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第18夜◇心あてに折らばや折らん初霜の~凡河内躬恒

心あてに 折らばや折らん 初霜の
置きまどわせる 白菊の花


(意訳:あてずっぽうに折ってみようか。真っ白な初霜が降り、白菊の花と見分けがつかないから。)

凡河内躬恒 百人一首

わたしが一番好きな歌です。

初めてこの歌に出会ったときのこと。あまりに幻想的で美しく、時が止まったようでありました。

初冬の夜明け、襖を開けて外に出れば、空は白々として、吐く息も白い。ふと見れば一面、そこには白菊に降りた真っ白な霜。あの白く輝いているものは、菊の花びらだろうか..霜だろうか。

すべてが白という光に包まれた情景。
これはもはやこの世ではない。もし浄土というものがあるのなら、こんな光景があるかのもしれない..。

これ以上美しい光景を、わたしは知りません。ただ震えるほど美しいという一点ゆえに、この歌が好きなのです。

しかし同時に、驚嘆せずにはいられないのです。この歌人は、現世を生きた人。菊の庭は浄土ではない。一面に咲いていれば、枯れた花もありましょう。霜が溶ければ泥になる。

本来菊と霜を見違うことなどない。この人には全て見えていたのでしょう。その上で意図的に焦点をぼかし、目の前の美しさをすくい上げている。その奥に、静かな揺るぎない心が見えるのです。

浮世の中に、浄土の光を見る..わたしもそんな心が欲しい。