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モグリの競馬とリンゴ野球と貸し倉庫とこの世界の根幹に関わるなにかの話

「連れて行きたいところがある」と友人が言い出すので、なにかと思ってついていったら、とある民家の地下室で開催されているモグリの競馬だった。

競馬は本来ちゃんとした公営ギャンブルだ。だが還元率が低い。モグリの競馬というのは胴元となるヤクザや半グレが公営競馬に乗っかって正規の賭けより還元率を高く設定した、ようは違法賭博だ。

友人はろくでなしだ。またしょうもないことに誘ってきやがった、なにが連れて行きたいところがあるだ、ふざけるな、と思ったが、その場で怒ると他のワルそうな人たちに目をつけられそうだったので、ただ金を賭けずに黙ってやりすごした。

地下室の賭場を出ると辺りは夜になっていた。

いきなり横からリンゴが飛んできた。なんとか避けると、後ろの壁に当たって潰れるグシャッという音がした。飛んできたほうを見ると空き地の真ん中に知らないおじさんが立っていて、ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべていた。そして「これはリンゴ野球だよ」と言ってきた。

リンゴ野球とは、ピッチャーがリンゴをバッターに向かって全力で投げつけ、それをバッターが手で掴み取る、というルールらしい。またリンゴは掴み取るだけでなく弾き返しても良いし割れても潰れてもいい、とのことだった。これなら上手くやれる気がしたので、試しにおじさんとリンゴ野球をすることにした。3-0で負けた。負けたがおじさんは特になにかを要求してくるわけではなかった。ろくでなしの友人が「おまえ、リンゴ野球惜しかったな」と言ってくれた。手が腫れてヒリヒリした。

その後、ふたりで夜道を歩いてると貸し倉庫があった。すると、そこへつけ髭を生やした探偵っぽい二人組が入っていった。その直後に父親から電話が掛かってきた。出ると「その貸し倉庫を借りたいんだけど、どうすればいいの?」と言い出した。もちろん父親はこの場にいないし、俺が今どこでなにをしているかも知らない。「その? どの? 事務所の近く? それとも実家の近く?」「いやその貸し倉庫」「だからそのってどれ」「その」しばらく訳の分からない問答が続いた後、俺は怒り気味に電話を切ってしまった。

突然、タイムリープできることを思い出した。実は俺はタイムリープができるのだ。これはろくでなしの友人にも秘密にしている。なので本当にタイムリープできることを隠しながら、ろくでなしの友人に「仮に」の話をした。「もし仮にタイムリープできるとしたら、俺はさっきのリンゴ野球に勝てると思う?」ろくでなしの友人は「思考実験だね」と言い、続いて「だったら俺はその前のモグリ競馬で勝つよ」と答えた。なにが思考実験だバカ。

そこで本当にタイムリープを試みた。なんだか無性にリンゴ野球に勝ってみたくなったからだ。だがタイムリープしてもリンゴ野球には勝てなかった。また3-0で負けた。何回、何十回、何百回やってみても俺はおじさんに3-0で負け続けた。

変えられる未来と変えられない未来がある、という事実を思い出した。何度タイムリープを繰り返しても昭和は1989年で終わった。そして1995年には地下鉄サリン事件と阪神大震災が起きた。2001年9月11日には同時多発テロが起きた。もちろん変えられる未来もあった。むしろほぼ全ての未来は変えられた。人の生き死にさえもだ。2014年9月3日に幼馴染の寺島くんが事故死する未来すらも変えられた。だがこの世界そのものに関わる重大な出来事は変えられなかった。

俺がリンゴ野球で3-0で負けることは変えられなかった。

スマホが鳴った。また父親からの着信だ。出るとやっぱり「その倉庫をどうしても借りたい」と話し出した。父親はどうしても“その倉庫”を借りたいらしい。どうやらこれも変えられない未来のようだ。

一体なにが起こるのだろうか。子供の頃、母親の三面鏡を覗き込んで初めて合わせ鏡の世界を見た時のような気分になって、寒気が走った。俺はまた「仮に」の話で、ろくでなしの友人に相談してみることにした。

※続かない
これは夢で見た内容を元に書いた話で、
ここで目が覚めたので終わりです。

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