきり楽しめるツアーの雰囲気を醸成することが重要。お客様とコミュニケーションをとるための「会話の引き出し」になるようなネタを貯め込んでおいて、本当に良かった、と思います。

好きなことに没頭した経験は、後々思いも寄らない形で役に立つんだなあ、と実感しました。

大変だったこと


逆に、大変だったこともたくさんあります。

特に悩まされたのが、ツアーに来るお客様の「目的」が、人によって違うこと。

ツアーに来てくださるお客様には、大きく分けて2タイプいるなあ、と個人的に思っています。

1つめは、純粋に樹木のことを知りたくてツアーに参加してくださるタイプ。
こちらの対応は割と簡単です。主要な樹種、興味深いエピソードがある樹種のこと、奥入瀬の森の成り立ちを順を追って説明していく、という方法で十分に満足していただけるからです。


難しいのは、「森歩きをメインに楽しみたい。樹木の話は、プラスアルファの楽しみとして聞きたい」と思って参加してくださるタイプ。こちらは、樹木そのものに興味があるわけではなく、あくまでも「森の中を歩く」のが一番の目的です。そのため、一箇所に留まって長い説明をしたり、あまりにもマニアックな内容を説明したりすると、飽きられるリスクが高まります。このタイプのお客様をご案内するときは、
・景色が綺麗なポイントまで行って、ハイキングに変化を持たせる
・きのこ、シダなど、興味深いトピックがある生き物に遭遇したら、樹木に限らずともご紹介する
・樹木の「生態」や「人間との関わり」などといった、図鑑の中で読むようなアカデミックな内容の説明に重点を置きすぎない。「この雨に濡れた大木の幹、白い斑点がモザイク状についていて、とても美しいですよね。この斑点の正体は〜」といったような、実際に目で見て感じることのできるトピックの説明に重点を置き、お客様に「森の情景」を楽しませることに専念する
などの配慮が必要になります。

しかし、来てくださったお客様が、「樹木を学びたい」と思っているのか、「森歩きをメインにしたい」と思っているのか、を判別するのが超絶難しい。この人、どっちのタイプなんだろう………と悩むこともしばしばです。

この判断を見誤り、森歩きメイン派のお客様に「キブシの葉脈ってカーブが独特なんですよね〜」という、超マニアックな話題を提供して、能面のような顔をされたことがあります。

そうならないよう、お客様がこのツアーに求めているものは何か、を常に考えなくてはならないのですが、正直なところ、現在ぼくはまったくそれができていません。これができて、やっと一人前のガイドの第一歩なんだろうけど、まだまだ先は長いなぁ。

秋の樹木ツアー催行中です


9月中は、青森県内の感染拡大の影響で奥入瀬渓流館が閉館したため、樹木ツアーを催行することができなかったのですが、10月に入ってからは通常通りツアーを実施することができるようになりました。

これから、奥入瀬は紅葉の時期に突入します。

実のところ、ぼくはまだ純正落葉広葉樹林の紅葉を見たことがありません。今年の秋が、人生初の「落葉広葉樹林の紅葉」です。

↑カツラはすでに紅葉が始まっています


紅葉の専任プロデューサーである落葉広葉樹が一堂に会し、自らの葉っぱをキャンパスに素晴らしい芸術を創り出す。なんて魅力的なイベントなんだ。
ぼくは今、観光客よりも紅葉を楽しみにしています。

現在の奥入瀬は、葉っぱが色褪せ始めている段階で、紅葉にはまだ一足早い。これからの変化がめっちゃ楽しみです。

雪が積もる11月中旬ごろまで、奥入瀬渓流での樹木ツアーは催行予定です。
紅葉の主役である、樹木たちの素顔を、余すことなくお伝えします。森の樹木たちと遊んでみませんか?

樹木ツアー概要
場所:青森県十和田市 奥入瀬渓流 奥入瀬渓流館周辺の森
催行日:土日祝
所要時間:70分
①9:30〜10:40
②11:30〜12:40
③14:00〜15:10
料金:1500円
・長い距離は歩きません。危険な箇所•急な坂などは通過しません。体力的な心配はそれほど必要ないので、お気軽にご参加ください。
•紹介樹種
ブナ、ミズナラ、カツラ、サワグルミ、トチノキなど

ご予約はこちらから↓

https://foreston.jp/tour/trees/

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