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配信劇「ハウス」公演レポート

このレポートは、配信劇「ハウス」の試みが何を実践したのか/できなかったのか、根拠や実情を踏まえ、総合的に評価できるよう、企画発案からアンケート回収・反省会までをまとめたものです。

制作過程を赤裸々に綴っている文章ですので、有料で公開しようと考えていました。しかし、サポートしてくださった方々への感謝と、感染症によって窮地に追いやられる演劇にとって何か少しでも財産になればという思いから、無料で公開する運びとなりました。

このレポートは物販〈配信劇「ハウス」完全収録ブック〉にも収録されています。BASE【エリア51:Store】にて販売中です。台本のみのデータ版もあります。

配信劇「ハウス」とは

ハウス ロゴ

拡大するアートチーム・エリア51の2本目の演劇作品として無観客上演した、ZOOMを使ったマルチアングルでの配信演劇。2020年5月3日上演。

感染症によるさまざまな分断が起こる中、演劇はどのように続けられるか?というテーマのもと、インディーズ演劇の新たなスタイルを探る試み。また、自宅待機する私たちの生活・人生の"意義"を考えた。
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1:準備

◯企画発案

3月23日。門田に個人ラインでこう投げかけてみた。「配信限定の一人芝居の演劇やらない?」彼の反応は薄かった。「なるほどね 企画は面白いね」もちろん、この段階では中身は塵ほども練られていなかったので無理もない。

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として2月末に出された大規模イベントの自粛要請からおよそ一ヶ月。さまざまな演劇公演が中止・延期を発表する中、筆者はこのような状況下で演劇作品をつくることができないか考えていた。
そして、「極めて小さな規模で無観客で公演を配信したらどうか」というアイデアを思いついた。ほこりをかぶっていた演劇のネタ帳をひっくり返し、小さな演劇のアイデアを門田にたくさんぶつけたが、散文的なそれらに対し門田の反応は困惑気味だった。

3月30日。ひとつのアイデアが出た。それは「咳をすると手に色がつき、部屋で生活しているうちに部屋中がカラフルになっていく」というもの。かなり直喩的な内容だったが門田にはその熱量が伝わり、なんとなくのイメージがまとまった。

4月1日。解禁を予定していた別の企画の発表を延期させた。メンバーや制作担当と議論を重ねた上での選択だった。やはり、自粛要請がなされていることもあり、さまざまなリスクに対し不安を感じる部分が大きかった。「いま発表しても印象が悪いのではないか」「上演時に収束している保証はない」「関係者の理解を得られるか」「そもそも、我々の身の安全が心配」「集客は見込めるのか」等・・・外出禁止などの拘束力がない以上、せっかく練られて生まれんとしている企画を殺すのは避けたいが、リスクが大きいこともわかっていた。結果として発表延期を選んだが、それでよかったと思っている。

その選択によって、4月の予定がまるまる空白になってしまった。その焦りと、虚無感を打ち消そうとする高揚感から、配信劇の企画によりフォーカスする流れとなった。目標は、4月中に作品の発表をすること。そして5月には新作の発表へと移る。そんな展開が、我々には見えてきていた。

その後、企画のさらなるイメージ共有のため門田とやりとりを続けた。結果、「自宅待機がポジティブになるような作品」を目指すことが定まってきた。続いて、会話劇にしたいという発想から一人芝居ではなく二人の俳優を要することが決まった。一人は門田、もう一人は誰かに頼まなければならない。

4月3日。配信劇の制作部のグループラインを組んだ。制作協力として、新作「KAMOME」の準備から関わってくれていたアオイプロの伊藤さんを迎え、門田を含めた3人を制作部として発足。ここに、筆者による最初の投稿を引用する。

おつかれさまです!俺の勝手な思いつきにより始まった配信演劇企画の連絡ラインです。参加ありがとうございます。
さきほど、宗大と電話で話して方向性がなんとなく見えたのでメモ&共有します。
・いつ
4/20〜5月末の間
3〜4回上演(もしくは2回上演)
・どこで
 知り合いの家(神保、門田ともに探し中)無理そうなら家っぽいレンタルスペース
・誰が
 作演出:神保
 出演:門田+女性1人(探し中)
・何を
 1話30分程度の連続作品を、数回にわたって無観客上演し、ネットで配信する。できればZoomなどで複数カメラのライブ配信。
 やりたい演出は、部屋全体を模造紙で白く覆いつくし、芝居をしながら色をつけていくということ。最終話は模造紙をはずし、普通の民家で上演する。(ラストで大きな水槽とか出てきたらすごい)
・なぜ
 「おうち時間」として。コロナウイルスで外出自粛をポジティブにとらえてもらえるようなメッセージを発信したい。
・どうやって
 まず場所とキャストを決める。(期日未定)
 4/19までに全脚本完成。場所とキャスト確定。
・備考
 youtubeやzoomだけだと収益化むずい
 →noteに閲覧専用ページのURLを有料公開するのはどうか?投げ銭制でもいいかも?
 →観劇三昧に投稿
 でも、投稿されるのすごく遅いし、無観客演劇でも投稿できる?の問い合わせに対する回答がまだ帰ってこないのできわどい?

当初は、数回配信することを考えていたが、配信場所を借りるのにお金がかかるなどコストがかさんできたことや、連続配信より一度の配信で楽しめた方がいいと考えたことから、本番は一回のみの上演となった。

この投稿の後すぐに観劇三昧から返事があり、今回のような無観客演劇の配信を収録したものでも投稿できることがわかり安心した。参考となる例を送ってくださったり、丁寧に対応していただいたことはとても嬉しかった。観劇三昧のような、演劇作品のアーカイブが収益の場になっていることはとても素晴らしいことで、もっと支援や盛り上がりがあってもいいのに、と思う。それについてはまた別の機会に語りたい。

収益化については、無料で上演して、応援してくれる人から投げ銭(サポート)をしてもらう方向でまとまった。サポートは記事投稿プラットホームnoteにて募ることに。有料配信に踏み出せなかった理由としては、初めての配信で不安が多い・料金相場がわからない・観客としても観たことのない配信劇なるものにお金がかかるというハードルの高さがあるのではないか、などの懸念があった。

なお、予算は全部で10万円。内訳をざっくり記す。

・場所代 1万円
・人件費 計4万円
・機材費 1万円
・運搬費 1万円
・美術/小道具 1・5万円
・衣裳 1万円
・予備 0・5万円

あくまでざっくり明かした。支出の実際については後述する。予想収入としては、投げ銭が2万円程度入ったら嬉しいね、という形で予算を組んだ。赤字分は門田と神保の財布から。払えない分は次回公演に持ち越すことに。

こうして少しずつ形になりだした配信劇企画。ちなみに企画段階でのタイトルは「ペインター」となっていた。

◯配信劇とマルチアングルの可能性

4月7日。緊急事態宣言が敷かれ、人と人が密に接することに対する警戒感がより引き上げられた。この頃SNSでは、政府対応や劇場閉鎖等に関するさまざまな議論が巻き起こったが、同時に、動画を主としたコンテンツの制作が勃興し、アイデア合戦のような状態に突入した。演劇関係者も、その波に乗る。例えば、4月12日には劇団テレワークによるZoomでの演劇作品が公開された。キャストオーディションもZoomで行い、企画から公演までの全ての工程をオンラインで行った。特に、4月9日に発表された劇団ノーミーツの「Zoom演劇」と銘打たれた作品は、ツイッターを中心に大量拡散され注目を浴びた。今日ではWebコマーシャルに起用されるなどの広がりを見せている。劇団ロロも、Zoomを介した「通話劇」を4月19日から始動させた(こちらは短編連作として今後も続くそうだ)。

しかし、それらの演劇を観た筆者はなぜか、どうも「演劇を観ているときに働く脳」が作動した感じがしなかった。最後まで集中力を持続させることが、どうしてもできない。

オンラインでの演劇は、もはや映像作品なのではないか、という議論が交わされていた。そもそも演劇は、演劇という括り自体がかなり曖昧なもので、そのイデオロギーは演劇をする/観る当事者の主体性に強く依存するものだ。そのため、筆者個人としては、それが演劇なのか映像なのか、その問題自体にはあまり興味がない。ただし、重要なのは演劇をする(=私たち)側がそれを演劇とするか/なぜかそう考えるか、という点である。よって今回、演劇を配信するにあたって、これが自分にとって演劇であると断言できるだけの個人的根拠が不可欠だったのである。

どうしたら、かの「動かない脳の部分」を刺激できるか、頭をひねった。その結果、「演劇を観るときは観たいところを勝手に目が追っていた」ということに気がついた。そこで、兼ねてから考えていた、演劇をマルチアングルで収録する手法と組み合わせ、マルチアングルの配信劇を着想した。さらに、例のZoomを使えばマルチアングル配信が手軽にできるのではないかと考えた。その上で、配信の演劇で「観劇脳」をより刺激するために抽出したアイデアを、左記にまとめる。

・俳優は部屋の中を立って移動できる
・小道具を登場させ、それに演劇的な意味を与える
・舞台装置を用いて虚構というレイヤーをつくる
・さらに、装置の転換を入れる
・映像を投影する
・一回性が際立つ演出として絵の具などを取り入れる
・リアルタイムで起こっているというスリルを醸し出す

これらはあくまで、筆者が個人的に「配信の演劇でも観劇脳を刺激できる」と考えた要素である。これらは作品の意味性と深く関係している必要があったため、脚本を書く段階でメンバーの門田や制作の伊藤さんと話し合いながら練り上げていった。

4月19日に、ようやく完成した(遅い)企画書を一部抜粋する。

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今読み返すと、キスするというボツになったアイデアが書かれていてなつかしい。

企画書を書き、台本が出来上がっていく途中、筆者の中で「これは演劇ではないのではないか」という感覚が同時に立ち上がりつつあった。しかしポジティブに捉えるならば「新しい何か」であることは間違いなかった。

もし、このマルチアングルでの演劇の配信が、手頃に再現でき、観客の手応えもあったとしたら。それはウイルス時代のインディーズ演劇にとってひとつの活路となるのではないだろうか。そんな情熱をパドルに、深い霧の中へ漕ぎ出していった。

◯ロケーションとカメラ

配信や撮影に関してさまざまな疑問や不安があったため、門田の知り合いかつ大学の後輩である、映像制作のスタッフ3名に技術部としてチームに加わってもらった。撮影部に一人、録音部(クレジット時に音響部に変更)に二人。彼らともオンライン会議や電話、ラインでのやりとりのみで準備を進めていった。非常に前のめりで参加してくれて、アイデアもくれたし現実問題も考えてくれた。感謝してもしきれない。

撮影部の田邉氏とは、参加が決まったその日からかなり具体的なことまで細かく打ち合わせを重ねた。どんな場所で、どんなカメラとどんな回線を使い、何を諦め、何を目指すか。彼にはかなり実践的な景色がすでに見えていたように思う。対して筆者は、少ない予算の中でなるべく実現したいことを、雲を掴むようなレベルで伝えた。二線の交点を探ったが、それは果てしない試行錯誤の末でようやくたどり着くことになった。

最初に大きな障壁となったのは上演場所だ。まず友人宅をあたったのだが、コロナウイルスの影響下で民家を借りるのはハードルが高く、安めのレンタルスペースを借りることになった。検索時の条件をいくつか記載する。

・都内
・巨大な駅が近くにない(移動時に密集地域を避けるため)
・駅からは徒歩数分が望ましい
・演出上の条件(ワンルームまたはワンルームに見える、素朴だが清潔感がある部屋)
・美術仕込み上の条件(壁などの面が少なく、ほとんどが平坦)
・撮影上の条件(広く、被写体を囲むように撮影者が周りを移動できる)
・シャワー付き(キャストが色水で汚れるため)
・予算上の条件(安い)

厳しい条件のもと、ネットで数百件もの物件を閲覧し、数件に絞るまで数日を要した。ようやく1件、下見に行けたのが18日。ここで見た部屋Aは、ホテルとしても貸し出しているワンルームマンションの一室だった。

下見で作成した資料をもとに田邉氏と打ち合わせをしたが、狭さと家具の配置により理想のアングルでの撮影は難しいとのこと。オーナーに、家具配置を変えても良いか確認したところ、ベッドだけは移動してほしくないとのことだった。だが問題だったのはまさしくそのベッドの巨大さだった。

現場写真のコピー

寝心地は最高なのでベッドに罪はない。

筆者はカメラ配置案図や絵コンテを作成して送ったが、彼の反応は芳しくなかった。

カメラ配置案

カメラアングルコンテ

そこで再度同じ条件でレンタルスペースを検索し直し、2つの物件にたどり着いたのが4月20日。急いで下見をし、資料を作って共有したところ、結局、3つの中なら1件目の部屋Aが最良とのことになった。上演場所が確定したのは4月22日のこと。本番まで2週間をきっていた。

次に、撮影する機材についても問題があった。神保や門田はカメラを保有していないため、田邉氏の私物か機材屋で借りなければならなかった。機材費として計上していたのは若干1万円。当然、レンタルするには足りなすぎる。最終的には、私物のスマートフォン5台と田邉氏の一眼カメラ1台の計6台で撮影・配信することになった。一台を一眼カメラにした理由としては、いくつかがあげられる。

・劇の終盤でカメラが1アングルだけになったとき、高画質の映像が必要になるため。
・感度などをマニュアルで操作するため(スマートフォンはフォーカスや色温度などが自動で遷移してしまう)。
・Zoomが停止してしまった場合など緊急時に、マイクの音と映像を統合した1回線から流すことになるため、スマートフォンだけでなくPCを通す回線が一つは必要だったため。

そして、それらのカメラをどのようにしてZoomに接続するか、また、それを安定させるか。配信の環境に関するさらなる検証が待ったなしだった。

◯Zoomとの格闘

この企画の会議はすべてZoomで行われた。IDとパスワードを設定してアプリを端末に入れておけば、手軽にグループビデオ通話ができる。通信の品質はさほど悪くなく、音声が数秒途切れても、復旧した時に早回しで遅れた分を取り返すような処理がされる。違和感はあれど、通話する分には致命的ではなかった。

伊藤さんを筆頭にZoomの実験を何度も行った。本番を上演するにあたって必要な機能が使えるかどうか探ったのだが、設定が複雑でサイトの見方も難しく、実験は場当たり的に進んでいった。ちなみに、本番を上演するにあたってこれだけの機能が必要だった。

荒らし防止
・観客の音声発信を無効にする
・観客のビデオ発信を無効にする
・観客の画面共有を無効にする
・チャットを無効にする
・ホストが観客の異常行為や誤操作を制御する
配信機構
・配信側のビデオ発信は有効だが音声は一部を除き有効にする
・指定した配信画面だけを観客に表示する
・一時間以上の配信(有料アカウント)
・画面の配置を指定する

演出上必要な機構
・途中で配信画面を一つだけに絞る
・途中で音声出力元を変更する
・スマホでは4画面・4画面の計8画面を表示する
・PC/タブレットでは8画面を表示する
記録映像の収録
・配信に利用している端末ごとに画面収録をする
・ホストの画面(8画面が映っているもの)を収録する

「8画面」というワードがでてきた。使用するカメラは6台なのに、なぜ8画面なのか。それは、スマホでは4画面ずつしか表示することができず、また、観客の誤操作でビデオがオンになってしまっても乱入しないように真っ黒の画面を2つ追加しておく必要があるため、カメラの6画面+黒2画面で8画面となる。

一部を除き、ここにあげたような機能の大体は、ゆるく括ると「ウェビナー(ウェブ+セミナー)」と呼ばれるものに相当する機能だが、すべてを手軽に実装するには有料アカウントへの登録と、さらなる追加購入が必要になるそうだ。しかしなるべく有料アカウントの登録や課金は避けたい。しかし、一時間以上の配信はどうしても必要になるため、今回は稽古や本番、会議や実験で利用する際のZoomは、アオイプロで、もともと持っていた有料アカウントを貸していただくことになった。ちなみに、Zoomの仕様についてサポートセンターに縋る思いで問い合わせをしてみたが、待てど暮らせど返事は来なかった。

さて、設定を工夫し、有料アカウントに切り替えたとしても解消できない問題がいくつか起こったので列挙する。


・観客のビデオ発信無効
 →無効にすることはできなかった。ただ、オンになったビデオを強制的に停止し、以降のビデオオンを封印することまではできた。
・指定した配信画面だけを観客に表示する
 →不可能だった。逆説的に、ビデオがオンになっていない画面を表示させない方法をとったが、この操作は観客自身に委ねるほかなかった。
・画面の配置を指定する
 →スマホ版では会議参加順に表示されることを確認。PCでは完全に確認ができなかった。
・配信に利用している端末ごとに画面収録をする
 →ホストのみ画面収録とオーディオ録音が可能だったが、そもそもスマートフォン用アプリには収録機能が備わっていなかった。そのため、スマートフォン自体の画面収録機能を代用。(それにより起こった問題は後述)

よって、観客が操作しなければ解消できない点がいくつか浮上した。ここに、注意事項と操作案内を伊藤さんが簡潔にまとめてくださった(実際に観客への案内として公開した)ものを掲載する。

入場時注意

観劇時注意

非常にわかりやすく、見やすく仕上がっている。しかしながらこのように、結果として、用意できた環境では観客の負担をなくすことができなかったのが現実である。今後、仮に配信のイベントが増えたとして、こうしたイベント向けの配信ツールが出現することを願うほかない。

観客にとってはまったくの未知であるZoom演劇。慣れてしまえばこれらの操作はなんてことないのだが、ビデオ会議への参加に不安がある人は、「自分のビデオや音声が流れてしまうかも」「操作が間違っているかも」という不安が拭えなかっただろう。

しかし、正しく参加さえできれば意外と安定して見られることがわかってきた。4月25日。Zoomの通信に関する実験を行い、田邉氏に遠隔参加で取り仕切ってもらった。Zoomそのものの遅延や、複数端末を繋いだ場合のそれぞれの遅延について、さまざまな条件でテストを行い、6つの回線をどのように接続するのがベストなのか探った。

・条件1 スマートフォンをそれぞれのキャリア通信で接続する
・条件2 同一のWi-Fiに複数のスマートフォンを接続する
・条件3 スマートフォンをそれぞれ別のWi-Fiに接続する

やはり、同一の回線に複数台のデバイスをつなぐと通信が不安定になった。よってもっとも回線が安定したのは条件1だった(条件3に関しては同時に6つのWi-Fiを用意できなかったため完全に検証はできていないが)。ただしキャリア通信は会社ごとに最寄りの電波塔までの距離が異なることやコンクリートなどの障害物により、通信会社ごとに1秒以内のわずかなディレイは起こった。しかしこれはそこまで気にならない遅延だった。

本番時は、キャリア通信で接続できるスマートフォンを5台用意できた。しかしうち1台のスマートフォンは台所に設置したためコンクリート等の障害物が多く電波が悪かったため私物のポケットWi-Fiに接続した。また、一眼カメラの回線は現場のWi-Fiで接続することになった。これですべてのカメラを別々の回線でつなぐことには成功した。

残る問題としては、すべてのスマートフォンのマイクをオンにすると、音声のディレイが気になって仕方ないということ。また、スピーカーもオフにしないと、わずかだが音が出てしまっていて芝居に集中できない。この問題は、マイクを一箇所に絞ってほかのスマートフォンでは「オーディオに参加しない」ことで解消した。

実験時から本番の配信も含め、概ね通信状況は悪くなかったと思う。たしかに時折、ビデオが固まってしまったり、電波の弱いWi-Fi回線だと歯が立たなかったりもした。とりわけ酷かったのは、キャリア通信を使っている最中に通信速度制限が発生したときだった。あれはまったくだめだ。思い出すだけで笑えてくる。

しかし配信側に問題がなくても、視聴者側の通信が悪ければ当然快適には見られない。つまり、「観客の端末と環境によって観劇体験が大きく左右されてしまう」ことが最大の問題点として宙吊りになった。

◯配信でお金をもらう

視聴者が今いる環境、こればかりはどうすることもできないが、今後、配信演劇が発展するには何か打開策が必要となるだろう。なぜなら、「問題なく見られた」か「問題があって見られなかった」か、さらにはそれが「配信側の問題」か「観劇側の問題」か、切り分けるのは困難だし、観客一人一人に対して丁寧に対応することは現時点では不可能だからである。料金を頂戴した状態で配信した場合、その金額分の体験を提供できたかどうか確認ができない。その上どのようなルールを設けて料金をいただくか、その基準の設定は非常に難しい。
今回は実験的要素が多かったため投げ銭制での制作費回収を試みたが、配信劇という方法での演劇発表の土壌を恒久的につくりあげていくことを考えると、マーケティングの観点ではかなり成立させにくいのが正直なところだ。

若者の間で盛り上がり、今やひとつのコンテンツ業界となった配信事業は、基本的に投げ銭のスタイルで成り立っていることが多い。そのことからも、やはり前金をいただいたり、コンテンツ配信終了後に回収しようとするのは難しいのだろう。であれば・・・本番が終わった今だからこそ、いくつかの案が考えられる。

・リハーサルなどを配信し、スムーズに観られるか事前にテストする→問題なければ返金不可等の誓約を交わし、料金をもらう。
・観劇中に投げ銭してもらう。それにはもっと、作品と観客がインタラクティブに関われる演出がなされている必要がある。かつ、そうしたインフラも開発・適応される必要がある。
・性善説のパターン。あらかじめ料金はいただくが、観劇が満足にできなかった人向けに簡単な返金方法が用意しておく。見られたけど返金を要求する悪い客がいないことを祈って。

どれも現時点では現実味が薄い。しかしここまで抜本的でなくとも、あらかじめ観客とメール等でコンタクトをとっておき、配信終了後すぐに自動送信か何かで投げ銭を促すシステムがあれば、投げ銭制でも成立してくるようになるのかもしれない。そもそも小劇場の演劇自体、ドタキャンされてしまえば追って請求するようなことは基本的には、しない。そのことから考えても、やはり投げ銭で観劇料を支払うという文化が定着すれば問題ないのかもしれない。大道芸などと同じ発想だ。
スマホゲームなどで、追加課金によってアイテムが増えるなどのシステムが出始めた頃、大半のユーザーはアレルギー反応を示したように感じるが、今でこそゲームの課金は大きなマーケットとなっている。すなわち「慣れ」「馴染み」こそが、今後の配信×演劇の市場問題を解決していくかもしれない。

しかし、ふと考えることがある。北は北海道、南は沖縄まで、あるいは海外にいても、演劇作品を同時に見ることができるということ。この可能性は非常に革新的だと感じる。

2:製作

◯オンライン稽古

4月23日。オンラインでの稽古が始まった。本番2週間をきっているが、キャスト確定が21日だったためこれが最速だった。稽古場であるZoomを開いてもらい、時間になるとサインインしていく。新体験だった。オンライン稽古を仕切るにあたって開始前から考えていたことがいくつかある。

・休憩はこまめにとりたい
・稽古時間は短くして、日数を多めにする
・稽古開始時に、情報共有の時間を入れる
・稽古終了前に、情報共有の時間を入れる
・台本の変更などが起こった場合は訂正部分を必ず文章で送る
・オンラインよる遅延は避けられないから、会話のテンポや間に関するオーダーは極力避ける

結果、オンライン稽古自体はかなり効率よく進行できたと思う。
つづいて、メリットとデメリットをそれぞれまとめた。

メリット
・休憩の質が高い(休憩時、完全にオフになれる)
・稽古場に移動する時間がかからない→時間の有効活用につながる
・稽古場を開ける、閉めるなどの手間がない
・見学が手軽にできる
デメリット
・稽古中の無駄な会話が生まれない(楽しさ半減)
・接続が不安定だったり、一度切れてしまったりした時、無駄に時間がかかる→そういう時は一旦休憩にした
・脚本や演出に関する小さな質問などはしづらかったのではないかと思う
・周囲への音の配慮

稽古中や稽古前に気づいたことはこれくらいで、いま振り返ってみると、反省点や問題点はいくつかある。

そもそもの話ではあるが、立ち稽古はとても重要だということが身に染みてわかった。やはりどれだけ事前にミザンスを練っても、机上の空論でしかなく、俳優二人とイメージをしっかり共有できたのは現場で会ってからになった(オンライン上でミザンスを伝えても、より混乱させるだけではないかと思い、超最低限に留めていた)。

また、これは筆者の手腕未熟によるものだが、小道具の置き場を考えられていなかったのは痛かった。オンライン稽古の段階から練られていれば、俳優もより具体的にイメージできたと思う。しかし、立ち会っての稽古であれば、道具を置いたり準備したりするところを見て「あー、置き場も考えなきゃなあ」とか思い至ったであろうことから、やはりオンライン稽古の難易度の高さを感じる。

さらに難しかったのは、稽古中、今起こっている芝居の不和が、タイムラグにより仕方なく生じているのか、二人の芝居の方向性が噛み合っていないのか、演出の意図を汲めてないのか、そこを判断する必要があったという点だ。あまりに判断が難しかったり、大きな破綻が起こっている場合は、率直に質問した。それでも、オンライン上での稽古のみであそこまで会話を練り上げた二人のセンスと技術には敬服した。二人でなければ、うまく行っていなかった部分は多々あっただろう。

さらにここで特筆すべきことは周囲への音の配慮について。ぬりえを演じた大須さんは、稽古中盤以降、自主的にビニールの簡易防音室を購入し自作してくださった。声量を気にせずに稽古するにはそういった設備が必要になることがわかった。

稽古中に消防車の音が聞こえてきたり、自宅に荷物が届いたり(某家具販店で購入したサメのぬいぐるみが届いたりした)ハプニングはあったが、それはまあ楽しめる範囲内だった。

◯音声と映像

音の問題といえば、劇の配信でも、音響部の二人によって技術的にひと工夫もふた工夫もなされている。

まず、前述の通り複数台のスマートフォンのマイクをすべてオンにしてしまうと、わずかなタイムラグが致命的な違和感になってしまうことから、音声を出力するアカウントを一つに絞ることが前提となる。さらに、スマートフォンのマイクでは音質や集音力の問題があって頼りないため、ピンマイクとバウンダリーマイクを仕込むことにした。つまり、マイクを使うということは、変換器や中継機を通して、スマートフォンだけではなくPCからも配信する必要があるという結論に至った。

さらに、音声に関わる難題といえば、台本にもあるように、途中で「投影映像」が流れるところだった。筆者はてっきり映像を使うということは映像の音声は音響のほうに流れるよう考えてくれるだろうと思い込んでいたが、ふと思い立って技術部のライングループで確認したところ、そもそも最新版の台本が共有できていなかったことが判明し、音響部は映像を投影することを把握していなかった。この時すでに4月28日。回線や機材を一から練り直す事態となり、本当に申し訳ないことをした。

必要となる回線経路は実に複雑だ。PCで再生した映像をまず映像と音声に分け、映像はプロジェクターへ、音声は別の系統に出力してZoomへ流す。かつ、その音声はラストで残る一台のカメラの回線と同じ系統でZoomに出力されなければならなかった。詳しくは、実際に使用した音響機材・映像機材の回線図を、音響部志村氏と撮影部田邉氏の協力のもと作成したので参照していただきたい。

▼音響回線図

音響回線図 清書

▼映像回線図

映像回線図 清書

音響回線図では右側/映像回線図では中央下部の「Blackmagic Design Web Presenter」とあるものが、映像の音声とカメラの回線と統合する機械だそうだ。
ちなみにマイクは音響回線図左側にある3本。カメラは映像回線図左上の「BMPCC4K」とあるもの。

ちなみにスマートフォンの映像はそれぞれネットに直接繋がっているためここでは割愛する。
こうすることで、映像投影すると同時に会場のマイクを切り、Zoomには、事前に用意した映像の音声のみが流れるようにできた。短期間で複雑な回線を構築してくれた技術チームには頭が上がらない。

◯大転換

配信劇「ハウス」では物語のラストで、虚構から現実へ橋を渡すための仕掛けとして、大転換が待っている。部屋全体を覆う白い模造紙が一瞬のうちに取り払われて、つぎにカメラがぐるっと回った時には、日常感ある白壁や隠されていた家具や扉の色などが見えて、メタレベルが徐々に地上まで降りていく。この仕掛けを、この配信劇の醍醐味として実現するべく、実に悪戦苦闘した。

絵の具水を使うため、防水用にプラダンとビニールシートを下に敷き、かつ、素早く回収するべくビニール紐を這わして引っ張って外せるよう設計した(アイデアは美術協力のジョニーとラインのやりとりで練った)。

美術プラン

現場での時間短縮のため、前日に大方のパーツを作って搬入することになったが、プラダンを切って模造紙を貼るという作業が思いの外大変で、予定していた工程をすべて踏めずに現場入りすることになった。

詳しくは後述するが、残念ながら仕込みが上手くいかず、ほとんど無理やり剥がすことになった。念のため多めに買っておいた白いビニールシートが手軽で大活躍してしまった(協力してくれたジョニーのせいというわけでは断じてない)。結果、配信越しに見るとそこまで違和感はなかったものの、素材の統一がとれず、かつビニールが無菌室のような無機質さ(韻ふんじゃった)を強調させてしまった。しかしまあ、どのみちベッドには白布を使っているし、さまざまな素材がアトランダムに配置されている様がかえって生活感を醸し出せたような気もする。結果オーライか。

じつは、前の項で述べた投影映像を撃っている間は会場の音を使わないというのは、この転換を成立させるために生まれたアイデアだった。少人数で短時間で転換しなければいけないため、大きな音は出るし、息を合わせるためスタッフ間で声も出さなければならない。よって本番時は、マイクが切れた瞬間に「オフった!」「オッケー!」「はいコッチ持ったァ!」などと叫びだし、ムードもへったくれもない騒々しさの中で転換が行われた(数分間、集中力を切らさなかった俳優二人に感謝)。転換を手伝ってくれた技術スタッフ3名、手伝いで駆けつけてくれた2名、制作の伊藤さん、つまり全員・・・本当にありがとうございました。

イメトレだけは何度も練習したが、仕込み直す時間が取れないため、実際に転換ができたのは本番の一回のみ。よく言えばスリル満点、プロとしては赤点以下である。

この転換をどのようにスムーズにするか、練りに練って検証も行ったが、結局、本番規模で同様の人手でやってみないことには細かい部分は想定できず、現場リハーサルの大部分をこの転換練習に割いてしまった。

◯コロナウイルスの静かな影響

これはまったく個人的な話になるのだが、稽古や準備のことで頭がいっぱいになり、月末が近づくにつれてお財布(比喩でなく現実の筆者の財布)がかなり寂しくなっていた。それに気づいたのが4月28日ごろ。カードの支払いや家賃の支払い、できなくね? という、かなり崖っぷちのところまで来てやっと気づいたので目も当てられない。
というのも、2月半ばごろから、コロナウイルスの感染拡大に伴って外出自粛とアルバイトの自粛を行なっていたからだった。自業自得ではあるのだが、勤務先で休業補償や自宅待機命令などの話が出ていなかったため、電車通勤への恐怖もあって自主的にバイトを休んでいた。この状態が続いて2ヶ月。出ていくばかりの生活費に、じりじりと追い込まれていたのだった。

給付金や貸付などの情報はずっと気にしていたのだが、正確な情報を見つけることができないまま時が過ぎ、4月末に家族や知り合いと相談してようやく当てはまりそうな救済策をキャッチ。いそぎ役所で書類を揃えなければならなくなり、結果、4月30日は予定していた稽古をリスケするはめに。

やはり、コロナウイルスによる影響は大きかった。この企画自体がコロナウイルス影響下でこそ意味のある企画であったため野暮なことは言わないが、それでもやはり動きづらい部分は多かった。買い出しの時に世界堂が全店休業していることを知った時、我々がいかに世界堂に助けられていたか身に染みて思い知った。そして、もっとも気になったのはやはり現場入りした時だ。

スタッフも俳優も全員つねにマスクを着用し、窓と玄関は全開。よって周囲への配慮で、稽古は声量に気をつけて行われた。かつ、仕込みの際、技術部が気を使って人が密集するタイミングをずらそうと努めてくれた。

あくまで企画趣旨を理解した上で参加してくれた有志の集いではあるが、各自でアルコール消毒(制作でも用意はしていた)を持ってきていたり、それぞれ適切に感染防止に配慮した行動を取っていた。ただ、制作側として配慮が不十分だった点として、待機場所を用意できなかったことが挙げられる。予算の都合上仕方なかったのではあるが、ただでさえ密集を避けられない作業環境の中で、そこは予算を開けておくべきだったと深く反省している。

◯センシティブな広報

時世柄、人々は今まで以上にネットで情報を入手する機会が増えたと考えられる。つまり主に文章・画像によって情報が伝わっていくということで、広告を出す際、公式の情報では文章や画像への配慮がいつにも増してセンシティブになっていると感じた。前項と同じく企画の趣旨から逸れたことは述べないが、「誤解されてしまえばそれで終わり」という危険な企画でもあることは言うまでもない。

稽古前日に、大須さんとビデオ電話で話したときに、彼女は「この劇を見た誰かを傷つけるのではないかという恐怖がある」と本音を語ってくれた。筆者は、観た人がポジティブな気持ちになるような作品にしますと伝え、その通り誠意を持って企画を進め、準備もしていったが、果たしてこの思いが完遂できたかといえば結果は分からない。
配信劇「ハウス」が三密回避してないことから、演劇自体がより危険視される可能性もある。俳優やスタッフの安全が気になってしまい不安にさせる可能性も拭えない。我々にできることは、この不安も情熱も飼いながら演劇に正面から向き合って、時代と共存する道を探ることしかない。
この企画を思いついた時に、いや待て、と止まることももちろんできた。そうするべきだったとも言える、失敗も反省も山ほどある、しかし、こうして出来上がった未知の何かが、紛れもない共存への一歩であることを強く信じている。得られたものは非常に大きかった。企画をやる前と今とでは、何もかもが違って見えるからだ。

演劇とはまったく、誰のものであるのかはっきり分からない。作り手のものなのか、観劇者のものなのか、演劇界や歴史のためか、世界や未来のためなのか。ただ配信劇「ハウス」が筆者にもたらした影響は大きかった。意識的に感染を回避しつつ、人生における彩りを求める方法を探ることができた。その点からすると、配信劇「ハウス」は筆者のものだったのかもしれない、少なくとも筆者にとっては。

もしも、この劇に出会した観客の中で「わたしのものなのかもしれない」という感覚が芽生えたなら、当然それはその人のものでもある。
誰のものでもないわけでは決してない。必ず誰かのものではあるが、みんなのものでも決してない。その曖昧な当事者意識は行く先々で、言葉を氾濫させ、いたずらに人々に影響してしまう。

演劇を企画する時、筆者は作品の意味や面白さとは別軸で、広報面での面白みを並立して考える。なぜなら演劇とは人間の営みと密接に関わっていることであるし、人間の営みとは世界と連動している。世界がこの作品にどんな意味を見出せるか、それを想像することで広報は生まれる。いわんや作品が面白くても広報が「面白そう」でなければ意味がないし、逆も然りであって、それらは常に右足と左足のように同時に生まれて進んでいく必要があると筆者は思う。
すなわち、この劇の面白み=広報としての面白みであり、またその逆でもある。よって、この劇は企画を発表した時にもう半分はその世界視点的な意味が決まりつつあると言っても過言ではない。

前置きが長くなった。つまりここで言いたいのは、だからこそ、広報とは非常に繊細であり、とりわけ、今回のような諸刃の企画ではよりセンシティブだったのである、ということだ。

先日筆者の個人ツイッターで、政権を批判する趣旨のつぶやきを投稿したところ、ハッシュタグの盛り上がりに合わせて500リツイート、1400いいねの反応があった。インプレッションは十数万にのぼる。それはかなり汚い語調のツイートで、まさしくヘイトツイートそのものだった。
一個人の私見であれ、拡散されあたかもひとつの情報源や証言のように出回ってしまう時代である。正直、恐怖を感じたし、財布の紐ならぬ口の紐を縛っておかなければと思った。(ちなみに「ハウス」の情報解禁公式ツイートのインプレッションは現時点でも4000ほど。悔しいが現実である。)

言葉ひとつを取って拡散され、その場で議論が起こるインターネット。明るい場面もあれば醜い争いの場面もある。作品に関して議論が起こるのは歓迎だが、広報で議論が起こると表現の萎縮につながる。ワイルドな気持ちでそれさえも取り込んだり跳ねのけられる強さがあればいいが、チームとして動く以上は士気や精神面を案ずる上でやはり気にせざるを得ない。

さて、このようなセンシティブな企画にもかかわらず、多くのニュースメディアに取り上げていただいたので、感謝の意味も込めて掲載する。

・SPICE/e+
・最新エンタメニュース
・ステージナタリー
・ヤフーニュース
・ライブドアニュース
・music.jpニュース
・ニコニコニュース など

また、広報面でも奔走してくださった伊藤さんに改めて、この場を借りて感謝申し上げます。

◯劇中映像

劇中で壁に投影する映像に関しては、納得いく質のものができた実感がある。旗揚げ公演「ノゾミ」の時からタッグを組んでいる廣戸氏に編集を依頼したのは4月24日。27日に映像用の脚本が上がり、コンテを用意できたのは28日だった(次ページを参照)。彼とは以前から趣向が合い、込み入った打ち合わせがなくても呼吸が揃う。ありがたい出会いだ。そのありがたさに甘え、映像が揃う期日を5月2日、なんと本番前日の昼までとさせてもらった。

俳優二人に協力を仰ぎ、大須さんは自宅でセルフ撮影してもらい、門田は広い公園で数カット撮影して準備を進め、あとは現場入りして二人が出会ってすぐに残りの数カットを撮影して素材を揃えた。

劇中映像コンテ

SNSをはじめ、リモートで撮影した映像作品の勢いが止まらない。さまざまなアイデアが試され、その品質の向上速度は凄まじい。じつは門田も、川島直人監督の映画作品『12D815-6』にリモート撮影で主演として参加し、「ハウス」の稽古と並行させていた。彼曰く、いままでの撮影の中で5本の指に入るほど大変だったとのこと。とりわけ、自分を鼓舞してくれる存在が近くにいないことや、データ送信にまつわる障害や不具合、カメラのセッティングなどに骨を折ったようだ。

次はいよいよ現場入り。その前に、予定していた2日間のスケジュールをここに掲載しておく。

ハウス小屋入り1日目

ハウス小屋入り2日目

3:現場

◯1日目

5月2日。いよいよ配信の現場であるレンタルスペースに入った。前日までに車に積んでおいた機材や美術などを、朝から搬入した。
大須さんが入り、劇中映像の撮影をしてから稽古開始。稽古とはつまり、初めての立ち稽古のことであった。のっけから、小道具の置き位置や扱いなどの未解消問題に次々ぶつかりながら、荒波を乗り越える思いで進めていく。

昼休憩、昼食をとりつつ手分けして美術の下準備をはじめた。壁をテープで傷つけないようマスキングテープを貼っていく。ここで誤算だったのは、壁の素材がマスキングテープと相性が悪かったこと。スペースのホコリもあって、特に天井は貼っても少しずつ剥がれてしまう。雑巾で拭いてから貼るという作業をしているうちに、あっという間に休憩は終わってしまった。

夕方の予定としては、技術部が合流して、カメラアングルを相談しながら決定するというものだった。しかし、稽古も全て終わっておらず、撮影部の介入する余地を与えることができないまま、ズルズルと稽古が続いていた。
日も暮れだした頃、稽古はラストシーンに差し掛かっていた。床にしゃがむという動きをつけていた時、田邉氏からそこは画角に入らないと提言された。そこから、さまざまな緒問題点へと話は膨れ、演出と撮影の問題点を洗い出すため稽古を一時中断。本来であればその時点で美術の仕込みを始めていたかったが、カメラの位置も決まらないためアングル問題の解消が先決だった。

事前に共有してあったカメラ配置案をもとに、スタンドインしてもらいながら田邉氏と相談しアングルをひとつずつ決めていく。会議で決めていたことは、「カメラ同士がなるべく映らないようにするが最悪映ってもいい」ということ。しかし、イマジナリーラインをどのように設定するか等、マルチアングルでも観客が混乱しないようカメラ配置を工夫する必要があった(映像撮影の知識不足ゆえ当日ぶち当たった壁)。

さらに投影映像をどのように映写するか、十分に決められていなかったためその場で検証をしなければならなかった。転換に人員が駆り出されるためプロジェクターを人が支えておくことはできず、結局、機転を利かせて田邉氏が持ってきてくれていた照明用のポールと留め具を使って天井に吊ることになった。

ちなみにマイクは、バウンダリーマイクを部屋の天井にテープで固定し、二つのピンマイクはテーブルの裏と台所のレンジフードの上に設置していた。

撮影部の要望としては、芝居を通しで見たいということ。あらかじめ共有していたスケジュールにはその時間が盛り込まれていなかったため、それから、減っていく時間の中でどのように進めていくか打ち合わせをした。撮影部としては芝居を見てからアングルを決め、カメラを仕込みたい。でも通しで稽古をする時間がとれないため、カメラは議論と検証のみで決めていく必要があった。

カメラ配置が決まると、美術仕込みが始まった。技術部も総出で手伝ってくれた。
仕込みが早く終わればカメラテストを含め稽古ができたのだが、仕込みは終わらなさそうだった。その日は大須さんを早めに帰し、美術と配線まわりを仕込んで23時過ぎに全作業を強制終了。
結局、予定していた水風船の実験通し稽古をすることができず、大問題であった転換の練習も1度もできず、それはおろか美術の仕込みも終わらぬまま解散した。

翌日の入り時間を決めるため技術部を含めて屋外で立ち話をした。話の軸となったのは転換の練習・ゲネプロ・美術仕込みの時間をどう取るか、であった。また、水風船投げをやるかどうか(投げたら仕込み直さなければならないため)、そして投げたら俳優が汚れるのでシャワーを浴びる必要があるということも問題だった。シャワールームが機材置き場になってしまっており、技術部としてはゲネの後にシャワールームを開けるのは時間もかかるし機械トラブルのもとになるとのことで却下、近くの銭湯を提案されるが制作的には絵の具だらけの俳優を銭湯に行かせることへの抵抗もあり、話は混迷した。最終的に、水風船は絵の具ナシでただの水入りのものを投げることでシャワー使用を回避することにした。

そして肝心の入り時間だが、狭いスペースかつ密集を避けるということもあり、技術部はなるべく遅く入ることを希望した。それによって再び、撮影部不在の状況で翌朝稽古をすることになった。アングルは今日時点のもので決定とし、俳優のミザンスをそれに合わせ変更する作業が必要になった。
さらに、人手を増やせないかと提案され、急遽、田邉氏の友人一人と、エリア51メンバーの鈴木に駆けつけてもらうよう依頼することになった。

そして翌12時半から転換の練習を開始できるよう劇場入りしてもらうことを伝え、我々は車や終電へ散って行った。深夜、スケジュールを更新し、グループラインに投稿した。

そしてこちらが、変更後のスケジュールで、

ハウス小屋入り2日目B

こちらが実際の進行を、記憶を頼りに再現したもの。壊滅的である。

ハウス小屋入り2日目C

スケジュール通りには行かないだろうと思ってはいたが、正直ここまでとは予想外だった。

◯2日目

5月3日。ついに本番の日。スケジュールの画像をご覧いただければわかる通り、地獄の1日となった。
筆者と門田、伊藤さんは8時に入って美術仕込みの残作業を行なっていた。筆者は昨晩、決定版のミザンスを練りながら、この企画の中での優先順位を決め、的を絞ることを考えていた。すべてを実現しようとすると、このままでは何もかもが破綻する予感がした。よって、実現はしたかったが最も高いハードルとなっていた転換を一部簡略化することを想定していた。

大須さんが合流し、前日に起こったミザン上の問題を解消。ここでも通しをやりたかったがやれず。

技術部が到着したのはほとんどちょうど12時30分だった(反省会の時に分かったのだが、スケジュールを読み間違えてしまったらしい。詳しくは後述する)。間に合うのかな? と思いながら稽古を進め、なんとか時間内で問題点をさらい終えたところで、転換の練習行けますかーと声をかけたところ、まだですとの返事があった。筆者はどうしたものかと思いさすがに語気を強めて進行した。30分あればできるらしいので残った30分で美術の残作業に取り掛かった。

今回、人員削減のため舞台監督を置いておらず、タイムキーパーが不在だった。よって現場はそれぞれの作業の足並みがなかなか揃わず、あっちが整えばこっちがまだ、こっちが終われば今度はあっち、という具合に予定が押しに押し、撤収の練習を始められたのは最初の予定より1時間ほど遅れてしまっていたような気がする。混乱の連鎖が始まったのはここからだ。

準備が整ったところで、筆者は昨晩考えた簡略化案を伝えた。厳密には、カメラがぐるっと回るのをやめ、引けるところまで引くことで、転換したということを見せる、というものだった。しかし田邉氏はカメラが回って周囲を写す点に強いこだわりを見せた。理由は当然、それでは転換したことが十分に伝わらないという点だ。模造紙が白く、もともとの壁も白いため、画の変化が乏しくなることは明白だった。
話が平行線になりつつあったが、諸問題を工夫とガッツで乗り越えてみることにした。もちろん、筆者も本当は叶えたいというジレンマを抱えていたので、ここは腹を括って挑んでみることにした。
転換の変化を強調させるために、照明でも工夫を施した。転換前の明かりを、田邉氏が持ち込んだデイライトの照明機材で白っぽくしておき、転換後はスペース既設照明のタングステンに切り替えることで、色味で変化を演出することに。また、カメラが俳優のまわりを回る際に絵の具を踏みベッドに上がれない問題は、クロックスを履いて歩き、ベッドに登る時に脱ぐということで解消した。大幅に時間を押しながらも当初の案通りの転換の実現を目指しトライ&エラーを繰り返した。

キッカケや手順を細かく決めながら、役割を分担していきつつ、体当たりで検証を進めていき、ようやく現実的なラインまで持っていくことができた。しかし、この時点でまずゲネの開始時間を押すことになった。そこで撤収の練習はエアーだけで済まし(仕込み直す時間を削減するため)、急いでゲネの準備をすることに。しかし結局、美術を中心とした準備が間に合わず、ゲネさえも十分に時間がとれなくなる可能性が出てきた。

そこで、断腸の思いで本番の時間を押すことを決めた。現場に、敗戦を告げられた旅団のような空気が流れたのを鮮明に覚えている。

俳優部が、見てくれるお客さまへの連絡を気にしていたこともあり、一旦全体の作業を中止。30分程度、各自作業の時間を設けた。
ゲネは、全部を通しで行うことができなくなったため、筆者が仕切りながら重要な部分(アクティングの空間が変わるところや、道具が移動するところ等)をかいつまんで止め通し的に進行することに。Zoomを実際に稼働し、筆者はスマートフォンで中継を見つつ実物の俳優を見て、見落としがないか確認していった。そしてやはり、ラストの転換のところでストップがかかり一時中断した。キッカケがハッキリしておらず、現場の統率はまったく取れていない状態だった。さらに途中、壁のプラダンが剥がれ落ちてくるという戦慄のトラブルがあり、修正にさらなる時間と労力を求められることに。

ゲネもどきを終え、すぐにそれぞれ本番準備に取り掛かった。本番用の小道具の準備や家具の養生など、もはや俳優も技術部も関わらず総動員した。また各自、配信用にスマートフォンを預けて、ロックを解除したり通知を切ったりする作業も並行していた。そして、ここでようやく、初めて美術が完成した。天井から床まで、あらゆる面を模造紙やビニールシートで覆った。圧巻だったが感動する余裕はない。

そして、本番直前。本番開始時のきっかけを誰が出すのか決められてなかった(陳謝)ため急遽演出を変更、冒頭に入れる予定だった客入れ待ちの芝居をカットして、いきなり挨拶から開始することに。
本番開始の1分前までバタバタして、さらに目の前に観客もいないという妙な手触りのなか、我々は本番に突っ込んでいった・・・

本番で起こったことについては、視聴者に届いたものが全てだと思うので詳しい記述は控えさせていただきます。

4:反省

◯技術部の反省点

時は経ち、5月7日。本番を終えて数日、制作部は反省会を開く準備や、アーカイブに向けて動き出していた。この日は技術部2名と制作、演出の4名で技術面・制作面の反省会を行った。目的は、「インディーズ演劇の新たなスタイルとして成立するかを確認するべく反省点を共有する」こと。やりたかったことができたかどうか、なぜできなかったか、どうしたらできたか、について、大きくは予算面と技術面で振り返る。

まず、予算に対し実際の支出がどうなったか、ざっくり記載する。

・場所代 2万円
・人件費 計4万円
・機材費 1万円
・運搬費 2万円
・美術/小道具 1・8万円
・衣裳 0・8万円
・予備 0・9万円

予算10万のところ、支出は12・5万。計2・5万円のオーバーだ。しかし、予想より多くのサポートをいただいたため、飛び出した分をカバーする形で、当初想像していた赤字分と変わらない形となった。改めて、サポートしてくださった方に感謝申し上げます。

技術部の反省点として、撮影部の田邉氏から反省会用にもらったアンケートの回答を一部掲載する。

・スタッフが足りない
・共有不足
・芝居を見る時間がなかった
・配信に必要な回線や設備
・シュミレーション不足(ワークフロー)
・事前確認と検証(アーカイブとか各カメラとか)
・配信チームがいてほしかった
・タイムキーパー
・ロケ地が狭い
・控室とかシャワーとか荷物置き場とか
・ロケハン
・打ち合わせ不足(クリエイティブ)
・本番中キュー出し
・緊急時対応策
・現状復帰
・私物をレンタルで借りた場合2day5-6万

部分的に、今回の企画意図的に仕方なかったところもあるが、彼のリアクションは至極真っ当だ。

ここで特筆したいことは、「共有不足」と「ロケハン」について。反省会の途中で、本番の日の練習開始時間が遅れた事件について彼のほうから言及があった。話しているうちにわかったのが、彼らが言うには、タイムスケジュールの読み方が紛らわしくて時間を誤解してしまっていたということだった。

今回起こったことの根本的な問題として、演劇の畑で育っている筆者含むメンバーたちと、映画の現場で育った技術部の彼らとで違いがあったことがあげられる。物事に対する認識はもちろん、大事にする部分も違えば許せる部分も違う。危機感の持ち方、嗅覚、共通言語が違っていた。反省会の時に「ゲネってなんですか?」と聞かれた時に、地球がひっくりかえるような衝撃を受けた(話の文脈やスケジュール表などを見て大体の意味は理解していたそうだ)。そうか。ゲネという言葉も、演劇の言葉なんだ・・・。

今回のような、演劇とは異なる領域で知識を培ってきた専門家と手を組む時は、まず「共通言語がない」という段階から意識的に言葉を交わしていく必要があったのだ。それを怠ったために起きた衝突や行き違いが多々あったことは否めない。

また、技術面に関しては彼らに引っ張っていってもらう気満々でいたうえ、彼らがあまりにも頼もしかったため、仮にも彼らが年下であることを忘れていた。たびたび気を使わせてしまっていたことが反省会で分かり、申し訳なく思った。

そして、ロケハンがいかに重要だったかという点について。今回、ロケハンに行ったのは筆者のみで、そこで見た情報は写真や文章、会議で技術部や制作部に伝えていた。しかしそれではやはり不十分だった。

もし、制作部と技術部を連れて1回でもロケハンに行けていれば、控室の件や道具置き場の件を再検討し、さらには撮影し忘れていた現場復帰用の写真なども怠ることないよう気をつけられていたかもしれない。さらに、現場のWi-Fiのスピードチェックもできただろう。したところでどうすることもできないのが実情ではあるが、安心感と言う意味でも必要だった。プロジェクターの設置場所も事前に練ることができたし、もっともロケハンによって恩恵があったであろうポイントは、アングルを定めるためのタイムロスをなくせたという点だ。

ロケハンとはいえ、レンタルスペースには料金を支払うことになっただろう。もちろん予算と相談ということにはなるが、相談どころかそもそもロケハンが予算に組み込まれていないこと自体が今回の問題点だった。

つぎに、音響部・志村氏からのアンケート回答を一部抜粋する。

・配信における音響的表現においての話し合い不足
・ZOOMを使用した「聴ける音声」の対策、または下調べが不十分であった
・美術、装飾の理解が不十分だったためマイクの設置場所を当日決める不安定さ
・マイクを保護するための防水対策をもう少し考えること
・配信する際の周囲の環境への配慮が足りていなかった(交通量、その他音が鳴る施設、隣室への配慮)
・全体的に各部署の動きの把握ができていなかった。
・プロジェクター設置時のバウンダリーマイクへの影響。
・ベースノイズを極力カットする努力をしたが結果的には満足のいく結果ではなかったこと。
・高周波数帯の音声はひずむ可能性大→中音域帯を活かす工夫をする
 →HPF/LPFの使用
・配信、視聴するインターネット環境により音質が大きく変動するため、安定している回線を使用すること。

志村氏との間での反省点の多くは、構築的な打ち合わせ不足ではなく、音の趣向だとか、演出的な部分の共有が十分にできていなかった点だ。たとえばベースノイズや環境音に関してはほぼ現場で言及することになった。マイク位置を決めた後にプロジェクターを吊ることになり、その位置がマイクと近くなってしまうという場面があった。筆者が排気音を拾ってしまうのではないかと確認したところ、調整してノイズをカットしてくれた。

アーカイブ用に収録した音声は、マイクで録音したものではなく、Zoomで実際に配信したもののみになった。理由は打ち合わせ不足だ。音声のみでなく、アーカイブ収録そのものの打ち合わせや検証がほとんどできておらず、その結果、カメラ6台中、1台は途中で収録が途絶え、1台はそもそも画面収録機能がないスマートフォンだった。
さらに、撮影できているスマートフォン4台に関してもメールやアプリの通知が出現してしまうなど、十分な質が確保できなかった。アーカイブとして編集・公開する際の手間が増えてしまった。ただ、Zoomのホストの配信画面は問題なく収録できていた。しかし、この配信画面は忠実に配信の状況を収録しているため、誤操作でビデオをオンにしてしまった観客の映り込みも反映されている。ここもまた、要編集ポイントである。
観客の誤操作についてだが、こちらで確認できているのは1件のみだった。しかし、観客ひとりひとりの観劇体験がいかなるものだったか、という点については把握しきれない。そこで、Web上でアンケートを実施することにした。

◯上演データとアンケート

視聴者数は最大124名、平均約103名。アンケートの回答数は12。回答率は約10.3%と伸び悩んだ。視聴終了後にアンケート記入を促す準備ができていればよかったのだが、撤収や搬出などに制作部を駆り出したため今回は不可能だった。瞬間最高視聴数とか記録してれば面白かったと今更後悔。

以下、質問項目と、回答数や回答例を一部抜粋する(文字数の都合上省略や言い換えを施しています)。

質問1:視聴された端末を教えてください。(回答数12)
・iPhone 83.3%
・アンドロイド 0%
・PC アプリ 8.3%
・PC ブラウザ 8.3%
質問2:視聴環境に対する感想をお聞かせください。(回答数12)
・スムーズに視聴できた   25%
・入室に時間がかかり最初から視聴できなかった     16.7%
・音声に問題があった    58.3%
・映像に問題があった    8.3%
・Zoomの操作方法が分からなかった 8.3%
・視聴できなかった 0%
・その他 8.3%
質問3:視聴環境についての問題点を詳しくお聞かせください。(回答数11)
・いい所で映像なり音声なりが固まったりすると集中力が切れてしまう。
・お芝居を見ているときにズレがあると少しストレスを感じてしまいます。zoom以外のツールでも試してみてもよいのではないかと思います。
・開演時間が分からなくて気付いた時には始まってしまっていました。
質問4:配信劇「ハウス」について、いかがでしたか?(回答数12)
 面白くなかった
 1
 2
 3
 4  8.3%
 5  8.3%
 6  16.7%
 7
 8  33.3%
 9  25%
 10 8.3%
 面白かった
質問5:ご感想をお聞かせください。(回答数10)
・今のこの状況を彷彿とさせるような演劇で、とても辛く、綺麗で、美しかったです。マルチアングルでの演劇というのも初めて体験しましたが、実際に劇場で見ているかの様に、自分が見たい視点で見ることが出来るのはすごく面白かったです。しかし、演者が叫ぶシーンで配信の音声が聴き取り辛かったのが少し残念でした。
・配信で見られることによって演劇を見るハードルが低くなったと思います。 一方で、宣伝するにあたりこまめな案内が必要とも感じました。今回、配信時間が遅れていましたが、SNS上でその情報が得られず配信開始のツイートも危うく見逃すところでした。時間が押しているのであればまずはその状況を伝えるべきであったと思います。
・この時代にこの作品に出会えてよかったです。何も動くことが出来ない舞台芸術系の学生の私にとって一筋の光になりました。

◯反省とまとめ

この企画と試みが何を意味したのか、結果的に何を実現できたのか、筆者の主観を軸に反省し、まとめる。

反省点を大きく分けて突き詰めると、以下のいくつかに集約される。「予算不足」「時間不足」「人員不足」である。しかし、そんなのは当たり前だ。限られたものの中で何を実現するか、選択し表現するのがクリエイションである。

予算不足を解消する上で気をつけるべきだったことを考える。しかしまあ、これに関してはもう、演出を削るほかないだろう。衣装や小道具、美術や機材も、本当に極限まで削ったし、削るための検証や調査も怠らなかった。不測の支出としては、撤収が間に合わず延長料金がかかったことや、車両の駐車代や高速利用料金が発生したことなど。人件費や交通費など、本来は計上すべき目に見えない出費はもっとあったはずだ。

また、ロケ日を増やすことや、後述する仕込み日を1日増やすこと、控室が必要だったこと、舞台監督や演出部を立てたかったことも含め、やはり予算は足りない。そこで結局、演出に使う費用をもっと抑えるほかないのだ。今回はただでさえ、制作費の回収を目的としなかったこともあり、我々の財政へのダメージは大きい。大きな経験を得られたという勉強代として喜んで支払うほかない。

時間不足はどのように解消できたか。まず、企画開始から本番までの期間について論じるのは本末転倒であるため割愛する。考えるべきは、時間の有効活用の術についてだ。

まず、キャスト決定までかなりの時間を要した。日頃からもっとたくさんの俳優を注意深く見ておき、ワークショップなどで少しでも多くの俳優たちと知り合っておくことで多少は回避できるかもしれない。

次に、美術の仕込みがあまりにも足りなかった。それは、仕込み日を1日追加することと、仕込む前の準備を早めて、搬入して貼り付けるだけで済むようにしておくことで解消できたのではないかと思う。テープと素材の相性問題については、たとえばロケハンができていれば実験することもできただろう。

また、大きな問題としては、タイムキープして現場を仕切ってくれる舞台監督が不在だった点と、美術の仕様や問題点解消について集中して考えられる美術部や演出部が不在だったことがある。すなわち人員不足である。

人員不足については、予算不足によるものでもあるが、3密を極力回避する意味でも判断が難しかった。しかしながら、それにしても舞台監督は必要だったと思う。筆者の判断ミスかつ経験不足である。

もっとも重大なのは「この試みが、インディーズ演劇の新たな可能性となり得るか」という点だ。結論から言うと、答えはNOである。ただ、そこに「現時点では」と付け加えておきたい。この試みがまったくの無駄だったかといえばそうではない。現時点では配信を安定させるための知識や予算の確保が難しく、いまのインディーズ演劇の範疇での再現は難しい。しかし、今回の検証で得た結果を受けて、次回はもっと工夫できる点がたくさんある。

また、「演劇は配信で補えばいい」という言説に対し、頷ける部分とそうでない部分がハッキリわかった。つまり、補ったり振替ることはできない。配信劇というものは、製作方法もできあがる作品も、演劇とは似て非なる新たなものなのである。

ひとつ思い至ったのは、今回のような未曾有の感染症時代に突入したとき、もしも劇場などの共有スペースに、今企画ほどの機材や知識があればマルチアングルの無観客配信に切り替えるという手段が取れていたかもしれないということだ。配信に特化した劇場などが現れるのも面白いと思った(筆者はいつか劇場を持ちたいという夢があるため、このアイデアは誰にも明かさずしまっておきたい)。

さて、今回の反省点は一挙に解決はできまい。今後、我々がさらなる協力者を味方につけ、より創作に集中できる環境を自分たちの手で切り開いていくほかない。そのため、この反省レポートや上演記録を公開し、そしてこれらの問題に真摯に向き合って向上心を持っていることを、どんどんアピールしていくことが求められる。

持てる材料はすべて出したい、手の内は常に明かしたい、もちろん戦略的に。媚びることはしないが、我々のスタイルを多くの人に愛してもらいたい。そのためにも、さらに正直に、さらにまっすぐに作品を作っていきたいと考えている。入り口の門を開けながら。前進を止めてはならない、どんな時も。思えばこの企画は、根底にあるこの精神から現出したのかもしれない。いかにリアルでいられるか、そのリアルとどう向き合うか。まだまだ、これからも考え続けたい。

5月8日。エリア51の、公演に参加したメンバーと制作協力の伊藤さんを含めた4人で反省会をした。そこで主に話されたのは、やはり慢性的な人員不足についてだった。人員は、集めることはできる。2021年にかけて挑む「KAMOME」でも新たな出会いを求めている。しかし、作品や集団への愛をベーシックに持ち、面白がって取り組んでくれる仲間がもっと必要だ。そこで我々は、「ノゾミ」、配信劇「ハウス」の経験をジャンプ台にして、メンバー募集の企画「未知との遭遇」を始めることにした。一歩一歩を無駄にしないよう、確実に次に進むための決断である。

エリア51という、拡大する未知の領域。まだまだ、遭遇すべき出会いの可能性に満ち満ちている。この希望的観測を、さらなる飛躍と深化につなげていきたい。

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KAMOMEリリースロゴ

★エリア51新作「KAMOME」
チェーホフの「かもめ」を現代日本に置き換え、3つのテーマに分けて連続上演します。2020年9月「家」/2021年4月「喪」/2021年7月「女」上演予定。
出演者オーディション開催中 ※2020年6月1日〆切
詳しくは「KAMOME」特設ページへ。

ビジュアル完成 wide

★新メンバー募集企画「未知との遭遇」
エリア51では、現在新メンバーを募集しています。応募資格は自称:クリエイターであること。舞台監督や演出部希望の方は大歓迎!一緒に面白い何かを画策しましょう!
詳しくは「未知との遭遇」特設ページへ。


ここでサポートいただいたお気持ちは、エリア51の活動や、個人の活動のための資金とさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。