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生理の当たり前を見直す。婦人科ドクターが提案する生理のニューノーマル

身近なことほど、当たり前を疑わない。たとえば毎月やってくる“あの”痛みや苦しさもやり過ごすだけで済ませてしまいがち。東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科のドクターである高橋怜奈さんは、その当たり前を見直すことを提唱している。 長年付き合ってきた生理に関する当たり前は、病院で診察を受ければ解決することもある。自身のYouTubeやTikTokで生理などに関する悩み相談や情報発信も行っている高橋怜奈先生にニューノーマルな生理との向き合い方を聞いた。

実は婦人科は「女性が困っていることがあればなんでも診てくれる」場所

編集部:
生理にまつわることや女性ならではの身体の悩みを診てくれるのは、産婦人科・婦人科・レディスクリニックなど、いろいろ名称があると思うのですが、そもそも婦人科とクリニックには何か違いがあるのでしょうか?

高橋玲奈先生(以下、高橋。敬称略):
産婦人科と婦人科は基本的には同じ。大きい病院では産科と婦人科が分かれているところもあります。「クリニック」は、患者を入院する施設がないもの、または19人以下の患者を入院させる施設のあるものを指します。とはいえ診療内容については基本的にはどこも同じで、女性が困っていることであればなんでも診るといった感じです。ただ専門や注力している分野を持つ病院もあります。たとえばお産を取り扱う産院となると当然妊婦さんが多く、待ち時間が長いといった場合もありますね。不妊治療専門やピル専門など、細かく専門を設けているところも多いのです。よりスムーズに診察を受けるためにも、事前にホームページや電話で診療内容を確認することをおすすめします。自分の症状や、とりあえず相談したい…という場合は、総合的に診てくれる婦人科が良いのではないでしょうか。

編集部:
なるほど。婦人科では、具体的にはどういうことを診察していただけるんでしょうか?

高橋:
生理に関することやおりものの異常、性感染症のチェック。あとは生理前のPMS症状などですね。ダイレクトに生理の悩み…というよりも、生理が関係していることならなんでも大丈夫ですよ。たとえば、生理前の肌荒れに悩む人は皮膚科を受診しがちですが、生理周期によって起こる変化はすべて婦人科でも治療できます。

編集部:
原因が“生理”なら婦人科で大丈夫なんですね…!

高橋:
そうですね。もちろん病院によったりもすると思いますが、基本的には大丈夫です!

編集部:
具体的に病院に行こうと決めた際に、病院選びのポイントは何かありますか?

高橋:
個人的には自宅や職場から近い病院を選ぶのがおすすめですかね。婦人科の検査はその場で結果が出ないものも多いんですよ。再度来院してもらって検査結果をもとに治療内容を決めたいのに、その頃には症状が治まったからと検査結果を聞きに再来院してくれない患者さんも多いのです。それでは検査の意味がない…! なので通いやすさは大事なポイントです。

「薬飲んだから大丈夫」は大丈夫じゃない! “痛み止めを使わないと治らない生理痛”は現代病

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編集部:
生理には個人差があるとよく聞きますが、自分の状態がその個人差の範囲内なのか、それとも何かしらの異常なのかわからず悩む女性も多くいます。診察の目安などはありますか?

高橋:
生理期間は3日~7日、経血の量は一周期で20cc~140ccの間が正常範囲といわれています。とはいえ経血量の数値化は難しいのですが、たとえば昼でも夜用ナプキンを使わないと漏れる、タンポンが1時間でダメになる、となると明らかに多いかなと。ただ、本人が悩んでいることがあればそれはすべて治療の対象だと思っています。「我慢できる範囲だから大丈夫とか、○○すれば大丈夫だから平気」とは考えないでほしいんです。

編集部:
たとえば、「量が多い」や「期間が長い」といったことは治療で改善されるものなのでしょうか?

高橋:
子宮筋腫などの病気の可能性もあるので、まずは原因をしっかりと検査し治療方針を考えます。もちろん病気じゃない場合もありますし、その場合はホルモン治療やピルの服用で“正常”に戻していきます。なので、改善はされますよ!

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編集部:
そうなんですね! 個人差の問題であって、治りようがないのかと思っていました…。では、多くの人が悩んでいるであろう生理痛にも診察の目安はあるのでしょうか?

高橋:
痛み止めを毎周期使っているようであれば治療をしたほうがいいと思います。“痛み止めで治る”ではなく“痛み止めを使わないと治らない生理痛”だと思ってもらいたいのです。生理痛で日常生活が妨げられるのであれば、それはもう「月経困難症」という立派な病名がつくんですよ。

編集部:
そうなんですか…! でも「飲まない人いるの?」というくらい、皆さん習慣的に痛み止めを服用している気がします(取材陣の女性チームは全員該当)。それは、本当はダメってことですよね?

高橋:
はい、ダメです…! そもそも生理というのは、妊娠準備のため子宮の内側の膜が分厚くなり、妊娠していないとその膜が剥がれ血液とともに排出される現象のこと。現代人は出産年齢が遅い人や出産しない人も増えています。なので無駄な生理や生理痛の繰り返しが病気のリスクを高めてしまっているんです。多くの人は子宮から、膣からだけではなく卵管やお腹のなかにも血液が逆流してしまい、それが子宮内膜症につながるといわれています。「みんなそうだから」「我慢できるレベルだから」と楽観視せず、今すぐ妊娠を希望していないのであればピルの服用などを考えてみるのも良いかもしれません。

PMSは周りにも理解してもらって、イライラの緩和を

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編集部:
読者からは生理前のPMSが辛いという声が多くありました。改めて、PMSのメカニズムを教えていただけますか?

高橋:
一般的には排卵後のホルモンの急な変化によるものといわれています。排卵するとプロゲステロン(黄体ホルモン)が増えてエストロゲン(卵胞ホルモン)が減る。そういった急激なホルモンの変動によって、イライラや食欲増加といったさまざまな身体の不調が起こります。

編集部:
イライラなどはPMS症状と自覚するのも難しく、受診していいのかと悩みます。たとえば、ただストレスでイライラしているだけなのか、何かあったからなのか、PMSだからなのか、イライラしているときには判断できないような気がするのですが…。

高橋:
確かに、本人でもなかなか判断が難しいですよね。生理管理アプリなどで自分の体調の変化や生理について記録しておくと、自分のリズムを掴みやすいかもしれません。受診の目安にもなりますし、診断や治療の手助けにもなるので、ぜひ記録をとって自分の生理を知ってほしいなと思います。客観的に見ると、ああこの時期にイライラしやすいんだな、と気づく可能性も高いですよ。

編集部:
なるほど。治療も必要なのでしょうが、毎月やってくるPMSとうまく付き合っていく方法はありますか?

高橋:
一番はよく睡眠をとりストレスを避けること。また「今、生理前だから」と人に言ってしまうのも良いかもしれません。それ自体がコミュニケーションになるし、認めることで気持ちが軽くなることもあると思います。私が監修している「ケアミー」という生理管理アプリにはペアリング機能がついていて、LINEで恋人や家族に「生理予定日は○月○日ですよ」という通知が届き、合わせてPMSの症状についての基礎知識を知らせることもできるんですよ。

編集部:
なるほど、面白いですね。パートナーに面と向かって話しにくい人も、LINEでお知らせが届くのはいいですね。

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高橋:
他にも「ケアミー」では、1ヶ月無料でお試しできる相談チャット機能があります。私のSNSにも相談のDMが数えきれないほど届きますが、個人的な悩みにはお答えするのが難しいんです。病院を受診すべきかわからないけど悩みを抱えているという人は、まずこういった機能を活用するのもおすすめです。

編集部:
受診するべきかどうか悩んだときに相談できるのは安心です。

高橋:
とはいえ、私がいつも患者さんに言っているのは「何か困っているからではなく、ニュートラルな状態でも病院に来ていいんだよ」ということ。病院って悪いところが見つかってから受診するイメージがあるかもしれませんが、何もなくとも治療でさらにパフォーマンスが上がることもある。「生理だから仕方ない」ではなく、日常生活をより良くするために、もっと気軽に婦人科を受診してもらいたいなと思います。

編集部:
なるほど。先生のSNSを拝見していると身近に感じるので、「もっと気軽に病院へ行こうかな」という気持ちになります。本日は大変勉強になりました。ありがとうございます…!

自分たちがあまりに慣れすぎている「生理にまつわる我慢」。長年当たり前だと思ってきたことは、実はただの無知だったのかもしれない。インターネットで多くの情報を得られる時代だが、間違った情報も溢れている。女性の健康にまつわる価値観が大きく変わり始めている今、まずは婦人科受診を当たり前の第一歩にしていきたい。

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取材・文:日笠麗奈
撮影:yoshimi

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