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Make your own herbarium: 自分の植物標本誌をつくる

Royal Botanic Gardens Edinburgh

エジンバラ観光のハイライトのひとつであり、地域の憩の場である王立エジンバラ植物園は植物の研究教育機関です。園芸家の育成にも力を注いでおり、私がお世話になった学校です。
植物園の歴史は1670年まで遡ります。はじまりは二人の医者、Robert SibbaldとAndrew Balfourがエジンバラのホリルード寺院の近くにつくった、テニスコートほどの小さな薬草園でした。
その後、イギリス帝国の拡大とともにこの植物園のコレクションも拡大していき、規模を大きくしながら、市の中心地 (現在のWaverley駅)そして市内北部へと場所を移動し、1820年に現在の場所に移設されました。

20世紀にはスコットランドのベンモア、ローガン、ドウィック 3箇所に分園を開き、それぞれ異なる気候を活かした特色ある植物コレクションを展開しています。
私が働いている、ローガン植物園はスコットランドで最も温暖な南西部の半島に位置します。Scotland’s most exotic garden とうフレーズがボスがよく使うキャッチコピーで、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、チリ、ベトナムの植物がコレクションの中心です。

植物標本コレクション

この4箇所の植物園には、園内に植えられている植物をはじめ、植物園の舞台裏といえるナーサリー、コレクション管理ハウスに13,500種に及ぶ生きている植物のコレクション(Living collection) があります。

植物園の植物コレクションは Living collection だけではありません。紙にプレスされた標本を中心に、乾燥した種や果物などの標本箱などを含む、Herbarium specimen (植物標本)と呼ばれる300万種に及ぶドライ植物のコレクションも所有しています。

これらの Herberium specimen は王立エジンバラ植物園の The herbarium (植物標本館)に保存されています。


プレス標本の原理は押し花と一緒ですが標本(specimen)としてとても重要なのは採取時に記録されたインフォメーション(年月日、場所、植生、採集者名など)が添付されていることです。

標本コレクションは様々な分野のリサーチに使われます
・植物の進化などの歴史
・気候変動の影響
・植物分類や新しい種の研究
・DNAシークエンシングなど植物の遺伝子研究
その他、医薬の研究や植物の文化史的研究など様々な目的に使われ、世界各国から植物の研究者が訪れます。現在デジタル化が進行中で、オンラインでも公開されています。

コレクションの中にはチャールズ・ダーウィンが1835年にガラパゴス諸島で採集した植物の標本もあります。
一番古い標本は1697年に南アフリカで採集、プレスされたものです。保存環境が良ければ300年以上もつということですから、驚きです。植物採集の航海に出かけたプラントハンターもボタニストも、自分の標本が今こんな風に使われているとはきっと想像しなかったでしょう。


British native species の標本をつくる

エジンバラ植物園の園芸コースでは、たくさんの植物に囲まれながら、植物に関する知識、育て方、エコロジー、土壌、ランドスケープデザインの歴史など園芸家になるために必要な理論と実技を学びます。
どこでも日常的に植物を観察することが私の習慣になったのも、植物園での授業を通じて、植物観察の楽しさと大切さを学んだからです。
その一番のきっかけとなった課題は、イギリスの一般的なNative species (在来種)を35種を選び、Herbarium specimenをつくるというものでした。
この課題は11月に出され、自分の時間に好きな場所へ行き植物を収集し標本を制作し、5月下旬の提出するという流れでしたが、この作業を通じて、徐々に野草を識別するポイントをつかむようになりました。


植物を識別する

課題制作のプロセスを振り返ってみます。
花のついた標本が理想的なので、植物が花をつける春に集中的にくり返し観察と採集にでかけます。
まずは植物を識別してNative species (在来種)を見つけ出さなくてはなりません。身近なところからはじめます。
植物園から家までの20分のみちのりでも、植物を見始めると次々とあちこちで植物が見つかります。立ち止まってばかりなので、道に迷っていると思い親切に声をかけてくれる人もいました。
道中のサイクリングロードの脇にはたくさんの植物が生えていますが、目が慣れてくると近くにある家々の庭から逃げ出したり、捨てられたであろう外来種や園芸種がたくさん混在していることに気付きます。
植物が識別できると群集として見えていた植物の集合体から友だちの顔を見つけるような親しみと楽しさを感じるようになります。
週末は家の近所より少し遠出して、山 草地、森、海岸など出来るだけ違う場所に行ってみます。違った環境にいくと違ったコンビネーションの植物たちに出会え、さらに楽しさが倍増します。同じ観察場所に数週間後にもどることもポイントです。違う植物が花をさかせていたり、前回見た植物の実や種をつけているのに出会えます。

植物の識別は時にややこしいですが、植物の細部の観察と同じようなに大事なのが植生の観察です。どんな環境で、どんな土のタイプにどんな植物たちと一緒に生えているかを観察します。そして頼りになるのが野草辞典です。

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日本の野草用にとても便利な本

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Herbarium specimen の作り方

本来のフィールドワークではその場でつくりますが、私は霧吹きしたビニール袋に採取した植物を入れ、記録用にメモと写真を取り、家に帰ってからプレスしていました。

1  採集したサンプルを新聞紙などの紙の上に広げます。標本にした時に葉の両面が見えるように、何枚かの葉は裏側を上に向けます。

2  上から新聞紙などの紙を載せます。

3  植物全体を覆う充分な大きさの本を重しにします。植物を挟む紙が少なすぎると、水分で本の表紙がふやけてしまうので注意)。水分の多い植物は紙の上からそっとドライヤーをすると早く渇きます。数日置きます。

4  厚紙に、乾いた植物を筆などを使ってボンドなどで接着します。糸で紙に縫い付けるという方法もあります。

5  植物名、採取年月日、ロケーション、植生の特徴などのデータを添付します。

My herbarium collection of common British native plants

どんな野草もHerberium を作ってみると驚くほど個性的で、その均整のとれた落ち着いた美しさに、改めてハッとさせられます。
みんなそれぞれ固有のかたちや特徴をもっていて、周りの他の生き物たちと複雑に関わり合いながら生態系の中で機能していることを視覚的に実感できます。

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Primula vulgaris プリムラ ブルガリス

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Alopecurus pratensis オオスズメノテッポウ

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Geum rivale ゲウム リバレ

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Glechoma hederacea カキドオシ

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Cardamine hirsute ミチタネツケバナ

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Mercurialis perennis  ドッグズ・マーキュリー

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Viola riviniana  ヴィオラ・リヴィニアナ


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Fumaria officinalis  カラクサケマン



自分の植物標本誌をつくる

こも課題以来、自分の記録用として、時々簡単な植物標本ノートをつくっています。

これはワークプレイスメントをした時、庭の木の葉やシダ類の歯などを集めたもの。

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自分の植物標本誌づくりはとてもおすすめです。植物名、採集日、場所など採集インフォメーションも添えると見返した時にとても役立ちます。何百年後かに、偶然それを手にした植物学者もきっと役立ててくれるはずです。


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