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不器用な彼女

彼女はよく変な顔、変なポーズをする。
写真を撮るよとカメラを向けると、普通の格好では写れないらしい。

サン・マルコ寺院の入り口近くの、赤と白がマーブル模様に混ざりあう石で作られたライオンの像が格好良くも可愛かったので、写真を撮ろうとカメラを構えた。すると彼女がササーっとライオンに近づき、ライオンの台座に腰掛け、腕を大きくライオンの首に回し、躊躇なく顔をライオンのたてがみに押し付けて、僕を見下ろすように顎を上げてニヤリと笑う。「羨ましかろう」と言わんばかりの笑顔。べつに羨ましくはない・・・。

しかし、もっと普通に、ライオンの横に立ってピースとか出来ないの?

ヴェネチアでは、お土産用の仮面がたくさん売っている。彼女は、親戚の子供にあげるためにその仮面を買った。「写真を撮るから被ってみて」と言うと、袋から取り出した仮面を自分の目元にあてるや、目付きを鋭くし、下から僕を睨むように顎を引いた。口元に笑みはない。

だから、もっと普通に、いえーい!仮面だよ〜て感じでは写れないの?

あるとき彼女が、「後ろ姿が一番美人」と言っていた。「顔やポーズを作らなくてもなんとなく絵になるからいい」とも言っていた。

絵にならないのは僕の腕の問題だと思うから、普通に笑って写ってくれていいんだよ。



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