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10年前の「トークティブ」

ぼくがウェブ上で書くことを初めてやったのは2006年だったかな。いや、2007年だったか。友人から薦められて(というか「書いたら読むのになぁ」と言われ)、ブログを半年限定でやった。たしか「アフリカン・ナイト」という題だったかな。何人が読んでいたのか、確認する術もあったのかもしれないがしなかった。タイトルからわかる通り、『アフリカ』は、その時、もう、存在していた。

そのあと、少し間を置いて、ぼくのエッセイの題をとって「沢山の地図の上で眠る」というブログを始めて、それは明確に期限を区切らずにしばらくやっていた。

それらはほとんどぼくの個人的なノート、公開しているノートのようなものだったんじゃないか。

2009年の夏に、ふいに思い立って『アフリカ』のウェブサイトをつくって、そのコバンザメ(?)として「アフリカン・スクラップ・ブック」というブログを立ち上げ、それは毎週・金曜に更新、ということにした(なぜ金曜だったのか覚えていない、まだ会社勤めをしていたので、週末を控えた金曜の夜に書くのは気分がよかったのかもしれない)。

先ほど、急に思いついて、その時に書いていたものを見返してみた。

ちょうど、10年前だ。

その頃、ぼくは何というか人生に行き詰まっていて、さぁ、どうやって生きてゆこう! となっていて(いまでも大して変わりがない? いや、その時はまだ"初心者"だったのだ)、何やら高まっているものがあるようだ。その頃ぼくと出会って深い付き合いをした人たちには「あの頃のことはすごく印象深い」と言う人が多いような気がしている(そういうふうに言う人と付き合いが続いているとも言えるんでしょうけど)。

来年、ぼくの作品集ができるはずだけど、そこには「化石談義」という小説(『アフリカ』2009年3月増刊号に掲載)も載る予定で、山歩きをする話なのだが、そこに"ゆかり先生"という人が出てくる。"ゆかり先生"は実在の人物で、「化石談義」の後にもお会いして話したことがあった。

2009年11月23日の「アフリカン・スクラップ・ブック」は、たぶん会社勤めを止める直前の更新だと思うが、その"ゆかり先生"から聞いた話が書いてある。今日、先ほどまで忘れていた話だが、あの頃の短い出会いに感謝して、ここに再録したい。

 “今週のひと言”は長嶋有の小説『パラレル』からの一節。語り手が結婚式のスピーチ用につくったメモの文章なのだが、何となく「夫婦円満の秘訣」に限らず、人と人との関係の全てを言いあらわしているような言葉だな、と思っている。
 山へもパーティ(チーム)で行けば、さまざまな人間関係が見られて面白かった。
 以前、ぼくを指して「この人はけっして文学好きではない。人好きだ」と言った人がいるが、昨日“ゆかり先生”と話していたら、彼女は「だって、あなたは“トークティブ”だもの」と言っていた。
 “トークティブ”という言葉からは、いろんなことが浮かんでくるので簡単には書けないが、ひとつ言えるのは、幼いころ、両親や近くにいた人たちがぼくの良い「話し相手」になってくれていた証拠らしい。
 “対話”ができるという“あたたかさ”を感じる。「化石談義」で書いたことの中心にも、それがあった。
 みんな心のなかに、いろんな気持ちを抱えているのは当たり前のことで、必ずしもそれを表面に出さなければ、というわけではないが、かといって差し障りのないことばかり言い合っていたのでは良い人間関係は築けないし、もっとシンプルに言うと、それでは人は本当の幸せを感じることはできない。
 ただ、その“対話”とは育てるもので、そう簡単なものではないような気もする。
 『アフリカ』は、これまで真剣に“対話”をつづけてきた成果が出はじめていると感じているが、昨夜、帰宅してから、用あって、ある文学関係者と電話で話したら、「これだけつづけているというのは、それだけで価値があるよ」と言われた。彼はもう何年も小説を書いていない(らしい)が、「小説なんか、いつでも書けますよ。いま一番やりたい、やらなければならないと思う仕事をしましょう」と言ったら、「それ、下窪君だからこそ、いえる言葉だねぇ」と大笑いされた。
 とにかく、山歩きと一緒で、大事なのは、一歩、一歩、ですよ!

読んでいて、あの頃の時間に、グイッと引き戻される感じがした。

「これだけつづけているというのは、それだけで価値があるよ」と言われているが、「これだけ」というのは、まだ数年の話だ。それからもう10年がたった。たしかにぼくはいろんなことを始めて止めてきたが、それ(『アフリカ』)だけは止めなかった。絶対に止めないぞ! と決めていたわけではない。むしろ、いつ止めてもいいつもりでいた『アフリカ』じゃないか。だからこそ止められなかったんじゃないかという気もする。

"トークティブ"の話も、先ほどまで忘れていた("ゆかり先生"は英語の先生なのだ)。

来年、ぜひ「化石談義」を読んでほしい。作品集、なんとかつくります。

ちなみに、長嶋有の小説『パラレル』からの一節というのは、

夫婦円満の秘訣は信じることです。信じるとは、なにか疑わしいことがないから信じるのではなくて、ただもう無闇に信じるのです。屁理屈も理屈、邪道も道、腐れ縁も縁。

こういったことばを糧にしてぼくは生きていた。その後も、しぶとく生きてきた。それがなければ、こうやって元気で書いていることもなかっただろうという気がする。

(つづく)

日常を旅する雑誌『アフリカ』最新号(2019年7月号)、相変わらず発売中。在庫が少なくなってきたので、お早めに。

「道草の家・ことのは山房」のトップ・ページに置いてある"日めくりカレンダーは、1日めくって、12月19日。今日は「恐竜まみれ」の話。

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