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アイコンの中の人

私の大好きな彼女は、とても聡明で優しく、そして美しい。

いつも相手を気遣い、言葉を丁寧に選び発話するその姿は、神々しくもあった。
背中までまっすぐに伸びた髪は、少し明るい色をしていた。
色素が薄く、肌は白く、さりげなく整えた眉、薄めにひいたアイライン。引き算のメイクがしっくりくる彼女は、そばかすがとてもチャーミングで、その顔で笑われたら、もうひとたまりもない。

時代性を感じさせない、程よく体にフィットしたアンクルカットのデニムも、ペタンコの白い靴も、髪の結わき方さえも、手足の長い彼女にぴったりだった。

彼女はアパレルメーカーで務めるアートディレクターで、当時たったひとりでブランドの立ち上げを任され、朝から終電まで、早歩きで仕事を進めていた。

彼女は常にふわりといい匂いがした。

私はアパレルメーカーの中のどのブランドにも所属していない立場だったから、これから立ち上がるブランドの仲間たちが集まるまで、少しだけお手伝いをすることになった。

彼女は、自身のやりたいことを、丁寧に丁寧に説明をし、私が理解した、と言えるところまで、じっくり話をしてくれた。

彼女の人柄は、ホームページを作る外注チームも洗練された人達を呼び寄せた。

彼女と作ったブランドのカタログは、今も私の大切な仕事として君臨している。

展示会で発表し、ブランドも無事立ち上がった。

あんなに短い期間で、あんなにステキなブランドを作るのは、並大抵のことではなく、全く想像が及ばないくらいハードだったはずなのに、いつも笑顔で、肩の力が抜けた品のあるすっとした立ち姿でそこにいた。


程なくして、私は体を壊し、休職の後、退職した。


特に仲良くしていた人はいなかったけれど、彼女には無性に連絡を取りたくなり、LINEで、2行くらいの文章を送ったことがあった。

既読にはならなかった。


たまたま何年かぶりに連絡を取った当時の同僚から、彼女が亡くなっていたことを聞いた。

LINEの友だちリストには

こちらを見て微笑む彼女のアイコンが今も残っている。




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