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表参道開通200年。創業128年の老舗本屋からスタートして、歴史散策してみよう

表参道開通から今年で200年。明治神宮への参道として表参道が開通した明治期よりこの町並みを見てきた本屋がある。表参道交差点のそばにある「山陽堂書店」だ。その歴史を辿って行くと、はるか昔の表参道の情景が浮かんできた。

青山通りと表参道の交差点に、レンガ造りのモダンな本屋さんがある。実はこのお店、明治神宮や表参道ができる前からある超老舗なのだ。

「山陽堂書店」がオープンしたのは1891年。明治時代に遡る。ここから128年前の街の記憶を辿るべく、表参道・原宿エリアの地域情報サイト「おもてサンド」(現在は更新終了。SNSに移行)ディレクターのまあやさん、歴史ページを担当していたライター・重久直子さんと一緒に街を歩いてみた。

明治・大正・昭和・平成を見てきた本屋

創業当初は現在のみずほ銀行辺り、大正期には南青山の北村薬局近くにお店を構えていたが、1931年御幸通りの開通に合わせて現在の場所に移転したという。

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左が現在、右が大正時代の山陽堂書店。 御幸通りができる前は、明治神宮に向かって正面の横断歩道辺りにお店があったそう。 写真提供:山陽堂書店

戦後、東京五輪に向けた青山通りの拡幅工事の際にお店を縮小しなければならず、今の細長いフォルムになったそう。それまではこの3倍ほどの大きさがあったとか。現在の建物は2011年に改修されたもので、2、3階部分がギャラリーになっている。

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1963年、青山通り拡幅時の工事の様子。建物が頑丈だったため、壊さずに削ることにしたという。 写真提供:山陽堂書店

「ビルの横には『週刊新潮』の表紙などを手がけていた画家・谷内六郎さんの作品が飾られています。昔からさまざまなクリエイターたちが立ち寄ったそうです」と重久さんが教えてくれた。

お店の中を覗いてみると、雑誌や絵本、書籍などがきれいにレイアウトされて並んでいた。

山陽堂書店前の青山通りには、戦後しばらく都電の路面電車が走っていたそう。昔はこの交差点に差し掛かると、車内の人が立ち上がって帽子を脱ぎ、明治神宮に向かって頭を下げていたとか。

今も多くの買い物客が行き交う山陽堂書店周辺。昔も違った賑わいを見せていたのだろう。

にぎやかな街並みが一変した日

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しかし、さらに歴史をさかのぼると、悲惨的な出来事が起こった時期もあったと重久さんは語る。
「1945年5月25日、山の手大空襲でこの辺りは大きな被害を受けました。焼夷弾がたくさん落とされ、表参道には、火が川のようになって流れていったそうです」

当日は、鉄筋コンクリート建ての「同潤会青山アパート」 にも多くの人が避難。ガラス窓に水をかけて、迫りくる炎を防いだといいます。しかし途中で水が尽き、代わりに醤油をかけた人もいたほど、火の勢いは激しかったそう。

青山アパートと同じく、鉄筋コンクリート建てだった山陽堂書店にもたくさんの人が逃げ込んだとか。

「山陽堂書店の地下には井戸があり、その頑丈な建物と井戸水によって、多くの命が助かったそうです。今は井戸は残っていないそうですが、山陽堂書店の周辺には、今も空襲の跡が残っているんです」とまあやさん。

ふたりに連れられて向かったのは、山陽堂書店の隣に2基ある石灯篭。高さ6mほどの立派な灯篭だが、よく見ると一番下の部分が欠けている。これが焼夷弾の爪痕だ……。

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さらに石灯篭の裏手には、2007年に建てられた慰霊碑があった。山の手大空襲については、地元の人は長い間口をつぐんできたそう。表参道に買い物を楽しみに来ている人々に、空襲の話をするはどうだろうかという想いがあったようだ。

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慰霊碑が建った翌年の2008年には、当時を知る方々の戦争体験を集めた『表参道が燃えた日』という書籍が発行されたそう。山陽堂のギャラリーでは、毎年5月25日前後になると、昔の青山の様子を感じられるような写真の展示も行われている。

表参道開通から200年。歴史に想いを馳せる

「この地図では、青山・表参道の今と昔の風景を対比してみることができ、昔の生活を伝えるイラストも載っているんです」とまあやさんが案内してくれたのはみずほ銀行の壁際にある絵地図。

かつてはこの辺りにも40cmほどの雪が積もり、子どもたちが手作りのスキー板で表参道をすべり、精肉店の軒先にはイノシシが吊るされていたそう。1938年に開通した銀座線の工事の際は地下のトロッコが子どもたちの遊び場所だったとか。

山の手大空襲後、焼野原になった表参道からは富士山も見えたそう。絵地図にはそんな昔の光景がイラストで随所に散りばめられているので注目したい。

2019年は表参道開通からちょうど200年。
その長い歴史に思いをはせて街を歩くと、華やかさだけではない表参道の歴史の深さや“強さ”に気がつく。

表参道を通る際には、昔の情景を想像しながら歩いて見るのもいいだろう。

写真:澤田聖司

TOKYO DAY OUTより再掲

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