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「らしさ」が円熟味を増していく 役者・高橋一生が魅せる匠の表現 

2021年12月、『岸辺露伴は動かない』主人公・岸辺露伴。
2022年1月期、『恋せぬふたり』主演・高橋羽。
2022年4月、『雪国 -SNOW COUNTRY-』主演・島村。
2022年4月期、『インビジブル』主演・志村貴文。

昨年末から高橋一生さんが演じた役はどれも、放送前から「誰にでも出来るわけじゃない」という空気をまとっていた。

『インビジブル』の志村貴文に関しては、必ずしも高橋一生さんが演じる必要はなかったように思える。しかし、他の3作品に関しては、すべて高橋一生さんらしい味わいが付け加えられた、愛すべき「ひと」がそこに屹立していた。

高橋一生さんが付加した「岸辺露伴愛」

2年にわたり、年末にNHKで実写版『岸辺露伴は動かない』が放送されているのは、高橋一生さんのファンなら周知のとおりだろう。

漫画の実写化作品というのは、いろいろ批判されがちだ。漫画が実写になるということは、それだけ原作漫画に固定ファンが多いということでもある。原作漫画ファンの脳内に、「それぞれの岸辺露伴」がいる。どうしても、ファンは「実写化された作品の岸辺露伴」と「脳内の岸辺露伴」を比較して、ああでもない、こうでもないと言いたくなるではないか。

高橋一生さんが演じる岸辺露伴は、絶対に原作のコアなファンでないとこう表さないだろうという表現にあふれている。立ち姿、セリフ回し、底意地の悪さと常軌を逸した好奇心。すべてを「高橋一生」という役者に落とし込んでカメラの前で魅せてくれている。そこには、演じ手の役に対する愛がぎゅっと詰め込まれている。こんなものを見せられては、「恐れ入りました」と言うしかない。

脚本家の「当て書き」 『恋せぬふたり』

2022年1月クールにNHKで放送された、恋愛もセックスもしない二人が関係を深め、幸せになろうとする物語『恋せぬふたり』。脚本を担当した吉田恵里香さんは、高橋羽役について最初から高橋一生さんをイメージして書いていた、と明かしている。

高橋一生さんが演じることを頭に置いて書かれたこの作品は、共演者の皆さんの配役も絶妙。画面の色使いや音、羽の暮らす家の内装・調度品、庭木に込めた意味など、細かい部分まで非常に丁寧に作り込まれた秀逸なドラマとなっていた。

高橋一生さんの表現の細やかさは、さまざまな場面で際立っていた。5話までを観たところでいったん感想を綴っている。

物語の後半では、羽が抱える傷が明らかになっていく。

羽の元カノ(・・・と言っていいのか?)・遥(菊池亜希子さん)と何があったかが浮き彫りになる。羽は祖母を安心させたくて、遥を利用した形になってしまったことに苦しんでいた。自分がアロマンティックでアセクシュアルであることを、祖母にきちんと伝えられる気がしなくて、何となくそのままにしてしまっていた遥との関係。遥を手ひどく傷つけてしまったことで、羽はずっと一人でいる道を選んできた。

咲子(岸井ゆきのさん)と出会って、恋愛抜きで家族でいる方法を模索して「もう、一人になりたくはない」と素直に思えた羽の心の変化を、全編通じてBGMを奏でるようなお芝居で紡いだ高橋一生さん。余計なものを加えない純度の高い表現が、他の出演作よりも強く印象に残った。

家族(仮)でいることと、同じ家で暮らさないことが両立しうると、咲子に諭され、目から鱗が落ちた瞬間の表情が忘れられない。

雪国に暮らす芸者・駒子を写す鏡 『雪国 -SNOW COUNTRY-』

4月16日にNHK BSプレミアムで放送された『雪国 -SNOW COUNTRY-』。ノーベル文学賞作家・川端康成の没後50年ということでNHKが制作した、90分ほどの単発ドラマは、まるで原作の文章の美しさを映像にリフレクトしたようだった。

島村(高橋一生さん)がかの地を訪れた季節は、さまざまだ。初夏のこともあれば冬の始まりのこともあった。それなのに、画面に映るのは、いつでも雪景色だ。島村の目には、いつでも「雪国」なのだろう。

『雪国』の島村は、平板なしゃべり方をする。感情の抑揚が分かりづらい。対照的に、駒子(奈緒さん)はいつでも感情むき出しである。

東京で暮らし、自分が気になったタイミングでふらりとやってくる島村。感情の抑揚があまり感じられない高橋一生さんのお芝居は、駒子と葉子(森田望智さん)を映し出す鏡だ。島村の目は駒子への愛おしさとともに、彼女の抱く閉塞感とやるせなさを、雪景色として映し出す。

ラスト20分は、原作中の駒子のある言葉を独自に解釈し、付け加えたものとなっている。個人的にはここは不要だと感じたが、テレビドラマとしては必要なのかもしれない。

それにしても、ここまで抑揚を抑えたお芝居をしながら、画面からあふれ出るエロティックさは一体何なのだろうか。

終わりに 多彩な高橋一生さんの表現

「足し算の芝居」「引き算の芝居」という言葉がある。足し算ばかりでは観ているこちらは胸焼けするし、引き算し過ぎては分からない。

『おんな城主直虎』でも同様に感じていたが、昨年末から高橋一生さんが演じた役はどれも、どこまで足すのか、どのくらい引くのかのさじ加減が絶妙である。『岸辺露伴は動かない』はかなり色々足し算しているし、『恋せぬふたり』は引き算している。『雪国 -SNOW COUNTRY-』に至っては、これまたかなりの引き算芝居だ。

『恋せぬふたり』『雪国 -SNOW COUNTRY-』の2作品で魅せてくれた引き算の芝居は、『おんな城主直虎』の時のさじ加減とは全く違う。直虎の政次もだいぶ引き算の芝居だと思っていたが、何も見えていなかったのだなと考えを改めた。

しかし、これだけ続けて様々な作品に出演しながら、それぞれで絶妙な「足し算」と「引き算」のさじ加減を撮影現場でスッと出せるということに、敬意を抱かざるを得ない。

そしてまた、4月期のドラマが終わった後、7月からパルコ劇場で一人芝居をするという。
いったい何をみせてくれるのか。ワクワクが止まらない。



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