どこにでもある、でも、たった一つしかない物語。

 「お母さんの言うことをよく聞いて、弟の面倒をちゃんと見るんだよ。」

 果てしなく長く、暗いトンネルにいるような人生はその時始まった。

 6歳になる1ヶ月ほど前の出来事だった。当然、両親の間ではもっと前から話が進んでいただろうし、もしかしたらもっと前に伝えられていたのかもしれない。しかし、子どもである私にとっては突然の出来事だった。

 正直、当時の記憶はそこまで無い。ただ、父と母が別々に引っ越しの準備をしているのを見て、子どもながらに違和感を感じたのは覚えている。

「あれ?これからは、お父さんとお母さんは別々に暮らすのかな?」

 それくらいにしか思っていなかった。別々に暮らすといえど、いつでも会えると思っていた。
 これが、大人になるまで自分を苦しめる出来事になるなんて、人生を大きく変える出来事になるなんて思いもしなかった。



 あれから21年。どん底に落ちては這い上がろうとして、また落ちる。何度も繰り返した。

 しかし今、私は自分の人生を思う存分楽しんでいる。自分は大切だと思うようにもなった。自分の感情を素直に表現する喜びを知った。苦しかった過去にも蓋はしていない。



 私がこれから書き記す過去は、あくまで私自身の中にある記憶である。もしかしたら、事実と異なる部分があるのかも知れない。しかし、これが私の歩んできた道であり、この記憶が今の私を作っている。

 「辛かった記憶、苦しかった記憶はずっと残る」と言うけれど、人間、時が経てばそれなりに忘れる。

 ここに書き記すのは、私自身が、苦しかった過去を忘れたくないから。

 自分の過去を話すと、可哀想だと言われることがある。しかし、「私、可哀想でしょ?」なんて思いは全くない。同情なんて求めていない。(そう思っていた時期があるのもまた事実だが…)

 ただ、もしも、似たように苦しい経験をしている人がここを見てくれることがあるのなら、私の経験が誰かの前向きな一歩に繋がればいいな。

 今と未来の自分、そして誰かに、この経験を役立てることが、過去の私を救うと信じているから、私はここに記す。

 ただ、それだけ。
 よかったら、どうぞ、お付き合いください。

2021.3.16

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