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海と気候変動

海は、大気の温度を上げる二酸化炭素を吸収します。海はまた、温められた大気の熱を吸収する役目も果たしています。温暖化の原因である二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスが今後さらに増え、大気の気温が上がり続けたら、海にはどのような影響があるのでしょうか。今回は、海と気候変動の関係を見ていきます。

(出典:気候変動と海洋生態系|神奈川県

海洋生物


海に住む生き物の約90%弱、陸上の生き物の約60%が気候変動の影響を受けているといわれています。海では陸よりも生き物がおよそ1.5倍も、気候変動の影響を受けやすいということですね。この理由は、もともと昼と夜、また季節ごとの気温の変化によって海水は温度が上下しづらく、海洋生物が温度変化に慣れていないことです。

赤道近くの海域では季節による温度差がより小さいことから、この一帯に暮らすサンゴは特に海水温度の上昇の影響を受けやすいことがわかっています。

海水は粘度が高く温度が伝わるのがゆっくりであるため、気候変動による温度変化の影響が出やすいのは海底よりも海面付近です。サンゴは海面近くに生息するため、海面温度の上昇の影響をさらに受けやすいといえます。

海に対する気候変動の影響が語られるときにサンゴが話題の対象となりやすいのは、海洋生物の25%がサンゴに依存して生きているためです。サンゴが弱ったり、消滅したりしてしまうと海洋生物の棲みかがなくなり、サンゴに住む生き物をエサにする魚たちの食べものがなくなることは容易に想像できるでしょう。結果として、多くの生き物が生きる手段を失うのです。

現時点ですでに海水の温度上昇に伴って、赤道近くにいたプランクトンが移動した結果、貝類を死滅させたり、温かい海で生きていたサンゴが北上して生態系が変化したりするなどの影響が現れています。

海面上昇


気候変動によって海面が上昇する理由は2つあります。1つ目の理由は、北極やグリーンランドにある海氷が気温上昇に伴って溶けることで海水が増した結果です。海面上昇の2つ目の理由は、水は温度が上がると膨張して体積が増えるためです。

海面が上がると砂浜や干潟が失われます。すると、砂浜や干潟で暮らす生き物は住む場所を奪われることになるでしょう。また季節ごとに訪れる渡り鳥にとっては、これまで毎年拠点としていた繁殖場所やエサ場がなくなることを意味します。

下のグラフを見ると、2000年の時点で1900年ごろに比べ、海面はすでに10cm上がっていることがわかるでしょう。

(出典:第5章 観測結果:海洋の気候変化と海面水位|気象庁IPCC第4次評価報告書

もし今後、海面が50cm上昇すると、570の都市に住む8億人に影響が出ると予測されています。1m上昇した場合には砂浜が約100m浸食し、日本ではおよそ90%の砂浜が失われ、東京や大阪の沿岸部は水没するとされています。

世界ではすでに海面上昇によって海岸の浸食が始まっている場所があったり、サイクロンが来るたびに自宅が浸水したりするなどの深刻な影響が始まっており、ソロモン諸島では2016年に5つの島が消滅しました。

海氷


北極や南極、グリーンランドなどは海氷や氷河、氷床で覆われています。海氷は海の水が凍ってできたもの、氷河は圧縮された雪の塊です。氷床は広い土地を覆う厚い氷を指し、南極大陸の氷床の厚さは2500m、グリーンランドでは平均1700mに及びます。

海氷・氷河・氷床と海水面を比べると、前者の方が太陽の光を反射する割合が大きいことがわかっています。太陽の光を反射する割合が大きいとは、太陽の熱によって温められづらいことを意味します。

つまり、気候変動により極地にある氷が溶けて少なくなると、海面が上昇するだけではなく海水の温度が上がりやすくなり、さらなる海面上昇を招くというマイナスの循環が生まれるのです。

グリーンランドの面積は日本の面積の4.5倍で、氷の全体積は290万km3です。このグリーンランドで現在、氷が急激に溶け出しており、海水の温度上昇に次ぐ、海面上昇の原因になっています。グリーンランドの氷床がすべて溶けて水になってしまうと、海面の上昇は7m以上になると予想されています。

(出典:2004-2010年に生じた海水面上昇の原因割合|北極域研究共同推進拠点 北極域の氷河と氷床

気象


気候変動による影響は猛暑や干ばつ、豪雨、台風、洪水の増加といった形で実感されることが増えました。気候変動が進むと雨も乾燥も極端になりやすく、災害が大規模なものとなり、さらに雨の降る場所が変わるなど、気候パターンが変わることが予測されています。

海水の温度が上がると海面から水蒸気が放出されます。この水蒸気が空の高い場所で冷たい空気に触れ、雲になり雨になって戻ってきます。海水の温度がさらに高くなれば雨の頻度は上がり、激しさも増すのです。この状況は、日本でもすでに実感できるレベルにあるのではないでしょうか。

海面から放出される水蒸気が上空に向かっていくとき、海面近くでは気圧の低下が起こります。気圧が低くなれば低くなるほど巻き込まれる空気が多くなり、放出される水蒸気の量が増え、雲が大きくなり、風速が増した結果、風と雨が威力を持つことになります。

干ばつとは、数ヶ月から数年単位での降水量が平年に比べて極端に少ない状態が続くことです。世界的に見ると農地への水の供給を雨だけに頼る「天水農業」が大部分を占めているため、干ばつが発生すると大きなダメージを負うことになります。ただしこの点については解決策として、天水農業の代わりに日本で多く採用されている「灌漑農業」を採用することで、干ばつの影響は軽減できると考えられています。

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下記は当記事執筆の際に参考にした情報のリストです。より詳しく知りたい内容については、ぜひリンク先をご覧ください。

気候変動と海氷|気象庁

気候変動問題において海氷が果たす役割を解説

気候変動と海洋生態系|神奈川県

気候変動が海洋生態系に与える影響について

気候変動は海にどのような影響を与えているのか?そして私たちには何ができるのか?|PADI

気候変動が海に与える影響と、状況を改善するために何ができるのか

気候変動によって海洋生物にはどのような変化がある?|気候変動適応情報プラットフォーム

気候変動の海洋生物への影響と連鎖反応

Sea Level Rise and Coastal Flooding|C40CITIES
海面上昇が世界に与えるリスクの予測

第3章 地球温暖化の影響とリスク|地球温暖化研究の最前線

日本への温暖化の影響

地球温暖化に伴う気候変動が 水関連災害に及ぼす影響について|国土交通省

海面上昇や豪雨など、水害の予測と対応策の紹介

海面上昇で5島が消滅、ソロモン諸島「いずれ住めなくなる」…世界で2億人が移住の危機|読売新聞オンライン

海面上昇によって影響を受けている世界の人々

世界の食料生産の干ばつ対策は?|気候変動適応情報プラットフォーム

干ばつ被害と世界の農業、食料生産についての解説 


文 :森野みどり

#気候変動 #SDGs #海 #ESG